長らく闘病されていた元『FACTA』の編集長・発行人だった阿部重夫さんが、リハビリを兼ねて独立し、自分メディアを立ち上げて調査報道の原点を探る事業を始めるのだそうです。マジかよ。

 新メディア名は『ストイカ(Σtoica)』とのこと。すでにパイロット版の募集が始まっているようで、一言、先に言ってくれればよかったのにと思うところ大であります。

阿部重夫 -note
https://note.mu/stoica_0110

 阿部さん、しばらくお加減が芳しくないことは存じていたのですが、骨の髄までジャーナリストなんだなあということで、率直に応援したいと思っています。

ストイカ(Σtoica)を創刊します|阿部 重夫|note(ノート) https://note.mu/stoica_0110/n/n60fce266091f

 結局、私自身は『FACTA』には一本も寄稿することはなかったのですが(本当です)、阿部さんが別の会員制月刊誌『選択』の編集長をされていたころから知己として主に証券系の経済事件でお話をお伺いする機会があり、その幅広い(幅広すぎる)人脈と、信頼できる複数の情報を組み合わせて事件を立体的に把握し記事に落とし込み、二度、三度と繰り返し報じて同じ標的を追い込む調査報道の凄みを拝見しておりました。

 その真骨頂は、ジャーナリスト山口義正さんを起用して一大スクープとなったオリンパス事件に関わる問題、そしてFIFAやオリンピックを巡る電通の一件、さらには鬼才・北尾吉孝さん率いるSBIグループを巡る騒動など、思い返せば調査報道に徹した阿部さんの『FACTA』がつけた一番槍がきっかけとなって世の中が問題に気づき、驚き、動いたというものも少なくありません。





 ある案件では、私がとても親しい企業の経営者が阿部重夫さんの筆に激しく追い立てられ、ツーブロック黒光りゴリラの典型だったのに、半年もしないうちに秋ナスの漬物みたいな風貌になっちゃったのは印象的でした。怖ろしい。実に怖ろしい。人間、上手くいったなとふんぞり返っているところへ、突然ガラリと襖が開けられて槍持った阿部重夫さんが闖入してくるという「好事魔多し」そのものだろうと思うわけです。

 悲しいかな、一人の読者として『FACTA』を見たときに、昨今は良くも悪くも筆のノリが悪くなったな、いかな阿部重夫さんと言えどネタが枯れることがあるのだと思っていたら、実は結構前から健康問題が理由で『FACTA』の現場からはずっと離れていたことを知りました。それを先に言ってくれ。やはり良いメディア、信頼できる記事というのは、箱ではなく人が作るものなのだ、ということを改めて感じずにはいられません。

 調査報道の観点から言えば、いまのネットや情報流通ではPV至上主義的な風潮で「量」がモノをいうこんにちにおいて、ぶっちゃけメディアが「質」を求めて調査報道をしても喰えません。よりセンセーショナルに潜入取材をして一旗揚げることはできても、定点観測で広く世間を網にかけながら継続的に問題を掘り起こし、商業的に成功させるモデルはなかなかないのが現状です。調査報道の機能は新聞各社や通信社が担ってきた部分もありつつ、週刊誌も含めて紙によるビジネスモデルの緩やかな崩壊とともにその行く先は危ぶまれているようにも見えます。

 具合が悪いので『FACTA』辞めるって話だったのに、いつの間にか「調査報道をやるために新しいメディアを立ち上げたよ」と笑ってる阿部重夫さんは、人生の最期の瞬間までジャーナリストなんだと思います。何という根性。死ぬぞ死ぬぞと見せかけて、紳士服屋の閉店セールよろしく令和時代最後までしぶとく駆け抜けるという悪い予感もしなくもありませんが、やはり『選択』や『FACTA』を愛読してきたわたくしとしても、これはもう謹んで『ストイカ(Σtoica)』を拝読しないわけにはいきません。

 事前に原稿をくれているわけでは全くないので、まだ『ストイカ(Σtoica)』を一行も読んでいない私がお薦めするのも変な話ですが、きっと阿部重夫さんのことですから、世に栄えるあんな人やこんな人が誌面で真っ二つにされるような調査報道を連発してくれるのではないかと心から期待しております。

 ご関心のある方は、ぜひどうぞ。

ストイカ(Σtoica)を創刊します|阿部 重夫|note(ノート) https://note.mu/stoica_0110/n/n60fce266091f

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