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Wild Shrimp "Lapis Blue" 
現在は様々な品種のシュリンプが市場を彩り、賑わせています。ブームのきっかけとなったレッドビーシュリンプをはじめ、シャドーシュリンプやギャラクシーフィッシュボーンなど、その表現も多様化されシュリンプの可能性はこれからも広がってゆくでしょう。
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しかし、過去よりセンセーショナルなデビューを飾った美しい品種たちも、元来自然に生息するワイルド個体たちからであり、今ではそれらの表現の起源は記憶に遠く想像するのが難しいと思います。
また、ルーツや着眼点により同じように見える個体であっても様々な品種名があるのは、その解釈や手がける方々の方向性により差異があるケースも多く、良し悪しは別として複雑な状況にあるといえるでしょう。
ときに競技的にうつる人気の品種とは趣向が違うかもしまうかもしれませんが、新しくワイルドシュリンプ(原種)から独自の着眼点で繁殖、選別、そして改良を行うことが出来たら・・・。
とても達成感のあるストーリーになるかもしれません。
今回はワイルドシュリンプの中でも、地域変異個体が特に美しい青みを持っているワイルドシュリンプ・ラピスブルー(Wild Shrimp・Lapis Blue)をご紹介いたします。
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ターゲットとなるこのワイルドビーシュリンプの一種は離島の極小河川に生息するものであり、パートナーたちに発見されるまでには何十とある小さな島々へトライ&エラーの繰り返し、まさに骨の折れる作業であったようです。
そんな苦労もあってか、ごく限られた一部のチームだけで生息地の情報は共有されています。
シュリンプに対する情熱は国を超えても好き者同士、共感できるものであり、長い友好関係を糧に、貴重なフィールドにエントリーすることが出来ました。
この度、せっかくの経験を同じシュリンプファンに少しでもお届け出来たらとの思いで採集記事といたします。
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ワイルドシュリンプ・ラピスブルー  (Caridina cantnensis var. / Lapis blue)
通常は薄く透明感のある茶色の体色を持つビーシュリンプの1バリエーション。
Caridina cantnensis(カリディナ・トリファスシアータ) の地域変異個体。
香港ビーなどと呼ばれる場合もあるが、採取場所によりいくつかのバリエーションがあり、
流通時には同一名であっても別種であることも多く、ワイルドシュリンプの分類を難しくしているところ。
今回紹介する原種は採集する地域により特殊な色合いをもつ種類で、基本色のブラウンから、うっすらと青みを持つ個体、
ディープブルーまで、個体差も多いタイプである。
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また、飼育する環境、水質を含め、変化もあり、青みを持つ個体が基本色の茶色ベースに変色するケースもあるが、
逆に考えれば自身の飼育環境下で美しさがマッチした個体を選別し、累代繁殖してブラッシュアップするのも一考である。

ワイルドシュリンプ“Lapis Blue”採集記

「中国や香港から輸入されてくる数百、数千匹の中から特徴的な表現を持つ個体や突然変異と思われる個体をピックアップして、シュリンプの新しい可能性を探る楽しみ方がある。さらには現地に入り、自ら生息地を開拓することもあり、原点回帰を含めたシュリンプホビーの醍醐味がある。趣味への情熱がビジネスに繋がるのは冥利につきる。機会があればチャレンジしてみるといい・・・」
とドイツの友人から話をうけたことがあり、いくつかの写真の中で目に留まった黒味が強い青のワイルドシュリンプに衝撃を受けた。このような個体の可能性を引き継ぎ、量産や改良ができるなら、いままでと違ったシュリンプホビーの方向性が生まれるかもしれない。
成否の結果はどうであれ、是非入手してみたくなった。出来れば生息している環境を含めて生態の実を現地で感じることが理想的かと。それを元に今後の可能性を模索できればと考えた。
日頃何かとお世話になっているシュリンプ仲間の誘いもあり、フィールド調査へいざ出陣。
出発前日、持ち込むアイテムを吟味する。近所の河川や他府県への天然採取ならいざ知らず、海外へのフィールドへ繰り出すとなると未知数な部分が多く、例えば酸素ボンベなどは以ての他、携帯用ボンベも当然機内へ持ち込むことができない。現地友人の助人も信頼できるが生体をストレスなく持ち帰るにはある程度信頼のあるパッキングツールを準備したい。網のサイズをはじめ結局アイデアがまとまらないままの渡航となった。
それ以前に天候含め、フィールドに無事エントリーすることが出来るか否か・・・。
こちらからは友人数名と同行、採集はフィールド入りまで時間がかかることもあり丸一日のスケジュールを必要とするようだ。
客観的に現地へ出向けばそれこそどこでもワイルドシュリンプが生息しているような想像が働くものであるが、実際はかなり限定されたフィールドのみとなっている。
とくにビーシュリンプやタイガーシュリンプは外敵の少ない僻地に生息していることが多く、発展開発で日々悪化する自然環境を含め、その希少性は日頃に増している。
過去に採集できた場所も翌年には全壊していたり、水深の大変浅い環境に生息する習性から支流が枯渇していたりと、自然個体の生の姿を拝むにはなんともハードルが高いのが実情である。もちろん悪天候時には渡船不可、増水などにより生息地域にエントリーすることすら断念しなければならず、リスクを伴うため気軽にトライできるものでもない。
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話は前後するが、準備した採集用の網は比較的大きく網の柄も収縮可能なものであったが、同行してくれる現地のパートナーは市販されているシュリンプネットが一番だという。
フィールドに入る前の勝手な想像なら、できるだけ効率よく広範囲にガサガサッーと採集する方が理にかなっていると考えるもの。詳しくは後述するがビーシュリンプの行動はかなりおっとりしているのに、大きな網で効率的に採集できるものではなかったのである。
さて、シュリンプの自然個体採集はいつの時代にあってもチャレンジする方が増える可能性があるのに、何故に静寂を保っているのだろうか、妙なものである。
ワイルドシュリンプ採集は未知数な要素が強く映るのは筆者だけではないが、リスクも大変多いのが、チャレンジを阻む理由だろう。
中国や香港はビーシュリンプ、タイガーシュリンプの故郷であり、10年の過去にも自然個体の採集はかなりの盛り上がりを見せ、たまに発見される美しい個体が採集できるポイントには独占含めたシークレット要素が付きまとうものであったらしい。しかし仲間割れなどの結果、逆恨みで採集ポイントや河川に毒が撒かれ、シュリンプフィールドは全滅した・・・などの悲しいエピソードもあったようだとガイドが教えてくれた。
話を戻そう。

離島へ渡船を使い、いよいよポイントがあるフィールドに上陸。が、ここからが苦悩の道のりであった。日頃の不摂生が祟ってか、急こう配の道のりですっかり意気消沈してしまった。
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半端に準備した採集道具などが身軽さを奪い冬場と思えない暑さに刈られた。
1時間弱でようやく初めのフィールドに到着したが、そのポイント、想像を裏切る
スケールの小ささに目を疑った。
雨水が一時的に溜まるような湧き水支流のようだが、この山にはここしか水源がないようにも思えた。ヤマトヌマエビやミナミヌマエビのような採集ポイントを想像していたため、あまりの素朴さに拍子抜けしたのが正直なところ。
しかし目が慣れてくると田んぼの底のようなスペースにシュリンプがゆっくりと手足を動かしているのが確認できた。
冬場の低水温のせいもあってか、動きはかなり鈍く網に気づいて逃げる時も水槽内でよくみるフヮ~っとした逃げ方。しかし短い遊泳距離で着底したあとすぐに泥や枯葉、小石の隙間に隠れて見えなくなってしまう。群れでいる感じはなく、単体である程度の距離を置きながら生活しているようだ。慣れないうちは興奮のあまり大きく網入れを行い、小さなポイントはあっという間に泥濁りとなり、掬うよりも荒らしている感じが強い(笑)。
作戦を切り替え、普段シュリンプを掬う感覚で丁寧に一匹ごと発見しながら採集すると効率よく捉えることができた。なるほど、シュリンプネットが一番という意味が良くわかる。全員で根気よく掬ってみたが100匹ほどの中に例の青黒い個体は残念ながら一匹も採れなかった。透明なケースに入れてしっかり観察すると、うっすら青みがかった個体もいるようだが・・・以前に海外の友人から見た写真のような個体とは似つかない。
ここまで来たのだから、是非とも変異個体に出会ってみたい。
しかし、とりあえずWild(天然個体)に出会えた感謝の気持ちと少しの勿体なさに挟まれながら、ほとんどの個体をリリースした。
するとガイドが足場は悪いがトライしてみる価値があるポイントへ案内してくれるそうだ。ポイント移動である。

現地のガイド、二人組が何度か位置を確かめ、「こっちだ」と藪の中に進んでいった。このワイルド感半端なく、テレビの取材ならとても絵になりそうだ。「蛇もいるから注意して」と。川●探検隊の記憶(古っ)が蘇るさなか、彼らの後ろに付いてゆくことしかできませんが・・・何か(笑)
要所々々のブッシュに布切れの目印があり、それを確認しながら進んでゆく。一人で踏み込めば迷子必至。それよりも逞しく茂ったアロエが刺さって痛い。アロエに似た植物の棘が行く手を阻む。「隊長!網よりも釜が必要ですよーこれは!・・・」
しばらく右往左往しながら進むと傾斜のきつい下り坂で小さな支流にたどり着いた。川幅はわずかに50cmほど。藪の中で一同長靴に履き替える。ここから川の中を進むそうで・・・。まじですかー!頑張ります(汗)。う~ん泥まみれ。
それにしてもこんなフィールドにいる地域変異個体、たしかに気軽に挑める代物ではありません。
やっとのことでポイントに到着。
途中の道のりと何ら変わりのないように見えるのですが・・・、上手くいけばこの周辺のポイントで青黒い個体が見つかるかも・・・とのこと。
ごく小さな流れが蛇行している支流のこのあたりは途中の支流にあったクリアな水質ではなく、若干乳白色を帯びている。程なく水中を観察しているとパートナーが「いたぞ!」と呼んでくれた。


そちらに行くと小石の上に先ほど採集した茶色ベースの個体と隣り合わせで真っ黒な個体を発見!
上から見るとまるでブラックダイヤモンドシュリンプのようだ。うまくネットに収まったその個体、横見も真っ黒で衝撃の一言。苦労した道のりが報われた瞬間であった。
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フィールドで時間いっぱい、2時間ほど採集を行った。せっかくならできるだけたくさん採集して日本に持ち帰りたいが、貴重なフィールドを大切にするのはもちろん、来た道を水袋抱えて帰るとなると・・・。残念無念。
それでも最終的に50匹ほど日本へ持ち帰ることができた。黒い個体は日本の水に落ち着くと鮮やかな瑠璃色を放つものもあり、幻想的な美しさにしばし見とれた。
余談にはなるが、フィールドの水は山頂付近からの源水。TDSも時期により20~30前後と非常に澄んだ水質である。また水の色が乳白色のポイントでは岸壁が粘土質で出来ており、それが溶解しているためにそうなっていると確認できた。清涼であるがミネラル分が豊富な環境が変異個体を育んでいるようだ。
なるほど、シュリンプグッズでもミロネクトンなど粘土質の製品がシュリンプ飼育に役立っているというのも、これを見ると妙に納得してしまう。
興味深かったことは他にも、水深10cm前後のポイントで多く発見することができるも、一か所だけあった60cmほどある深い溜まりにはまったくシュリンプが発見できなかったところである。またおそらく冬場の採集であったことが関係していると思われるが、稚エビや幼体サイズの個体がほとんど確認できなかった点も、水槽飼育と違い季節による繁殖の周期があると思われる。水温変化や水位の変化など、季節感はブリーディングに取り組む際に活きることがありそうだ。
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Lapis Blue 飼育チャレンジ
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さて、ここからは無事に持ち帰ることができたワイルドシュリンプの立ち上げや水質の違いによる表現の変化などをお伝えしたいと思う。
今回は水源が山の頂上付近にある原水河川ということもあり、純水に近い水質に生息するシュリンプを導入するにあたり立ち上げ間もない、新しいソイルを使用した環境に導入した。新しいソイルの環境は総じて吸着効果が強くアンモニアの早期吸着や軟水化を行う特徴から、導入後のコンディション調整や別水槽への仕分けが行いやすいと判断して選択した。もちろんPHやGHは下降する傾向があり、シュリンプの活性や食欲は立ち上がりが鈍い難点があるものの、長旅で疲れたシュリンプのストレスを緩和するには都合よいものであり、焦らずゆっくりと体力を戻すのが狙いである。
とはいっても流石はワイルド個体、与える餌への反応はすこぶる順調で、輸送ダメージの筆頭であるアンモニアショックは無いように感じた。
それよりも「こんなうまい飯は食ったことない~!!」と言っているようだ(笑)。
このあたりのたくましさは本来ビーシュリンプがもつ体力、順応の動力かと思える微笑ましさがあり、昨今の劣性交雑において弱体化した場合に見受けられるフォームより、安定した体形に感じてしまう。


水槽導入から1週間ほど経過すると、もともと茶色だったベース色の個体の中に変異個体のような青黒く変化する個体が現れたり、逆に黒ベースの個体では鮮やかなブルーに変化する個体も見受けられた。一部は茶色ベースになる個体もあり、固定というプロセスを確立するにはまだまだ不特定要素が多くあると感じさせられた。

しかしながら水質変化や飼育環境の変化により変色するのは現代の改良品種でも例外ではないため、これらのケースも安直に落胆する要素ではないように感じた。
ちなみにドイツサイドでも同じように色調の変化は飼育環境下で発生するようで、採集時の深い黒味や青みは長期維持するのに苦労するとのことであった。
そこからすると日本の水道水や水質はそれよりまだ恵まれていると感じ、順応できる範疇にあると考えられた。この後数人のヘルプを受けて累代繁殖が行われ、ラピスブルーの可能性を探ることになったが、多品種との交雑を行わないままその経緯を見守ると、選別に値する青みの安定も可能といえる状況となった。

ワイルド個体の飼育鑑賞はシュリンプ以外の世界ではシクリッドやベタ、メダカ類など改良品種とワイルド種のそれぞれの良さを楽しむスタイルが長年続いている。現在のシュリンプの世界もやみくもに新種からの飛躍を狙う風潮のみでなく、いぶし銀の楽しみがあってもいいように思う次第である。
ややもすると、シャドーシュリンプブーム以降、品種名から後押しされるアベレージプライスが高い品種ほど価値があるように示唆されてきた市場環境も、シュリンプ自体の魅力を幻影化させているように思える。
伝統のレッドビーシュリンプを生み出し、楽しむファンが圧倒的に多いのは当然日本。ブラックダイヤモンドやシャドーシュリンプの特異性に着目しブームとしたのも日本。しかし現在はグローバルな時代・環境となり、複雑化する世界事情の中で、シュリンプを総括的に、自分自身が密やかに楽しめるアイデンティティを築く必要もありそうだ・・・
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そんなことを考えさせられるワイルドシュリンプの存在は、現在市場を賑わせている品種についてもっと深く考えるオプションとして受け止められるのではないかと考えた。



この記事を読まれた方にも興味をお持ちいただける方がいれば本望です。
それでは続編もお楽しみに・・・