傭兵は「あくまでもお金を払ってくれる人が主人」ってのと「勝ち馬に乗らないと次がない」ってのと「いずれは良い主人を見つけて信頼されて最後まで仕えたい」ってのがあります。全部相反することですけど、そういうもんなんで。
 昔、ソフトハウスを買ったときのこと、進駐軍のように幹部社員を送り込もうとしたら、羊のように従順だったはずの開発者が次々と辞表を出してきて、買った意味がなくなりかけたことがありました。買ったんだから、会社は私のもの、という意識は、そこで働く人の民忠を下げて一揆が起きて干上がるわけですね。教科書どおりに「1+1は2」とはならないのが仕事であり、戦力だろうと思うわけです。

 では、思ったとおり動かなかった人は、私を裏切ったのか? といわれると、思うところがあります。最近では、用意と根回しと段取りが大事なんだ、資金が幾らあっても、これを仕切るだけの組織がなければうまくハンドリングできないんだということを知るようになりました。

 信頼していた先の謀反というのは、負け戦が見えたときと、勝ち戦後の処理を誤ったときに起きるもんだと思います。逆に言えば、100%頼らせることの難しさ、相手が有能であればあるほど、先を読む能力があればなおさら、いつまでも仕えてくれるとは限らない、という問題を孕むわけでして。

 また、傭兵というのは戦局が悪くなれば真っ先に切られることになります。これほんと。前の年、うちらの担当のとこだけが黒字だったのに、翌年は更新減額とか。先方からすれば良いように使っているのだが、こちらからすれば裏切りと見えなくもない。この辺の機微はむつかしいところです。

 だから、いちいち腹を立てないようにするには、裏切る口実を準備しておいて複数君主候補の保険をかけておくか、本当に優秀だと思う人に忠節をきちんと誓うかの二つしか方法がないんですよ、残念ながら。また、裏切られて困るということのないように、こちらも保険をかけておくか、人はいずれ裏切っていくものと観念、諦念を持つかぐらいしか方法がない。

 傭兵稼業って、どっちかというと信頼してくれる人は裏切らないでおこうという原理で働きやすい分だけ、宮廷政治にエネルギーを割かれる正規兵幹部より忠実なもんです。きちんと経費と敬意が払われれば、値段分以上の働きはしよう、と考えるわけですから。

 何事も相手に納得してもらえるための交渉が必要なのであって、そのためには準備と根回しと段取りが必要なんだ、というのが今の段階での私の結論ですね、はい。