オトザイ君編③



 日曜の夜に福岡でライブをし、車で帰って来て、朝そのまま会社に向かう事もあった。

 ライブのオファーは増えていくが、体力的にはなんとかなっても、スケジュール的に厳しくなって行く現実。
そこでオトザイ君の出した結論は、

「オレはステージを降りる。でも続ける。」

ということだった。
 
 その話を聞いた時、初めはよく意味がわからなかったが、それはこういう事だった。

 バンドとして、更に上っていく為にはより良い曲を作り続けないといけない。しかし今の自分は仕事とライブでその時間をなかなか作り出す事ができない。それなら自分がステージを降りて、仕事と作曲に専念すればいい。

 コージが「こういう曲を作りたい」とアイデアを出してくれれば、バンドがライブに行っている間にそれを自分が形にしていく。それが一番効率的なのだと。

確かに効率的かもしれない。曲が出来ていくペースも倍増するだろう。ただしそれは、オトザイ君自身の「プレイヤーとしての喜び」さえも効率的に排除する事を含めた選択だった。

 勿論僕も含めて、恐らく全てのバンドマンの『バンドをするメリット』の最大要素の1つとして、『ステージでライブをする楽しさ』は絶対にある。

 歌ったり演奏したり煽ったりした時のお客さんの生のレスポンスを体感できる喜び。それがあるからこそ日々の練習や制作、それこそ長時間の移動等にも耐えられるのだ。その喜びを失っても、バンドをより進ませる為に選んだ効率的な決断。

 自分にとっての最後のステージに上る時、そしてその最後のステージを降りる時、オトザイ君はどういう想いだったのだろう。

 初めてフロアから自分のいないバンドを観た時、何を感じたのだろう。
 
 そして時が経ち、そのバンドが無くなるなる事が決まった時、何を思い出したのだろう。

それらは全て、オトザイ君本人にしかわからない。ただ、バンドと同じく僕とタイチが所属していたラップユニットも無くなる事になり、新たにコージの元に、当時まだ出会っていなかったリョウタを除くメンバーが集まった時、当然のようにオトザイ君はそこにいた。

 あの『真面目っ子』に見えた大学生が『やんちゃ』全盛のクソガキに出会って感じた想い。

「こいつとなら、面白いことができる」

形は変わっても、その想いは未だ消える事はない。
 そんなオトザイ君がいつかコージに言った

「コージが音楽を辞めない限り、オレは死ぬまでやり続ける。」

 何故そこまでしてこだわり続けるのかというコージからの問いに対しての

「コージに出会わなければ、オレの作った曲がパソコンから世に出ることは無かったから」

というオトザイ君の答え。

 そんな言葉が交わされた夜も、僕達Xmas Eileenの『聖なる夜』の一つなのである。

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オトザイ君編②



当時の僕は、コージの友人として、また1ファンとして、コージとオトザイ君がライブをする時はほぼ毎回足を運んでいた。当然のように打ち上げにも参加し、同じテーブルで酒を飲み、話し、騒ぎ、酔い潰れている内に段々オトザイ君の人となりがわかってきた。

オトザイ君は、凄く頭の良い人だ。

それは勉強ができる云々では無く(勿論できるからこそ「超」一流大学に在籍していたのだが)、物事を効率的に考えたり、冷静に分析する事が出来るという事だ。『頭が切れる』と表現したほうが良いかもしれない。

そんなオトザイ君だからこそ、自分の中で間違いなく初めて出会ったタイプの人間であろうコージを、そのぶっ飛んだ外見だけでなく、隠された中身の部分で判断出来たのかもしれない。

それはまたコージも同じく、初めて会ったオトザイ君を『大学生の真面目っ子』ではなく『物事を一緒にやっていける仲間になる人間』だと判断したのだろう。実際にそれから2人は数々の曲を生み出し、数々のステージを共にしてきた。

地方のライブ遠征に同行した事が何度かあるが、小さなレンタカーに定員いっぱいで残りのスペースにも機材が敷き詰められているせいで背もたれも倒せない状態を見てよく「密入国者か」と笑ったものだった。その状態で何時間もかけて現地に向かう。それこそ鈍行列車で半日以上かけて帰ってきた事もあった。

当時からコージとオトザイ君の作り出す曲はクオリティが高かったしライブのステージングも抜群にカッコ良かったが、だからこそ悔しい想いも二人は共有して来たはずだ。

そんな数々の夜を乗り越えていく過程の中で、オトザイ君は大学を卒業しこれまた誰もが知っているような「超」一流企業に就職した。
本人はそういう呼び方を嫌うだろうが、『エリートサラリーマン』と『ロックバンドのギタリスト』を見事に両立出来ていたと思う。
ただしそれは、バンドの人気がより上がって忙しくなっていくにつれ徐々に難しくなってきた。
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オトザイ君編①


オトザイ君は僕とコージよりも年上、Xmas Eileenのメンバーやスタッフを含めた『ファミリー』の中の最年長で、ある意味『異色』な存在でもある。(まあ視点を変えてみれば、全員が全員『異色』ではあるのだが)

僕が最初にオトザイ君に出会ったのは、まだ僕とコージが毎晩のように街で遊びまくっていた頃だった。 

当時のコージが現在の自分の姿を想像していたのか想像していなかったのか、それは今となってはわからない。
ただ、遊びでギターを弾いたり鍵盤を叩いたりしながらも、どこか直感的に「入れ墨だらけの悪ガキだけしか居ない集団」では無く「ちゃんと曲が作れる人間」が必要だと思っていたのだろう。

そんな時にコージとオトザイ君が出会った。

当時、オトザイ君は全国的にも名の通った「超」一流大学に通う学生。
同じ「超」でも、コージは入れ墨だらけで筋骨隆々のどう見ても超不良(笑)

そんな「超」対照的な2人が出会ったその日に、オトザイ君は自分の作っていた曲を数曲、イヤホンでコージに聞かせていた。
一つのイヤホンを片耳づつ、頭を寄せ合って聞いてる姿は、端から見れば黒髪センター分けの華奢なイケメン学生がややこしい武闘派不良少年にカツアゲをされている様にしか見えなかっただろう。
僕がコージにオトザイ君を紹介された時の印象も、

「えっ…、なんかオレらと全然違うタイプの人やん」

だった。

コージは今も昔も変わらず初対面の人には年関係なく敬語だし、見た目に反して(笑)すごく丁寧に相手を尊重して扱う。
だからこそ様々なタイプの人達から慕われているわけだが、相手が間違っていれば誰であろうと筋を通す奴だ。

実際、今でも2人で街を歩いていると昔からよく行く食堂のおばちゃんが

「あ!コージ君!久しぶりやん!」

と気さくに声をかけてきたりするのだが、その反面どう見てもややこしそうな入れ墨だらけの人が

「コージさん、お久しぶりですっ!」

と、尊敬と畏怖が入り混じった感じで挨拶してきたりもする。
後者の場合は何も詮索せず、「ああ、昔なんかあったんやな」と思うに留める事にしているが(笑)

本当に言い方が悪くなるが、『大学生の真面目っ子』がこんな破天荒な奴と一緒にロックバンドを続けていけるとは思わなかった。

オトザイ君に聞いてみた。

「なんでコージとバンドしようと思ったんですか?普通に怖くないんですか?」

考えてみれば二人共に対して失礼な質問だが(笑)純粋に疑問に思ったのだ。
するとオトザイ君は真っ直ぐな眼差しで僕を見て、

「コージとなら、面白い事が出来ると思ったから。」

そう答えた。まあ前置きとして、

「そりゃ最初会った時は『うわ。この子、めちゃめちゃ悪そうやなー』って思ったけど(笑)」

とは言っていたが…(笑)

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