月別アーカイブ / 2020年06月

 冒頭から、暴力団と吉本興業・吉本吉之助の逸話が語られ、そこに闇営業で問題となったカラテカ入江慎也さん、さらに宮迫博之さんのネタへと波及。読み進めるごとに、「汚れ役を担った」中田カウスさん、吉本興業創業家が引き起こしたお家騒動、5時間以上に及ぶ謝罪会見を行った吉本興業社長の岡本昭彦さんに対する注釈と、読む者の興味関心をフルスロットルで惹きつけるのが本書であります。

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吉本興業史 (角川新書) [ 竹中 功 ]
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『吉本興業史』(Amazonリンク)

 読んでいて気づかされるのは、単にみなが知るタレント(芸人さん)を擁する芸能事務所の歴史というだけでなく、その成功も、時折見せる人間臭いスキャンダルも、すべてはこの本の主に後半で記される「演芸とともに歩んできた吉本興業の歴史」にすべて根拠があり、引きずっているのだということです。

 まるで高く売るために黒毛和牛を磨くように芸人を扱う体質が垣間見えたかと思えば、現代表取締役の大崎洋さんや、中興の祖と崇められる故・吉本吉之助さんの独特な個性の放つ「芸人は家族」「芸人あっての吉本」というエッセンスとが矛盾なく同居している。それでいて、問題があるごとにすったもんだし、関係者が荒れ狂う嵐の中で柳のように右往左往しつつも最後は大団円で終わって吉本興業の歴史は続く、という一大スペクタクルであります。

 かくいう私自身も、東京電力やKDDIなど名だたる大企業の「土管の上」を担うために立ち上がった吉本興業の各事業を横で見させていただき、また、小室哲哉さんの某事件から上場廃止のアレまで見聞きさせていただいた中で申し上げるならば、この竹中功さんの筆致は非常にまともです。読む人によっては一定の立場に沿って竹中さんは片側に肩入れしていると言いたい人もあるかもしれませんが(特に嫌な思いをして会社を去った人からすれば、最後まで理性をもってかかわった吉本興業をしっかりとしたご自身の意志をもって去った竹中さんに対する羨望も込みで)、むしろ行間から竹中さんの本当の感覚を読み解いて欲しいんですよ。島田紳助さんが自ら身を引くにあたり、慰留しきれなかった大崎洋さんの痛恨の述懐は特筆すべき内容です。

 そしてこれらは、吉本興業がそれこそ105年の創業からこちら、一癖も二癖もある芸人たちを束ね、劇場を回し、度々試みた東京進出についに成功して根を張り、そしていまの安倍政権官邸に食い込んで官房長官・菅義偉さんの膝元でクールジャパン的な面白商売をするに至るまで、すべてが竹中功さんの語るその吉本興業の歴史に原型を垣間見ることができます。

 それは吉本的であることの限界と可能性とを全部示してると思うんですよね。

 著者の竹中功さんについて言えば、吉本らしく賢く不器用に務め切った「謝罪マスター」にして、ある意味で、人間の機微の粋を知っている御仁です。いわば、色褪せない人間の本質を知る人だからこそ、演芸の面白さから興行の世界の光と闇を知ったうえであるべき道を示してきたのだ、と。

 個人的に思うのは、これ新書のサイズでやったらアカン本なのではないかという点です。明らかに、売るための前にみんなの知ってるスキャンダル、暴力団絡みの「面白いところ」を先に摘まんでいますけど、本当に心に来るのは関西のお笑い文化を根底から支え、人生の苦みを笑いで包む独特な世界を担ってきた吉本興業という組織の深みこそが本書の本質だと感じるのです。

 「人を笑かす」にも、単に面白いだけでは駄目で、しっかりとした裏方がいて、彼らがきちんと考え抜いてビジネスを回しているからこそ成立しているのだ、という。ちょっと考えれば当たり前だけど、いざその圧倒する歴史とそれを彩った人たちの息遣いを感じるほどに、この本の良さが分かると思うんですよ。

 欲を言えば、いまの吉本興業のアカンところ、これから解決しなければいけなさそうなところは、まあ緩く、ふわーっと書いてあります。ふわーーっと。いいところで。いや、ちょっとそこを知りたいんですけど。ねえ。

 というわけで、個人的には続編を希望です。未来企業・吉本興業的な意味で。




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ズレずに生き抜く(Amazon リンク)

 次世代基盤政策研究所(通称『NFI』)という新しい研究団体が立ち上がり、設立記念シンポジウムを開催することになりました。といっても、ご案内はすでに各所に回っており、所定のウェブセミナーのチケットはいったん完売してしまったのですが、よく考えたらちゃんと告知していなかった… ので、枠を広げて再募集することになりまして。

 多くのご参加を戴きまして、本当にありがとうございます。

次世代基盤政策研究所(NFI) 設立記念シンポジウム
https://nfi-japan-setsuritsukinen.peatix.com/

次世代基盤政策研究所 公式ホームページ
https://www.nfi-japan.org/

 もともとは、2019年8月8日に開催された「堀部政男情報法研究会・森田朗行政学研究会共同シンポジウム」が母体となり情報政策の策定・浸透と個人情報保護委員会周りのフォローアップを行うために継続的にあれやこれやと活動していたのですが、話をするごとに「これは必要な政策議論だよね」というお声がけを多々いただくようになって、じゃ組織化マストやなという健全な流れで当NFIが設立されました。

 NFIからの問題提起や政策提言として、JBpressなどでも連載をやらせていただいており、こちらもぜひご覧いただければと思っております。

国家による保護と統制をどこまで許容できるか 令和版「この国のかたち」:NFIからの提言Vol.1(1/3) | JBpress(日本ビジネスプレス) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60314

 当シンポジウムでは「国家とは何か」から「ポストコロナの情報政策」まで、概念と実際の両輪から人口減少局面で脱右肩上がりの日本の政策課題について論じてまいりたいと思います。なぜか後半では私めも畏れ多いメンツでパネルディスカッションにて登壇することが予定されておりまして、何とかしてまいりたいと存じます。

 ご関心のおありの方々は是非奮ってご視聴、ご参画賜れますと幸いです。

 よろしくお願い申し上げます。


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山本一郎既刊!『ズレずに生き抜く』(文藝春秋・刊)

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 「出口がうんこ」というと汚い表現だと怒られてまた女性読者が減りそうですが、腐臭がするぐらいとんでもない数字になっているようです。もうね、小池百合子さんが『女帝』の貫録を見せて圧勝。ええい、覚えてやがれ。今日はこの辺で勘弁してやる。その辺の雑魚台詞を口走りたくなるほどの独走状態になっているように伝わってきます。

 期日前は組織的に強いはずの宇都宮健児さんが得票率二桁に届くかどうか、山本太郎旋風も特定の年寄りや左翼にウケているのみであることは参院選と状況は変わらず、結局はキレイに左翼票が分かれて共倒れの様相です。だから言ったじゃん。でもおそらくはこの都知事選で政治的命脈の尽きる宇都宮さんに対して、山本太郎さんは次の選挙を見据えて地盤固めをやるための出馬強行だったとするならば、次はどこぞの東京選挙区で衆院選に打って出るつもりなのでしょうか。

 また、維新の会からの推薦を受けた小野泰輔さんもネットでの人気はともあれたいした票を取れていません。出馬表明が遅すぎたんですよ。もっとも、うっかり次点目もあるような善戦をするようだと「そもそもおまえ、なんで熊本副知事の指名を請けられなかったんだ?」みたいなイチャモンはつけられることになると思いますので、ここで名前を売っておいて全国型の都市政党へと脱皮を図りたい維新の会の次の衆院選東京選挙区の弾として頑張ろうという魂胆なのではないかと思います。ただ、そうだとしてもちょっと票が取れなさすぎなので、選対はもっと頑張れよという気分になります。

 意味もなく政党として重複立候補をかけ、選挙ポスタージャックをしたホリエモン新党の立花孝志さんも、あれだけかき回しておいて支持者に飽きられ供託金ラインやや上の泡沫候補状態であります。そもそも名前を冠した堀江貴文さんは迷惑なことに小野泰輔さんの支持に回り、立花さんやダミー立候補した名前も知らんような候補の応援すらしてないんですよ。上杉隆も偉そうに仕切ってる風のことを言うぐらいならこの辺の応援確約ぐらい取り付けておけよ素人じゃねえんだからさと思います。

 それ以外は供託金ラインの争いで触れても仕方ないのかなと思うところではありますが、とにかく小池百合子さんは圧勝という見込みもあって、うっかり街頭演説でもやって失言して大失速なんていう茶番になると困るので露出しない戦術に出ているのが印象的です。まあ、うっかり出てきたら「学歴詐称女!」とか「オリンピックはどうなったんだよ!」などの誹謗中傷や罵声が乱舞することになると思うので、出てこないのは得策とも思うわけです。

 そのぐらい強い。女性に対して横綱相撲というのも野暮ですけど、罰ゲームなのは仕方がないとはいえ1,400万東京都民の人気投票の果てに当たりのないガチャをやる羽目になったのはひとえに自民党都連がだらしないからだと私は思います。4年あったんだからちゃんと仕込んでおけよ、と文春に書いたところ、名だたる国会議員の方から「そうなんだよ」とご支持の声を頂戴したものの、いや、お前らがイカンという話だぞ。

 というわけで、今回は小池百合子さんがどのくらいの圧勝をするのか、また、宇都宮さんと山本太郎さんとでどちらが多く票を取るかという「左翼トップめの争い」ぐらいしか見どころのない選挙になってしまいました。400万票とろうが300万未満だろうが小池さんの勝ちは勝ちなのです。一方で、ベクトル社長谷川創さんと小池さんの元金庫番秘書の間で行われた土地取引でこしらえた闇資金についてはこの都知事選の後で着火のもようです。本当に思惑通り女帝の首が天高く飛んで舛添要一さん猪瀬直樹さんと並んで満天の星の一部となるのか、あるいは不発に終わって東京都の長期低迷を呼び込んだ戦犯として小池百合子の名前を刻むことになるのかは分かりませんが、そろそろ真面目に着地点を考えるべき時期なのではないのかな、と思います。

 個人的には、小池さんが飛んだらそのまま副知事の宮坂学さんに禅譲されてそのまま出直し都知事選に出馬して万人の支持のもとに東京復興ののろしを上げて欲しいという気持ちはあります。世の中そんなにうまくはいかないと思うけど。やはり東京都にはちゃんとしたマネジメントが上に立って欲しいなあ、単に知名度や期待感でユーフォリアを起こすような脊髄反射の政治はやめたいというのが本音です。そうなれば小野泰輔さんが副知事でもいいんじゃないかとすら思います。

 最後に、余談ですが我らが千代田区長・石川雅己さんが、そのご親族である次男のマンション取引に絡み百条委員会を立てられるという素敵な事案が発生しました。思い返せば、小池さんが擁立した石川さんと若手候補二人の共倒れ区長選挙で実に微妙な状況になっていたころからこの問題があったわけでして、千代田区民としては非常に残念ではあります。

千代田区長 百条委員会で証言の前 報道機関集め自らの主張説明 | NHKニュース   https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200617/k10012473161000.html

 まあ、この手の話は地方政治あるあるで、非常に微妙なところではありますが。

 いずれにせよ、どうせ小池百合子さんで決まるのであればいま一度、緊張感をもって前向きにしっかりとした都政に取り組んでいただきたいと願うのみであります。はい。

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 今年はセミナー類も概ねオンラインにシフトしているようですが、御多分に漏れず今年のアットマークITの「セキュリティウィーク」もオンラインセミナーになりました。

@IT Security Linve Week 2020 公式サイト
https://www.atmarkit.co.jp/ait/special/at200694/index.html

 セミナー自体は22日からで、私たちプライバシーフリークカフェ(PFC)が担当するのはDay3、6月24日の午前と午後に分かれたセッションです。皆さんおなじみ鈴木正朝先生、高木浩光先生、板倉陽一郎先生に私であります。

 セキュリティ関連で言いますと、昨今のリモートワーク話だけでなく、このところスパイ乱舞と話題殺到のトレンドマイクロ社のあれこれなどもあるようではございますが、それとは別に今回は世間的に大変に話題になったアレの話なども含めて展開してまいりたいと存じます。

 ご関心おありの方は、奮って申し込みを頂戴できれば幸いです。

 @ITのセキュリティウィークともども、プライバシーフリークカフェに御贔屓のほど、よろしくお願い申し上げます。

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 何とも悲惨な事件なんですが、どうも調査下請けをやっている「日本テレネット」が人手不足を理由にかけていない調査電話の結果をでっち上げた(メイキング)という話で、これが事実とするならば、産経新聞は意図しなかったとはいえ結果として「世論調査をでっち上げ続けていた」という批判にまみれることになります。

 産経新聞に連載を持つ身としても、不正のない世論調査は報道機関の持つ機能の根幹であり、正しい情報を伝えるという一丁目一番地、原理原則であることを考えると真摯に反省をして再発のないようにどうするかを検討しなければならない時期なのだと思います。

【新聞に喝!】新型肺炎 改めて問われる中国との距離 ブロガー・投資家・山本一郎 https://www.sankei.com/column/news/200216/clm2002160004-n1.html

 結局のところ、電話番号をランダムにかけて、有権者から政治的な意向を聴く伝統的な調査手法はだんだん回答率の低下とともに新たな方法を模索しなければならない段階に差し掛かっているのもまた事実です。毎日新聞がネットパネルを加えた新しい調査手法に移行したことも含めて、データの採り方を工夫しているのもまた印象的です。良い試みだと思うんですよ。

毎日新聞世論調査 内閣支持急落27% 検察人事批判 「不支持」64% - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200524/ddm/001/010/069000c

 こういう産経新聞の結果的にやらかした不正は望ましくないので再発の防止を強く求める一方、新たな調査手法や、あるべき世論調査についていま一度吟味し、手法を設計し直して再出発するには絶好の機会なんじゃないのとも思います。信頼回復にはなお時間がかかるのかもしれませんけれども、回答率を引き上げるだけが調査品質ではないかもしれず、まずはその辺も踏まえて計画を立てて善処していってほしいと願うのみです。

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