月別アーカイブ / 2017年06月

 このところ騒がしいネットメディア界隈ですが、先日あれこれ話題になっていた件も含めていろいろ話し合おうっていう流れになっておるわけですよ。

記事広告「PR表記」のあり方について、清水さん、ヨッピーさんと改めて考えてみる【トークイベント】
http://ptix.co/2sXgQ8P  
世の中のミカタ総研
https://salonde.jp/salon/top.php?salon_id=1636

 ということで、ITジャーナリストの三上洋さんとご一緒しているオンラインサロン「世の中のミカタ総研」にて、レギュラーゲストのヨッピーさんと皆さんお馴染み清水亮さんを交えてイベントをやることにしたんですよね。

 最近では、ヤフージャパンが運営するヤフーショッピングがステルスマーケティングなんじゃないかという謎の言いがかりが朝日新聞方向から飛んできて、これはこれで騒ぎになったりしておりますが、そんなPRとステマの関係について議論してまいりたいと思います。

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 ひょっとしたら、スペシャルゲストも来るかも。駄目だったらごめんね。
 ということで、こうご期待。お誘いあわせの上、ぜひお越しください。また、オンラインサロン「世の中のミカタ総研」も会員もう少し募集中です。のはずです。ご関心のある方は是非どうぞ。

 家庭の事情もいろいろあり、介護だなんだと騒ぎが大きいので、当面落ち着くまではリタイア気味に仕事を減らそうと思っていたのです。別にそんなにあくせく働く必要もないのだけれど、打ち合わせしたり方針決めたりするのが好きな性分なので、頼まれたらつい捌いてしまうんですよね。
 1月ぐらいから、時間拘束のある業務については徐々に畳んでいって、家庭で過ごす時間を増やそう! と画策していたのです。

ご報告など:いままで以上に家族との時間を大事にすることにしました | プレタポルテ by 夜間飛行 http://pret.yakan-hiko.com/2017/05/24/life/

 そしたら「時間を拘束しない業務ならいいだろう」と気を回していただくお取引先さんからのコンサル依頼とかが増えたため、かえって身動きが取れない結果に。お声がかかるのは大変ありがたいことではあるのですが、実際のところ、考える仕事って意外と重労働です。何というか、一時間働いたから一時間分、一日やったからこのぐらい、って読める仕事ではない。製作委員会を作るとかいろんなものを漁って調べるとか、やればやっただけ進む仕事ではないのですが、知恵を貸せと言われれば「へーい」となるのが人情で、思わず「どこまでお力になれるか分かりませんが、できる限りのことはさせていただきます」みたいな話になるわけですよ。

 そしたら、ドツボにハマりそうな気配… なんかこう、リタイアするのでよろしくと相談し始めたころよりも忙しい感じがするんですよね。私の志したスローライフってどこに行ったんだろう。

 そんなわけで、コンテンツの企画業務とか調達、ベンチャー企業や事業会社新設事案、技術評価(得意なやつのみ)と、一部の調査・研究系、記事の執筆ぐらいまでをテリトリーに、新規の仕事はあんまり請けることができなくなりそうです。数か月で家庭の事情が落ち着くのか、半年か数年かどのくらいになるかは分かりませんが、どうしてもウェブ中心になりますし、会合や宴会の類もいままで以上にお付き合いが悪くなってしまうと思います。

 まあ、お酒もすっかり飲まなくなりましたし… 先日、久しぶりにお目にかかった方と数週間ぶりぐらいに飲んで、すっかり回ってしまって酒に弱くなった自分を感じます。大丈夫なんだろうか…。

 なんかジジイみたいな感じですけど、それもまた人生だって感じで割り切って楽しみたいと思います。「歳を取る」ってこういうことなんだ、これが人生というものなのだと最近なんとなく分かったような気になるんですよね。実際には、まともに生きられれば40年近く人生は残っているはずなのですが。

 できることをできるだけ、受け入れながら一歩ずつ歩いていきます。

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ヤバイ本なんですけど、うっかり読むと寝られない類の内容なので注意する必要があると思うんですよね。

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システムを「外注」するときに読む本 [ 細川 義洋 ]
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 この細川義洋さんの特有のテイストは「物語仕掛けでシステム外注の実情が分かりやすく解説される」ことにあるわけなんですが、この分かりやすさがヤバイ。なぜヤバいのかというと、ヤバいから。

 つまり、「おーいお前。システム担当としてベンダー呼んで外注しとけよー」「おかのした」という時点で大地雷。ジョブフロー分かってない奴がシステム組む責任者になって窓口業務でもやろうもんなら、高カロリーの地雷を踏み抜いて天高く舞い上がるなんて日常なわけです。若者よ、無茶しやがって。そういう日常が裁判沙汰となったとき調停委員として出てきていたのが著者の細川さんですから、まあ説得力はあります。

 そんなわけで、この本の入り口からして泣けるわけなんですが、理路整然と語られるほど、あるいはシステムとは何なのかを知るほどに、会社全体のジョブフローがどう構成されているのか誰も分かってないということに気づかされます。だからこそ、最初の要件定義は大事であり、この本全体のテーマの一つでもある「ユーザー(発注するお前ら)が主導し、ベンダーを使ってシステムを開発する」こと、それはしくじったときユーザーの側の適切な指示がないが故の「ユーザー(発注したお前ら)はベンダーにちゃんと開発内容を指示しなかったんだから、ユーザーはベンダーに残りの開発費としてこれこれのカネを払え」という裁判所からの裁定が下る例示までされておるわけですね。

 冒頭どころか目次から感動巨編すぎて涙が止まらなくて読者総立ちの展開なのですが、パッケージであれ逸品もの開発であれ買収先とのシステム統合であれ、行きつくところは「どういうシステムに仕上げて、どういう効果を上げるのが目的の開発なのか」がきちんと発注者側がイメージできていないと死なのであります。簡単なことですね。その簡単なことができなくてみんな死んでいるわけです。そういう死ななくてもよいことで死なないようにしましょうというのが本書でして、これはシステム開発にかかわる人たちだけでなく、物事を安易に考えがちなウェブ系や、簡単にSaaSいいっすねとかいうイット系の皆さんも是非読みましょう。



 良いとか悪いとかではなく、ああこれがシステム開発の現場であり、人間は言語を等しくしても相互理解はいかに難しい存在なのだなあと理解できる珠玉の一冊に仕上がっていると思います。





 なお、細川さんの前作である「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」も怪著です。
 併せて読むと便通がとても良くなるかもしれません。



 決算書や株主総会に疲れた心を癒したい貴殿もぜひどうぞ。

 きょう、なんかLINEが事業説明会やってましたが、そこでCCCの提供するTポイントカードに見切りをつけたファミリーマートがLINEと組む発表をするという「ですよねー」感の強い内容も出ていました。

事業戦略発表会「LINE CONFERENCE 2017」開催のご案内
https://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2017/1743
ファミマがTポイントやめる? 伊藤忠社長インタビュー記事が波紋
https://www.j-cast.com/2017/06/08300105.html
ファミマとLINE提携 AI活用、スマホで個別販促  :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ13ICF_U7A610C1TI1000/

 ファミマがTポイントをやめるって話は時期尚早というか、微妙なんでしょうが、相乗りやマーケの組み合わせ方は柔軟に考えるという方針になるのは間違いないでしょう。

 結論を言うと、Tポイントカードがやろうとしていることは別に悪くはないのです。ただ、CCCが集めたデータを他の商流で活かそうとすると、とんでもなくコストがかかることになるだけでなく、他の手法に比べて売上が上がらないことにみんな気づいてきたってことだと思います。

 実例を出すと差し障りがあるんでざっくり言えば、オンラインならばYahoo!JAPANが展開する「サイトリターゲティング」やGoogleの「リマーケティング」といったリターゲティング広告のアプローチが、リアル店舗ならば顧客リストにプッシュ配信とクーポンを組み合わせる仕組みが、おのおのCCCの提案するサービスよりもはるかに高いCVRを叩き出すので、単純にTポイントカードでポイント還元させて得られる顧客データよりも魅力的になります。

 結果として、わざわざカード発行してポイント還元して、というマーケコストを垂れ流しにしてかき集めるユーザーデータ、そこから導き出すアウトカムは、もっとシンプルで安いマーケコストを実現できるアプローチに負けるよとなれば、Tポイントカードを店頭で運用すること自体が高コストであり、要らない子になってしまうわけです。

 ではCCCが何か悪辣なことをしているのか、暴利をむさぼっているのかというとそうでもなく、単に役立たずなだけで、頑張ってはいると思うのです。また、ベクトル志向で尤度の高いデータを大量に持って運用するというのはCCCならではなので、世界のどこかに私の知らないCCC向きの最適なビジネスが存在するのかもしれません。ただ、私の観測範囲では、リクルートにも楽天にもイオンにもCVRで負けているCCCがやろうとしていることはまあなんつーかアレだなという感じにはなります。

 なんでCCCはあれだけ購買データ持ってて優れたデータマイニングの仕組みも組織ももっててCVR低いのかというのは、ごく単純に出口の決済データでろくなもんをもってないからじゃないかと思います。というか、Tポイントカードの利用店舗の単価がゴミなので、ゴミ利用データしかもってないんじゃないかというぐらい、安く弱いアウトカムしか出てこないんじゃないかと感じます。

 たぶん、この辺はCCCの現場も「分かってるけど負け戦」なんでしょうし、他の事業者系に比べて弱いアウトカムでも頑張っていこうにもJRもドコモもauも自前のポイント経済圏を持ち始めればCCCは草刈り場にならざるを得ません。コアとなる金融事業もなければ高額利用者データもないのでは厳しい部分はあるかもしれません。「そんなことは最初からわかってたはずよ」って母ちゃんから怒られるかもしれませんけど、まあなかなか単独ではこれから厳しくなっていくでしょう。

 CCCはこれからフィンテックだーみたいな話もあるみたいですが、私も楽天陣営にいてもなお、そう簡単じゃないぞというのがサービスに紐づいたフィンテック界隈のむつかしいところです。だからこそ、CCCには独立系としてもっと頑張ってほしいと思いますし、引き続きいろんなサービスの先鞭をつけてほしいと願うところですけれども、やっぱこう、この界隈も個人に関する情報の取り扱いのすったもんだを経て、結局はリタゲに戻ってきちゃった、リタゲを超えられるCVR取れないなら仕組み自体を持っとく必要もないじゃんって感じになりそうなんですよね。

 もちろん、できることはたくさんあるのですが、これをやればCVR高いぞ、リタゲ超えるぞってのがあればいいんですがねえ。

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 どういう理由か、このネタをまとめて東京大学で話した際に整理していたのですが、これ、いままでのネット炎上のメカニズムだけではどうにもならない要素を含んでいて、それは単純に「威力営業妨害に類する話として処理するべきなのか」とか「学術的に保護すべき主張の多様性と、社会的に有害なヘイトスピーチとをきちんと区別するべきなのか」などという結構深淵な話に収斂していくので、議論は見る人の価値観の問題に落とし込まれて行ってしょうもないことになるわけですよ。

 私個人の意見はというと、正直百田尚樹さんからブロックされているので最近の彼の主張は知りませんが、彼が執筆した『殉愛』を巡る騒動は彼自身が取材対象にのめり込んで事実確認をしないまま執筆してしまう書き手さんであると同時に、それ以外の著書で見るとヒロイックな事象を小説に落とし込ませればかなり天才的な作家であることもまた事実です。作家としての価値と人間性は別、としたときに、彼が講演に呼ばれるのは作家としての価値だが、根拠不明のヘイトスピーチを繰り返し公言する人間性は別の意味で問題とするならば、公の場で彼を発言させるのは相応しくないと考える一橋関係者がいても不思議ではないし、どっちの意見も成立するぞということなのであります。

 その意味では、彼がエッセイとして売り出した『大放言』なんかは典型で、見る人が見れば本音全開の痛快な書下ろしだと絶賛する一方、彼に批判的な人は根拠薄弱な単なる妄言だろうという話になり、ある種の神学論争みたいになるわけです。それを大学で言論のひとつとして講演させることの是非でいうならば「まあ控えとけや」となるのが最大公約数なんだろうなと思うわけです。

 敢えて極論を言うと、これは『狂人の価値』の話であって、教科書的、教条的な「人の良いところを見て評価しましょう」という一般論を当てはめていいのかという問いです。少数の顧客に絶賛される百田尚樹さんに、多数の一般人に唾棄のように嫌われかねない側面を見たとき、際立った芸風の人たちが生きる一線を見る気がします。メディアビジネスで言う「ロイヤリティの高い少数客をしっかり握ったクリエイターの勝ち」という話が拡大解釈されていくと、売れる大作家が人間的に、または政治的に物議を醸すときのそこはかとないタブー感はどうしてもあるわけですよ。

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 そこには嫉妬もあるだろうし、むつかしいところなんです。以前も書評でピース又吉直樹さんの『火花』を擁護したら全力で叩かれましたし、いまでも筒井康隆さんの小説が好きだというと微妙な表情をされることは経験してます。百田さんのことを好意的にも酷評もしたくないという雰囲気は、出版社界隈では特に出るぐらい、作家タブーの際たるものになっちゃってるんですよね。

 だから、冒頭の話で言うならば、あくまで百田さんの政治的、社会的な言論を聞くという立て付けではなくて、ベストセラー作家が教える「読まれる作風の作り方」みたいな作家性に依存したところに論点をもっていっていれば、そこまで問題視されることは無かったのかなと思うわけですが。

 なもんで、百田尚樹作品を知るうえで知ったほうがいいのはむしろ『殉愛の真実』のほうだろうと思います。

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