「もしもーーーし、どしたの〜珍しいね〜」


「あの……すみません、拓ちゃんのお友達のお電話であってますか?」


「えっ あれ?はい、えっと……そうです」



表示されている名前の主とは別の、女性の声が聞こえて、おれはとにかく、何かが起こったのだと察した。初めて聞く声だったが、この声の主が誰なのか、というのは簡単に想像がついた。

左手で左耳を塞いで、iPhone越しに右耳に入ってくる言葉を聞き漏らさないようにする。


「すみません……、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


「あ、はい……下川です。下川諒っていいます」


「……!!! 下川くん……!! 良かった……実はね……」


不思議なことに、一字一句はっきり聞き取って、理解出来ているのに、わからない。
本当にこういうときって、頭が回らないものなんだ、なんて、おれは他人事のように考えていた。




おれたちは事務所で、バンドの今後についてスタッフを含めて重要な話し合いをした直後だった。
それを終わらせたあとに「一杯いこうや」と彷徨い、安居酒屋にたどり着いたのである。
テーブルを挟んだ向かい側で、声児が怪訝な表情を浮かべた。




⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン




ここ数ヶ月、バンドの状況は極めて悪かった。

何故悪いのかというと、単純におれが何の相談もなく一切の活動を辞めてしまったからだ。
ライブもこの先一本も決まっていない。


「6月に渋谷のクアトロを押さえてある。やろうよ」と、事務所から何度けしかけられても「できないです」と答えて、スマホをベッドに放り出した。


ギターも2月のライブから一度も触っていない。ヴィンテージのテレキャスターは、鳴らさないくせに大袈裟な存在感が恥ずかしいオブジェだ。


中学から続けていたくせに、弾かないでいると数ヶ月で簡単に指先が柔らかくなることに驚く。薄情者のゆびよ。
そして、ギターを弾いたり、音楽を聴く日がなくなった代わりに、酒を飲まない日はなくなった。


気付くと、身体の中で常に薬と酒がグチャグチャに混ざりだしたが、まあ精神も身体も作品も「不健康がウリっす!」とでもいいたげな体たらくだったので、ほとんど問題は無かった。


少しずつ自分の悩みや考えを打ち明ける友達がいた。声児も勿論そのひとりで、聞いた上で受け入れて、一緒になって悩んでくれる。「オレはまだまだ下川くんとバンドやりてえから」と言ってくれた。


おれは人に悩みを打ち明けることに、自分の排便を見せるような行き場のないみっともなさを感じるので苦手なのだが、梶原や後輩のオオノ、吉田なんかも話を聞いてくれた。


そして吉田は、おれの話をこの世で一番多く受け入れてくれた人間だった。


2月末に赤羽で吉田と飲んだ日は、「今おれバンドでさ……」と、話した以外、いつも通り、「最近何聴いてる?」と、お気に入りを交換し、聴き合って、またRANCIDやOffspringの話をした。ピストルズの話をした。最近はこれがいいよ、とジョーストラマーのソロアルバムを紹介される。


「聴いとくわ また来月!」
と言って終電で帰った。ホームでおれを見送る吉田の笑顔が、なんだかやけに印象的だった。




⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン




「……いえ。  いえ、とんでもないです。ちょっと混乱して。えーっアハハすみません。えーっと……、全然、そのちゃんと会話出来てるか分からないんですけど、あの、分かりました。何かありましたら、その、ぼくの電話番号を、吉田の、くんの……、LINEに送るので。また連絡ください」


その話をきいたとき、自分のなかみが、肛門からその場にズルズルと引きずり落ちて、その瞬間に置きざりにしてしまったような、さみしさと不安があった。

安居酒屋のベンチに座って、目の前にバンドメンバーがいる。
この瞬間にも不可逆的な時間に押し流されて、「なかみ」が遠く見えなくなっていくような気がして、つらかった。


「とりあえず、帰んな? 帰ったがいいっしょ?」

何が起こったか察した声児が、電話を切ったばかりのおれに声をかけた。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン



その日は自転車で帰ったはずだが、今思えばよく覚えていない。声児と別れてからの記憶が、殆どない。うちの駐輪場に自転車があるか、確認しなければいけない。
とにかく、おれは自転車を押してか、忘れてか、どちらにせよ歩いて帰って、道中で友達に連絡した。
「できれば彼と付き合いがあったご友人に、知らせてあげてください」と言ってもらったからだ。


まず連絡した友達とは、ふざけたやりとりをしている途中に、そんな連絡をしたものだから、なんとも言えない間の悪さが申し訳なかった。「そんなときにDMやらLINEやらごめんよ」と言ってくれる。逆だよ!ありがとう。


梶原に電話したときなんかは、いつものような「ヴォアア」という狂人の呻き声で応答し、
「ああ、梶原、今大丈夫?」

 「ヴェ?ヴォンヴォーンwwww」 

「あの、さ、ちょっとまだ混乱して上手く言えないんだけどさ……」

 「ヴ……ヴォ……?」

 「吉田が…………」

 「ヴェ……ぇ……そ……うか……それは……かなしいな……」

といった感じで、バケモノが人間になるグラデーションを見事に見せつけられて、ちょっと笑ってしまった。恐らく吉田も爆笑していたことだろう。


アベにも久しぶりに連絡をする。電話で返ってくる。一言、大丈夫か?と心配したあと、笑ったように「なんだな、みんな死んじまうな」と言う。
「ほんとだよ」と、涙ぐんだ。彼は自分の気持ちを隠すとき、笑いの気配でそれを隠そうとすることを知っているから。


夏目は戸惑いながら、「何か出来ることがあれば言ってほしい」と言った。さっき会議で会ったばかりなのに、おれがめちゃくちゃ泣きながら電話したから、そりゃ戸惑うよ、と思う。


元メンバーのポッポや、挫・人間初代ギタリストの『ゴッド・カルマ・真・大稲荷(吉田命名)』にも、初代ベースの浜ちゃんにも連絡した。妙な気分だった。

ゴッド・カルマ・真・大稲荷に関しては、吉田が結婚したことすら知らなかった
幼稚園から一緒なんだから、教えておいてやれよ。


倖介が夜中に会いにきてくれる。
おれは夜中、気付いたら家から遥か遠くまで歩いてしまっており、合流した頃には酒でベロベロになっていた上、歩きながらベシャベシャに泣いていたため、酷い有様だったが、黙って話を聞いてくれて、背中をさすって一緒に泣いてくれた。
「悔しいなあ」という彼の声が空気に消えそうだったので「悔しいよ」と結んだ。


みんな泣いてしまった。おれもベシャベシャに泣いていた。SNSでもピーピー言ってしまい、ものすごく色んな人から心配の連絡が来た。正直、スマンカッタ。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン





そもそも事務所での会議中に「吉田拓磨」と表示された着信があった時点で、おかしいとは思っていたのだ。


普段から連絡不精というか、電話なんて一切かけてこない男が電話してくるなんて珍しい。
が、「一昨日連絡したときに約束した件で、都合が悪くなったのかな?」くらいに思って放置した。かけなおしたのは、会議が終わって、声児と居酒屋で一息ついてからである。


妙な気分だった。一昨日は本当にいつも通り遊ぶ約束をした。今回の会議の話が出来ると思ったから。


会議中に話したいくつかの話題の中に、ドラマーの話があって、今回ついに吉田の名前があがった。


「ツアーには間に合わないかもしれないけれど」
という感じで、吉田とまた一緒に挫・人間をやるのだ!と思うと、気持ちに火が灯るのを感じた。だって、バンドだもんな。一番好きで、誰よりもおれのことを愛してくれるやつがドラマーなのが、一番いいに決まってるじゃん!そんなやつ、おれには1人しかいないんだよォ!!という感じで、ヨーシ、じゃあ、そんな感じで!!!!ツアーも決まったし、まあまあ色々あるけど、全員でサイコーになろうぜベイッッベーーー!!!!!!と終結した会議の直後に、「昨晩、吉田拓磨が亡くなりました」
「え?」

「はい、そうなんです」

「え ちょっと待ってください……えっと」

「すみません、突然で驚きますよね」

「いや、そんな、すみません、こんなこと何度も言わせてしまって。あの、吉田が、ですか?」

「はい、昨晩……」

そんなのないよなあ。奥さん、めちゃくちゃに辛そうだったじゃん。バカだよ、本当にバカ。




⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン




吉田が死んでから、景色がまるで変わった。

昨日と同じ街がやけに苛立たしい。こんなに色褪せた場所で生きていたのか、と気付く。時間のない夢を見ているみたいで、いきがくるしい。


映画でもライブでもすぐにぴいぴい泣くおれだが、日常生活で泣くことはない。最後に泣いたのは親友の結婚式の日だった。そのときも吉田に泣かされたのである。
しかも、そいつの結婚式ではなく、3次会で。


おれと吉田は3次会までにベロベロに酔っ払い、同じく酔っ払ったポッポのいつもの調子のせいで、10人くらいが全員同時多発的に喧嘩するという恒例の地獄を開催していた。


そこでおれは荒れ狂い、吉田に対して
「テメーはおれの一番好きな親友でドラマーなのに、バンド辞めやがって!おれのことなんてどうでもいいんだろうがい!」的な、今考えても恥ずかしいメンヘラを爆発させており、吉田も売り言葉に買い言葉というか、何らか言い返してきて、喧嘩になった。


店を出たあと、吉田に引き止められた。
「ごめん」と言葉少なに言われる。

「いや、おれも……」と言おうとしたとき、吉田が、
「でも、下川にあんな風に言われて、おれは下川好きだから、悲しかった」と言って泣き出してしまう。


驚くべきことだが、この時点で10年以上の付き合いがあったにも関わらず、誰かに自分の思っていることを言葉にして伝える吉田を見たのは、はじめてだった。その場の全員が驚いていた。
アベから密かに「殺戮マシン」と呼ばれていた吉田は影を潜めていた。


ことの重大さに気づいたおれは、それを見て号泣しながら、「ごめんよ。おれも大好きに決まってるじゃん」と、いつもの変な声で叫び、道玄坂のど真ん中で泣きながら抱き合った。大の大人が。


それ以来泣いていない。次に泣くのは、誰かの結婚式かなんかだと思っていた。まさかまた吉田に、それも、こんな形で泣かされるなんて思ってもいなかった。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン



大忙しの吉田の奥さんがわざわざ取り計らってくれて、水曜日にすこしだけ顔を見せてもらえることになる。


奥さんと顔を合わせるのも初めてだったが、吉田が好きになった人だと一瞬で分かるような人で嬉しかった。


お互いに、答えあわせをするように、知らない吉田の話をして、話を聞く。

「線香をあげて」と言われて、どういう順序やマナーを持って事にあたればいいのか、まったく知らない自分を恥じると同時に、一生知りたくなかったな〜なんて思う。


奥さんの口から語られる吉田は、おれのよく知っている吉田のようで、ぜんぜん知らない吉田だった。


デートの際、必ず最後に楽器屋に行ってドラムの試奏をするのを眺めてた、と聞いて、普通に「こいつ完全に頭おかしいですね」と言ってしまった。


目の前で吉田がバカスカドカスカ!!とドラムを叩いているときに、「音楽のことはよく分からないけど、なんか凄いんだろうな〜」と思って見ていたらしい。想像してめちゃくちゃ笑ってしまった。どんなデートなんだよそれは。

「拓ちゃん、笑うと目尻にいっぱい皺が出来るのが良いなって思って」

まったく本当に、心の底から愛されて良かったね。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン



吉田の写真をまとめていた。
掘り出してみたら、免許をとったばかりの吉田の運転で阿蘇山に遊びに行く動画があって、おれがカーステで流した『風街ろまん』が、吉田の初・はっぴいえんどだったり、なんというか、付き合いが長いだけあって、決定的瞬間が沢山残っていた。


おれの高校の文化祭でライブするために、覆面を被って学校に侵入して演奏したり、ガブリチュウを同時に5本頬張ったり、バスドラムを振り回したり、ピラフを抱えたまま眠ったり、キリがないくらいにバカバカしい写真が残っていて、思い出が溢れて止まらなくなってしまった。


おれたちは一緒になって色々残した。残したものもあれば、壊したものもある。一緒になってきらったり、愛したり、作ったり、思ったり、信じたりしながら、一緒になって生きていく中で、おれたちはバンドを作った。


そのバンドにはおれが挫・人間という名前をつけて、吉田はしぶしぶ受け入れた。続けていくうちに、なんだか事が進み、10代のバンドのコンテストでそこそこの感じになった。

デカい会場でやれたとか、名前が大きくなったとか、本当にどうでもよくて、自分らの他にも同世代に同じようなことを考えている奴らがいて、そいつらと仲良くなれた事が嬉しかった。
それはたぶん、そこで知り合った友達全員が同じ気持ちだったと思う。いまだに全員と仲が良くて、そして全員が、吉田の死を悲しんでいる。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン




吉田とはアルバムを一枚だけ作った。厳密にいうと違うのだけど、ちゃんとしたアルバムとしてリリースしたのは『苺苺苺苺苺』というアルバム一枚だけだ。


記憶も薄いが、このアルバムは「10年後、後悔するくらいなヤツ作るぞ〜」くらいの気持ちで、要するに思いっきり作ったファーストアルバムなのだが、完全にそれは成功しており、いつ聴いても本当に恥ずかしい。本当に。


それでも『うったまがった節』のラップ後半で入ってくるライドのチップとか、吉田のセンスあるアイデアが光っていたり、今聴くと、本当によくおれの歌を聴いて、好きでいてくれてたんだな……と、分かってしまう。


無茶苦茶なアルバムで、一緒に聴けないくらい恥ずかしいけど、吉田と作品を残せて本当に良かったと思う。聴くだけで、吉田が何を考えて演奏しているのか、手にとるように分かる。


本当に、おれの言った通り、死んでも残るものになったでしょう。おれたちの恥ずかしい記録を、これが一番好きだって言ってくれる奴らも沢山いるんだって。


2013年に吉田が脱退するときに、おれが勝手に作ったMV風の動画があって、削除してたんだけど、大事な思い出だと思ったから再公開した。観ると泣けてしまう。



おれのしあわせを一番よろこんでくれる人よ。もっと早く、おれの、一番よろこんでる顔を見せてあげられたらよかった。うれしいとき、おれはこれからどうしたらいいの。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン



吉田の部屋は実家の庭にあるプレハブ小屋で、高校時代は夜中に忍び足でその部屋に遊びに行って、朝まで音楽を聴いたり映画を観たりした。
『ロッキーホラーショー』なんかを観たのも吉田プレハブだ。


吉田の部屋は一眼でわかるほど恥ずかしいくらいにパンクファンの部屋で、チェックのバンダナが壁に貼りつけてあり、そこに大量にパンクバンドの缶バッチと安全ピンがかけられていた。


その部屋で曲を作っていると、何かが始まる気がしてときめいた。『タマミちゃん』なんかも、ベースと、ギターソロのフレーズをその部屋で作った記憶がある。


初めて吉田の部屋に行ったときにRANCIDの『indestructible』というアルバムが流れていて感動したのだった。

「おれ以外にも熊本でこのアルバム好きなヤツいんの!」って手を握った。死ぬほどいるわ。

はずかしーエピソードで、吉田に話すと今でも照れる。が、結局RANCIDの話だとかが一番盛り上がるのであった。


『indestructible』って、なげータイトルだなと思って、あんまり覚えてなくて、おれたちは「モヒカン後ろ頭盤」とかって呼んでいた。

今思えばRANCIDには他にもモヒカンの後頭部が描かれたジャケのアルバムはあるのだが、おれたちにとっての「モヒカン後ろ頭盤」と言えば『indestructible』だった。

『破壊不可能なもの』……なんかパンクっぽくてカッケー!とかって感じでしか思っていなかったのだが、今回吉田が死んで、2人で聴いて楽しかった曲を聴き返しているときにふと「モヒカン後ろ頭盤」の2曲目の歌詞が気になって、調べたら泣けてしまった。
なんとなく勝手に友情感じて聴いてたけど、完全におれたち合ってたじゃん!




いつまでもメソメソしてないで頑張んなきゃって、毎日思うよ。でも夜中にはまた涙が出る。一昨日も、気付いたら絨毯かきむしって泣いてた。おれの背中は面白かっただろう。四十九日は革ジャンで過ごすよ。別に喜ばないだろうけど。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン



毎日お前が近くにいるような気がして、話しかけてしまう。心配してくれているんだろうと思う。昨日友達がおれの革ジャンにとまるてんとう虫を見つけた。てんとう虫でも、綿毛でも、台風でも、からすでも、なんでもいい。会いにきてくれていると思えるだけで、おれの背筋は伸びる。


お前の亡骸に話したこと。出来るだけズルしたりしないから、ダサいことしないで、ちゃんとかっこよく、美しくいるから、安心してって話、あれは、ちょっとずつ本当にしていくから。良い思い出も、善意も増やして、自分の周りだけでも世界を良くする。みんなでうまいもん食って、長生きする。今はまだ、どうしようもないことがどうにかなってしまうことがさみしいよ。お前もひとりでいくのは寂しかったろう。きっとおれの顔も思い浮かべたでしょう。いつかすべてが終わっても、お前がいるなら何万回だって人間に生まれ変わってあげるよ。前世でもたぶん同じこと言ったんだわ。バンドも、もうダメかも、と思ってたんだけど、まだ一緒に歩いてくれる友達がいるから、続けるよ。今度は全員でバンド組もう。名前は、もう少し、親に言っても恥ずかしくないやつを、考えておく。実はまだ、明日からどうやって生きていったらいいのかも分かってないんだ、おれ。それでも、ちゃんと続けて、生き切って死んでく。信じられないことばかり起こるから、分かることも増える。そのうちお前がいなくなってしまったことも、きっとおれは分かってしまう。喜びと悲しみがおれの身体を作る。正しい人。正しくてカッコいい人。真っ直ぐで、でも真っ直ぐすぎたね。お前の誠実さや芯の強さやアホさに、おれが何度立ち直れたことか。ドラムなんかどうでもいいよ。会いたいね。

悔しいけどお前は物言わぬかなしみのつぼになって、ふれてみても、ひっくり返してみても、ただ悲しみを吐き出しつづけるようになってしまった。
でもこの溢れる悲しみの海を、おれは歓びと呼んで生きていくよ。
もうずっとサボってた制作も再開する。ギターも練習する。歌は、ちょっと待って。運動もする。身体に気をつけて、早寝早起きもする。長生きして、最後に死ぬ。彼女出来たら、最初に報告する。もうズルしないよってお前に言ったこと、嘘にしないようにする。一緒に作ったもの、壊さずにそっちまで持ってく。お前が好きだって言ってた曲の一節を、敢えて使うと「テムポ正しくダンスをしましょう!」って感じで、ふざけてんのか本気なのか、分からないくらい真剣に、やっていきたいよなあ。おれはおれで、ちゃんとしっかり死んで、死にかたでお前からもらったものに応えてみせるからな。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン




改めて書くけど、挫・人間は吉田と作った場所なので、続けますよ。そういう理由で続けるバンドってあるんだ。あります。理由がある限り、ボロボロでもバラバラでも、歩き続けるべきなのです。バンドは本当、おれといっしょで、残ったので。残して、つづけます。よろしくお願いします。


長すぎだな、このブログ。でもなあ、話し足りないね。足りない分は、また今度会ったときにしよう。じゃあね、ガキの頃からずっと一緒に遊んでくれて、信じてくれて、本当にありがとう。じゃあね、ばいばい。





    糸冬                            --------------- 



「嘘をついて良い日」というのは考えたもので、うまれてこのかた嘘しかついたことのないおれはこの日、自分の存在が許されないかんじになる。

いくら嘘をつかれても平気。おれだって本当は昨日中華料理なんて食べちゃないもん。菅さんにご馳走してもらった焼酎で、ふたりイカの一夜干しを食べてた。

どんな嘘も大丈夫。人を傷つけても良い。いつでも、どこでも、だれとでも。嘘にして良い。ただし、ダサくならなければ。信頼があるなら。いっぱい嘘ついて、嘘のない日より良い日に出来る。ひとを馬鹿にして生きて、それによってちょっと耐えたり安心したりする。人の不安につきあってはいけない。


「車のパーツを開発する子会社で働いている三島さん」や、「カウチの革張り替え職人の坂口さん」、「とにかくデカい木彫りのイカを作り続ける尾崎さん」として「おれ」を認識している人たちに、
「実は挫・人間シモカワというのをやっていまして。港区の3LDK事故物件に住み、猫も5匹飼っているんですよ」
なんて言ったら、「またまたァ、そもそもなんですかThe人間って」みたいな調子で笑いながら検索をかけると歪んだおれの顔面が彼らのスマホに並ぶわけだ。彼らの顔を想像すると「嘘なんてつくもんじゃない」と思ったりするかもしれない。

関係ない話。
嘘でした なんて言い訳を盾に好きな子に告白したら地獄になるぞ。






楳図かずお大美術展、良かった。涙が出た。
『ポーの一族』や『エヴァンゲリオン』についても思うが、一度終わったとされる物語を、リアルタイムで追体験することって不思議な気持ちになる。
きっと自分の想像した過去との距離は想像以上にいまと離れていないのだろう。おれはいまいち上手にそれを受け止められない自分の小物感に恥ずかしくなるのだが、何ひとつ自分を奮い立たせる必要なくただ感動。
新作の澱みのなさに圧倒され、感謝の念のようなものを世界中にぶちかましたいような気分になった。自分には何が出来るのだろうかと中学生のようなひかりがとめどなくあふれ出し、あふれ出した分、力強く、せいいっぱいのうどんを啜った。『わたしは真悟』とかから、全人類で読みましょう。




⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン


ピクミンが毎晩、「今日の気分はどうでしたか?」と尋ねてくる。みんながこんな風に、真剣に一喜一憂しながら日々を積み重ねている気配を感じる。おれの『歩み』を記録する不愉快なアプリケーション。


このアプリは一日の終わりに、「良い」「普通」「悪い」の3択を迫ってくる。
緊張感のある毎日を送らされている。
なんの罪悪感もなく、毎日「良い」とされているニコニコマークのアイコンをタッチ。
するとピクミンとおれのアバターが跳ねて喜び、花火が打ち上がる。ドンパンドドパン!!

「最高の一日!朝6時からランニング!その後シャワーを浴びて9時から5時までクリエイティブな制作作業!近くの店で仕事終わりの彼女と合流してワインを2杯飲みましたね!!23時まで部屋で寛いだあと耳と鼻に軽くキスして駅でバイバイしたshimokawaさん、本日の一枚をどうぞ!」









そんな奴は存在しない


1週間、何も「良い」くないおれの写真が、光の屈折を利用した自撮りを撮るだけのおれの生活が、横並びにされていく。7つ集まると龍が現れ、何らかの呪いが完成してしまうだろう。


ピクミン達は理解していた。
この男は毎日を「良い」と思い込むほどミクロにミクロに生活を見つめて、「良い」ボタンを押している。そうすることで便宜的に毎日を「良い」ということにして溜飲を下げていた。
彼の生活は極めて「悪い」かった。もうずっと「悪い」くて、「悪い」から離れようがなかったし、「悪い」も彼を離さなかった。

「悪い」と彼は運命を拒絶するようにがっぷりと抱きしめ合った。何故なら「悪い」が終わったとき、彼は新しい「悪い」と一つになろうとするだろうし、彼と「悪い」で子を成し、新たな「悪い」を増やすように感じていたから。ただ、彼が自分だけ「悪い」と付き合うのは、慣れてるというか、なんというかちょっとカッコいいかんじで調子に乗っているだけだということを、ピクミン達は分かっていた。


数日前から「悪い」と少し距離を置いた。それから、何も言わないで少しずつ「悪い」が薄くなっていった。「悪い」を連れてきた奴のところに帰っていっただけかもしれない。そいつのことを思うと、何故か申し訳ないとか心配とかでアンテナが揺れてしまう。ピクミン達はおれに騙されている。ピクミンもおれに騙されたフリをしている。ただここでお漏らししているおれと、100%の花火を打ち上げてとび跳ねるピクミン達では覚悟が違うのであった。
「悪い」が構ってくれなくなった自分は結構暇な人間だとようやく気づく。「なんか簡単に人にすげえと思われてえなあ!」おれは数ヶ月ぶりにブログを更新した。アクセスは以前より減っていた。ブリブリブリブリ……。



⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン



リバウンドした。見事に。
人間の身体は馬鹿だ。とるべき栄養と、そんなとらなくて良い栄養があることが分からない、馬鹿としか言いようがない。


馬鹿はおれだ、と認めることをしない。そんな馬鹿がおれだった。


薬の副反応に「赤みがでて丸い顔になることがあります」とあったが、久しぶりにコンタクトレンズを装着し自分の顔を見たら、キムタクさんじゃないか?と思った。さすがに、ロストジャッジメントのやり過ぎであった。なんの薬を飲んでいるかわからなくなる。
その件を人に伝えると「すべての男が自分をそう思う瞬間がある」と言われる。おれは久しぶりに輪に入れて貰えたような、申し訳なさと、ありふれた喜びにすっかり照れてしまった。そしてギターを弾いた。指が痛くなった。レッチリの新作を聴いた。どきどきしてたまらず雨の街を歩き回った。知らないうちに桜が咲き散った。あとは楽しくするだけだと思った。ハーちいせえちいせえちいせえわ。今日は「良い」。



    糸冬                            --------------- 

左の指先にふれると「ぷにっ」と情けない感触がして、しろくなる。

こんなにギターに触れないのも久しぶりだった。かかりつけの指圧師だけは気付いたかもしれない。


バンドを組んで以降、一ヶ月ライブがないのはおれの記憶上ない。
流行り風邪がパニックを巻き起こしているときも思えばドカドカと国中に飛沫を撒き散らしていた。

今日医者にどれくらいライブやっていないのかと聞かれて、一ヶ月だと答えると、ほぉ〜と言われる。どういう気持ちだったのか。


独断でありとあらゆることをサボっている。放棄する権利が自分にはあるのだと思いたかったのかもしれない。

普段から人に「手を抜け」などと言っておきながら、いざやってみるとそれは勇気が必要なことなんだと思った。自分のような人間でも他人に必要とされることに依存している。


この一ヶ月の主な活動は散歩だ。ひたすらに歩く。一日20キロくらい歩く。
シン・ゴジラの、蒲田に出現したあの、ツチノコフォームのやつが1時間で移動すると予想される距離をおれは何時間もかけて歩く。

音楽を聴かないどころか、酒を片手に歩いていたりする。たまに大声で歌う。子供の頃不審な大人はどこからやってくるんだろうかと思っていた。熊本県熊本市東区尾ノ上からだよ。


⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン


声児から突然電話がかかってくる。
「いきなりなんだけど、りきまると一緒にストリートファイター展いかね?」

その後すぐに着替えて家を飛び出した。2022年のおれのテーマは、アクティブ……。

死をくれてやる




こうやって撮るとベガがギャルに見えるし



こうやって撮るとベガも変なオタクに見えるという発見。
うれしそうなベガ様。









これ、誰も気付かないので自分で言うけど、おれのスニーカー、オニツカタイガーとストリートファイターのコラボグッズだから……。


展示はすごく楽しかった。「君も波動拳を出そう!」みたいなコーナーがあるのだが、即声児が抜け道を見出し、ソニックブームを連発していた。ついでに何故かヨガフレイムも出ていた。
なんかそういう自分で好きな技セットできるキャラ居たよな。

声児がバルログめっちゃ好きなの、めちゃくちゃ理解できて笑ってしまった。
全然シリーズをプレイしたことがないりきまるくんも楽しんでいたので、見に行くといいと思う。
気が晴れた。


会場を出て、3人で酒を飲んでいたらデカい地震がやってきてグラグラと揺れた。やだなーと思って声児を見ると、彼はじーっとりきまるくんを見つめていた。

あとで聞くと、りきまるくんが激しく貧乏ゆすりをしているのだと思ったらしい。街は停電した。


⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン


サボりにかこつけて、2週間で5つの病院を予約する。
(こういうことを言うときみたちをハラハラさせるだろう。おれはきみたちをハラハラさせることに悦びを見出しつつあるんだ。心配ないです。わかるだろうけど、念のため。)


仕事をしながらちゃんと身体や精神のチューニングが出来ない。
いつか大人になったら出来なきゃいけないんだと思っていたが、出来ない。出来るようになるものだと思っていたらしい。

しかし休日はぶっ壊れるまで遊んだり、乳房にかみついたり、血液を全部アルコールに変えたりしたいのだ。

「それは、身体が壊れるわよ」と、おれの作り出した人工電子妖精α-Skaが言う。

「馬鹿野郎、おれにはディオニュソスが守護霊についてんだ。一種の功徳だよ。あいつは葡萄酒のことしか分からないからな」

彼女は見た目だけ好きなアニメのキャラに寄せたのだが人格だけは思い通りに作り損ねた失敗作だった。
が、棄てることも出来ないため側に置いて家事をさせたり、PCで作業しなくてはいけないときに、PCの前に移動するためだけにこいつを召喚することが多い。
頼られると時代遅れの表現で嬉しそうにするのが気に入らなかった。

マルチビタミンのサプリメントを飲むたびにおかしくなる。おれは身体を治したいと思うのと同じように、はやく身体を壊したいと思う欲望を否定出来なかった。


「もうはっきり大人なのにな」子供のまんまで大人になると、人は不気味さを醸し出す。

おれのひとみを見ると女達は「綺麗な目……」とおれの頬を撫でながらウットリするものだが、これは精神薄弱者のひとみだ。好きなものばかり見ていたら、嫌いなものを見るのが苦手になってしまった。

おれの指を見ると女達は「女の子みたい……」と腰をくねらせ寄せてくるが、これはニート手(しゅ)だ。

要するに働き者の手の敵である。洗い物もろくにしないため、手が荒れる機会がないのだ。以前医療従事者の手に触れたとき、自分の手と明らかに違う感触がした。「どれだけ気を遣っても消毒する機会が多いから」とそのひとは言っていた。おれはひとつも自分を恥ずかしく思わないことを恥ずかしいなあと他人事のように思った。

ダ・ヴィンチの絵を見るとひとは「手に表情があるね」などというが、なるほどたしかに、きつく握りしめる手や、たおやかに開かれた手、ふきだしの存在しない一枚絵の中で手が言葉のように心情を表しているように思う。

自分の手を眺めてみると、力が抜けきって植物の幽霊のようだった。人生なめんな。



    糸冬                            ---------------





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