ずっと「面白いですよ」と周囲には薦めていたものの、書評として書くべきタイミングを失していた本書、ちょうどこの本が出るというころに大阪府知事・松井一郎が「都構想実現のために2月には辞任する」と年末にいい物議を醸していたわけであります。

松井・大阪府知事2月までに辞職表明へ 公明を批判 https://www.sankei.com/politics/news/181226/plt1812260032-n1.html
大阪ダブル選 公明「選挙の私物化」 自民「都構想に終止符」 https://www.sankei.com/west/news/190308/wst1903080039-n1.html

 何の本かって『維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か』(善教将大・著 有斐閣刊)というというハードコアなものなのです。維新の台頭から失墜にいたるまで、有権者の行動原理を実証的に明らかにするというきちんとしたテーマで論じられた本書は、その冒頭から「有権者の行動について、ほとんど理解できていない」というところからスタートし、市民社会と民主主義の在り方のところまで日本政治の機微まで到達していることもあり、興味のある人であれば何度でも通読し、他の政治的事案まで比較対象にし得るメジャー(尺度)にできるんじゃないかというぐらい優れた内容です。

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維新支持の分析 -- ポピュリズムか,有権者の合理性か(Amazonリンクはこちら)

 2012年、衆院選で国政政党・日本維新の会代表代行として橋下徹が54名の維新議員を国会に送り出し、地域政党から国政政党へと翼を大きく広げて、最盛期を迎えます。その後、橋下徹にはスキャンダルに加えてポピュリズム批判で名声を失墜させていくプロセスの中にあっても、地域政党としての維新はその”ポピュリスト”橋下徹がいなくなったあとも、大阪市民、大阪府民から支持され続けています。

 思想的には新自由主義的なアプローチをとる一方、大阪固有の政策課題に関しては柔軟に対応する大阪府知事の松井一郎や大阪市長の吉村洋文について、著者の善教将大さんは大坂の有権者の中にある「合理性」が解き明かすカギとしたうえで実証研究を重ね、本書が問うべきテーマについて政治行動論の面からサーベイ実験を行い維新支持研究を行っています。

 もっとも、本書で用いられた意識調査はGMOリサーチ(1回)と楽天リサーチ(4回)によるものであり、ある程度内情を知るものとしてはお茶や鼻水の出る部分はなきにしもあらずです。でも、何しろきちんとした類例の意識調査が無いのだから致し方がないし、基本的には本書の調査結果に対する信憑性を揺るがすような問題はないと思っています。

 国政政党としての指示が低迷していく中でも大阪での支持が分厚く残り、いまなお多くの有権者が維新を支持している状況においては、維新の指示の根幹にポピュリズム論では説明しきれない(要素としてはあるかもしれない)のもまた事実で、維新の場合、維新の党としての支持態度と投票の実態との関連性が他党に比べて高い傾向にあります。浮き彫りになるのは、橋下徹への支持率自体はさほど高くなく、得票傾向にいたっては他の首長選に比べて橋下徹の得票率は確実に低いことも統計的に明らかになっているあたりで、この辺はとても気になります。あくまで橋下徹に対するポピュリズムであるというレッテルや煽るような橋下徹の過激な言動、高い知名度は維新支持における規定要因のひとつではあれども本質としては他の要因もあることも含めて、本書は網羅的に維新支持と有権者の政治行動についてはっきり論じ上げているのが本書の特徴です。

 同様に、大阪都構想についてなぜ大阪市民は結果として否決に回ったのかについては、明確に「大阪市民の批判的志向性が、賛成票の投票を踏みとどまらせた」とし、また、維新は熱狂的な支持者の数は少ないが、熱狂的な批判者のほうが多い面についても実証的に説明しています。ある種の逆ポピュリズムであり、マイナスのブランドイメージであることは間違いないように感じます。

 本書4章以降は「なぜ維新は支持されるのか」は、前項のポピュリズム判定(他項プロビット推定による党派性の比較)の結果、他の政党に比べてポピュリスト態度は維新支持に直結しているという相関関係は見受けられないことが明らかにされています。逆に言えば、地域政党大阪維新が橋下徹の知名度やリーダーシップによって組織化され活動を続けているものであるとしても、その支持基盤は他の政党に比べて強くポピュリズム的バックグラウンドはあるとは言えないという結論になるわけです。言うなれば、公務員批判や制度不信を積極的に主張する橋下徹の言動はポピュリズム的であるといっても、維新の支持者はより合理的で新自由主義的であり、すでに公務員批判などの政策主張にシンパシーをもっているので、必然として消極的な維新支持を地域政党として重ねてきていたようにも判断できるわけです。これが一転して大阪都構想のように、別段橋下徹や松井一郎のような人物を積極的に評価しているわけではない維新の消極的な支持者がごっそり否定に回るとどうしようもなくなるし、そもそも2012年以降の国政政党への進出後の維新勢力の失速もポピュリズムとは異なる投票のメカニズムがあったことを橋下徹が読み違えた面は強いのではないかと感じられます。

 そして、維新支持の規定要因について社会的期待迎合バイアスも踏まえて維新支持変動確率をふかんするならば、社会階層と公務員不信の観点について本書は非常に丁寧に論考を重ねています。「維新支持には熱狂的と言えるほどの強度がなく、むしろ強度の点から言えば不支持者が熱狂的である実態」の指摘は重要で、また、橋下徹がテレビに出て失言をやらかすたびに「支持者がこれらの要因により支持態度を変化させる一方で、不支持者は、これらさまざまな条件が変化するにかかわらず、一貫して維新を支持しないという態度を貫いている」とまで論じています。まあ、実際数字を見れば一目瞭然なのですが、テレビで橋下徹の一挙手一投足を報じる蜜月時代に高めた消極的支持者が徐々に減っていき、2012年をピークに国政から大阪に戻っていく状況を露わにしています。いわば、地域偏重性が維新支持の重要な規定要因であり、「維新は『大阪』の代表だから(地元大阪府民や大阪市民に)支持されている」という話になるわけであります。

 本書では、維新ラベルの維新支持者との強い投票行動での結びつきを明らかにし、それは必ずしもポピュリズムの帰結ではなく、あくまで大阪の利益を代表する政党として消極的に支持が広がっているにすぎないところまではかなり数字としても明確に示されているのは大きいのではないかと思います。

 そして、第三部では特別区設置住民投票、大阪都構想の投票行動についての分析もしているわけですが、これはまさに今回松井一郎と吉村洋文がダブル辞任し、都構想の是非を問う乾坤一擲の博打に打って出た(ついでに公明批判も行っている)バックグラウンドを示しています。

 ところが、調査結果を見てみると(他のメディアによる調査もほぼ同様ですが)都構想に対して「大阪市民は総じて都構想に一定水準以上の理解を示していた」という推定結果を出しております。結局は、大阪市民はよく理解したうえで2015年5月17日の住民投票では僅差で否決という結果となり、この選挙結果を受けて、橋下徹は大阪市長の任期はまっとうするものの政界引退をするということで、いったんは幕引きとなっているわけであります。第8章では、維新支持態度と批判的志向性について論じているのですが、投票結果は僅差であり、ここで論じられているような「維新支持者の批判的志向性が、有意に反対への投票と相関すること」でひっくり返ったとするならば、松井、吉村ら維新の偉い人が力説し、力こぶを作れば作るほど、そういうことを期待して維新を支持しているわけではない合理的な大阪市民、大阪府民が違う方向に転んでしまうこともまた示唆されます。

 論じられている一連の内容は実証的かつ網羅的で、極めて有用な内容になっているあたりは本書の極めて優れた点であり、著者である善教将大さんの論じる内容から学ぶべき点は多くあります。こういう論証をきちんと分かって松井吉村両氏は辞任からのクロス選挙に打って出たのかは良く分からず、しかしそれでも必要だから現職を投げうってでも出るのだという考えであるとするならば、消極的支持者のかき集めに資するものもあるのでしょうか。

 本書を通して読むと、他の政党との比較の中で、相対的に見てポピュリズム政党と批判されることの多い維新の面白さを理解することができますし、論文を読みなれていない人でも「何が起きているのかが」が順を追って丁寧に解説されているので一読に損はない内容に仕上がっていると思います。

 最後に、欲を申し上げるのならば、ここまできちんと計量的に分析できる筆者が、GMOリサーチ、楽天リサーチを使ってフレッシュサンプルで何回かアンケート取りましたというネタにしてしまわれがちなのは非常に勿体ないなあと思うわけです。これをサンプルに、定点観測を行いより幅広い追跡調査の設計も行うことができれば、例えば維新の消極的支持だった人がどのような事情で何%不支持に回り、その何割が二度と維新支持に戻ってこないのかというようなトランザクションまで追えるようになるのではないか、と思うわけです。ここまで綺麗に仮説と実証を積み重ねて維新を追った類書もなく、またこうして(公明がひっくり返したからとはいえ)都構想を目指してギャンブルをするあたりが非常にセクシーな内容でした。ぜひ積み上げていってほしいと願うのみです。