昨日も季刊エスの新コーナーで取材協力してもらったり(次号掲載予定)、
以前もトークショーに友情出演してもらったり、MdN最新号のエッセイでも書いたので、
知ってる人も多いと思うのだが、『それでも町は廻っている』(ヤングキングアワーズ)や

『木曜日のフルット』(少年チャンピオン)の作者である漫画家の石黒正数くんとは、
大学のクラスメイトで、この秋、彼の代表作である通称"それ町"が
めでたくアニメ化されるということで、8月のコミケで発売される記念本に
"寄稿イラスト"なるものを描かせてもらった。

言葉の説明をする前に、僕は"寄稿イラスト"に対して人一倍強い憧れがある、
"寄稿イラストが描きたくて描きたくてしょうがない人間"なのに、
今まで一度もその機会に恵まれず、それもそのはず、あれは同じ絵を描く仕事でも、
イラストレーターではなく、漫画家さんたちの世界のはなしなのだ。
「だったらイラストという言葉を使うな!」などと無駄にスネたりもした。
同じ球を使っているからといって、サッカー場でバットを構えてるようなものだ。
足元を通り過ぎるだけで、いつまでたっても誰も玉は投げてはこないだろう。

「さっきから"キコウイラストキコウイラスト"って
そもそもそれが何なのかわからないよ!」とこれ以上世界にスネた人を作らない為に説明しよう。
こんな悲惨な感情を持て余すのはもう僕だけで十分だ。これで終わりにしようじゃないか。
お待たせしました。わかりやすい最近の例を出すと、
ドラゴンボールの何十周年かの記念本にワンピースやこち亀の作者の描いた孫悟空があった。
つまり、寄せ書きの絵バージョンということなのだが、
僕の場合はもっとさかのぼって、小学校の時、エロコミックの最後のページになぜか
作者ではない絵柄、大体友達のエロ漫画家さんやアシスタントの方の描いたイラストが載っていて、
最初は不思議に思ったものの、それを描くことによって
「オラワクワクすっぞ!(訳:なんだかわからないけど大人の世界に近づけるような気がすっぞ!)」
というトンチンカンな気を起した中村少年は、
ドラゴンボール丸パクリの自作漫画ノートの最後のページに
「中村佑介先生がんばってください!」など別の作者を装ったコメントと、
とりあえずM字開脚の裸の女の人の絵を描いたものだ。
(※中央部分はわからなかったので、そこにコメントを描いていた)

さて、もうおわかりのように、当時僕は別にエロ漫画家を目指していたわけでなく、
単純に大人への近道、もっと言えば何だかわからないけど妙に下半身がムズムズするから、
やみくもにその突破口を探し、風穴のひとつと勘違いしたのが、
その"寄稿イラスト"なるものだったのだ。
「あぁ、キコウイラスト…亀甲縛りにも似たその淫靡な響き
あぁ、神さま、どうかわたくしにキコウイラストのお恵みをー!!」
と願い続けること20年、ついにこの度友人の漫画家・石黒くんによって
その願いは天に届き、満を持して描いたというのに…

「それ町」と言えば、藤子不二雄ゆずりの昔ながらの日常ストーリーギャグ漫画で、
このようににぎやか、たくさんの登場キャラクターがいるが、

今回は真っ向から勝負しようと、左上にいる主人公の高校生・歩鳥ちゃんを択んで、
僕のタッチで描いていくことにした。
するとどうだろう。石黒くんのことは昔からよく知っているし、
「それ町」も熟読しているので、無我夢中で筆が乗り、
みるみるうちに出来上がっていったのだが、完成の一歩手前で、その手がピタリと止まった。

「ぼ、僕の女の子より可愛い…」

つまりいつも自分で描く女の子より、もっと言えば石黒くんの描く歩鳥ちゃんより、
僕の描いた歩鳥ちゃんが一番可愛くなってしまったのだ。
これはもちろん主観なので、石黒くんや「それ町」ファンの方々には申し訳ないが、
僕がそう思ってしまったのだから、もうこの気持ちを引き返すことはできない。
「別にいいじゃない?何が問題なの?」と思う人もいるかもしれないが、
これを完成させたところで、原画も手元にあるが、やはり石黒くんのキャラクターなので、
結局、描かれたものは僕のものにはならない訳である。
だからと言って完全に石黒くんのものにもならず、
この世界は宙に浮いてしまうような気がしたのだ。

たぶん一番近いのは、溺愛していた娘が結婚する父親の気持ちだと思う。
(石黒くんはキャラクターの産みの親なので、文字通り母親といったところだろう)
嬉しいのだが、悔しい。手放したくないのだが、幸せにはなってほしい。
その相反する気持ちで、しばらく作業が中断してしまったのだが、
新婦の娘が択んだ新郎・締切くんが迎えに来たので、
「出てけ、この親不孝門!一生帰ってくるな!!…ただし、絶対幸せになれよ」と完成・提出し、
身を引き裂かれた思いで、一人残された部屋でたうちまわってしまった。

その分出来は確かなので、コミケに参加される方はぜひとも見て欲しいのだが、
あんなに願っていたにも関わらず、何とも大人げない気持ちにさいなまれた寄稿イラスト。
やはりそういう意味でも間違いなく"大人の入り口"なのであった。

気付かせてくれた石黒く…いや、母さん、ありがとう。

全貌はまた後日。