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『みんなのイラスト教室』、皆さまのご理解により、おかげさまで3万5000部に到達しました。Amazonのレビュー数が画集を上回っているのは多少複雑なところではありますが、絵の問いより、文字のそれに対する、文字の返答の方がしやすいのだろうということで、一方でやっかむ心を落ち着けて、ありがたく次巻への参考とさせて頂きます(笑)

で、ここで通常なら「第2弾出せます!」というご報告も兼ねたいところではありますが、僕の印税と出版社の制作費、広告費を削って実現した806円(税抜)という価格設定のため、おそらく5万部以上いかなければ、それは実現できそうにもありません。専門書の部類に入りますので、必要のない人に「買って下さい」とは申しませんので、見の周りの必要ありそうな方々へ「こんな本あるよ」と伝達のご協力、引き続きよろしくお願い致します。

さて、そんな中、スカパーのスターチャンネルで『学歴の値段 ~集金マシーン化した米大学の真実~』というたいへん興味深いドキュメント映画を観ました。



要約すると、"不況により国の負担分が減ってゆき、大学の学費、すなわち生徒が払うお金が高くなっている。大学を維持する為には、生徒が減らぬよう、例えばホテルのようなプール付きの寮など、一見勉学には不必要だと思える遊ぶ施設を作る必要があり、それにより全体の成績は落ちてゆき、結局大学を卒業しても就職が見込めない。という本末転倒なシステムを問題提議"、そんな内容の映画でした。もちろん2時間にはそれ以外のなるほどもたくさん詰まっていたので、興味のある方は再放送やGoogle Playなどでぜひ観てみて下さい。

僕自身も『みんなのイラスト教室』は、学費の面で美大に行けない(行けなかった)方々に向けて出版した経緯もございますので、とても共感を覚える部分もありつつも、果たして「大学は必要か?」ということを改めて考えさせられた1本でした。

当ブログ読者の中にも、ちょうど今そこが気になっている方がいらっしゃるでしょうし、講演会でもよく「美大に行った方が良いですか?」と高校生やそのご家族から質問が出ます。この質問が出た時ばかりは、僕はいつも困ってしまいます。

現在38才の僕が子供の頃には、社会的に「大学は出といた方がいい」という風潮がありました。当時のこの言葉に全てが集約されており、「入った方がいい」ではないのですね。つまり4年間の勉学が本文ではなく、4年後の就職に有利な「大学卒業」というチケットを手に入れることが大きな目的になっていたことになります。でもそれも昔話。今はそんな傾向はさほど見なくなりましたし、美術関係の仕事ならなおさら、学歴より、その人の技能だけが求められる世界なので、より関係ないと言えるでしょう。

とは言っても、大卒だと、会社面接での短い時間の中で、プロフィール説明を「(あ、○コース卒業か)」と省くことができるので、そこはメリット。だから卒業生と同じ年齢で、入社希望する方は、きちんと「何をしていたか」を伝える術を考えておくことをおススメします。僕なら「モノ」を用意します。デザイン会社なら、絵だけではなく、自分で作った広告などのことです。

さて、僕自身は大阪芸術大学デザイン学科の、現在はもうありませんがインフォメーションデザイン(視覚情報)コースに入学、そして卒業しました。

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大阪芸術大学キャンパス
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入学当時(18才)の中村佑介

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大学時代の課題作品(左:風景デッサン/右:企業広告)

いまプロとして仕事が出来ているのは、その大学時の授業で学んだことがほとんどです。それなら即答で、「はい!大学はゼッタイ必要!!」と答えれば済むものの、それは結局、校風や大学というシステムが「僕の勉強方法に合っていた」という話なんですよね。ひたすらの暗記や、少ない評価軸の義務教育では体験できない、それぞれのきちんとした理解を、レポートや作品という、ある程度自由度のある答えで打ち返し評価されることは、「もっと知りたい!もっと活かしたい!!」という、とても充実した楽しい学びの時間となりました。

例えば1軒のラーメン屋としても、「あの店は味噌ラーメンが格別だね」「わたしはしょうゆの方が好きだよ」という風に、大学ごと、学科ごと、コースごと、そして学生ごとに【向き・不向き】があり、またそれは将来にどんな影響を及ぼすかは、数年経った卒業生以外、誰にもわかりません。だから僕の答えは「行っても、行かなくてもいいけど、僕はすごく為になりましたよ。あなたはどうしますか?」という雲のようなフワフワな答えしか思い浮かばず、いつも考え込んでしまいうという話でした。でもそれだと、何百円というラーメンではなく、何百万というケタの違う学費を支払う大学は、相当な博打のようになってしまう。映画の中で問題視されている「学費」。そもそも高いのでしょうか?安いのでしょうか?

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アニメ『四畳半神話大系』より猫ラーメンのシーン

大学のメリット①~"自由さ"

これも学校やコースによっての差、そして人それぞれの価値観にも寄りますが、僕の場合は私大4年間の学費・約300万円は、入る前は単純にそんな額のお金を見たことがないので、「高いなぁ」と思いましたが、今は相応、つまり十分元を取ったと感じています。詳しくはコチラのインタビューと併せてお読み頂きたいのですが、バイキング、あれと同じ要領です。普通ならトントン。そして食欲が多く、かつ胃袋が大きい人は得できるけど、小食の人はかなり無理しないと元が取れないかもしれない。そんな感じ。あ、例え話で、学食のことではなく、学問への好奇心の胃袋のことです(笑) 別にデザイン学科に入ろうが、4年間も時間があるので、能動的にきちんと申請さえすれば、他学科の施設を使って、彫刻をしても、版画をしても、演劇をしても、映画を撮っても、ピアノを弾いても、何を作っても良い。例えばこれだけのスタジオやアトリエを4年間毎日借りっぱなしにしたら、レンタル料500万は超えるでしょう。これが僕が考える、大学独自のメリットの1つ。同時に「何もしなくてもよい(怒られない)」ので、裏を返せば落とし穴にもなりますね。


大学のメリット②~"不自由さ"

もう1つの最大のメリットは、逆に不自由さ。一見聞こえは悪いですが、今の時代、特にここが重要なのではないかと考えています。

また自分事になりますが、僕は子供の頃から大学入学前、そして大学3年生になるまでは、TVゲームメーカーへキャラクターデザイナーとしての就職を志望していました。同じ絵を描く職業ではありますが、野球とケン玉くらいは、今、僕がやっているイラストレーター(自営業)とは仕事内容も雇用形態もまったく違う職種です。だからコンピュータの勉強が出来るコースに入学。当時は今の様に、インターネットもない、そして高額という理由から、一般家庭にはコンピュータが普及しておりませんでした。お父さん、お母さんは活字を打ちたい時は電卓にプリンターがついたような"ワープロ"という機械で、書類や家計簿を作成していたんですよ。詳しくは親御さんに聞いて下さい。

だから、実はイラストの勉強というより、パソコンの技術を学ぶ為に、最初は大学へ入ったのですね。だから入学当初は実技、一般教養も含め、コンピュータとは関係ない大学での多種多様な授業に「なんでこんな関係なさそうなことまで勉強しなきゃならないの?」と疑問に思っていましたが、それでも落第せぬよう出席している内に、「あれ、ゲームやコンピュータだけじゃなく、美術やイラストもおもしろいかも?」「あれれ、もしかしてこっちの方が自分にも向いてるかも?」という風に、やがて卒業を控えた4年生時には、すっかりイラストレーターを目指すようになっていました。そして今に至ります。

これは映画館の不自由さから来るメリットにも似ています。例えばテレビで映画が放送されている。「パっと見が好みじゃないし、退屈そうな作品だなぁ~」と消して、自分の部屋に戻る。そして終わった頃にTwitterを覗いてみると、みんな口を揃えて、その映画に対し「まさか前半の全てが、後半の怒涛の様な展開の前フリだったなんて!これは隠れた超名作!!」と感想を言っている。少なくともあなたはちょっぴり後悔するでしょう。ということが上映時間内は基本見続けなければいけない映画館ではありません。

大学も同様です。あれから出てきた"インターネット"だって、一見、大学のように専門分野を広く、深く、どこでも、誰でも学べる夢のような環境と思いきや、これがそうもいかないんですね。「いつか読もう」と勉強になりそうな記事にブックマークをつけたまま、何年も経ってしまっていたこと、僕にもあります。読んだだけで勉強した気になって、実践はまだしていないこと、誰にもあると思います。それが大学だとないんですね。欠席すると落第し、落第すると学費が無駄に。そして出席すると課題が出される。そんな半強制的な繰り返しの中から、僕もイラストレーターという自分に向いている職業を、21才くらいの時にようやく見つけられました。それまでもイラストレーションは意識的にたくさん見ていたし、職業名は知っていたはずなのに。つまり可能性とは、「いつか」という自由の中より、「いま」という不自由な中の方が広がりやすい。そんな風に思うのです。


以上のようなことが、今現在の僕の大学への考えです。「その職業につく為の必須条件」でないことは、美術教育を受けることなく、長年、第一線で活躍されている漫画家・イラストレーターのわたせせいぞうさんが証明しているので、言うまでもありませんが、選択肢のひとつとしては、とても可能性のある時間が体験できる他にはない場所だと思います。今回はとりわけ美大についての話ですが、これが「専門学校」「会社」「友達グループ」、色々な事に置き換えてお読み頂ければ幸いです。

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わたせせいぞうさん作「春ぴあ 2016年版」表紙

では最後に、どういう人が大学に向いているのか。少なくともこんな長文を最後まで読め進められた知的好奇心旺盛な人は、学費以上の得を、4年間で摘み取れることでしょう。今、受験勉強をしている方、在学中の皆さま、がんばって下さい。
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中村佑介作 漫画「いつもの」第3話"猫とセーラー服"より (大学漫画 vol.8 掲載) 

そして、家庭や環境の事情で、そもそも【大学へ行く・行かない】という選択肢を持てない方向けに、そこまでの学費がかからないシステムももっと開かれて良いと思うので、「みんなのイラスト教室」を出版したのでした。次の記事ではそのあたりをもう少し深く掘ります。