今日は10年近くの付き合いになる友達が東京に遊びにきたので、ゴハンを食べたり散歩するなどした。
10年前といえばぼくはバンドをやるぞと意気込んで間も無くの頃だ。友人もいなければ楽器もろくに弾けない。
自分の人生を振り返ったとして、記憶に色濃いのはやはりバンドを始めてからのものばかりで、ぼくの人生のほとんどはもう挫・人間色なんだな、と感じる(いい加減諦めもつきました)
10年の中で、驚くほど姿を変えてしまった思い出の場所や、関係が変わってしまったひとたちが沢山いて、そのすべてが自分の現在を裏付けているように思う。
つまり、簡単に言うと不変なのは人間の愚かさのみ!ということで……雑に解釈してください。そしてそれも愛しく思っている……。
そんな、10年で跡形もなくなってしまったぼくのこころの焼け跡の中から、いつも何事もなかったかのようにひょっこり現れる友達のうちの1人と、今日は一緒にいた。
喫茶店で出された山盛りと形容せざるを得ないナポリタンを小皿に分けながら話した。BGMのビートルズを聴きながら「そういえば、ビートルズで一番すきな曲ってなに?」とか今更話題にしたりして。
ビートルズなんて、ぜんぜん聴かない……自分の人生に関係ないことがよくわかる。ボックスで持ってるから、その確信はとても強い。すべてのロックの基礎、とか、どの角度から見ても名盤とか、そういうのが自分からこのバンドを遠ざける。結局ビートルズが一番好きですね、とかいうバンドマンの音楽で感動とか、絶対にしたくない。そのときは紐なしバンジーで粉々になって死んでやりたい、みたいなことを思うほど。
でも、そんなおれが……一年に一回……いや半年に一回くらい、つい口ずさんでしまう曲があったのを思い出したりしてしまった……。
歌詞の内容なんて、なんとなくの雰囲気でしか聴いてなくて、そのあとわざわざ調べてみたとき、自分になんとなくしっくりきた理由がわかったりわからなかったりしたこととか、あったりなかったりするのだった。
ここ数年で仲良くなった友達が、人の好きなものを知るのがうれしいと言っていたことを話した。そういう人のことを好きになれるようになったことや、そういうことをうれしいと思うようになったことも話した。
つまり、ぼくは黄色が好きだということを覚えてもらっていてうれしかったのだ、と話していて、好きな色とかあるの?となんとなく聞いたとき、「みずいろが好き」だと友達が答えた。
みずいろは、水の色だからすきだ、と。水は別にみずいろではなくて、ただ光を映しているだけなのに、と言われて、おれはこの人のこういう部分が愛しくてずっと仲良くしていられるのだな、とおもった。
このひとは水の色は、「ただ光を映しているだけ」と言っていて、その言葉の中に諦めも希望も同居しているところが、まさしくそのひとらしくて、たまらなくなった。
そんなキュートな一日を終えて思う。さらに10年後のぼくたちはどうなっているでしょう。
もしかしたら、どっちか早く死んでるかもしんない、君は、結婚してるかも。おれはなんだかよくわからないオッサンになってる気がするな、なんてかんがえた。
ずっと挫・人間をみてきたその友達は先日のツアーも名古屋公演を観に来てくれてた。
「下川くんが高校卒業するくらいのとき、初めてライブの終わりにありがとうって言ったときはすごくビックリしたよ」
と言っていた。ありがとうなんて、感謝するところなんてないだろ、なんて当時は思っていた。確かに、一方的に殺るつもりだったのだ。
この10年の変化を喜んでくれる奴がいるのはうれしい。その変化をずっと、見ていてくれる奴がいることは、うれしい。そしてこの先、10年先も、もしおれに未来があるのなら、いまおれのことを見てくれてるやつらに10年先のおれを見せたいし、そこにいるおれの存在を喜ばせたいと思う。
「ツアーとかいくとさ、信じらんないけど、顔も知らない10代のやつとかが挫・人間のライブ観に来て、自分のエピソードにおれのエピソードを重ねて、大事な曲をおれたちが放つのを見に来るわけよ」
「うんうん」
「信じられないでしょ、結成したばかりの挫・人間とか知ってる身としては、ただのコピバンでしかなかったころとか、みてるわけじゃん」
「そうだねぇ、うれしいことだねぇ」
そういうヤツらの顔が自分にダブることがある。自分の、ちょっと違う世界線の姿みたいに見える。そいつらは、オッサンだったり、少女だったり、それこそモテなさそうな少年だったりする。そして、おれはそいつらの目で自分を見て、自分が10代の頃、挫・人間を知ってたら、今の挫・人間を聴いてたらきっと好きになるって思えるようになったんだよ。
それじゃあ、またいつか、きっとすぐ、と言って別れた。
帰り道に、歳下と思わしきサラリーマンのよっぱらいが異性の話をしていた。
それが本当にもう無関係でかなしくなるほど遠い感覚で、やっぱりもう挫・人間として生きるのに、後戻りなんてとっくだな、とか思った。しかし、足取りは軽かった。
日本各地で自分みたいな奴と会ってしまったから、自分のライブ会場で。おれだけはしっかりどこまでも呪われてあげる。10年先もね。
善意も悪意も無く、ただ光を映している水にあこがれたりした一日だった。