月別アーカイブ / 2013年12月

 いつも畏友・中川淳一郎さんと漆原直行さんとでやってる書籍イベント『ビジネス書ぶった斬りナイト』というのがありまして、また濫読系読書家メディアになっているスゴ本も人気を集めるなど、いやー、本ってとっても楽しいですねと思える日々が続いております。言っておきますが、仕事や育児に疲れて現実逃避をしているわけではありません。



ビジネス書ぶった斬りサイト(仮)

http://buttagiri-site.cocolog-nifty.com/blog/

わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

http://dain.cocolog-nifty.com/



 で、本を探すのに「話題になっているのを買う」という行動様式に偏ると、例えばamazonでベストセラーをピンポイント買いするケースが増えてくる。でも、それはソーシャルメディアやネットなどで巧妙に宣伝された書籍のみが売れていく傾向に拍車をかけてしまうわけですね。別に通だから、読書家だから、こうだっていう話じゃなく、Kindleにせよ電子書籍にせよ「より良い本と出合う」ために金銭と時間を遣ってでも邁進したいと思うとき、本屋という仕組みはベストだと考えるのです。



 てなもんやで、今年一年も暮れますけれども、ここ一ヶ月ぐらいで面白かった本を列挙してみたいと思います。








■『金融の世界史―バブルと戦争と株式市場―』(著・板谷敏彦)





 月刊『MONOQLO』の書評連載で取り上げたところ、反響が大きかった一冊です。ある意味で金融史に興味のある人たちからすれば『バブルの歴史』その他で南海泡沫事件やらチューリップバブルといった定番は良く知っているところも踏まえ丁寧に論考している一冊です。



 これ、金融が期待の産物であり、貨幣経済は常にバブルであるという定番ネタを知らなくても、通説金融史を通しながら「そういえば、自分の仕事って本来の価値と比べてどれだけ期待を集めているのかな」というような着眼点も得られて良いと思います。といって、通読するのにそれほどの時間はかかりません。この本をレファレンスにして、他の書籍へ飛んでいくのもまた面白いかもしれません。



■『専門記者 200人が選ぶ 明日を拓く55の技術』(編著・日経BPテクノインパクトプロジェクト)





 最初は何がぶつかってくるんだろうというドキドキ感があったんですが、ページをめくってみると思った以上に明日が拓いていたのでお奨めです。まったく仕事に関係ないけど、ちょくちょくケンプラッツや日経コンストラクション、日経アーキテクチュアなど流し読みしておったわけです。ただ、技術の概要を眺めるだけで「ヴォー すげー」と感じられるのは適度に抽象化され、また書き手の技術に対する熱量みたいなものが伝わってくるからなのでしょう。



 私の良く知る領域では、さすがにワイドギャップパワー半導体や光伝送といった、もう手に届く立派な技術についてもしっかり取り上げられています。これら一個一個の技術分野で着実な研究開発ができていけば、我が国は明日を拓く力を磨き直せることでしょう。



■『繁栄と衰退と』(著・岡崎久彦)





 最近の本ではないですが、このところの安倍政権の外交に一定の影響力を与えている岡崎久彦さんの好著です。純粋なヨーロッパ史の俯瞰という点ではやや異論が出る部分もあるかもしれませんが、経済力に対する嫉妬も含めた感情によって経済は大きく左右されるものだという点で、板谷さんの『金融の世界史』と異なったベクトルから知識を補完できる形になります。



 引越をした荷物を整理しているうちに発見し、用意もそこそこに思わず読み直してしまったのでここに掲載するわけなんですけれども、amazonで見たらもう出てないんですね。惜しいことです。



 そのうち、もう本屋で買えないよ選書でもやろうかと思うぐらいですわ。



■『勝ち抜く力 なぜ「チームニッポン」は五輪を招致できたのか』(著・猪瀬直樹)





 例の5,000万で埋没した我らが前都知事猪瀬直樹さんの手による、スキャンダルの渦中に出版されてしまう運命の書であります。この本の発売日が著者自らの辞任会見と重なって、ある意味で「おいしい」わけですが、それを抜きにして純粋に書籍として読むならば、猪瀬直樹という作家としてのそれではなく、著名人本の立て付けのように感じられます。



 ああ、猪瀬直樹さん急いで書いたんだろうなあ、または口述筆記の体裁でライターに書かせたのかなあ、と思うようなレファレンス性の低い内容で、その代わり一人称として猪瀬直樹さんが取り組んだことが時系列に羅列していて臨場感はとてもあります。本書で惜しいところといえば、やはり著名人の関わりばかりが前に出て、共に誘致に汗したであろう事務局や都職員、官邸の面々ほかの具体名がほとんど見られないこと、また誘致に大きな貢献を果たしたはずの安倍政権の担当や森喜朗元首相、あるいは広告代理店の皆さまといったところがごっそりと抜け落ちていたところでしょうか。もう少しそのあたりに幅広く目配せができる御仁であれば、スキャンダルに見舞われてももう少し援軍が出ただろうにと思うところであります。



 ゆるゆるとぶった斬りブログの書評も増やしていこうと思いますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。


 訴訟や摘発が怖いくせに社会派気取るのは良くないと思うんですよね。



秘密保護法の思わぬ余波… 「ブロガーも処罰対象?」で時事評論「断筆」相次ぐ

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/131230/crm13123012010011-n1.htm



 記事中にある「響堂雪乃」とか「陽光堂主人」など、知らないんですけど。



 ガセネタ流して盛大に祭り上げられた上杉隆さんならともかく、ネットに文字流すことを活動としている人が、日本社会にとって真に大事なことだと思った内容を「処罰されるかもしれないから」と日和って断筆するならその程度の話だったということじゃないでしょうか。



 ただ、いろいろ問題意識を持って話を聞きにいった先が、国会議員や秘書や公務員やOBだったりすると、書いている私だけではなく先方にも迷惑がかかることもあるでしょうから、それはそれで配慮することはあるのかもしれませんが、基本的には取材先が議員や公的機関だから社会時評をしなくなるとかそういう話はないでしょう。


 むしろ、そういう特定秘密保護法を拡大解釈し、ブログも含めた社会時評その他与太話にまで処罰の対象が及ぶのだという荒唐無稽な話を前提にした結果、過剰に牽制されすぎて言論空間が自粛ムードになって封殺されることのほうが問題じゃないですかね。



 日弁連は、このようなことを言っています。



秘密保護法は必要?

http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/secret/about.html



 もちろん、そのような意見があることは否定しません。日弁連はそういう問題を常に一定のスタンスで取り上げ続ける立場ですから、それは理解します。



 秘密保護法に反対の論陣を張ったメディアも含んで、そもそもが日本の情報保持体制や罰則規定が乏しくスパイ天国とされてきたこと、そして実際に大きな情報漏洩が行われた結果、時の民主党政権も情報保護法の必要を主張していたわけですよ。



民主党&福島瑞穂さん、特定秘密保護法案推進派でした!【ブーメラン】

http://www.youtube.com/watch?v=SgIgxusvQnU

民主党、特定秘密保護法案でも「ブーメラン」 防衛秘密、大半は民主党政権で廃棄されていた

http://www.j-cast.com/2013/11/21189624.html

尖閣ビデオが流出した時、社民党や共産党は何と言っていたか?

http://hamusoku.com/archives/8163227.html



 私たちが日ごろ言う「政権担当能力」というのは、こういうところに出るんじゃないですかね。与党になって、機密情報の漏洩がマズいことを知る、しかし現状の法体系ではカバーできても実効性や処罰が甘い、なので然るべき法律を設置しておかないと危機対応ができない、とね。



 で、そういう大仕掛けがある中で、仮にブログで書いたことが問題となって秘密保護法によって逮捕だっていう話になったとしたら、それは粛々と受け入れて罰を受けるまででしょう。議員や役人から情報を仕入れて社会問題について論じるってのは、そういうリスクを負う世界になりました、というだけで、別段情報の仕入れもせずにメディアを見て社会時評やってる人たちは無関係じゃないですかね。



 秘密保護法は騒がれすぎて、なぜかブロガーまでもが咎を負うのなんのという話になってて微妙すぎますが、変に騒ぐと「ブロガーの権利を守れ」とかいうブロガー協会みたいなのが上杉隆さんみたいなのの手によって立ち上がりかねないので、むしろそっちのほうが気になりますね。



 そんな摘発されるかもしれないほど際どいネタでブロガーが逮捕されたりしたら、これこそが勲章だと。おいしいと。そう思う次第です。



(補遺 19:25)



 さっそくメディアの方からご意見を頂戴しました。



[引用] 山本さんはご自身の両足で立っておられる。しかし、新聞記者はいま以上に、当局からの情報に依存し、彼らの発表がなければ紙面に載せられないという悩みを持つので、そこはお手柔らかに。



 それはそうなのかもしれませんが、メディアで情報を職業人として扱っておられる方こそ、倫理観を持って社会問題に取り組んで欲しいというのが国民の率直な想いなんじゃないですかね…。



 報道って、そういうもんだと思うんですわ。尊敬する人が多いのも、肝の据わった報道の人たちがいるからこそでありまして。


 メルマガでも書きましたが、いまいろいろと『ハーバード流宴会術』の児玉教仁さん率いるグローバルアストロラインズ株式会社の『自分新聞』他のサービスが問題になりつつあります。



 興味深いのはこちらです。



FACEBOOK プロモーション

http://www.peeep.us/1f197a81



 この『ハーバード流宴会術』とクロスプロモーションしませんか、という話なんですが、このFB上の『ハーバード流宴会術』は『自分新聞』他サービス利用者に「いいね!」を強要して積み上げたものであります。



【重要】自分新聞をスパムとする発言・ツイートに関して

http://www.peeep.us/6e1f6d9f


 すでに指摘されていますが、『自分新聞』を利用するためには『ハーバード流宴会術』および男女のマッチングサイト『omiai』に「いいね!」することが求められます。すると、FBの広告に自分の名前やプロフィール写真その他がマッチングサイトの広告に利用される可能性があるわけで、単純に流行モノの『自分新聞』サービスを利用したいだけなのに、本来利用するつもりもない『Omiai』に「いいね!」を押すこととなり、自ら削除しない限り利用され続けるかもしれないわけですね。



自分新聞を使う際の注意!

http://demiblog.info/2013/12/jibunshinbun-2013/



 一連の問題は「スパムではない」という主張をグローバルアストロラインズ社はしているようですが、デジタルマガジン指摘の通り、以前、べらぼうに高い「いいね!」スパムをビジネスとして行っていたネタもあるので、興味深いところです。



252万円払うと『Facebook』で“30,000いいね!”してくれるそうです。バカか

http://digimaga.net/2013/08/gastrolines-facebook-promotion-sucks



 個人的には『ハーバード流宴会術』の本自体は面白く読ませてもらいましたが、本件はどのように抗弁しようと「利用したこともなければ、ジャンルそのものに関心も持たない『自分新聞』利用希望者が、男女マッチングサイトの『いいね!』を押さないとサービスを利用できない仕様」にしている限り、スパム扱いされることは仕方がなかろうと思います。



 児玉さんという人はそんなFB便乗のスパム紛いのことなどせずとも仕事のできる人だと思うんですがねえ。何が彼をそうさせてしまったのでしょうか。


 毎度楽しい話題をネットに提供してくれる家入一真さんですが、来年2月の都知事選に向けてウェブ界を代表する新たな泡沫候補として名乗りを挙げたのは記憶に新しいところです。



家入一真『2013年末スペシャル』都知事選出馬表明

http://kirik.tea-nifty.com/diary/2013/12/post-3148.html



 そんなヲチャーの高まり続ける期待をよそに、どうも家入さん、都知事選出馬を諦めたという情報が金髪ジャーナリスト方面から寄せられ、本人に直接伺ってみたところ「出ません」。



 そうですか…。


 この寒波訪れる年の瀬の風が沁みる、まことに残念な展開です… これではイケダハヤト師でも燃やして暖をとらなければ新年を迎えられません。というか、家入さんの都知事選出馬を絶賛していた著名人や取り巻きはなぜ「お前は都知事選に出ろ」と説得してくれないのでしょう。



 J-CASTやねとらぼまで野次馬にやってきてこれだけ盛り上げたのに、あんまりだ。



お騒がせ起業家・家入一真が都知事選出馬? ホリエモン、堀潤、ロンブー淳らが応援

http://www.j-cast.com/2013/12/20192348.html

家入一真さん「1000RTで都知事選出馬」とツイート→あっさり達成

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1312/19/news127.html



 で、家入さんに都知事選出馬見送りの理由を聞きました。



[引用] 元旦のニッポンのジレンマ、どうしても出たい



 ……。



 そうですか…



 まあ… 出馬予定のある人は放送法上の問題その他もあり、一般メディアには… 出られませんからね…。気持ちは… 分かりますが… どうなんでしょう。



 やはり、私の希望としては、ノリで都知事選出馬表明→馬鹿が騙されてクラウドファンディングを通じてうっかり供託金分300万円以上集まってしまう→本当に出馬→選挙活動で家入モード全開でろくなことをしない→面白がった著名人がそれに加担→貫禄の泡沫候補、万全の体制で落選→供託金没収→公職選挙法違反で加担した皆さんが堂々書類送検→あの辺の人たちが一掃されて残念なウェブから次の世代へバトンタッチ→家入記念館が建立という流れだったわけですが、とても残念です。



 これでニッポンのジレンマがクソだったら何のための都知事選立候補表明だったのか、そして釣られてワクテカしていた私たちが消費したカロリーは何だったのかが改めて問われる展開です。



 これはニッポンではなくて、ヲチャーが感じるジレンマですね。

 家入一真さんには来年いま以上の騒動を期待して参りたいと思います。



 良いお年を。


 手慰みに、FBの記事でも。



Facebookはなぜ衰退したのか?そしてこれからのSNSとは?

http://gigazine.net/news/20131228-the-end-of-the-facebook-era/

The End of the Facebook Era

http://takeaswig.com/the-end-of-the-facebook-era



 GIGAZINEでも指摘があるとおり、10代のアクティブユーザーの減少はコミュニティの勢いの急速な衰えを惹起する可能性があるんじゃないかと思うわけですね。そこのお前、mixiの悪口はやめろ。例示されているmyspaceその他、一度勢いが途絶えたSNSサービスは一挙に過疎化、墓場へと向かっていくのも同じ轍なのかも知れず。


[Quote]



As a result, we tend to see people sharing only their proudest moments in an attempt to portray their best selves. We filter too much, and with that, we lose real human connection.




10代のFacebook離れが加速しメッセンジャーアプリにユーザーが流出

http://gigazine.net/news/20131124-teenagers-messenger-apps-facebook-exodus/



 コミュニティの主戦場が、インスタントなメッセンジャーアプリにシフトしたトレンドが10代を覆い、そこからコミュニティの代謝が衰えて過疎化が始まるというのは分からなくもない仮説です。だからmixiの悪口はやめたまえ。恐らく、SNSとしてのイノベーションというのは連続的なものではなく、たとえFACEBOOKが問題の所在に気づいて10代に相応しいサービスを追加開発したとしても、レガシーなものや巨大なものは必要とされていないというただ一点で拒否られる可能性があるんでしょう。



 UIであれ足跡機能であれ評価システムであれ、最終的にはこれらの全体のデザインというのは単品の完成度に対するユーザーからの支持なのであって、そこから発展させればいつまでも青天井で伸びていくだろうというわけではない、ということを改めて知ったことになります。そこから先にLINEがどのように影響力を増していくのか、あるいはmixiがどのようにさらなる過疎化の道を歩むのか、いろいろ吟味しながら話を眺めていくと意外といろんなものが見えてくるのかも知れません。



 ところで、はてなはどうなるのでしょうか。


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