月別アーカイブ / 2015年11月

引き続き、『2016カレンダー』&『みんなのイラスト教室』サイン会ツアーは続いている中(今週末は秋田・千葉にて開催)、11/11に帯装画を描かせて頂いた日本文学全集11巻(河出書房新社)が発売されました。

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この『日本文学全集』シリーズは日本の各時代ごとの日本文学が読める全集で、第一期の最終巻である本書11巻には、江戸時代の代表的な、井原西鶴『好色一代男』、上田秋成『雨月物語』、山東京伝『通言総籬』、為永春水『春色梅児誉美』という4作品が収録されており、しかもすべて現代語訳されているので、たいへん読みやすいものとなっております。

今の我々にとっては、「文学」という言葉を見ると、手前にぼんやり「純」という文字が浮かび、敷居を高く捉えてしまいますが、どちらかというと、今作に収録されている作品群は、"純文学"というより"潤文学"というような、江戸時代の人達にとってのポルノ小説、またロマンス小説に近いものだったのではなかろうかと、はじめて読んで、ガラッと印象が変わりました。そこには一貫して、男が金を持って、全国の遊廓を遊び周り、女に挟まれ苦悩するという、いつの時代も変わらないシンプルな男の欲望と、複雑な女の愛のかたちが描かれており、江戸時代の男たちがしかめっ面で「ふむ、なるほど」ではなく、「ムフフ…いいなぁ。。。」と鼻の下を伸ばして夢見ている姿を想像すると、その時代も作品もグッと身近に感じることが出来ました。そこには現代語訳の力も大いに作用しており、原語を忠実に掘っていく方から、本質だけ残し、大胆なアレンジをする方まで4者4様。ほんとうにエロく、すこぶる美しく、とにかく面白かったです。

そこで、内容を端的に表すために、僕も江戸時代のこれまた代表的文化である"浮世絵(うきよえ)"というより、"春画(しゅんが)"の現代版を描こうと思いました。浮世絵が江戸時代の芸能人や風景のプロマイド的役割を果たしていたことに対し、春画は、その爽やかそうな名前とは裏腹に、ズバリ無修正エロ本のようなもの。写真はなかったので、それらはすべて絵(版画)で、あの北斎や歌麿だって描いておりました。(※ご興味のある方は自己責任において、画像検索をしてみて下さい) 

ただし、春画のように、行為や裸体そのものを描いてしまうと、大型書店などでは置いてもらいにくくなりますので、今回は直接的表現を避け、一見綺麗なだけで、そこはかとなく匂わせる程度に留める必要があります。よく電気街で黒地に蛍光ピンクで「DVDアリマス」とだけ書かれた看板を見かけますが、まさにあんな感じで「わかってるでしょ?皆まで言わすな」という行間を読むような、大人向けの間接的表現です。

さて、まずはアイデアが思いつくまで、本をじっくり何度も読み返し、浮かんだイメージを絵や単語の網ですくい上げるようにメモしてゆきます。

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①アイデアメモ

まさに走り書きでしかないので、この段階だと、なんのこっちゃわかりませんが、○で囲まれた部分を採用し、次の鉛筆の下書きくらいになると、だいたいの絵の概要は掴んで頂けると思います。
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②ラフ・下書き

そしてペン入れをして、色をつけ、ひとまずラフの完成。『好色一代男』と『春色梅児誉美』の世界観を中心に構成。

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③ラフ完成

あくまで編集部にイメージを確認してもらう為の設計図のようなものですので、定規も使っておりませんし、色も統一感にも欠けますが、春画の匂いは出てきました。そして編集部にもOKを頂いたので、「よし、まだイケる!」とアクセルを踏み込んで、いよいよ本描きに移ります。 すなわち2度目の下書き。先程の下書きより細かいですよね。ラフを下にあて、構図や描写をより良いものに仕上げてゆきます。

 
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④本描き・下書き

隅々までかたちが決まったら、次はペン入れです。今回は江戸文学の淫靡さだけでなく、共存する繊細さも表現すべきなので、ラフ時より、より細いペン(0.1⇒0.05)を使います。

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④本描き・ペン入れ


 ラフ時より、細かく変えた部分、追加した部分もいろいろあるものの、線が細く、コンパスや定規を使っているので、より繊細なイメージになりましたよね。そしてラフの反省点を活かし、色塗りへ。
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④本描き・色塗り/完成

元々ラフ自体を精密に描く方なので、1枚単体で見ると、「あれ、どこが変わったの?」と解りにくいですが、こうして2枚並べてみると、違いがおわかり頂けると思います。


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線やモチーフのことは先程述べましたが、色もラフの方は、それぞれの色が主張しすぎており、赤が一番目立ってしまっておりますが、本描きの方は、1枚の絵としての統一感があり、ピンクが一番感じる絵となりました。なぜなら、今回は土台である本の色が水色と決まっておりましたので、それなら赤よりもピンクの方がより相性が良いんですよね。
例えばなら不本意にも赤(帯)の方が目立ってしまいますが、なら本も帯も同列に引き立て合ってくれます。そして、繊細にばかりすると、逆に人間らしい体温や、女性特有の柔らかさが減ってしまうので、頬紅だけはパソコンでの着色ではなく、画用紙にカラーインクを使って滲ませました。なんとなく温度を感じますよね。

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そして、デザインされ完成。

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足首より先は、本をめくらないと見れないように、思わせぶりな絵を描きました。実際に書店で見て欲しいというのも勿論ありますが、前述したように直接的な表現をできない分、帯を外し(ふたつの意味で)、隠されたものを露わにするという読者の方々の行為までをも含めて、春画の世界を構築しました。

最近も『春画展』の開催により「春画はポルノか?芸術か?」という論争が巻き起こりました。

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発表された時代も違いますし、受け手の倫理観や感覚は千差万別なので、どんな意見もありだとは思いますが、ここでの2択、まどろっこしい表現を使わなければ、とどのつまり「春画はエロいか?エロくないか?」というシンプルなものなんですよね。で、やはり表向きでは禁止されていた江戸時代にひっそり読んでいた人達、そしてそれに応えるため、あくまでポルノとして描いていた当時の絵師たちの気持ちを汲み取ると、僕としては「エロい!」と言いたい。その技術や情熱には芸術性はあれど、やっぱり春画自体は芸術ではなく、僕が美術館の館長なら、天国に向かって「モラルが崩壊した現代でも公の場で展示できないほど、あんたたち最高にエロいよー!!」と言ってあげたい。

さて、そうこうしている内に無事発売された『日本文学全集11巻』ですが、出版社より「中村さんスミマセン!」との連絡が。なんでも某新聞社から「広告を出すなら、そのわいせつな帯絵を外さないと載せられない」とのこと。あれだけ直接的表現を避け、一見綺麗なだけの絵を見て、「エロい!」と勘付く新聞社の眼力も相当なものですが、僕がそれを最高の褒め言葉として受け取ったことは言うまでもありません。

だからひそやかに、でもたしかに、おすすめです。

依然、サイン会ツアーが続いておりますが、みんなのイラスト教室がおかげさまで第3刷が決まり、電子書籍版も発売されました。これを機に、お近くの書店での取り扱いや売り切れが解決し、タイトル通り、みんなの本になれる事を切に願います。

書店でも袋閉じされている場合もございますので、まだお読み出ない方の為に1コーナーのみのサンプルをご用意しました。(パソコンでの閲覧推奨)

ケータイの方は中村佑介公式LINEに"み1"から"み12"までのひらがな+ページ数で話しかけると、同内容のサンプル画像を返信致します。こんな感じで、色々な絵や内容に触れる全130ページです。

さて、今週末の3日間は本から飛び出して、大阪で実際に講演会を行います。金曜日スタンダードブックストアは、『みんなのイラスト教室』の発売記念と題し、本書の説明と作品添削会を行います。土曜日ヒューマンアカデミー大阪校では、いつも通りの講演会。日曜日アートヤードは、そんな専門学校や美大会場にこれまで参加しにくかった方の為の講演会です。全日要予約。土日は無料。詳細は以下の通りです。

■11/13@大阪リアル・みんなのイラスト教室
日時:2015年11月13日(金)19:30~21:30
入場料:『みんなのイラスト教室』870円+ドリンク代500円(※要予約
すでに「みんなのイラスト教室」をお持ちの方は、ご自身の本を入り口でご提示下さい。ドリンク代500円でご入場頂けます。
作品添削希望者はご自身のイラスト原画、もしくはSDカードに入れたデータをご持参下さい。 
座席数に限りがございますので、参加希望者は下記アドレスよりお早めにご予約下さい。
お問い合わせ:06-6484-2239

■11/14@大阪中村佑介講演会』 
日時:2015年11月14日(土)13:00~15:00
入場料:無料(※要予約
お問い合わせ:0120-06-8601

そして、大阪以外の方や、「イラスト教室はもう読んだよー」という方の為に、本日のブログでは、『僕のイラスト教室』となった本をご紹介しようと思います。イラストの指南書や専門書というのは書店の棚にもたくさん並んでいる上、値段も決して安くありませんので、迷った挙句、結局何も買わずに家に帰って来てしまったという経験をされた方も少なくないと思います。ですので、僕が実際にプロになる際に、お釣りが来るほど役立ったイラスト関係の本を5冊に厳選してご紹介します。すべて単純に読み物としてもおもしろい本ばかりですので、絵を描かない方も読書の秋の参考にして頂ければ幸いです。

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まず1冊目は「ドラゴンボール」でお馴染みのあの鳥山明さんが講師を務める『HETAPPIマンガ研究所』
 
鳥山明のHETAPPIマンガ研究所―あなたも漫画家になれる!かもしれないの巻 (ジャンプ・コミックス)

子供の頃は僕が漫画家を目指していた事もあるのですが、鳥山明さんは「ドラゴンクエスト」などを通し、イラストレーターやキャラクターデザイナーとしても有名ですから、小学生の時に買ってから、今に至るまで、ここからたくさんのイラストのノウハウを教わっております。そして、目玉はアマチュア漫画の「ここをこうしたらもっと良くなるよ」という添削コーナー。そう、実はこの本のイラスト・デザイン版を目指し『みんなのイラスト教室』を作りました。もうほんと鳥山明さんが住んでおられる名古屋には足を向けて寝られません。ただし、今はもう絶版になっておりますので、古書店などでお探し下さい。


そして2冊目。大学生になり漫画家からイラストレーターという職業にだんだんと興味が移り、手に取ったのが、イラストレーター・漫画家のわたせせいぞうさんによる『イラストレーターの仕事・アニメーターの仕事』


移り変わりの激しいイラストの世界において、わたせさん程、現在に至るまで長い間、第一線でご活躍されている方もそうそういらっしゃいません。もし名前を聞き慣れない方も、Googleの検索窓に「わたせせいぞう」と入れると、どの世代の方も「あー!!」となるはず。そんなわたせさんの貴重なメイキングももちろんですが、読み物ですので、主にイラストレーターとしての考え方や、仕事の進め方がご紹介されています。この本を読んで、「イラストレーターになろう!」と決意したくらい、僕の持っているものは赤線で真っ赤です(笑) 特に「オリジナリティを考えるのはずっとあとでいい。僕だってまだ模索中だ」という一文に、どれだけ勇気を頂いたことかわかりません。この本もまた絶版ですので、古書店などで見かけた方はラッキーです。


そして3冊目は、イラストと同じ1枚絵である「アートってなんだろう?」という疑問を抱いた際に手に取ったユニークな1冊。山田五郎さんの『知識ゼロからの西洋絵画入門』
 
タモリ倶楽部では"お尻評論家"、"タイツ評論家"、"ドクロ評論家"などの異名をお持ちの山田さんですが、実は大学時代は西洋美術史を専攻していた、正真正銘の"美術評論家"です。そんな幅広く造詣の深い山田さんならではのユニークな視点と語り口で、名立たる画家たちを小学校の生徒に見立て、内申書風に紹介してゆくという、これまでにない、おもしろく、わかりやすい美術本です。例えばあのピカソも、山田先生にかかれば「田舎出身で背が低くて髪も薄いコンプレックスをバネに、人並みはずれた才能とバイタリティで女子を口説きまくる危険人物です」との事(笑) 次に美術館に行った時、笑いを堪えること間違いなし。作家ではなく歴史に焦点を置いた「知識ゼロからの西洋絵画史入門」もおススメです。
 

4冊目は、最近刊行されたコスプレイヤー・事業家・プロデューサーのうしじまいい肉さん『自撮りの教科書』

自撮りの教科書 (学校ではゼッタイ教えてくれない教科書シリーズ)

「自撮り」と呼ばれる、主に女性が自分で自分の写真を撮る時のコツをたくさんの実例を用いてレクチャーしている他、SNSなどでよりたくさんの人にその写真を見てもらう方法なども幅広く紹介されています。なぜ男性で、自撮りもしない僕がこの本を読んでいるかというと、上記の文章の「写真」を「絵」に変えて、もう一度読んでみて下さい。驚くほど『みんなのイラスト教室』の方向性に似ているんですよね。そこにシンパシーを憶えたことも勿論ですが、それ以前に「素材をそのまま活かし、より魅力的に見せる」工夫は、特に女の子を描く際に、直接応用できます。ですので、自撮りをされる方だけでなく、女性らしさがなかなか上手く描けずに、仕方なく巨乳や露出に走ってしまう人にもおススメしたい1冊です。


5冊目は、芸術やエンタテインメント分野専門の弁護士・福井健策さんによる『18歳の著作権入門』
18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)

「みんなのイラスト教室」でも著作権についてはお話させて頂いておりますが、絵を描く人だけでなく、イラストやデザインを見ない人、関わりのない会社なんて存在しませんから、皆さん知っておきたいですよね。そんな「もっと深く著作権を知っておきたいけど、むずかしくない?」という時の入門書としておススメできるのがこの1冊。絵、写真、音楽、キャラクター、映像、文章、インターネットなど、過去の実例と現代の問題を照らし合わせ、とても平易な言葉で「なんでいけないの?」の答えを教えて下さいます。どんなジャンルでもプロ、またはプロを目指す人なら、全員が教科書として持っていても損はないと思います。逆に知らないと、騙されちゃいますよー


番外編として、デッサンの際におススメしたいのが、Nintendo3DS『新 絵心教室』というゲームソフト。

新 絵心教室

DS版やWiiU版もありますので、お持ちの機種に合わせて択んで欲しいのですが、内容はどれも大体同じです。これ、単なるお絵描きソフトと思われがちですが、実に本格的な絵画教室的内容で、遊んでいるうちにデッサン(観察力/描写力)や、多種多様な画材の特性が学べます。うちの妻も絵が上手い方ではなかったのですが、これを遊んでいただけで、かなり上達しました。もし「興味はあるけど、絵画教室や美大予備校はハードルが高いかな?」と迷っている方、親御さんがいらっしゃいましたら、ひとまずデッサンの教則本やポーズ集ではなく、これを買ってみることを、強くおススメします。


以上、僕のイラスト教室5冊+1本でした。とは言え、本当に一番役立つのは、やはり画集だったりするんですよね。という訳で、最後に『みんなのイラスト教室』の中で、例題として取り挙げた作品の画集8冊を、リンクでズラッと並べておきます。芸術の秋の夜長に。心情的に一番のおススメは最後の一冊ですけどね(笑) では。

ビックリマン原画大全
DRAGON BALL超画集 (愛蔵版コミックス)
LittleTwinStars ART BOOK リトルツインスターズ アートブック
Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集
Norman Rockwell: 332 Magazine Covers (Tiny Folios Series)
オーブリー・ビアズリー
リキテンスタイン NBS-J (タッシェン・ニューベーシック・アート・シリーズ)
NOW-中村佑介画集

昨日土曜日は札幌のにて『2016カレンダー』と『みんなのイラスト教室』発売記念のサイン会でした。まずは参加して下さった皆様、三省堂書店・札幌店スタッフの皆さま、楽しい時間をどうもありがとうございました。三省堂書店札幌店、弘栄堂書店パセオ西店、MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店、紀伊國屋書店札幌本店にはサイン本を取り扱って頂いておりますので、参加できなかった方もぜひ。

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今回は、前日の金曜日に札幌入りしたのですが、その日からガクンと気温が下がったようで、最近行った沖縄といわずとも、僕の暮らしている大阪と比べても、もう立派な冬のよう。とは言え、冬生まれの僕は寒いのが大好きな上、札幌にある玩具屋さん(JUNGLE)で、探していた絶版品のトランスフォーマーを見つけ、購入できたので、テンション上りっぱなし。写真はそのマスターピース・サウンドウェーブ。ハリウッド映画では車に変形していましたが、可動式のロボットフィギュアが、ポータブルカセットプレイヤーの形に完全変形します。その姿はのちほど。


さて、札幌のサイン会は今年だけでも2回目で、これまでも2009年に画集『Blue』が出て以来、毎年来ていたので、6回目。札幌以外の旭川や留萌でのサイン会、また講演会も合わせると、もう10回目の訪問となります。その度に、探していたトランスフォー…じゃなかった、イラストレーターとしての新たな課題が発見できるという、不思議な地でもあります。

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今回は「"絵"という文化の敷居の高さ」について。というのもサイン会では「自分は絵を描かないのですが…」や「まったく絵心がないのですが…」という前置き付きで、作品や画集に対しての感想を述べられる方がいらっしゃいます。一時期までは「他の絵には興味はないけど、あなたの絵には興味がある」という、「こんなのはじめて」的な世の男性が言われたら一番うれしい言葉セレクショ・不動のNo.1として受け取っていたものの、最近はその度に別の課題が頭の中に浮き上がります。

というのも、例えば芸能人のサイン会に行って、「自分はテレビに出演していないのですが、応援しています」や、同じ絵というジャンルの漫画家のサイン会に行って、「自分は漫画は描きませんが、作品大好きです」は聞かないし、もっと言えば、定食屋に行って「自分は料理人ではありませんが、美味しいです」や、コンビニに行って「自分はコンビニを営んでいませんが、これください」はありえないですよね。そこから見えるのは次のような、受け取る側の無意識な心理的構図です。

ファン(優劣ない別の立場)芸能人
客⇔(優劣ない別の立場)
絵を見る人⇒(劣等感の生じる同じ立場)⇒絵を描く人、詳しい人

 ここであえて"優越感"という言葉を持ちださなかったのは、これはあくまで、受け取る側のイメージであって、ほとんどの作者は「作品を見て劣等感を感じてほしい」、すなわち「自分は優位に立ちたい」ということは、思っていないからです。そして「絵を描く人が偉い(社会的地位が高い)」というのは、長者番付に画家やイラストレーターが載らないことからも明らかです。そして絵が得意ではない人の劣等感が生じるのは、テレビで「絵が下手な芸能人」が笑いをさそっている姿からも見てとれます。

ではなぜこのような印象が産まれるのでしょうか。その理由は大きく以下の2つだと考えています。

①子供と絵

ひとつは「かつてはみんな絵を描いていた」ということ。ここで言う"かつて"とは幼児期を指しています。人は自分を伝える最もシンプルな表現手段として、まずは「笑う」「泣く」「はしゃぐ」「すねる」等の行動をします。それだと大味で大人は「?」と思うことが気付き、次に言葉を十分に憶える前に絵を描き始めます。幼稚園でも男の子は飛行機や車を、女の子ならお姫様やお花屋さんを、小学校低学年でも、みんな好きなアニメや漫画のキャラクターを一度は描いていましたよね。

そしてほとんどの子供は、幼年期から思春期にうつりかわるまでの時期に、他人に自分を紹介したり、想いを伝える手段として、絵の代わりに言葉の方が多彩に使いこなせるようになり、やがて生活において「絵を描くこと」は自然と必要なくなってきます。

すなわち「自分は絵は描かないのですが…」という前置きは、無意識化において「自分は絵を描くのを途中でやめてしまったのですが…」という少し後ろめたい意味が含まれています。「子供の時はトトロが見えていたのですが…」のような。そう考えると、高校野球まで出場した人はおそらく、プロ野球選手のサイン会に行った時に「今は野球をしていませんが…」という前置きが出てくることは想像しやすいです。


②言葉

2つめの理由はまさにその「言葉」。絵を描かなくなって久しい人も、やがて大人になると再び絵に接する必要性が出てきます。それがイラストやデザイン。世の中にはデザインされていない商品はなく、そのほとんどにも注意書きや挿絵でイラストが入っています。すなわち、大人になり、仕事をしだすと、ぜったいに「絵」にまた出会ってしまうんですよね。また、親になった人も同様に、前述した通り、子供はみんな絵を描きますから、「ママ、描いて~」と言われ、バッタリと。そこで、専門書や技法書などをチラッと見てみると、知らない言葉のオンパレード。それもそのはず、算数からちょっと目を離している隙に、名前は「算数」から「数学」にかわり、X、Y、サイン、コサイン、方程式、関数、因数分解…など難しい単語が闊歩しており、「9×9の頃はあんなに無邪気で楽しかったのに…」と落胆するかのごとく、絵もほとんどの人が描かなくなった間に、たくさんの知識や専門用語が出てくるようになったことに気付きます。それで「知らないとマズイ…かも」という劣等感につながる。

でも僕の考えでは、絵においてはそれらの事は「知らなくてよい」です。そもそも「絵心」という言葉も、知識や技術ではなく、感受性のことを指しているので、絵心のない人なんてほとんどおりませんし、サイン会に来て下さっている時点で、「絵心はかなりある」ということでもあります。

また数学と違うのは、Mr.Childrenを"ミスチル"と略すように、学問ではあくまで「この方が早いから」という利便性、必要性、共通認識において、一見難しそうな方程式や単語を使うのに対し、絵においては、実はほとんどの専門用語が「使う必要がない」と僕は考えています。例えば色彩は"色"、明度は"明るさ"、彩度は"鮮やかさ"、構図は"大きさと位置"、テーマは"伝えたいこと"、モチーフは"描くもの"、フォントは"字のかたち"というように、ほとんどの専門用語は皆が知っている言葉に戻しても、さして長くはならないんですよね。

ではなぜそんな難しい単語をワザワザ使っているのか。あくまで個人的推測なのですが、それは鑑賞者ではなく、作者側の劣等感からよるものだと思っています。先ほど申し上げた通り、「子供時代にはみんな絵を描いていた」をグルンと裏返すと、「大人になったのにまだ描いてる」となります。みんなと違って幼なさをなかなか捨てられていない自分。でもそうは見られたくないから、ワザと難しい単語を多用し、学問と気高さを装って、「気安く近づかないでよね!」という自己防衛としてのサインを出しているのだと思います。早い話、「子供じゃないもん!」ということですね。

いやいや、子供です(笑) 少なくとも僕は。これは胸を張って言うことではなく、お恥ずかしい限りなのですが、オフィシャルブログにおいて、自分や絵より先に、買った玩具の写真を「見て見て!」とアップしちゃうくらいに幼児性が残っております。そしてそれはそのまま、絵を描くという行為、それを突き詰める集中力、大胆な色の択び方などにつながっているのだとも感じています。


③まとめ


このように、作者側と鑑賞者側の劣等感のぶつかり合いによって、誤解が生まれ、「絵は詳しくはないのですが…」という言葉を誘っているのだと僕は考えました。これは我々、イラストレーター、デザイナーの側の責任だと感じています。そのスキマを埋めるため、書籍『みんなのイラスト教室』は、専門用語や知識を徹底的に排除した本にしました。詳しくはコチラから。

中村佑介 みんなのイラスト教室
飛鳥新社 130ページ 870円(税込) 好評発売中



だから絵を描く人だけでなく、絵を描かない人からも「おもしろかったです!」というご感想をたくさん頂いていることが、とても嬉しいです。長々となりましたが、今日はこれだけが言いたかった。理解して頂き、本当にどうもありがとうございます。この本が何かしらきっかけとなり、絵を描く人にとっても、絵を見る人にとっても、題名通り「みんな」にとって、楽しく住みよい世の中になりますように。

ですので、残り14会場と年末まで続くサイン会で、「絵は詳しくないのですが…」という前置きは、もう必要ありませんし、基本的に37歳ではなく、身体の大きい7才児に飴ちゃんをあげるつもりで接して頂ければ、緊張もなくなると思います。

最後にお約束通り、サウンドウェーブをトランスフォーム。今は懐かしいポータブルカセットプレイヤーに変形。
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そんな願いをしっかりと録音した札幌サイン会でした。ではまたどこかの会場で。



中村佑介サイン会ツアー
 
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詳細は店舗名をクリックして下さい。
定員に達し次第、受付終了となりますので、店頭並びに、お電話でお早めにお申し込み下さい。
講演会スケジュールはコチラ

■11/13(金)@大阪 スタンダードブックストアサイン会13時~/トークショー19時半~)☎06-6484-2239
■11/21(土)@広島 紀伊國屋書店広島店 ☎082-225-3232
11/22(日)@岡山 喜久屋書店倉敷店 ☎086-430-5450
11/23(祝・月)@名古屋 星野書店近鉄パッセ店 ☎052-581-4796
11/28(土)@秋田 ジュンク堂書店秋田店 ☎018-884-1370
11/29(日)@千葉 三省堂書店そごう千葉店 ☎043-245-8331
12/5(土)@福岡 ジュンク堂書店福岡店 ☎092-738-3322
12/6(日)@鹿児島 ブックスミスミオプシア ☎099-813-7012
12/12(土)@京都 丸善京都本店 ☎075-253-1599
12/13(日)@大阪 紀伊國屋書店グランフロント大阪店 ☎06-7730-8451
12/19(土)@徳島 平惣徳島店 ☎088-622-0001
12/20(日)@香川 宮脇書店本店 ☎087-851-3733
■12/26(土)@東京 ジュンク堂書店池袋本店 ☎03-5956-6111
■12/27(日)@新潟 ジュンク堂書店新潟店 ☎025-374-4411

参加方法
会場書店にて下記を購入された方に整理券をお渡しします。 
①2016カレンダー(定価1,200円)+イラスト教室(定価870円)
②2016カレンダー(定価1,200円)+クリアファイル1枚(4種類いずれか・定価432円)
③画集『NOW』(定価3,000円)
④画集『Blue』(定価4,104円)

書店により参加条件が異なる場合があります。 
サインする商品は下記の通りです。色紙や関連グッズにはサインは出来ませんのでご了承ください。
・『2016カレンダー』/画集『NOW』/画集『Blue』…イラスト入り
 ・イラスト教室…イラスト無し、中村佑介の名前のサインのみ

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大阪、沖縄、神奈川、東京、仙台とサイン会ツアーの1/4が終了。残り15県。今週末は札幌。

僕のサイン会に来てくれる中高生に話を聞くと、統計的に吹奏楽部に在籍している方が多いことに気付く。絵と音楽は、脳の割と近い感受性の部分を共有しているのだろうから、その度に納得している。でもだからこそ、その子自体には会えず、代理としてお母さんが来て下さることも多い。吹奏楽部はたいていサイン会を開催する土日や祝日にも練習があるからだ。また納得。でも今回ははじめてのケースだった。

そのお母さんも「娘の代理で来ました」と言った。上記のような理由や、年末は受験勉強とも被るから、「そのどちらかですか?」と質問すると、「いいえ」と涙ぐむ。その娘さんは4年前に事故でなくなったそうだ。そして「娘はいつも、中学生当時がんばって溜めたお小遣いで買った画集(Blue)を読んでは、"お母さんこれ見て見て~!"と言っていました。だからもし娘が生きていたら、このサイン会に来ていただろうと思い、今日は彼女の変わりに来ました」とのこと。

口数の多い僕もかける言葉を失った。娘さんをなくした哀しみや後悔と、それを乗り越えてまたここに立っているお母さんの強さや優しさ。僕がもし親だったら、それでもやっぱり彼女に生きていて欲しかったとずっと思う。だから彼女が元気で生きていて、少し大人になってここへ来たと思い、今度ははじめてのバイト代で買ってくれただろう2冊目の画集に、いつも通りイラストを描き、サインをし、宛名を書いた。

『Blue』 の表紙の女の子のちょうど5年後のいまの姿を『NOW』の表紙で描いた。これは僕であり、皆さんであり、紛れもなく彼女の姿である。

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次の画集を出すのが何年後かはわからないけど、5年後ならまた5歳、10年後ならまた10歳と、やっぱりきちんと年をとらせてあげようと思った。その度にお母さんがまた来てくれるといいな。そのためにも、僕は元気にがんばって、これからも絵を描いていきます。

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