AxSxEさん
「俺はどういう感じで行ったらいいん?仕事って感じで録音に専念する感じ?それとももっと中に入ってバンドと一緒に作ってく感じ?」
社長
「バンドと一緒に作ってく感じでお願いします!」
AxSxEさん
「OK!分かった!そんならドラムセット持ってきて〜!」

と言う最高すぎる会話があったらしく打ち込み曲でドラマー不在であるにも関わらず機材車にドラムを積み込む挫・人間一同は下北沢のはずれにあるナサンドラスタジオへ向かった。

スタジオへ到着すると、先に着いていたAxSxEさんがあれこれセッティングをしている。

「今日はよろしくお願いします!」
「おう!最高の曲作ろうや〜!」

と、犯罪的なスマイルで返してくれる。
話をする度に、とてもあの歌声で「イェエエエイ!ギブミアカァラァレェィシャン
!」と叫んでいた人とは思えないな、と思いながら声を聴いていた。

程なくして打ち込みのデータをパソコンに落とし込み終わり、「まずはベースからやな」と言われたアベくんがベースの録音ブースに向かう。
マイクから拾った音がモニタリングの部屋の大きなスピーカーから鳴り部屋と僕らの鼓膜を震わせる、それを聴き部屋の機械をあちこち弄り回したり直接ブースに足を運んだりするAxSxEさん。しばらくしてから僕に、
「夏目くん!ロー感ってこんなもん?」
と、一言。
初めて名前を呼ばれ(ヤダァっ…)とドギマギしつつも「もう少しあってもいいですね!」と返すと「オッゲェ〜イ」と小声で叫ぶ、その瞬間の声が完全にCDの中で聴いた声で(ほ、ほんものだ…)と思った矢先、AxSxEがスタジオの人を呼び、コンプレッサーを変え始め、あちこち弄りだした。

この瞬間のことを僕は一生忘れないと思う。
モニターから返ってくるアベくんのベースの音にどんどん魔法がかかっていくのだ。
レコーディングをしたことがある人なら分かると思うんだけど、マイクの録れ音のドライの状態ってなんというか割と味気なかったりする。
勿論録音に至るまでにコンプレッサー等はかまされているんだけど、こう、なんか生で鳴ってる迫力とか味感ってそこには意外と無いこともあって、ミックスする段階のイコライズでそこを強調したりして、デジタルで近付けることが多いと思うんだけど、AxSxEさんは録る段階でどんどん音を生で鳴っている、というか聴感的にそう聴こえている印象に近づけていき、みるみるうちに音が変わっていき、あっという間にとんでもなくカッコいい音に仕上げてしまったのだ。
魔法は弾き手だけがかけるものじゃないんだ、と体感した瞬間だった。

「よし、そんなら準備良かったら軽く録ってみてブースでどんな感じの音か聴いてみようか!」

と言い、いざ録音は始まった。
ベース録りはスムーズに進み、あっという間に終わった。流石アベくんである。
いよいよ僕の出番になりあれこれとセッティングを始める。
アンプを出し、エフェクターボードを広げると、僕の足元を見たAxSxEさんが「おぉ〜!なんか見慣れたエフェクターが沢山おるな〜!」と言い、そりゃそうです、だって僕ギタリストになって一番感動して一番影響受けたのAxSxEさんですから!とは、なかなか言えず「AxSxEさんの音が好きで今日はAxSxEさんみたいな音が出したくて色々調べまして…(恥)」と控えめに呟くと、ガハハ!と笑うAxSxEさん。あー、この人、完璧だな…と思った。

僕の録音も比較的スピーディに終わり、しもやんの歌入れも滞りなく進んだ。
一通りこちらが用意した材料は録り終え、その旨が伝わると「よっしゃ!そしたらここからが本番やで〜!今からみんなには1人1回ずつドラム叩いてもらって一番最高のドラム叩いた子のやつ使うで!ドラムバトルや!」とヤバすぎる提案がなされ、僕らはドラム録音ブースに向かう。

1人ずつ指定された箇所でドラムを叩く。まるで電気グルーヴの狂人ドラム大会である。全員のっぴきならぬほど下手くそで、全身複雑骨折してるのかと言うほど酷いドラムが高ーい機材を通って録音されて行く。そしてまたそれを聴き嬉しそうにドラムを叩かせるAxSxEさん。
そして「よっしゃ!そしたら今度はみんなでドラム叩こうや!アベくんはハイハット、夏目くんはスネア、下川くんはキックや!」と言い今度は全員一丸となり狂人ドラム大会を行う。そしていいテイクが出る度にAxSxEさんは「オッゲェ〜イ!!!」と言う。レコーディング中盤からみんなこの「オッゲェ〜イ!!!」が聴きたくて頑張っていたと言っても過言ではない。それ程最高の「オッゲェ〜イ!!!」なのだ。

狂人ドラム大会が終わると今度は全員でガヤを入れようと言う令が下る。
僕らは「ウアアアアア!!!」やら「エー!エス!イー!」やら色んな何がしを叫ぶ。すると「ここはもっと心込めて!」など色々な指令が下り、その度にそれをクリアして行く挫・人間一同。

そして一通りの録音全てが終わり、最後のアウトロがなんか寂しいな、なんかもう一味欲しいなぁ、という話題になる。
ここは当初からAxSxEさんにギターを弾いてもらうという企みでいた為、AxSxEさんの「一服してくるからその間に考えといてやー!」といい席を外した間に作戦会議。

一服から戻ってきたAxSxEが、
「どう?なんか思いついた?」
という一言を皮切りに

「あのですね、実はお願いがありまして、」

「なになに〜?」

「これ歌詞がですね、
最先端スノッブな感性リフで逆転する現象
そのサーガ!
にはまだ……
足りないな……?
パないな……!
」ってあるじゃないですか。」

「ほうほう、あるなぁ。」

「この、足りないな?辺りからですね、AxSxEさんにギターを入れて欲しいんですよ。」

「えええ!!!笑」

「そしてAxSxEさんのヤバすぎるギターソロを聴いたメンバーが「パないな」といい、最後にみんなで「これだ!!!」というストーリーになっているんですよね。なので弾いていただかないと曲が成立しないと言いますか…。」

と言うとAxSxEさんはガハハと笑い悩むこと数秒、

「……分かった!弾くわ!でもちょっと時間ちょうだい!ミックスまでには入れとくから!」

と快諾!それを聴き、うぉおおー!ありがとうございます!とWBC優勝ばりに喜ぶメンバー一同。しなかっただけで心の中ではみんなでAxSxEさんを胴上げしていた。
そうしてレコーディングは無事終了。

AxSxEさんをcircle soundへと送る機材車の中で、僕らは満を持して積もり積もったBOaTやNATSUMENの話をあれやこれやとした。
「なんや!そんな好きやったんなら先に言うてよ〜!…そしたらさ、知ってると思うけど⚪︎⚪︎の××んとこ、あの曲とこの曲は〜」と氷結を飲みながら後部座席で楽しそうに話してくれるAxSxEさんと走った環七沿いを僕は一生忘れることは無いと思う。

画して、僕らは憧れの、あの、あのAxSxEさんに、自分たちの曲の中でギターを弾いてもらうことになったのだった。(続)

あの鼻歌が現れてから1時間程でしもやんは4日間の合宿から解き放たれる。
「あとは何となくまとめてみる。なんか行ける気がするからとりあえずやってみるわ。」と見送ってから、あの時弾いたベースととりあえず作った4つ打ちのビートを急いでパソコン上に書き上げ、とりあえずその上にギターでコードを載せてみた。

それをループで流し続け適当にギターを弾くこと約5分、僕の手が勝手にあのフレーズを弾いた。

「テレレレレテンテケテーン
テンテケテーンテーン♩」

その時は「お、いいじゃん。」程度にしか思わず、とりあえずオクターブ、更にそれのオクターブ上げたものを重ねてみた。

「なんか、見えてきたな…。」

そこからは今までの手詰まりが嘘のようにものすごいスピードで進んだ。
とにかく頭の中で爆音で音楽が鳴りまくっている。弱虫ペダルで言うところの葦木場の「俺っ…今頭の中で第九鳴ってる!!!」状態である。ものすごいスピードで頭の中の俺が自転車を漕いでいる。次から次へ展開が思い付き、ものの2時間程でフル尺を完成。
正直あまりにものすごいスピードで作った為、もうよく分からなくなっていたのでとりあえずしもやんに送ったら「天才」「すごい」「最高」など今まで贈られたことのない程の褒め言葉を大量にもらった。やったぜ!

そこから程なくして全体に仮歌が載せられたデモトラックが投げられ、それはそのままAxSxEさんの元へ送信。その時のデモ音源のファイル名が「AxSxExNxIxMxAxMxIxRxExTxE」だったので、「なんやねんこのタイトル!笑 笑いました!」とのお言葉いただき、曲全体のボーンとしては生ドラムではなく打ち込みで行こうと言う話に固まった。

レコーディングの前日くらいにAxSxEさんの機材か何かを取りに行くとのことで産まれて初めてあのサークルサウンドへ降り立つことになる。

なんというか、ここはもう、聖地である。あのサークルサウンド、最早エルサレム。アビーロードスタジオよりも自由ヶ丘のサークルサウンド。

車をスタジオの上へ着けた時、地下一階に設けられているスタジオへ続く薄暗〜い階段の入り口あたりに人がチラッと立っているのが見えた。その人はメガネをかけヒゲがボーボーに生えており、解いたらかなりの長さになるであろう髪が後ろで結われている。サイケデリックな柄の半ズボンから出た足の先には履き慣れたように見えるサンダル。こちらを見て目を細めてにっこり笑った口元には前歯が無いのが見えた。
そう、あまりにも想像通り過ぎるAxSxEさんがそこに立っていた。


「ギョ、ギョエエエエエ!!!!ホンモノダー!!!!大ファンデスー!!!!!」

とか思うよりも、マジ奇跡見てるみたいだ…とありがたーい気持ちになりながら軽い挨拶をし、テキパキとレコーディング当日に使う機材を階段を駆け上ったり駆け下りたりし運んだ。明日はよろしくお願いしますと他愛もない話をしながらタバコを一本吸う。


AxSxEさんに限った話ではないが、ずっと画面の向こうで見ていた人と実際に話す機会がここ数年で何度かあった。しかし当たり前だけどみな、本当に1人の人間である。
僕らと同じで眠ったりご飯を食べたりよく笑ったりして、生活をしている。観たことはないけれどきっと怒ったり泣いたり傷付いたりもする。本当に当たり前なんだけど、ずっと憧れていた遠く遠くの人のそういう様を目の前で見た時、僕はなんというか、なんとも言葉にしにくいんだけど、これは恐らく感動なんだと思う。そう、感動するのだ。
皆と同じように生活する中で、生きて、誰かの特別になりながらも音楽を作ってくれたことに。

初対面だし失礼なのでそんなことは口にしなかったけど、明日、この人に録音してもらうんだ。と思うとなんとも現実味のないような、妙に現実的なような、何故かすごくスッとした気持ちになり、とにかく良いものを録音しようとBOaTを聴きながら湿った空気の六月の街を切り裂き、家路を急いだ。(続)

親友の結婚式で実家に帰ることになった。

10月6日、挫・人間として仙台メガロックスに出演した。ライブ終了30分後にはもう、悪質なほどの速さでぼくらはすべての機材を搬出し車に詰め込んでいる。
ぼくは一人離脱し仙台駅へと走った。

早朝に家を出て事務所へ向かい、東京から機材車で仙台のライブハウスへ。諸々準備をしたのち30分のライブ(たのしかった)を完遂。走って仙台駅へ向かう。電車で仙台駅から仙台空港へ。飛行機で仙台空港から福岡空港へ飛び、福岡空港から高速バスで実家まで走る。

そうやっていくつもの乗り物を乗り継ぎ移動していると、慣れ親しんだ実家が、文明の発達していない辺境の地であるような気がしてくる。

最寄りの停留所に着くと、そこにはクマモンのグッズで全身を覆った熊本県民たちが!!ぼくがバスから降りた瞬間に、「カーゴ!カーゴ!」と叫びながら荷物を奪い去ってゆく。
途方にくれていると全身に刺青を施した母親が現れ、導かれるままぼくは下川家に代々受け継がれるオンゴロの仮面を巡る戦いに巻き込まれてゆく……なんて想像をしているとバスが熊本についた。見慣れた景色が広がっていた。

ヘトヘトのぼくは実家について、シャワーを浴びるとすぐ倒れるように眠りについた。
夢の中で、老婆が石槍を振り回しながらぼくを追いかけてくる悪夢を見た。老婆は、
「11月7日発売 挫・人間4thアルバム『OSジャンクション』買え!!!予約して買え!!!」
など、訳の分からぬ言葉を叫びながら目をつり上げて猛ダッシュで追いかけてきた。ぼくは、言葉の意味が分からず、恐怖を感じた。意味は一つも分からないが、老婆が何か不吉な事を叫んでいるのを肌で感じた。ぼくは何度も殺されかけながら逃げつづける。悪夢だった。老婆の叫ぶ言葉の意味は一つも分からなかったが、この老婆の訴えを誰もが理解出来たら、追いかけられることもなかったのだろうか……。不思議とそんな気がするのだ。

その翌日の結婚式は、あまりにも感動的だったので、また後日書くことにする。



第1部  完

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