歩けば清風を感じる良い季節になってまいりました。お空は曇りばかりで、まあるい光も見えつ隠れ致しますが、そろそろ美しくお顔をお出しになることでしょう。月は、日本中どこから見上げても同じものを見ることができ、また、毎晩と拝むことができます。いつでも夜になると現れるお月様は、たった一つしか世に存在しません。不変の真理といった、いつも変わることのなき正しい物事の道筋を、昔の人はこの月の光に例えることが多くございました。
現代の高層ビル群などから見ると、月の光はネオンの光に負けてしまい、実に微弱で非常にか弱い。月の光を知らない人がどれだけいるのだろうか。私も東京生まれで半分東京育ち、18の頃より京都におりますが、やはりこれには鈍感だと思う。
子供の時分に、山梨県の山奥にある知人宅にお泊りをしていたことがありました。そのあたりの道には街灯一つなく、夜になると出歩くことが困難なので、懐中電灯の光と、月の光だけが頼りです。山奥には虫が多く、イノシシ除けの大きい爆竹のような音が鳴り響き、部屋の電気を消すと目が慣れない程の闇を感じ、当時は非常に怖い思いをしたものでした。今考えれば、人が自然に生かされていることを感じた良い経験だったのだと思います。
昨今では数多の光が出現し人々はそれに魅せられております。また惑わされることも多いでしょう。時にそれは凶暴となり、何よりも恐ろしいと思います。昔、2000年問題や、やれエイリアン侵略などが騒がれていた時代がありましたが、恐らくはケータイ・スマートフォンの正体がそれだと確信しています。私自身も侵されつつあり、どうしたものかと頭を悩ませております。
人は光に向かって歩く習性があり、光を求める生き物といっても過言ではないでしょう。時にそれが姿を変えた侵略者であっても。このままでは、古人が見た月の光はもう二度と帰ってくることは無いのだろうと思います。
さて、昨日は能のお仕事にて一休寺に参りました。この橋わたるな等、とんち話で有名な一休さんのお寺です。この日は雨がさらさらと降りましたが、多くのお客様にお越しいただいておりました。夜のお能というのも、雰囲気が静まり風情のあるものだと思いました。
…この頃、涼しくなってまいりましたが、まだまだ水分補給などしながらお仕事をしなければいけません。気が抜けますと、夏の疲れがたたりますので、くれぐれも皆様もお気を付けください。