月別アーカイブ / 2015年08月

今月は、表紙絵を描かせて頂いた2冊の小説が発売されました。

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まず1冊目(右)の谷瑞恵さん『がらくた屋と月の夜話(幻冬舎)は、なかなか踏み出せない淡々とした毎日を送るOLのつき子が、様々なブロカントとの出会いを通して成長してゆく物語。

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この"ブロカント"という聞きなれない言葉。僕もこの小説ではじめて知ったのですが、日本では馴染みのある同じフランス語"アンティーク"が100年以上前の高価な"骨董品"を指しているのに対し、"ブロカント"は100年以内の"古道具"という意味。つまりタイトルにもなっている"ガラクタ"な訳ですね。ただし、英語のJunkのような古道具という直訳の意味だけでなく、そこには"美しく保管されてきた愛すべきガラクタ"という、やはり町並みと同様に、歴史を大切に保管するフランスらしい価値観が宿っています。

そして、ブロカント達は、出会べき次の所有者にだけ、そっと語りかけます。その昔話と出会った人の人生という糸と糸とが交差し、ちょうど表紙に描かれたメヘレンレースのように織り成され、またそれぞれの場所へ帰ってゆく。そんな谷瑞恵さんならではの繊細な物語を、そのまま描きました。小説に登場するブロカントは、すべて表紙の中に入れておきましたので、ひとつでも「お」と思ったら、あなたこそが次の所有者なのだと思います。


そこで今回は僕も、この本の表紙が出来あがる工程を、お話しさせて頂きます。

①ゲラ
まずはじめは、出版社から送られてきた「ゲラ版」に目を通します。ゲラといっても、笑い上戸の人ではなく、"Galley Proof"を語源とした、1冊の本になる前のチェック用原稿のことです。

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ペンを片手に、このゲラ版を、絵にすべき重要な箇所にチェックを付けながら何度もよく読み込みます。国語テストの「この小説で作者が伝えたかったことを○○字以内で答えなさい」みたいな作業ですね。表紙イラストとは、その答えを文字にしてまとめる代わりに、絵にしてまとめる仕事なのです。


②まとめ

次に、僕の場合は忘れっぽい性格なので、主要な人物設定、モチーフ、シーン等をすべて抜き出し、1枚のメモにまとめます。これは情緒のないネタばれに過ぎませんので、これから読む方の為に、ほとんどの部分はモザイク処理をかけましたが、以下のような感じです。

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③アイデア
そしてこれを元に、最初にメモ帳に描いたアイデアがこんな感じ。
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ま、何のこっちゃわかりませんよね(笑) あくまで僕の頭の中に浮かぶイメージを、忘れないように書き留めただけのメモなので、最初はいつもこんな感じです。「いいかも」と思ったら、次に大きめの紙にもう少し具体的に同じ絵を描いてみます。
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この段階なら、人間が3人描かれていることがわかりますよね。でもこのアイデアはボツにしました。それは「小説の内容を端的に表わした絵」と「本として使いやすい絵」というのは必ずしも一致しないからです。この絵の場合は、小説に登場する主要の人物3名が画面にまんべんなく散らばっている為、第一に「タイトルや作者名が入れにくい」、第2に「それぞれが小さくなりすぎて、書店で目立たない」という問題があります。そしてまた別のアイデアを考えてゆきます。

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その中から3点を抜粋。先程のように2人の登場人物を画面に散らばらせることなく、左から<横並び正面>、<横並び横姿>、<主役のつき子1人>という案です。これを見ても、「あ、自分ならこの位置にタイトルを入れるな」と思いつきやすくなりましたよね。

④ラフ
そして真ん中の1点を、他にも色々な要素が盛り込めそうな可能性があると択び、ラフを描きました。

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この「ラフ」というのも"大雑把"という意味ではなく、出版社と作者に「こういう表紙はどうですか?」という提案の為のものなので、僕はなるべく完成品に近い形で仕上げます。ただし、このラフ案もボツにしました。絵としては左に縦文字でタイトルも入りやすそうだし、内容も伝わりやすいと思ったのですが、今回の出版社からの依頼は「谷瑞恵さんのファンタジー的側面ではなく、現実的な魅力にスポットを当てた本にしたい」という事でしたので、ここまで描いてみて、ようやく「この絵では可愛らしすぎる」と解った為でした。そこでまた先程の3点の中から一番右の案を元に、新しい絵を考えました。それがコチラ。

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最初に完成品をお見せしているので、どんどんゴールに近づいてきた感じがしますね(笑) この絵でのポイントは、僕の絵の場合、表紙に人間を何人も登場させると、どうしても漫画っぽくなってしまい、現実感からは遠のいてしまうので、主役をあくまで女性一人に置いた点です。そしてまたラフを描きます。

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先程のラフと比べると、内容は同じですが、男性2名をシルエットにしたことにより、画面がスッキリとまとまり、より落ち着いた印象になったと思います。このラフを出版社と谷さんにお見せして「OK」を頂いたので、いよいよ本描きに移ります。


⑤本描き~下描き・ペン入れ

トレース台でラフを下に敷き、バロンケント紙に鉛筆で、より美しく見えるように、配置やフォルムを整えていきます。これで1日。その下描きの上から、ミリペン(コピックマルチライナー)と定規やコンパスを使い、より丁寧にペン入れしていきます。これで3日なので、計4日の作業です。
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⑥本描き~色塗り
ペン入れが終わったら、スキャナでパソコンに取り込み、フォトショップというソフトで色をつけてゆきます。僕の場合はソフトの機能や、タブレットは使わず、マウスのみでコチコチと色を置いてゆきます。その理由は別途、雑誌インタビューなどでお読みください。この着色で3日間なので、本描きはあわせて1週間の作業です。
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まるで間違い探しのようですが、ラフと本描きを比べてみると、軽さはなくなり、商品としてドッシリと落ち着いた印象になっていることがお解り頂けると思います。僕の作業はココまで。


⑦デザイン~完成

このイラストを元に、タイトル、作者名、出版社名の種類や配置、そして印刷紙などが択ばれます。つまり"デザイン"ですね。今回は児玉明子さんの手により、可愛いながらもクラシック感が溢れる、内容通りのブロカントらしいデザインとなりました。そして印刷所、製本所を通過し、書店へと並んだのでした。

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以上、谷瑞恵さんの新作小説『がらくた屋と月の夜話』のご紹介でした。こんな風にして本屋さんに並んでいる本も一冊一冊丁寧に仕上げられています。それはまるで小説の中のブロカントそれぞれが持つ物語のよう。絵に描かれたそれぞれの理由を、どうぞ小説の中でお確かめ下さい。

なお、10/1発売のみんなのイラスト教室にも、今度はCDジャケットのメイキングを収録しておりますので、そちらも楽しみにしていて下さい。
中村佑介 / 飛鳥新社 / 2015.10.1発売 / 870円(税込)

そして次回、後編はもうひとつの新しい昔話『新釈 走れメロス 他4篇』について。ではまた。

(つづく)


がらくた屋と月の夜話
谷瑞恵 幻冬舎 2015年8月1日

仕事も恋も上手くいかないつき子は、ある日、道に迷い、一軒の骨董品屋に辿り着く。そこは、モノではなく、ガラクタに秘められた“物語”を売る店だった。古い時刻表、欠けたティーカップ、耳の取れたぬいぐるみ…。がらくたばかりの「河嶋骨董店」を、今日もまた忘れてしまった大切な何かを探しにお客たちが訪れる。トランクいっぱいに、あなたへの物語が詰まっている。「河嶋骨董店」へようこそ!

 

8月22日(土)はOCAこと、大阪コミュニケーションアート専門学校で講演会でした。参加者と学校関係者の皆様、司会の真理藻ちゃん、ツイキャスで見て下さった皆様、本当にどうもありがとうございました。遠く香川や高知から参加してくれた子達、そしてバスの運転手さんに、特にお疲れ様でした。

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講演会後に行われた自由参加の合評会では、「もし僕が高校生で同級生にこんな子たちが居たらほんとイヤだなぁ~(笑)」と思うほど、上手い絵、おもしろい絵がいっぱいで、僕も勉強になりました。

ここで、話を続ける前に、スクロールするのが面倒な方の為に今後のスケジュールを先に。全国を周って来た講演会も残りあと5会場。お近くの方はぜひご参加下さいませ。


■9/12@東京
会場:東京造形大学 4号館A教室
日時:2015年9月12日(土)14:30~16:00(13:30~入場可)
入場料:無料(※先着順)
お問い合わせ:info@room-composite.com
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9/13@大阪
中村佑介のイラスト教室第1回
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会場:難波・アートヤード
日時:2015年9月13日(日)
講演会13時~/合評会前半15時半~/合評会後半18時~
入場料:無料(※応募制)
お問い合わせ:studio@artyard.jp

■9/26@東京
日時:2015年9月26日(土)15:30~17:00
入場料:無料(※要予約)
お問い合わせ:03-3770-5581

■9/27@仙台
日時:2015年9月27日(日)13:00~
入場料:無料(※要予約)
お問い合わせ:0120-050-459

■10/18@大阪
日時:2015年10月18日(日)14:00~
入場料:無料(要予約

■10/24@那覇
日時:2015年10月24日(土)13:00~
入場料:無料(※要予約)
お問い合わせ:0120-55-7815

■11/14@大阪
日時:2015年11月14日(土)13:00~
入場料:無料(※要予約)
お問い合わせ:0120-06-8601
詳細:http://ha.athuman.com/event/illustrator/nakamura.php

■11/15@大阪
中村佑介のイラスト教室第2回ny11151
会場:難波・アートヤード
日時:2015年9月13日(日)13時~15:00
入場料:無料(※予約制)
お問い合わせ:studio@artyard.jp


それでは話の続きを。今回もタイトル通り、講演会中に参加者から寄せられた代表的な質問と、時間内にはお読み出来なかった質問をいくつか解答していきます。

何をキッカケにイラストレーターという道にすすみましたか?(匿名希望さん)

実は「イラストレーターになろう!」と思ったのは、イラストの仕事をはじめてから10年後の、ちょうど画集『Blue』を出した時でした。それまでは「他にも漫画や音楽やエッセイやラジオなど、色々な活動をしている中で、一番収入になっているのが今はたまたま1枚絵(イラスト)なだけ」という意識でした。しかもその中で唯一、イラストレーターというのは、幼い頃からの憧れのなかった職業で(子供の頃の夢は漫画家でした)、だからこそ客観的な目線になることができ、仕事としてやっていけてるのかもなぁとも思います。そして画集を出した時、それはもう大きな名刺みたいなものなので、「よし、イラストレーターをきちんと続けていこう!」とはじめて強く意識するようになりました。


Twitterでイラスト講座をするようになったきっかけはありますか?(Yさん)

 
画集を出して、サイン会をするようになり、たくさんの絵を描く子供たちに会いました。"子供"と限定しているのは、小学生→中学生→高校生→大学生→社会人となるにしたがって、絵を描く人の割合は減って行くからです。自然に考えるとその理由は「言葉で十分なコミュニケーションを取れるようになるから」というものが多いとおもいますが、同時に「親や周りからの無関心・無理解で何となく描かなくなっていく」というのもあると思います。その後者を出来るだけ続けさせてあげたいなと思い、イラスト講座をはじめました。だから実はアドバイスはオマケみたいなもので、「周りに絵を描く人がいる!」と実感し、描き続けさせてあげることが本当の目的だったりします。あ、そのイラスト講座の集大成が本になりますので、そちら↓も宜しくお願い致します。
(著者:中村佑介/2015年9月10日発売予定/税込870円)


1枚の絵にたくさんのモチーフを入れる時、ゴチャゴチャせず、
すっきりまとめるには、どのようにして描けば良いのでしょうか?(Uさん)

モチーフは多いけどすっきりとした絵を描く上で、構図や色の工夫もありますが、「モチーフをきちんと描く」というのが重要です。詳しく説明する前に、まずは「ゴチャゴチャしている」というのがどのような状態か? それはそれぞれのモチーフが主張しすぎているという事なんですね。それはちょうど次のような状態です。

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いわゆるゴチャゴチャした絵ですよね。丸、三角、四角という図形がそれぞれ3つずつ、計9個のモチーフがある絵です。ただし形は様々で、タッチもありますよね。では次にこの絵を見て下さい。

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さっきより少しスッキリと見えますよね。これは線をまっすぐにし、形を整えただけで、配置や大きさは実はさっきの絵と同じです。つまりモチーフをきちんと描き、個性をなくすだけで、ゴチャゴチャ感は減少します。だからもし、同じような悩みを抱えている方がいらっしゃったら、「主役じゃないから」と小さなモチーフを適当に描くのではなく、むしろより慎重に描いてみて下さい。また配置に関しては、生活から。ゴチャゴチャした絵の人は部屋が散らかっていることも多いですので、まずは絵を描く前に、ご自分のお部屋の片付けからはじめましょう。


スランプからはどうやって脱出しますか?(Kさん)

最後はとても学生らしい質問です。というのも、プロになると「描きたくないなぁ」という時はあっても、仕事で締切があるから無理にでも描くしかないので、結果としてスランプはないんですよね。もちろん僕も、大学生時代に1年くらい絵を描かなかった時期はあります。そう、「描けなかった」ではなく「描かなかった」んですよね。

僕が考える「スランプ」という言葉の正体は、"自分の成長を見たい"より"描くのが面倒くさい"が勝っちゃってる時のこと。つまり本音は「スランプ」なんて格好良い横文字ではなく、単に「飽きた」とか「描きたくない」な事が多い。だから"描けない"という現状ではなく、"描かない"という自分の取った過去の選択に過ぎません。そして僕は1年間で1枚も絵を描きませんでした。自分の成長のない絵に飽きたからです。そして飽きるのに飽きたら、また自然と描き始めました。

体調や精神不良など、致し方ない理由がない場合のプロのスランプも、「貯金が十分にあって、早急に絵を描かなくても、食うに困らない」という理由が本当は多いような気がします。(※あくまで主観です)

そこから逆算すると、スランプの脱出法は、以後"スランプ"という抽象的な言葉を使わないこと。そして描かない理由を正直に自分で認め、プロ志望ならそれでも練習だと思って無理して描くか、描く義務のない人は気にせず放っておくこと。それが一番だと思います。



以上の4つが質問コーナーでした。途中で告知したイラスト講座本みんなのイラスト教室、文章はより読みやすく、わかりやすく書き直し、更にはWEBでは伝えきれなかった要素もたくさん追加しておりますので、楽しみに待っていて下さい。

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イラストレーター・中村佑介が大阪で定期的に行う
年齢を問わず、美大生、専門学校生以外
「イラストがうまくなりたい!」「将来イラストレーターになりたい!」
という方を対象とした講演会・作品添削会です。


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教室 : 大阪難波 アートヤードスタジオ(JRなんば駅スグ) 地図
日時 : 2015年9月13日(

    ■13:00~15:00 講演会/説明会…限定70名
    ■15:30~17:30 合評会①…限定15名(※"合評"とは作品に対する個別アドバイスのことです。
    ■18:00~20:00 合評会②…限定15名
授業料:無料(事前予約制 飲み物代:500円
お問い合わせ:http://www.artyard.jp/artyardstudio/contact.html


参加方法

当教室は完全予約制です。参加ご希望される方は
reserve@artyard.jp まで下記の必要記入事項を明記の上、作品画像(JPEG/1~3枚)を添付し、8/31までにメールでご応募下さい。画像はデジカメ、携帯電話等で撮影した写真でも構いませんが、それぞれ1MB以内でお願いします。選考の上、9月上旬までに参加決定者にのみご連絡させて頂きます。会場の都合上、入場制限を設けておりますので、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

記入事項> 
件名 : 参加希望『中村佑介のイラスト教室』
氏名:(本名)
年齢:
性別:
身分:(例:「中学3年生」「アルバイト」「社会人」等)
住所:
電話番号:
参加目的:(「イラストレーターになりたいから」「絵がうまくなりたいから」等など字数自由)
参加希望コース:(A.講演会のみ/B.講演会+合評会①/C.講演会+合評会②)
 最後に添付画像の確認をよろしくおねがいします

注意事項
●未成年者の方が参加される場合は、保護者同伴でも構いません。
選考は学費面で専門的なイラスト・デザインを学べない学生、学べなかった大人を優先します。
イラストレーターの育成を目的としている為、漫画家、キャラクターデザイナー、アニメーターなど
 他業種を目指している方はご遠慮ください。
サインや記念撮影は行いませんのでご了承ください。
当日の授業風景の撮影・録音・録画は自由です。

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この度、ついにTwitterのイラスト講座が書籍化されます。
(2015年9月10日発売 870円 飛鳥新社刊)

下記の募集は締め切り、応募者全員にメールで選考結果をお送りしました。
もし届いていない方がいらっしゃいましたら、お知らせ下さい。


そこで、表紙写真に参加してくれる下記の生徒役を各1名ずつ募集します。

■小学校(女子/赤ランドセル・スカート)×1名 
■中学生(男子/黒学ラン) ×1名 
■高校生(女子/ブレザー) ×1名 
■大学生/専門学校生(男性/パーカー・ジーンズ)×1名 
■社会人(男性/スーツ) ×1名 


撮影は8/19(水)12:00~16:00に、大阪市にある撮影スタジオにて。
ポーズもなく、着席した後ろ姿なので、顔は写りません。髪形や体型も問いません。
そしてあくまで役なので、それらしく見えたら現役学生じゃなくても構いません。

「参加してみたい!」という大阪近辺にお住まいの方は、
メール件名に【イラスト教室モデル募集】と入れ、本分に
■氏名 ■年齢 ■性別 ■身長 ■住所 ■電話番号
(できればご本人の携帯電話)を明記、
役柄(小、中、高、大、社)指定衣装を着用した後ろ姿の全身写真1枚添付し、
kazekissa@gmail.comまでご応募ください。

締切は8/16(日)とし、該当者にのみ、翌日8/17(月)中に詳細も含め折り返しご連絡致します。
(連絡がなかった方は今回はゴメンナサイ!)
撮影に参加して下さった方には、交通費と、謝礼としてサイン入り画集をプレゼントさせて頂きます。

たくさんのご応募、お待ちしております。

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アメリカはサンフランシスコで行われた日本文化の祭典J-POP SUMMIT 2015に参加してきた。
 
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"J-POP"と聞くと日本では歌謡曲のイメージしかないが、アメリカでは日本のポップカルチャー全体を含めた意味で使われているので、アニメ、漫画、玩具、食べ物、洋服、工業製品、もちろん音楽と、会場のフォートメイソンセンターには多種多様なブースが出展。

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という訳で、僕もセイルズとして「お尻の布団で眠りたい~♪」と歌いに行った訳ではなく、イラストレーターとして紀伊國屋書店ブースにてサイン会。その中でもやはり海外では「日本アニメ」が特別視されている事は、昨年参加したフランスの『JAPAN EXPO』でも強く感じ、今回のサイン会参加者の多くも、2010年に放送されたアニメ作品四畳半神話大系のキャラクターデザインがきっかけのようだった。でも僕は日本人として、そこに少し複雑な想いを抱えていた。

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と言うのも、以前、Twitterでその『四畳半~』のアニメーターをやっていた方の恋人と名乗る女性から「なんでうちの彼氏は頑張っているのに、あんなに賃金が低いのだ!?」というメッセージを頂いたからだ。あくまで外部協力者としてキャラクターデザインを担当しただけだったので、アニメ制作や会社の内部事情をまったく知らなかった僕には寝耳に水だった。それから色々と調べてみると、確かにアニメーターの給与問題は主にインターネットでも問題視されていることがわかった。問題の根っこは、「そもそも制作費が安い」「手塚治虫さんからの伝統」など諸説言われているが、要はみんな大好きな日本のアニメなのに、当の制作者はなかなか儲けられない、もっと言えば食ってけないのである。

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実は僕自身は子供の頃はよく見ていたものの、ここ20年くらいのアニメ作品はほとんど見ていないので、「だったらどうして作るのだろう?」と不思議に感じた。そしてその手塚さんが産み出した通常【12枚/1秒】のセル画を、【8枚/1秒】に節約した日本の"リミテッドアニメ"が、ディズニーやピクサーやドリームワークスというリッチなアニメの国であるアメリカでも「どうして受けているのだろう?」とも同時に疑問に思った。だって門だけでもこんなに大きな日本のアニメスタジオは見たことがない。

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その答えを求め、サイン会中に、「日本のアニメのどこが好き?」と参加者のみんなに質問すると、大きく「アメリカのアニメに比べ、主人公、ストーリー、世界観の種類が多いから」、また「主人公が完璧なヒーローじゃないから感情移入できる」という2つの答えが多かった。確かに。例えば同じバトルものでも、アベンジャーズは成熟した大人のみの最強チームだが、ドラゴンボールでは子供も、弱いキャラクターも混じって力を合わせてセルと戦っていた。そして『四畳半神話大系』に至っても、日本においても京都というローカル地を舞台としたユニークな世界観の作品だったし、そこで戦う訳でもなく日常を描き、さらに主人公は不完全なヒーローどころか、空を飛べたり、手からビームが出る訳でもない、ただの卑屈な駄学生だった。そのような受容のされ方には納得でき、日本人としてたいへん喜ばしい事たが、やはり低賃金問題から生じる日本アニメへのネガティブなイメージは払拭できないまま、日本へ戻る時間となった。

サンフランシスコから日本へは飛行機で10時間。羽田空港に到着し、伊丹空港までの乗り継ぎ待ち時間中、煙草を吸っていると、ちょうど同イベントに参加されていたアニメ監督の森本晃司さんも喫煙所に来られた。

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森本さんといえば、マッドハウス、STUDIO4℃を経て、現在はクリエイティブチーム・phy(ファイ)を立ち上げ、映画『アニマトリックス - ビヨンド』、NIKEのCM、宇多田ヒカルさんやケンイシイさんやGLAYのMVなど、数多く手掛けられている世界的に有名なアニメ監督。



これまで仕事上での接点や面識はなかったが、実はちょうど僕が画集『Blue』を作っている時に、同じ季刊エス編集部から森本さんの画集『0レンジ』が出版されており、本作りの上でたいへん参考にさせて頂いた経緯がある。


そこで、世界的にご活躍されている森本さんが、なぜ日本を本拠地として活動されているのかを聞いてみた。すると思ってもいなかった答えが返ってきた。

まず単純に、アメリカではアニメ制作にかけるお金が日本の10倍ほどだという。それは世界規模である受け手の多さや広さだけでなく、出資額の違いによるものだとも。また別の国では、国自体がお金を出して制作する事もあるそうだ。そしてスタッフに人数や制作期間も同様に多い。もちろんそんな環境にも魅力を感じるが、制作費があって、作る人の人数が増えれば増える程、みんなの意見が中和されてゆき、監督ごとの特色が現れている日本アニメのような、多種多様な作品作りは難しくなるという。

確かに、今回のイベント参加者の方達も総じて、その多種多様性こそが、日本アニメの最も魅力的な部分だと言っていた。森本さんもアニメ業界に入った当初は、1週間家に帰れず、徹夜続きでも数万円の給料で、たいへんだったそうだが、そんなストイックな環境の中でこそ、「だったら自分が作る時はこうしたい!」という希望や、仲間との結束力が生まれ、独立出来たという。物事とは表裏一体で、僕も悪い部分しか見えていなかったが、もしかしたら、日本アニメの主人公が決して完璧なヒーロー・ヒロインではない作品が多いのは、制作者側の厳しい立場や環境から来るものなのかもしれないと思った。

そして、森本さんは「そりゃ、もう少しお金があったら有難いけど、例えば国から大金を出資されたら、それだけ国の文句は言えないイイ子ちゃん作品しか作れないように、厳しい面があるからこそ、大きなものに気兼ねすることなく、何かに突出し、誰かに深く突き刺さる作品が作れる可能性があるのが日本だ。そして子供時代に僕がそれにワクワクさせてもらった感動を、再び見る人に返したい」とおっしゃられた。
 
もちろん、いま現在、厳しい暮らしを余儀なくされているアニメ制作者の方々から、「そうは言っても…」という部分も、個人個人の意見はあるだろう。そして僕も引き続き、この問題については色々な側面から調べ、考えてゆきたいと思っている。しかし前回パリで参加した『JAPAN EXPO』でも、今回の『J-POP SUMMIT』でも、日本の代表的な文化として「アニメ」が一番大きく紹介されていたのは、1イラストレーターとしては、本当に羨ましいことである。あなたたちの仕事は、1秒に8コマしかないのに、世界中の人々がその為に日本語を勉強しながら、笑顔で待ち望んでいる。それだけは事実であると、今回のサンフランシスコの旅で感じたことをきちんとお伝えしたい。

あなたたちはずっと立派です。

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