スマートフォン向けゲーム『Pokémon GO』の大ヒットの影響で、こんなにも蒸し暑い夏の昼夜にも関わらず、ぽん太の散歩中、ジョギングや犬を連れている人以外も、外でよくすれ違うようになった。公園なんて、「今日はお祭りだったの?」と錯覚してしまう程のにぎわいだ。これまで若者のサブカルチャーといえば、"おたく"という言葉が象徴するように、"家で、一人で"が基本だったので、テレビで「○○が大ヒット!」と言われても、「え、どこで?(周りにはいないけど)」という事の方が多かった。その意味では、一晩で個人の趣味の範囲が玄関を超え、町の景色を変えてしまったPokémon GOは、大ヒットでもホームランでもなく、もはや社会現象という方が正しいだろう。

今までのポケモンとの大きな違いは、指で操作するのではなく、実際に歩かないとモンスターに出会えないことだろう。それによって、確かに、これだけ"新しく町を歩く人"が出てくれば、歩きスマホをはじめとした様々な問題が起こる訳で、テレビではそのようなネガティブなニュースの方がよく見かける。筆者も、ポケモン世代ではない上に、そもそも古いスマートフォンが対応していないという、ハンパない気後れ感は否めないので、テレビの年配コメンテーターの方々の、わからない文化に対し、唯一残された「否定」という方法で、せめてつながっていたいという気持ちも理解できなくはないが、今回はそれよりも3つの驚きの方が大きかった。


まずは可能性のはなし。現在38才、かつて昭和に青春時代を送った僕の目には、日本は「早く大人になりたいな」と想わせてくれる希望ある国にうつっていた。それは日本で産まれた工業製品である"ウォークマン"と"ファミコン"が世界の娯楽文化を引っ張っていたからだ。「僕も早く大人になって、世界に通用するような仕事をしてみたい!」と思っていた。それからウォークマンはiPod(iPhone)に代わり、かつては一家に一台だった家庭用ゲーム機はマニアックな存在になり、ここ10年くらいは「何をしてももう無駄なのかなぁ…」という虚無感が漂っていた。そんな中の大事件だったのである。まぁ、実際にはPokémon GOの開発は、ナイアンテック社というアメリカの企業によるものだが、やはり日本産のキャラクター(ポケモン)が世界を圧巻しているこの景色は、単純に「やった!できるじゃんっ!!」と元気の方がたくさんもらえる。


次に宣伝方法。テレビをつけるとこれだけスマホゲームのCMがバンバン流れているにも関わらず、Pokémon GOはそれをせずにして成果を挙げた。民放番組は基本、「お金を出す代わりに、CMを流してね」という宣伝代でなりたっている。だから例えばA社が提供の番組では、A社の関連商品へのネガティブなコメントは流れないし、ペットボトルもラベルがはがされていたりして、他者の商品名は見えないようになっているという、番組自体も半分CMのような役割を果たしている面がある。

子供の頃はこのルールを知らなかったので、テレビで紹介されているものは世間の流行の後についてきているものだと思っていた。大人になってわかったのは実際は、「企業が売りたいものを、テレビが先に流行っているように見せかけ、世間は後からついていく」というケースが少なくないということだ。まだ公開されていない映画なのに、「泣けた!」「感動した!」というたくさんの観客を映したCMを流して、一般層が「乗り遅れる!」と観に行く寸法だ。

ま、だからこそ、テレビと企業はどちらも得をする50/50の関係性を保てるのだし、消費者としても結果、気に入ったのなら、商品や作品に触れる機会のひとつとしては良いと思うのだが、こと送り手としては、その方法だけでは、たくさんのお金を持った大企業からしかヒット商品は産まれにくくなってしまうと、特にCMを打つような資金は持たない個人のイラストレーターからすれば、可能性の限界を感じてしまう。

そんな中、インターネット、SNSの普及により、個人がメディアとなり、それぞれの宣伝・発表ができるようになったものの、例えばTwitterの企業公式アカウントのフォロワー数を見ても、テレビの視聴者数には遠く及ばない。「だけどSNS全体の利用者数ならどうか?」、それがPokémon GOの宣伝方法だ。プレイ画面にカメラマークがついており、スマホ越しではあるが、子供の頃に夢見た"町の景色に溶け込んだポケモン"の写真を、みんなSNSに投稿する。それがコミュニケーションだけでなく、自然と別の人への宣伝にもなる。なんて賢い。そして何より一番の宣伝はやはり、友達の家でなく、楽しそうにプレイしている知らない人達が、町で見えることだろう。このように、通常の宣伝方法をとっていないお得意様ではないことも、もしかしたらテレビでのネガティブなコメントにつながっているのかもしれない。


最後は収益方法。今やスマホゲームといえば、基本プレイ無料のものがほとんど。そして"課金"という方法によって、ゲームメーカーは成り立っている。時間を使ってがんばれば普通に遊べるけど、お金を払った方が有利になるのだ。例えばRPGで、最後までこんぼうだけで頑張るか(無料)、最初から伝説の剣を手に入れるか(有料)みたいな感じ。つまり通常の課金は、お金を払ったユーザーにのみ有利にはたらくのだが、Pokémon GOには「ルアー」というモンスターが出現しやすくなる課金アイテムがあり、それを使うと、実際に近所にいるユーザーも恩恵が受けられる。この方法を使えば、個人の優越感にとどまることなく、喫茶店の店主がルアーを使って、文字通りその場を釣り堀化させ、お客を楽しませることもできるだろう。

それでも、先ほどのルアーひとつ120円(30分)といったような、Pokémon GOの良心的価格の課金だけでは、これだけ世界中の人たちがプレイしているゲームを運営できるとは到底思えないので、ゆくゆくは特定店舗や、各都道府県にしかいないポケモンが現れるのじゃないかと予想している。例えば熊本に行かなきゃクマモンがゲットできないとなると、旅行を考えるひとつの選択肢にもなるし、考えただけでワクワクする。それがお店の集客や地域活性化につながると見込めると、払いたい企業や自治体はたくさん出てくるだろう。ユーザーではないところから収益をつのる方法…あれ、これってテレビに似てる。つまりPokémon GOが宣伝をしなかったのは、それ自体が宣伝ツールになるからなのかもしれない。


むかしは、「ゲームばっかりしてないで、子供は外で遊ぶべき!」と大人たちが口を揃えた。不健康になると。実際は、道路を増やし、空き地にビルを建て、子供たちの遊び場を減らしたのは、その大人たちであって、ゲームはその後に、行き場を失った都会の子供たちの最後の心の拠り所として現れたように思えるが、それでも長年ワルモノに仕立てられたゲームから、再び大人たちへ「健康的に外を歩くゲームならどう?」という痛快な提案のようにも感じる。 開発者であるナイアンテック社のジョン・ハンケさん(グーグルマップを作った人)の海外発表では、現状のゲームはまだ全体の10%程度で、これから収集だけでなく、ポケモンの肝である、対戦や交換なども追加されるとなると、世界の景色はもっと変わることだろう。

同時に、いくら無料でも、街角に立つ人が、何の宣伝も書かれていない無地のティッシュペーパーを配っていたら、もらうのに躊躇するように、我々は無料の商品は信じれないし、それだけでは商売(生活)が成り立たない事も知っている。だからこそ、このように新しい時代のゲームの在り方や、可能性を、それこそお気に入りのポケットモンスターたちのように、たいせつに育てていきたい。もちろん、モラルやマナーは大前提として。

そんなことをポン太をGOさせながら考えていると、彼は立ち止まりふんばった。僕はマナー袋に生温かいものをゲットして帰った次第である。
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