月別アーカイブ / 2009年08月

 あまりにもアレが速すぎて、視認すら満足にできない小池百合子女史が、開票後10時間以内で早くもアレであります。それにしても速い。風もきっちり読み切ってのアレ。まさしく政界の呂布であります。お前、比例で復活当選やがな。

「民主と協力し国益考えたい」 比例復活の小池元防衛相
http://sankei.jp.msn.com/politics/election/090831/elc0908310154066-n1.htm

 いまのところ、与謝野馨先生の動静は伝わってきてないんですが、都議選敗退後の党人派の動きがあまり見られないのもまた微妙です。どうなってしまうんでしょう。

 小泉元首相がぶっ壊したものは、自民党ではなく、政権担当能力の持てる政治家を育む仕組みそのものじゃなかったかと思う。

 相変わらず時間がないので、多少途中の議論は端折るけど。
● 政治家は技能者

 一口に「大物議員の落選」というけれど、その中には年齢や地盤の問題で次の選挙で仮に風が吹いても勝てない議員が出てくる。引退に追い込まれるのは仕方ないにしても、自民党であれ国民新党であれ、省庁操縦法だけでなく、議会日程や政策に強い議員は基本的に議席を守れない傾向が顕著になっている。

 それら大物議員を叩き落すのは、風に乗った新人議員で、経歴を見るに必ずしも政策に詳しくなく、特定の利害を代弁するようなスペシャリストが起用されているケースが多い。彼らがそのまま民主党が新しく作る政治システムに組み込まれ、副大臣などを経て政権担当能力を担う立派な議員になってくれれば、日本にとっては「投資」で納まる。

 ただ、これって次の選挙では別の風が吹いたら容易に落選することを意味する。小泉チルドレンの無残な選挙結果を見るに、必ずしも若くて新鮮であれば議席を守りやすい、とはならない。小選挙区+比例代表のいまの制度だと、ちょっとした得票率のズレが何十議席もの当落の差を生み出す極端な政治構造を作りやすい、という事情はある。でもそれ以上に、熟達した職業政治家の育成が困難という状況だと、仮に次の選挙が反民主の風が吹き荒れたとき今度は民主の大物が次々落選という体たらくになる危険性すらある。

 これは、結果として民主党が目指した脱官僚依存、政治家が政治を取り戻す、という掛け声とは逆の現象を惹起するだろう。なぜなら、経験の足りない政治家が閣僚となり、現場を取り仕切る官僚が政治家を手玉に取ることは容易に想像できるからだ。民主党は、民間からの積極的な任用で、職能の足りない政治家の補助をしようと考えているけれども、率直に言うならばいま以上に政治と民間の癒着が進む可能性だって否定できない。

● マニフェスト選挙について

 民主党はたぶん掲げたマニフェストのうち重要な幾つかの演題を守ることができない。中央突破で実現しようとするかもしれないけれども、結構大変なことになるんじゃないかと。

 まだ情勢調査の内容はきちんと読み込んでないけれども、有権者の3割強は、マニフェストを重視し、同じく3割ぐらいは政権選択を重視したという。マニフェストもある意味で政権選択のことであるから、有権者の6割が政党本位の投票行動であり、ここから「民主を選択したというより、反自民の風に乗って民主が大勝した」と報じられるのは至極真っ当なことなのだろう。

 問題は、過去にも公約を守れなかった与党が酷評に転じてきた経緯があったことだ。マニフェストは過去の政治における公約と同義か、それ以上にコミットする性質を帯びてる。両立しない政策が山盛りで、おまけに鳩山代表は選挙戦の最中に赤字国債は出さないと宣言してしまった。本当に、実現できないと思うんだ。「実現できない」と指摘する選挙戦を展開した自民に言われるまでもなく、まあ無理な政策も含まれておるよね。どうするんだと。

 これらのマニフェストの実現状況を確認、把握し、実現へ向けて統御するのは国家戦略局なる新組織であるという。ここに、重大な権限が付与されるのはまあいいんだけど、そこで実務を取り仕切る人間は民間人ということは、必ずしも国民の請託を受けたわけではなく、高級官僚のように特定の方面の政策に熟達したわけでもない人々が任用されてしまうということだね。

 これが機能するように仕切るためには、相当努力しないといけない。

国交・農水省が概算要求発表、民主は見直し方針
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20090831-OYT1T00831.htm
[引用]新政権発足後に設ける首相直属の新組織を中心に予算編成を進める考えだ。

● 「お手並み拝見」がむつかしい

 官僚なんかと話していると、選挙前から「民主政権になっても、一年持たずに分解する可能性が高いから、長くても二年我慢すれば嵐は過ぎる」と見る向きが多い。まあ、民主はずっと脱官僚依存を掲げてメディアシフトを敷いた作戦を続けてきたわけだから、当然官僚はしばらくの冷や飯はやむなしという考えになるだろう。

 ただ、官僚が二年ぐらいの一回休みと割り切ったとしても、国民生活からすると二年って結構長いよ。ましてや、民主は単独でも安定多数で、当初は彼らの理想の国づくりのために、いろいろと頑張って既成のシステムを変えようとするだろう。現段階で、民主党にはこれといった青写真もないまま大勝してしまったので、子供手当てとか福祉分野以外で明確な政策目標を作り上げないまんまの状態になってる。

 で、政策課題としては、結構待ったなしになってる分野はかなりある。財政はもとより、金融、とりわけ銀行行政や、地方財源、薬価など医療費、安全保障(ソフトパワー系)、知的財産、他国との租税協定や税制のキャッチアップなど。どれも、国民生活に関係はあるけど国民には直接知り得ない重要な事案ばっかりでね。そりゃあむつかしすぎるから選挙対策のたの字にもならないから無視され放置されてきた事案ばっかりだけれども、この辺を担当しうる人材が民主には見当たらなかったので、どうしても民間から連れて来ようという話になる。

 そうなると、実名出してもしょうがないかもしれないが、有識者として榊原英資氏とか取り沙汰されるようになるってわけで… 彼が良いか悪いかは立場によって評価も変わるとは思うけれども、彼は元大蔵官僚でいろんな思惑もありつつもミスター円とか言われてた元財務官。本人や周辺の思惑はどうであれ、一度は自民政権中に財務官を歴任した官僚サイドの人で、民間に転出すれば元官僚であっても官僚依存ということにはならない、という便法になるのだろうか。

 それ以外には… まあ、いろんな立場や考え方の人がいるとは思うけれども、カタカナ系コンサルティング会社の人たちや、メディア系企業あがりのジャーナリストなどが、国家戦略局なる枢要部門の人員として登用される可能性は高まる。当然、国家公安委員会や、証券取引等監視委員会といった保秘が前提のポジションに対しても、情報開示や提供を求めてくる。

 このあたりの要諦というのは、とりあえずやってみました、お手並み拝見では済まない規模の情報が国家から流出することが確実なんであるよ。なぜなら、任期が決まってるし、民主もいずれは下野するわけだから。じゃあいままでが良かったか、と言われると襟を正さねばならない部分も多々あるけれども、少なくとも紐のついた人物を土足で上げるようなことはなかった。はず。

 逆に、その辺の土地勘に優れて差配が自在の逸材がここに押し込まれて権限を与えられれば、修羅の如き活躍が見られることだろう。そのぐらい、このあたりの部門には手付かずで様子見判断のまま放置されてきた事案が多すぎるんだろうと思うんだけれども。お手並み拝見でリスクを減らせないんだから、民主執行部が相当運が良いことを期待するほかないと思う。さもなければ国難ということで。

 さてさて。

(追記 15:30)

 主が変わって、私たちも環境に適応しようと努力することを怠らずに頑張っていくほかないと思うんですよ。政治の安定が国益に資すると考えて、毎日精励していくほかないと。はい。

(追記 16:46)

 「素人政治」という表題がピンと来ないというメールをいただいております。そうかもしれません。極端な類例ですけど、事実そういうことのようなので、これでも読んどいてください。もちろん調査しますけど、与党になっちゃったんで、経歴に問題がなければ何事もなく次の選挙まで彼女は「選良」ということになります。

【43歳無職女性】 9時~22時勤務・無休のバイト先で名簿に名前を書いたら代議士になっていたでござるの巻
http://birthofblues.livedoor.biz/archives/50901575.html

 最初、彼が何を主張しようとしているのか、私にはよく分からなかった。

競争が友愛を築く
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/8c0f4f37800d4ba31f00651ee1d40693

 引用された記事を読むに、池田信夫氏が主張しようとしていることを補強するような論旨でもないでな。

Competition builds trust
http://voxeu.org/index.php?q=node/3906

 そしたら、ひのきの棒を持った勇者が登場。

またしても池田信夫氏の捏造
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-8afc.html

 フランソワ氏の記事を除いて、単純に池田氏が池田氏の言いたいように論述してれば、別に不具合はないのだが…。恐らく問題点は海外の有識者のそれっぽい言説を自説の補助、強化の目的で、趣旨を取り違えてもとりあえず引用してくる池田メソッドにあるんだろうなあ。捏造というよりは、確信犯に近い。

 でもそれが池田信夫氏の魅力なので、引き続きヲチしていきたいと思います。

 ちと現在大変忙しく… きちんと議論できる状況じゃありませんが、気になったので触れておきます。
 選挙期間中ですけど特定の政党の何かをあれこれするものではないことを事前にお断りしつつ…

農政に見る民主主義の罠
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090827

 まず、引用されている東大本間教授のデータは真正なものです。ただし、そこから続く論理展開がまったく間違っているように見え、結論はとんでもない内容になっています。民主主義も一票の格差も本件では関係ありません。なぜなら、本間教授の引用物はあくまで米作における経済規模を段階別に分類したものに過ぎないからです。
 また、兼業農家が所得のごくわずかしか農業で稼ぎ出していない事情はその通りですが、ここには自家消費分が含まれておらず、本気で兼業農家が三万円程度の収入を維持するために農業を行っていると考えたのなら、かなりやばい論理構成になると思います。それに、これら小規模農家の投票行動が農業政策の良否で決定されるという投票行動分析は明示されていません。

 大規模農家は小規模農家に比べて効率が良い、だから大規模であるべきだ、というのは、ある程度賛成です。ただ、だからといって、小規模農家の経済性を否定する議論は意味がないかと思われます。中には退職されたあとの充実を求めて小規模農家になられる方や、代々農地を持っていてこれを守っている非選択の小規模農家も多数存在しているからです。

 もちろん、文中「この人達は本当に農家なのでしょうか?」とありますが、立派な農家ということになります。

 さらに、chikirin氏の分析では畑作や果樹作の小規模農家はごっそり範疇から外れています。山間地で農地を集積できず、わさびやみかん、茶などを栽培している農業人口はまるで無視され、高度集約したり大規模化がそもそもできない地域の農業を、水田米作のように法人化が割合容易な世界と同じレベルで比較する論理的ミスを含んでいると考えざるを得ません。

 高度集積等の問題については、まあ面倒くさいのでこの辺の資料をあたってもらえれば分かるかと思うんですが、農地の集約化は、とりわけ農業を主たる収入源としているグループではそれなりのスピードでとっくに進んでいるのが現状です。米作でいうなら硬直化した米価や、減反政策の微妙な失敗、農協などファイナンス側の不充分な対策といったあたりは農業政策の失政として槍玉に挙がるんだろうとは思いますが、生産性という意味ではchikirin氏に言われるまでもなくここ十数年は上がってきているように思います。

 単に、貿易が自由化されたときに円が強すぎて農家の合理化努力だけでは根本的にどうにもならないので、都市部への生鮮食料品の提供で随時配送できるよう、むしろ農家自体が小口化、多様化していっているというのが実情だろうと考えられます。

http://www.stat.go.jp/data/sekai/04.htm

 で、そのうえで民主主義的な一票格差の問題に論理展開しておられますが、要約すると「農業は大規模化して効率化するべき。それが変えられないのは、老人など小規模農家の政治的発言力が強いからである」というような内容になろうかと思います。

 まあ、一理あるといえばあるんでしょうが… もし、アメリカやカナダのような大規模農家を日本でも出現させ、国際市場に通用するような農業を実施するのだ、という話になりますと、小麦や大豆など世界市場で標準的に取引される価格まで下げられる見通しが立たないと駄目です。

 相場やってりゃ分かると思うんですけど、国内で調達できる小麦なんて二倍以上国際価格より高い、すなわち230%から280%ぐらい合理化して、やっと競争力が出る状態です。大規模農家に転身させるためには資金調達が必要になるんですが、そんなところに誰がファイナンスしますか、という問題意識は普通持つでしょう。

 だから、より消費者価格が上げられるように、無農薬にしたり、産地直送で毎日集荷毎日配送できるように工夫したり、いわゆる都市部のオールシーズンの需要に応えられるようにしているのだと思いますが、これを支えているのは小規模農家群でもあります。

 たぶん、chikirin氏は農政における現状や、一般的な議論、基礎的なデータを当たることなく、単に規模別に分類された農家の所得と就労者年齢を見て、牽強付会気味に民主主義の問題点へと議論を拡散させてしまっているのだと思います。というか、「それは、「子孫に美田を残すため」です」とか論理的に論外で… 新規就農者に退職された高齢者が多かったり、一次産業の割合が多い地域で就農している人はそもそも跡取りがいなくて美田どころではない状況だったり、日本の過疎部における農業自体の持続性が懸念されている状態で、その議論はあまりにも質が低いとしか言いようがないと感じました。

 長年の自民党政治の帰着点として、農政がこれから改革されなければならない、というのは同意。でも、貿易体制に対して関税などによる障壁が撤廃され、日本の農業が環境に適応するために都市部需要に柔軟な対応を進めて現在に至る、という現場努力を無視した議論は幾ら積み重ねても意味がないと思うけどね。

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