月別アーカイブ / 2020年08月

 巷で知られた、超スピードでプログラムを組みやがる有名人、小野和俊さんが本を出したというので読んでみたんですが、読むだけなら一瞬で読み終わるんですよ。読み慣れた人なら40分ぐらいで終わりますかねえ。


『その仕事、全部やめてみよう』(小野和俊・著、ダイヤモンド社・刊)Amazonリンク

 ただですね、この人、凄く合理的なんですよ。この著書にもその合理性が表れていて、冒頭から、木の根元がドンとあり、そこから太い幹が出て、さらに遠くまで葉を茂らせるための大きな枝があって、その先にはっぱをたくさんくっつけた細い枝がある。

 章立てはわずか5章、厚手の紙で、222ページ。しかし読み通してみると「あ、あれはあそこで語られていたことと対比になっておるのかな」と読み直しして「お、そういうことか」と得心するような本の出来。面倒くせえけど面白い。たぶん、こういうことを書こうという話を整理して、時間をかけて5章という太い枝のところに言いたいことを全部詰め込んでいく作業をやった結果、比喩から参考例のような葉っぱのところまで著者らしく無駄のないクッソ合理的な本に仕上がったんじゃないかとすら思うんですよ。

 これは、凝り性の人が途方もない(人生や仕事での)考えをたくさん詰め込んで書いた本だ。そう思うのです。読むだけならさらっと読めるけど、何かを得ようとするならば、その的確な比喩や分かりやすく短い文章の奥にある、きっとこれが言いたいに違いないという合理的な想像を読者に強いるタイプの。

 例えば、著者は「ラストマン戦略で自分を磨け」と煽る。読者が素直に「なるほどそうか」と思えばそれでいいんでしょうが、でも実際には第一章で書かれた欠点を潰そうとするマネージャーや、ユーザー発信を金科玉条にするコンサルのような失敗談、また第二章で新しい武器を手に入れてしまって嬉しくて使いたくなる技術者特有の傾向に言及したことと対になっています。ひょっとして、いま読んでいる章の次に、新たに相関する内容が言及されて読み直されなければならないタイプの本なのか。

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 結局、5章ある本を順に読んでいけば「ああ面白かった」では終わらず、実際に本の構成は五芒星のようになっていて、他の頂点と結びつく考察を別途読者が紐づけていかなければおそらく著者が考えているであろう究極の合理性(と、それへの理解)には辿り着かないという酒を飲んだ清水亮なみの面倒くささが発揮されている優れた本であります。

 なので、おそらくは何度も読み返しながら「あ、小野和俊は、きっとこういうことを言いたいのだな」と指さし確認して時間をかけて読んでいかなければなりません。通常、この手の著書は何度も似たような話を繰り返して本が訴えたい「テーマ性」を補強することが往々にしてありますが、本書は容赦がありません。一度出たエッセンスは二度と本書に出てきてくれないのです。すべてはおのおの独立した枝であり、その先についた葉っぱなのですが、木全体を見るには読み直さなければなりません。

 こういう面倒くさい本を書く人なので、最後の山田先生の逸話は「やっぱり面倒くさい人なのだな」と理解させるには十分な、木のてっぺんです。大完結。納得のあとがき。まあ、よくもこんな面倒くさい高い木を作ったもんだなと思いますし、これに付き合ったダイヤモンド社の編集者さんは発狂したんじゃないかと予想します。

 そのぐらい、モノづくり精神に溢れたプロダクトマネージャー兼プログラマーの化け物のような小野和俊さんですが、金融を扱う私の側からの視点で言いますと、あまり「価値」とか「意味」には本書には言及がありません。散らかるようなエッセンスはことごとく省かれており、非常に機能的で、合理的です。たぶん、著者にはそういう方面に興味がないというか、そういう発想がないのでしょう。

 プロダクトをプログラマ目線でいかに最適かつ合理的に作り上げるのかという点では本書はバイブルであり、モノづくりやプロジェクトにかかわる人たちであれば「ああ、言われてみれば」とか「自分はこの考え方が足りなかったな」とか「俺は正しかったかもしれない、もっと突き詰めよう」などと膝打ちすると思います。技術屋大絶賛。しかしながら、本書は驚くほどカネの匂いがしない内容です。

 コストとかリスクとかダメージコントロールとかオーバーヘッドとかお金に換算したくなる話が出ず、すべては人とテクノロジーとプロジェクト方針に関わる合理性や生産性、それに従事する人とそのスキル、そういう人が集まるチームという題材に完全にフォーカスされていて、良い意味でも悪い意味でもこじんまりしている部分はあります。いわば、柵の中に草を最大限生やしいかに乳牛を効率よく飼育して素晴らしい牛乳を出荷するかが良く分かる一方、柵を広げたり馬を連れてきたり他の農場を買収したりという話には一ミリも繋がっていかないあたりが著者のワールドを示していてすがすがしい。

 たぶん、著者はそういう方面は興味がないんでしょう。そこがいいなあと思いながら、行ったり来たりして面白く拝読できた、良い本でした。プログラマとかプロジェクトをマネジメントする人、あるいは技術者を多数率いる必要のある人には刺激がたくさん詰まっているのではないかと思います。



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山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)


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 コロナウイルスの感染拡大が進んでいる中で、これへの対策を行うための法律的な裏付けが必要だということもあって、新型インフルエンザ特措法などの改正や、経済支援の枠組みの再調整などの議論はどうしても必要だと思うんですよね。

 で、昨日掲載の産経新聞にこんな記事を寄せました。

【新聞に喝!】コロナ対策、臨時国会召集は必要だ ブロガー・投資家・山本一郎 https://www.sankei.com/column/news/200809/clm2008090003-n1.html

 ところが、自由民主党は臨時国会の早期の召集に後ろ向きなんだそうですよ。閉会中審査でええやんけ、という話ではありますが、まあ、憲法53条にもそう明記されておりますからね。

与党、臨時国会召集を重ねて拒否 野党、首相の国会での説明要求:東京新聞 TOKYO Web https://www.tokyo-np.co.jp/article/47967/

第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

 確かに、自民党が言うように、臨時国会の召集について憲法は「いつまでに決定せよ」とは書いていませんので、それが10月でござるとか、上手い具合に「臨時国会をやらないとは言ってない」と逃げることは可能だと思うんですよ。

 でもですね、この臨時国会は単に野党が自民党や安倍政権の失政追及をしたいから開けと言っているものではなく、いま目の前の、問題となっている感染症対策をどうするのか、また、国民の生活で大打撃を受けているところにどう国家が追加で手当てをするのか、あるいは減税だ増税だ、様々な国家の大事に関わる議論をしなければいけない時期だからこそ、憲法第53条に基づいて「国会を開いてくれ」と言っているんだと思うんですよ。

 これもういまの政権や自民党が国民のほうを向いているのか、安倍晋三さんのほうを見ているのかが如実に分かってしまいかねない部分はあるんじゃないでしょうか。

 もちろん、表に出てきた稲田朋美さんだけの話ではないでしょうから、稲田さんがどうこうということではなく、いまの政権の問題として、これどうするつもりなのよ、って。

 そして、一連の「憲法第53条に基づいて臨時国会開いてよ」「やだよ」って流れで言うならば、少なくともいまの政権は憲法を守るつもりがないのだ、という批判を受けることになりますね。安倍政権が、安倍晋三さん本人が、政治的使命として改憲を進めるのだ、それを花道にするのだ、という願いを持つのは結構ですけれども、見た感じ、憲法を守るつもりのない安倍政権で憲法改正をして良いのか、という議論は出ると思うんですよ。




 いや、ほんとこれ、大丈夫なんですかね。素で、心配になりました。マジで。

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山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)

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 いろいろとアカンことになっている米中対立ですが、ここにきてアメリカ側がかなり具体的に企業名指しで中華サービスやアプリをアメリカ市場からBANする動きが出てきました。

 気を付けるべきなのは、11月3日に行われる大統領選挙に向けて、俺たちのトランプが人気取りのために政権ごと対中強硬策に前のめりになっている、のではなく、むしろ共和党・民主党の超党派で対中国政策を固めるなかで国務長官ポンペオさんを中心に政策をどんどん進めているという点です。

米トランプ政権、中国を5つの分野で締め出す「Clean Network」立ち上げ - ITmedia NEWS https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2008/07/news060.html

 中国側としては、一連の問題について「いかなる法律的な根拠でそんな名指しで中国企業をエンバーゴーの対象にするのか」と声明を出しているのですが、一方で、米中貿易体制については一定の交渉進展もある中での話ですのでこれはこれでプロレスなんじゃないかとも思うわけですよ。

 一方で、アメリカ議会で検討されている「アメリカのデータを中国企業のクラウドに存在させない」という方針が共和党・民主党ともにGOとなった場合、単純にアリババやテンセントが困ることになるだけでなく、テンセントが少数出資しているEpic Games(40%)が展開している「Fornite」だけでなくゲームエンジンである「Unreal Engine」も影響を受けることになります。

 いままでのブロック圏経済は、言うまでもなく米ソ対立で冷戦下は特にドル決済圏とルーブルその他決済圏とで分かれておったわけですけれども、新しい米中対立はさらに「データをどこに置くか」で対立軸が決まるという点が新たな論点になるんだと思います。日本の場合はいうまでもなくアメリカ側につかざるを得ない前提ですので、アメリカの「クリーンネットワーク」陣営に入れてもらうために法律を作り中華資本をICT関連からパージしましょうという流れは加速することになります。

 とはいえ、日本も無批判にアメリカの方針に乗っかって前のめりになったところで、我が国最大の貿易相手国である中国と決定的に決別することのリスクもまたあります。コロナウイルスが流行して対策を進める中で終わりなき経済対策をやらなければならない日本の選択肢が随分少なくなっているところへ今回の事態というのは実に厳しい踏み絵だなと思いながらも、立ち止まっていても仕方がないので涙を拭いて歩き続けるしかないのかなと思います。はい。

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