月別アーカイブ / 2018年05月


小沢の刑部友房が主人となり営む甲屋。今夜のお客は誰かと戸を開ける。これが亡き主君の妻子であろうとは、思いもよらぬことであった…

友春の妻どなたかいませんか」
小沢「どなたでしょう」
友春の妻「今夜泊めていただけませんか」

小沢「旅人でしたか。部屋は空いております。さて、どちらから参られたのですか」

友春の妻「私たちは信濃国より参りました。とある人を尋ねて都に行く途中なのです」
小沢「なんと、信濃国から都ですか。お供の者も連れずに、お子さまとの長旅、気の毒なことだ…。さあさあ、お入りください」

小沢は夜遅くに訪ねてきた 女と子どもの疲れ切った様子を見て、急いで部屋へ案内した。

小沢は この母と子が、信濃国の住人であること、また 自分と同じ信濃国から来たこと、人探しのために都へ上ることなど…話を聞くうちに、何となく己の主君 友春の妻と子であるような気がした。 

「さっきの女の人は信濃国と言っていたな…何か懐かしいような気がしたから、よくよく見てみれば、昔、お仕えしていた友春様の奥様とそのお子様のような
気がしてならん…。もしそうであれば、
こんなに不憫なことはない。間違いであってもよい。とにかく急いで自分の名を名乗りにゆこう」

小沢は急ぎ妻子の部屋に行く。

小沢「申し上げます。実はこの私、宿屋の主人というのは仮の姿でございます。元は信濃国で友春様に、お仕えしてございました。名を小沢の刑部友房と申します。」

友春の妻「これは…あの小沢の刑部友房ですか…!なんと、懐かしいこと…」

「仰る通り。私は友春の妻。そして、この子は 花若です」

小沢「お二方ともご無事で何よりでございます。このようなところで まさか再び巡り会うことができ誠に嬉しく…つい涙がこぼれてしまいます

花若は、父に会ったような気分だと言って、小沢の近くに寄りついた。

小沢「亡くなられた友春様のお顔に本当によく似ておられる…。懐かしいことだ」
  
と、互いに手を取り組むと、懐かしさと悲しみに部屋はあふれた。

今までは何の関係もない、ただの旅人と思っていたが、これが頼み頼まれる三世の契りを結んだ主従であろうとは…本当に彼らは前世からの深い縁でつながっているのだと。そう確かに思うのであった…   
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つづく


<前回までの話>
望月 


少し不思議な光景の
この神社の名は関蝉丸神社
(滋賀県)
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本日はこちらで
奉納をさせていただいた
私は「蝉丸 道行」という曲の
仕舞を勤めました

これやこの
行くも帰るも 別れては
知るも知らぬも 逢坂の関 
(蝉丸 百人一首)
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蝉丸(せみまる)という人は
平安時代前期あたりの
歌人とされていて
おなじみの百人一首でも
その名前が見える

蝉丸はいずれかの天皇の皇子
また、仁明天皇の第四宮と
同一人物であったなど諸説あるのだが
能でもそうした伝説を元に作られた
「蝉丸」という曲がある
ちなみに盲目であり
琵琶の名手と言われている
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本日はその蝉丸を奉納したのだから
誠に有難いことであった

お世話役の宇高竜成さん
有難うございました

最後におまけがあり
私と徳成さんの頭に屏風が倒れてくる
という驚きな事故があったが
幸い我々には何事もなく
お祀りされている蝉丸さんが
感動されたのだろうか
などと 笑いながら帰った
初めての体験
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そして この蝉丸神社では
もう一つ面白い事があった

それは 
お免状 を授与されたこと

何やら有難いお免状…
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なんと
歌舞音曲諸芸の習得を
証明していただけました

その昔 この蝉丸神社の
お免状があると何処でも 
芸の披露を許されたそうな…


本日のまとめ

御神前で芸を奉納できたことは
この上なく嬉しい

己が何者なのか
本当のところは
良く分かっていないが
能を舞う自分はその一部だと
そう改めて実感できるのだ

果たして
人はいつまで自己を見つめ
自分という何かを探すのか…

過去はそのための研究材料
能はそのヒントになり得る
特に日本人にとって大切である
だから僕は能を普及したいのだ









波の浮鳥住む程も 
下安からぬ心かな
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波間に浮かんでいる水鳥は
絶えず落ち着きのない
不安な思いをしているが
私たちの身の上も ちょうど
あの水鳥のようなものだ…

小沢の主君 友春が討たれて
その友春の妻子は
信濃国から逃げ出し、
それはそれは辛い旅を
続けておりました。

不意に訪れる夫の死の悲しみは
ただ闇に浮かぶ月のみが
慰めるだけであった

「私は、信濃国の住人の
安田の庄司友春の妻です。
そして我が子 花若を連れて
旅をしております

さて 私の夫である友春は、
同国の望月という者に
討たれてしまいました

それからと言うもの…

我が家に仕えていた
多くの家来たちは
敵の手により殺された者や
追われて逃げた者、
身を案じて隠れた者と、皆んな
散り散り 居なくなりました

もう 頼りとなる者は
誰一人もおりません

この可愛い我が子を
敵がどこかで狙っていると思うと
恐ろしくて溜まらないのです。

危険な事とは思いながらも
この子を連れて旅に出ることを
決心したのです」

信濃国より外へ出てみると、
故郷の事が名残惜しくなった。

浅間山に立つ煙を見れば、
昔のことや夫の事を
思い出したりなどして余計
歩みは鈍りがちになったが、
今さら戻ることもできず、
足を進めた。

旅の辛さは
その経験のあるものにしか
本当には理解できない。
女と幼い者だけの旅であれば
それこそ言うまでもない。

夜の寒さ、空腹、強奪などの恐怖、
ましてや敵方から
狙われる可能性があれば尚更だ。

ところどころ宿に泊まっては
辛い思いをして、悲しい涙を
流しながらも 旅を続けた。
気がつけば彼女たちは
守山の宿に着いていた。

友春の妻「急いで歩いたので、
近江国の守山の里に着きました。
今日はここで宿をとりましょう」

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つづく…

<前回までのお話>

昔のこと。

季節はお正月。
まだ外は寒い。
ここは近江の国、
守山の宿屋〝甲屋″でのお話。
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「俺は信濃の国の住人だ。
もとは信濃で安田の庄司友春様
という方に仕えていた。
その友春様が殺されてしまったことは、まだ記憶に新しい。
友春様の従弟に
望月秋長という者がおり、
どうやら口論の末、
討たれたというのだ。
俺はその事件の頃は
都におったから、
その悲報を聞いて愕然とした。
事の経緯も知らないまま
急いで帰ろうとしたが、
この俺までも道中で
敵から狙われていると、
さる者から知らせを受けた。
その時の俺は恥ずかしながら、
まだ生きたいと思った。
だから武士として
誠に恥ずかしいことではあるが、
この守山に留まる事しか
できなかったのだ。
こうして俺は生計を立てる為、
この甲屋の主人となった。
武士としての姿を隠し、
暮らしているってわけだ」

と、宿屋の主人が
語りだしたところより
この物語は始まる。

この初老とみえる男、
名を小沢の刑部友房という。


つづく…


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信濃の国の住人 安田庄司 友春(やすだのしょうじ ともはる)は、従兄弟と口論の末に討たれてしまう。その従兄弟の名を 望月秋長(もちづき あきなが) という。

友春の家臣 小沢刑部友房(こざわのぎょうぶ ともふさ)は 事件当時、都にいた。この事を聞くと急いで本国へ帰ろうとしたのだが、その途中で敵が自分を狙っていると聞き、帰国は叶わなかった。

その後、守山の宿に落ち留まることになり、"甲屋"(かぶとや)という名の宿屋を営み、武士の身分を隠し宿の亭主として姿をくらましていたのだった。


別れし主君の 友春の妻は、敵の追手から逃れようと息子 花若(はなわか) を連れ、さすらいの旅を続けいた。その途中、守山の宿 "甲屋"(かぶとや)に辿り着く。

宿の主人である友房は、泊めた旅の母子が、主君の妻子と判り、やがて自分の身分を明かして、主従涙にくれます。


仇である望月はというと、友春を討った罪として領地を召し上げられ、都で裁きを受けていたのだが、それも全て解決した為に本国へ帰ろうとしていた。その帰路、なんと甲屋で宿を借りようとするのであった。


望月のお付きの者が口をすべらせた事により、今夜の客が望月であると悟った主人 友房は、これこそ天の与えた好機と思い、主君の妻子に敵討ちの相談をする。

敵討ちの手筈はこうだ。

主君の妻を宿場で流行る盲御前(めくらごぜ)に仕立て上げ、それを花若に手を引かせて望月の部屋に連れて行き、芸を見せ酒で酔わせた後、スキを見て討とう、と言うのだ。


望月のもとに到着した友房は、段取り通り、寒い夜なのでお酒を勧め、盲御前に扮した母子に曽我兄弟の敵討ちの物語を謡わせます。

途中不審に思われながらも、花若の羯鼓に、友房は獅子を舞い、やり過ごす。

続く余興の面白さに、望月は気を許して酒の酔いに眠気を覚える。ついに臥したる折を見て、友房は花若と力を合わせて望月を討ち取る。


上記がおおよその粗筋である
次の記事からは能「望月」の
簡単な読み物を予定


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