冒頭から、暴力団と吉本興業・吉本吉之助の逸話が語られ、そこに闇営業で問題となったカラテカ入江慎也さん、さらに宮迫博之さんのネタへと波及。読み進めるごとに、「汚れ役を担った」中田カウスさん、吉本興業創業家が引き起こしたお家騒動、5時間以上に及ぶ謝罪会見を行った吉本興業社長の岡本昭彦さんに対する注釈と、読む者の興味関心をフルスロットルで惹きつけるのが本書であります。
『吉本興業史』(Amazonリンク)
読んでいて気づかされるのは、単にみなが知るタレント(芸人さん)を擁する芸能事務所の歴史というだけでなく、その成功も、時折見せる人間臭いスキャンダルも、すべてはこの本の主に後半で記される「演芸とともに歩んできた吉本興業の歴史」にすべて根拠があり、引きずっているのだということです。
まるで高く売るために黒毛和牛を磨くように芸人を扱う体質が垣間見えたかと思えば、現代表取締役の大崎洋さんや、中興の祖と崇められる故・吉本吉之助さんの独特な個性の放つ「芸人は家族」「芸人あっての吉本」というエッセンスとが矛盾なく同居している。それでいて、問題があるごとにすったもんだし、関係者が荒れ狂う嵐の中で柳のように右往左往しつつも最後は大団円で終わって吉本興業の歴史は続く、という一大スペクタクルであります。
かくいう私自身も、東京電力やKDDIなど名だたる大企業の「土管の上」を担うために立ち上がった吉本興業の各事業を横で見させていただき、また、小室哲哉さんの某事件から上場廃止のアレまで見聞きさせていただいた中で申し上げるならば、この竹中功さんの筆致は非常にまともです。読む人によっては一定の立場に沿って竹中さんは片側に肩入れしていると言いたい人もあるかもしれませんが(特に嫌な思いをして会社を去った人からすれば、最後まで理性をもってかかわった吉本興業をしっかりとしたご自身の意志をもって去った竹中さんに対する羨望も込みで)、むしろ行間から竹中さんの本当の感覚を読み解いて欲しいんですよ。島田紳助さんが自ら身を引くにあたり、慰留しきれなかった大崎洋さんの痛恨の述懐は特筆すべき内容です。
そしてこれらは、吉本興業がそれこそ105年の創業からこちら、一癖も二癖もある芸人たちを束ね、劇場を回し、度々試みた東京進出についに成功して根を張り、そしていまの安倍政権官邸に食い込んで官房長官・菅義偉さんの膝元でクールジャパン的な面白商売をするに至るまで、すべてが竹中功さんの語るその吉本興業の歴史に原型を垣間見ることができます。
それは吉本的であることの限界と可能性とを全部示してると思うんですよね。
著者の竹中功さんについて言えば、吉本らしく賢く不器用に務め切った「謝罪マスター」にして、ある意味で、人間の機微の粋を知っている御仁です。いわば、色褪せない人間の本質を知る人だからこそ、演芸の面白さから興行の世界の光と闇を知ったうえであるべき道を示してきたのだ、と。
個人的に思うのは、これ新書のサイズでやったらアカン本なのではないかという点です。明らかに、売るための前にみんなの知ってるスキャンダル、暴力団絡みの「面白いところ」を先に摘まんでいますけど、本当に心に来るのは関西のお笑い文化を根底から支え、人生の苦みを笑いで包む独特な世界を担ってきた吉本興業という組織の深みこそが本書の本質だと感じるのです。
「人を笑かす」にも、単に面白いだけでは駄目で、しっかりとした裏方がいて、彼らがきちんと考え抜いてビジネスを回しているからこそ成立しているのだ、という。ちょっと考えれば当たり前だけど、いざその圧倒する歴史とそれを彩った人たちの息遣いを感じるほどに、この本の良さが分かると思うんですよ。
欲を言えば、いまの吉本興業のアカンところ、これから解決しなければいけなさそうなところは、まあ緩く、ふわーっと書いてあります。ふわーーっと。いいところで。いや、ちょっとそこを知りたいんですけど。ねえ。
というわけで、個人的には続編を希望です。未来企業・吉本興業的な意味で。


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まるで高く売るために黒毛和牛を磨くように芸人を扱う体質が垣間見えたかと思えば、現代表取締役の大崎洋さんや、中興の祖と崇められる故・吉本吉之助さんの独特な個性の放つ「芸人は家族」「芸人あっての吉本」というエッセンスとが矛盾なく同居している。それでいて、問題があるごとにすったもんだし、関係者が荒れ狂う嵐の中で柳のように右往左往しつつも最後は大団円で終わって吉本興業の歴史は続く、という一大スペクタクルであります。
かくいう私自身も、東京電力やKDDIなど名だたる大企業の「土管の上」を担うために立ち上がった吉本興業の各事業を横で見させていただき、また、小室哲哉さんの某事件から上場廃止のアレまで見聞きさせていただいた中で申し上げるならば、この竹中功さんの筆致は非常にまともです。読む人によっては一定の立場に沿って竹中さんは片側に肩入れしていると言いたい人もあるかもしれませんが(特に嫌な思いをして会社を去った人からすれば、最後まで理性をもってかかわった吉本興業をしっかりとしたご自身の意志をもって去った竹中さんに対する羨望も込みで)、むしろ行間から竹中さんの本当の感覚を読み解いて欲しいんですよ。島田紳助さんが自ら身を引くにあたり、慰留しきれなかった大崎洋さんの痛恨の述懐は特筆すべき内容です。
そしてこれらは、吉本興業がそれこそ105年の創業からこちら、一癖も二癖もある芸人たちを束ね、劇場を回し、度々試みた東京進出についに成功して根を張り、そしていまの安倍政権官邸に食い込んで官房長官・菅義偉さんの膝元でクールジャパン的な面白商売をするに至るまで、すべてが竹中功さんの語るその吉本興業の歴史に原型を垣間見ることができます。
それは吉本的であることの限界と可能性とを全部示してると思うんですよね。
著者の竹中功さんについて言えば、吉本らしく賢く不器用に務め切った「謝罪マスター」にして、ある意味で、人間の機微の粋を知っている御仁です。いわば、色褪せない人間の本質を知る人だからこそ、演芸の面白さから興行の世界の光と闇を知ったうえであるべき道を示してきたのだ、と。
個人的に思うのは、これ新書のサイズでやったらアカン本なのではないかという点です。明らかに、売るための前にみんなの知ってるスキャンダル、暴力団絡みの「面白いところ」を先に摘まんでいますけど、本当に心に来るのは関西のお笑い文化を根底から支え、人生の苦みを笑いで包む独特な世界を担ってきた吉本興業という組織の深みこそが本書の本質だと感じるのです。
「人を笑かす」にも、単に面白いだけでは駄目で、しっかりとした裏方がいて、彼らがきちんと考え抜いてビジネスを回しているからこそ成立しているのだ、という。ちょっと考えれば当たり前だけど、いざその圧倒する歴史とそれを彩った人たちの息遣いを感じるほどに、この本の良さが分かると思うんですよ。
欲を言えば、いまの吉本興業のアカンところ、これから解決しなければいけなさそうなところは、まあ緩く、ふわーっと書いてあります。ふわーーっと。いいところで。いや、ちょっとそこを知りたいんですけど。ねえ。
というわけで、個人的には続編を希望です。未来企業・吉本興業的な意味で。
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