月別アーカイブ / 2019年02月

 どっちがどっちというわけでもないのですが、外野からしますと「箕輪厚介さんが燃え尽きる前に座組が壊れるとは思わなかった」という事例で、どうもNews Picksを擁するユーザベース側が、抱える優良顧客向けに定期的に配本するNews Picks Booksの事業パートナーとしてやってきた幻冬舎を切る話をしたとかで、幻冬舎の見城徹さんがTwitter上で激怒し愚痴をぶちまける事態に発展し、面白事案になっています。

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 まあ、何だろうと思うわけですが、何かをぶちまけるにせよせめて市場が閉まってからにしてほしいと投資家的には感じたりも致します。

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 もちろん、見城さんも故あって怒っているのだとは思いますが、News Picksはユーザー数360万人、有料会員数9万人以上という状況にあって、面白ビジネス本の出版がメインになっている幻冬舎と組んでいることでこれらのビジネスユースの会員さんが果たして満足するのか、News Picksとしては幻冬舎にこだわらず、日経新聞系列や東洋経済、ダイヤモンドなど有力経済媒体との全方位外交にシフトしたほうがよかろう、と考えてもまったくおかしくはありません。セミナー商売やサブスクリプションの出版サービスの利益率は維持しながら、もっと広いジャンルの経済情報を扱ったほうが顧客満足を高められるのは間違いなく、見城さんの力量や面白本の企画力だけでモノを売っていくむつかしさや、パートナーとしての利益配分の状況を見ると「まあここで別れるのもやむなし」のようにも外部からは見えます。

ユーザー数360万人! ソーシャル経済ニュース「NewsPicks」
https://media-radar.jp/detail3666.html
マーケティング=広告ではなくなっていく/西井敏恭氏が聞いた「NewsPicks」が支持される理由 (1/3):MarkeZine(マーケジン) https://markezine.jp/article/detail/30081 

 News Picksもビジネスマン向けのでっかいはてなブックマークみたいなもんですし、相変わらずランディングページは泥棒状態で、正直News Picksの中で話題となり記事が取り上げられていてもやってくるアクセス数はスマートニュースやグノシーの五分の一程度ですから、もうちょっとどうにかしてほしいと書き手としては思うわけですが。

 一方の幻冬舎も、著名著者の企画本に固まり過ぎていて、一定の読者層にはがっつり刺さる優秀な企画力のある出版社ではありますので、変にNews Picksのような新興ネットメディアに関わり続けるよりも、メディアミックスや企画本の開拓といった本来の強みを持つ方向に回帰したほうが競争力は高まるんじゃないかと思うんですよね。ただ、見城さんのことですから、「一緒にやるっていったじゃん!」 みたいな筋論になって、レピュテーションの問題を承知で「このやろう」という怒りのツイートを書いちゃった! という流れなんじゃないかと思ったりもします。

 とりあえず太田出版のリンクだけ置いておきますね。

『絶歌』の出版について - 太田出版 http://www.ohtabooks.com/press/2015/06/17104800.html 

このところAI(人工知能)やアドテクノロジー、それに対する規制の在り方も含めた議論が各所で行われ、先週も事業責任者や法務担当者、政策関係者を集めた研修会などが立て続けに開かれたわけなんですが、牧歌的な時代のプライバシー関連法や個人情報保護の仕組みのころの気持ちの延長線上で「ユーザーが不便しないからいいでしょ」という楽観論が各所で聞かれたのが残念です。

 ちょうど問題となっている静止画ダウンロード違法化が自民党部会で通ってしまってゲームセット感が出ている状態ですが、これかて従前の議論をきちんと踏襲しながら有識者が議論を重ねてきたにもかかわらず、役所の得点として、あるいはちょっと前のブロッキング関連議論の意趣返し的なアプローチで反対意見を蹂躙したのは記憶に新しいところです。

 同じような問題がAI分野で出ないとも限らず、その中でも比較的一冊でこのあたりを網羅している書籍はないかとよく聞かれるので、私は『AIと憲法』(山本龍彦・編著)を強くお薦めしています。もちろんこれ一冊で全部の議論が分かる! とまでは当然いかないのですが、AIに国民が知らずに選別されてしまう危険性をきちんと表出し、国内や海外の議論も踏まえてAIがその万能さゆえに多くの差別や抑圧をしてしまう、それを多国籍企業がデータ資本主義の名のもとに「本当にできる世の中になってしまう」ことへの警鐘を鳴らしているという点で、目を通さないわけにはいかない内容になっていると思うのです。


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 で、産業面で言えば本書第2章で古谷貴之さん(京都産業大学准教授)が「AIと自己決定原理」で論じている内容の中で、アドテクノロジーと行動ターゲティングに関する自己決定の問題について、より複雑になっていくプロセスが詳細に論じられています。実際にネットでの広告を扱っている事業者からすると、DSP側からコールするユーザー属性データは必ずしも本人同意が得られていないものも含めて大量に流通し、標準化され、このペルソナの人物であればこの商品をこのタイミングで興味を持ちクリックするはずだという予測モデルに基づいてSSP側に投げて在庫を漁り、一番価格の安いタイミングかより関心スコアが高くなるであろうプロセスを引っ張り出そうとします。

 そこにはユーザーには利便性が提供されているからよいだろうという事業者側が判断する勝手なイノベーション受益を展開してユーザーのプライバシーだけでなく自己決定権にまで踏み込み、さらには移動データから行動ルーチンを逆算していくプロセスにまで入っていくことになります。主にこれらのターゲティングの犠牲者は広告を扱っている人たちならよく知っている通りタクシー乗客や高速道路などをマイカーで利用する人であり、移動距離から推定した所得や購買志向が勝手に個人に関する情報に紐づけられて解析され、SMSやプラットフォーム事業者を通じて広告がコールされる仕組みになっているわけです。

 逆説的に、類推される「AIと人格」(第4章:栗田雅裕・名古屋大学法学部准教授)では遺伝行動学的なアプローチにまでは踏み込んでいないものの、網羅的に示唆される論考が示され、またOCEANモデル的な人格の類推と人工知能による解析はすでにケンブリッジ・アナリティカ問題としてBREXITやデジタルゲリマンダーの問題も論じている「AIと選挙制度」(第7章:工藤郁子・マライカ株式会社コンサルタント/上席研究員)、「AIと民主主義」(第6章:水谷瑛嗣郎・帝京大学法学部助教)などでも細やかに議論の土台が示されています。AIと刑事法、AIと教育制度などなど、人工知能がその万能さ、有用さゆえにあらゆる社会基盤や制度に対して”挑戦”している状況をつぶさに見るに、何度も本書各章を行ったり来たりしながら、場合によっては自らの手を見て事業に直面しているAIの課題や、商業倫理、社会制度との蹉跌も踏まえてしばし熟考せざるを得ない内容になっているのです。

 本来であれば、各章ごとに一冊二冊と専門書が出てもおかしくないところを、手堅く取りまとめる各論客・研究者が独自の視点で膨大な議論の集積から紐解き、レファレンス的に議論を総覧できるこの一冊にまとめたというところだけでも充分な示唆を与える入門書と言えます。

 欲を言うならば、人工知能を扱う事業者や、業界を担うテクノロジーにまつわる実務部分についての言及が各分野においてもう少しあるならば、いまいま人工知能と事業の関係について思案している人たち(いわゆるリーガルテックを含む)の思考の手助けをより一層できたんじゃないかと思う部分はあります。

 また、刊行が18年8月であったため、この界隈の大きな動きの一つである日本政府によるGAFA対策でプラットフォーム事業者に対する公正取引委員会や総務省、警察庁、金融庁、消費者庁などの連携した動きなどが滑り落ちている部分があり、本書にかかわっている若き各論客・研究者のこれらの動きに対する論考なども見てみたいと感じたりもします。

 『AIと憲法』というテーマにおいては、とにかく分野が最先端であることも踏まえて執筆者の筆致が図らずも若々しい、というかみずみずしく、ああこれは彼らの研究に対して未来に幸あれと勝手ながら応援したくなるような内容でもあって、一方で通しで読むと各章ガタガタでギザギザ感のある論考を一冊にまとめるという力技にもっていった山本龍彦さんと日経新聞出版社の編集者との努力の賜物であろうと思います。

 AIというフロンティアを、ディストピアの道具にしてはならないという意志と共に、どちらかというと儲け至上でいったとき、あるいは中国のような国家統制の仕組みとしたときに、どう立ち上がるべきなのかも含めて示唆するところの多い書籍であります。

 ご関心の向きは、ぜひご一読いただければと願う次第です。

AIと憲法(Amazonリンク)

 テーマとしても、各研究者の今後に光あれと思う気持ちも含めてどうぞ。


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 ほんのり話題になっていたので『強い女メーカー』をやってみたのであるが… イマイチ何が楽しいのか良く分からない。良く分からないので、各パーツがランダムで出る奴をポチポチ押してみた。

 そしたらこれ。


 これってどの辺が強い女なんだ… 程度の低いソシャゲにありげな無課金モブのようにも見えるし、前衛アート的な独特センスの不思議画像にも感じられる。

 デッサンがぶっ壊れているように見えるのも、おそらく差分パーツをゴリゴリ量産してみたらたまたま合わなかっただけかもしれない。

 全体的に『強い女メーカー』自体のクオリティが高くないのは仕方がないとして、こういうノリが面白がられているのはいいことなんじゃないですかね、『診断メーカー』とか占い系のBOTも乱立していたし。

なんかいっぱいメールやメッセージが来てるなーと思って開いてみたら、原因はこれでした。

政府、海賊版視聴に警告画面 接続遮断「対策後に判断」:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40776860R00C19A2EA3000/

 は? アクセス警告方式ですか?

 これは「アイデアとしてはともかく技術的に実現できないのでは」と言われていた東京大学の宍戸常寿先生がブロッキング関連議論の代案として提唱されていた内容にとても近いですね。

ブロッキングに代わる「海賊版対策」の切り札? 東大・宍戸教授「アクセス警告方式」提案|弁護士ドットコムニュース https://www.bengo4.com/internet/n_8424/
アクセス警告方式について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai5/siryou11-1.pdf

 で、当然のことながら (1) ユーザーがアクセスしようとした先をすべて監視することになるために検閲を禁じる憲法違反の疑いが強い (2) 暗号化通信が進めば方式そのものが有効ではなくなる (3) そもそもブラウザレベルの話なのかOSでやるのかすら不明でどう実装されるのか技術的にも困難である、ということで、一度は忘れ去られた案のはずでした。

 通信事業法にも抵触するうえに、ブラックリストの作成も網羅的に済ませておかなければなりません。実際にやるなら、これ文字通り「日本版金盾」ですね。

 日本経済新聞の誤報の疑いもあるわけなんですが、文中に味わい深い文言が幾つか入っているので、釣りの可能性も疑いつつもピックアップ。

引用>>漫画やアニメを著作権者に無断で掲載する「海賊版サイト」対策を巡る政府の基本方針が明らかになった。まず利用者が海賊版サイトを視聴しようとした際、警告画面を表示する仕組みを導入する。<<

 冒頭からして、これ。海賊版サイト対策における政府の基本方針がアクセス警告方式であるという話で、政府の誰がどこで基本方針としてこの話題を持ち出したのかが不明です。

引用>>文化庁の文化審議会は1月25日、罰則規定の詳細をまとめた。著作権者に無断で公開された漫画や小説の「静止画」をダウンロードする行為を違法とし、刑事罰を科す。<<

 すったもんだしている文化庁の静止画ダウンロード違法化までしれっと書かれております。すでにいろいろと騒がれ始めてはおりますが、スクショ取ってTwitterに晒したら違法となりかねないクソ法改正案であることは言うまでもありません。大丈夫なのでしょうか。

引用>>政府は著作権者の利益を守るための対策として法制度を変えることなく速やかに取り入られると見ている。総務省が近くISP(インターネットサービスプロバイダー)と話し合う。<<

 こんなことを言っている政府の要人は誰なのかいまひとつ判然としませんが、総務省やISP方面に話を聞く限りでは「なんだそれ」という反応でしたので、官邸の不思議な人たちの間でだけそういう話で盛り上がっていて総務省に落ちてきていないのかなという印象はあります。

引用>>コンテンツ海外流通促進機構の推計では海賊版による出版業界の被害額は約4000億円。<<

 これもいつもの寝言で被害額盛りまくったカドカワ・川上量生さんの定番芸と同じです。川上さんはアレすぎて審議には入っていないようですが、往生際悪く巻き返しに出ているのかもしれません。

 いずれにせよ、これは筋が悪いという内容がすべて盛り込まれているのを見て、釣り針にしては大きすぎる気もしつつ要警戒、といったところでしょうか。

(追記 02:07)

 重要なポイントを見落としていました。

引用>>ネット業者のサービスの利用規約である約款の変更によって可能になる。<<

 つまり、プロバイダー(ISP)の利用規約・約款を変えてしまえば法改正や新法なしにサイト遮断(ブロッキング)よりも程度の低いアクセス警告方式が実現できると政府が誰かから吹き込まれて思い込んでそれでいけとなった気配が強く感じられます。

 当然、利用者にとっては不利益変更の最たるものですから承認が必要な作業で規約変更のコストはプロバイダーが負うばかりでなく、前述の通り技術的にブラウザでやるのかOSレベルなのか、さらには暗号化通信対策がPCにもスマートフォンにも必要になるので、実際にはアクセス警告の対象URLがリスト化するところで話がストップし、海賊版サイトを遮断したくてもできないという結論になりそうです。

 静止画ダウンロード違法化もかなり頭おかしかったですが、これはかなり本格的に妙な話になっているので、そろそろどげんかせんといかんレベルなのではないでしょうか。


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