2021年8月3日にASIAN KUNG-FU GENERATIONのニューシングル『エンパシー』がリリースされます。アジカンも結成25周年、インディー盤『崩壊アンプリファー』(2002年|僕はここからジャケット担当)から数えても20年弱という、バンドが一時休止もなくコンスタントに活動してきたことを考えると途方もない年月です。
その20年弱をまとめたCDアートワーク全集『PLAY』
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同じ人と同じことを20年以上続けてるって、自分ごととして捉えたらなかなかないですよね。学校は6年や3年や4年で卒業だし、いいと思って入社しても10年で離れてしまったり。昔仲良かった人、昔好きだったもの。成長と呼んでいいのかわかりませんが、人の心は移動してゆくのが常です。そんな中彼らは続けた。続けられた。ジャケットを描くにあたり、曲を噛み砕き、「あ、その秘訣こそ、この『エンパシー』という曲のメッセージなのかも」と気付いたので、ここに書き記しておきます。

最初、ジャケットイラストのお話を頂いた時、「これはアニメ映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールドヒーローズミッション』の主題歌になるのでヒロアカの要素を入れてほしいです」とレコード会社の担当者さんに言われました。

それなら今回は登場キャラクターであるデクやかっちゃんや轟やお茶子を僕なりのタッチで描いたものや、アジカンメンバー4人がヒロアカのコスチュームを着たようなストレートな方向性がいいのかなと、いろいろとアイデアを考えていた中、再びレコード会社の担当者さんから「スミマセン!やっぱり当初お願いしていたヒロアカに直接関係するキャラやモチーフはNGになりました」というご連絡を頂きました。それを聞いた当初の僕は、キーボードで返信を打つ手をプルプルと震わせながら「そんなオトナの事情なんて今回はじめてアジカンに触れてくれるだろうヒロアカファンには関係ない!」「それに抗わずして何がロックやねん!!」「もう描かん!!」と駄々っ子のような気持ちになっていたところ、大人の僕が顔を出しパッと送信ボタンを押そうとする手を制止し、「曲をよく聴いてごらん」と言いました。

まずタイトルにもなっている「エンパシー(empathy)」。あまり聞き慣れない言葉ですよね。並んで語られて、こちらは聴き馴染みのある「シンパシー(sympathy)」と大きな意味では同じ"共感"という意味を持ちます。ではどう違うのか。シンパシーが自分と似た立場や意見だったから誰かを同一視するような感情的な共感だとしたら、自分と全く違う立場や意見であっても、その経緯や理由を想像し、理解し、そして尊重するというような理性的な共感、それがエンパシーです。落ち着いて、一旦相手の立場になってみる、ということですね。

相手の立場になってみる…なってみる…そうか、「エンパシー」は独立したアジカンの楽曲ではあるけど、"主題歌"として捉えると、【原作者である堀越耕平さん👉出版元である集英社👉アニメを放送している読売/日本テレビ系列👉劇場版を配給する東宝👉その主題歌を作ったアジカン👉それを販売するレコード会社・キューンミュージック👉そのジャケットを描く僕】と単純化させてもこれだけ労力と権利がまたいできていることがわかります。(権利者が多いのでよくアニメは○○制作委員会という名でまとめたりしますね)よく僕も子供のころ「友達だから無料で描いてよ!絵なんてチャチャっと描けるでしょう!」と言われ、ムッとしたことがありました。別にそれは悪気がある訳ではなく、その子の中では絵はすぐに描くものだけど、コチラ側の過程や見えない労力、気持ちまでは考慮してなかったという話。僕も別のことになると抜け落ちて同じようなことを言ってしまったこともある。また加えて、権利のあるキャラやモチーフを入れることは可能ではあるけど、それをするとシングルの価格が上がってしまったり、数年後にジャケットを差し替えなくてはいかなくなり、せっかくここでの出会いのハードルが上がってしまうとご説明を受けました。心情的にはヒロアカは好きな漫画だったので、それを描いてみたいという好奇心とは別に、これらの方たちの労力や権利の過程、またそれでようやく守られる生活を差し置いて「関係あるんだからキャラ描かせてよ!」と自分の単純な欲望をぶつけることはとてもできないことだと理解しました。(※コチラもあわせてぜひお読みください) まさに"エンパシー"という言葉の意味について考えさせられた一件でした。

そして楽曲のメッセージ自体も、カップリングの「フラワーズ」も含め、原作漫画「僕のヒーローアカデミア」のもつ、ヒーローものといえど単純な"善|悪"や能力の"有|無"という二項対立ではない繊細なテーマや、それに伴う今回の映画の要素を共有しつつ間接的に表現されたものでした。これは劇場版「夜は短し歩けよ乙女」の時の"荒野を歩け"や、アニメ「NARUTO -ナルト- 疾風伝」の時の"ブラッドサーキュレーター"と同じ関係性です。それならやはり、主題歌としてではなく、純粋に楽曲のビジュアル化としてのジャケットをいつも通り描いた上で、それでもヒロアカファンになら伝わるテーマや間接的要素も、慎重に各権利元に確認を取りながら描くことにしました。


【①アイデアスケッチ】
歌詞に出てくる静かな「アスファルトの海」に浮かぶボートで、正反対の立場に見えるふたりが認め合い、持ち物を交換しているアイデア。



【②ラフ】
テーマは過激な要素も含んでいるので、バランスを取れるよう犬は着ぐるみに、色はかわいらしいパステル調にまとめたラフ。感情と理性の花束。



【③本描き】
より楽曲のテーマが伝わるように、それぞれを整え、描き直し、塗り直して完成させたジャケット。



ありがたいことに、もうすでにSNSなどで、ヒロアカファンの方たちから、いくつものヒロアカ要素の発見のご報告を頂きましたが、まだ誰も見つけることが不可能なものもあります。そこは8/6公開の映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールドヒーローズミッション』を観てから答え合わせをして頂ければ幸いです。そしてカップリング曲の「フラワーズ」はヴィラン側への眼差しを文字通りエンパシーするような、裏テーマとして実に重要な楽曲に聴こえます。そんなヒロアカの主題歌としても、アジカンの昨今の単純な応援歌ではない強くおおらかなエネルギーの宿った楽曲としても素晴らしい最新シングル『エンパシー』。こんなメッセージの楽曲が作れるんだから、これまでも続けてこれたし、これからもアジカンは続いていけるんだろうなと感じました。ぜひ皆さまにも、8/3に感情と理性の花束として受け取って頂ければ幸いです。