神成淳司さんの「ITと熟練農家の技で稼ぐAI農業」を読んだ。

祖母が農家であり、昔から農作業に接することが多かったのもあるけれど、昨年Googleが紹介していたTensorFlow活用によるキュウリ仕分けの自動化の事例が面白く、それ以来非IT系産業とITの融合というテーマには興味を持っていた。

今回読んだこの本は、農林水産省と協働でAI農業を推進している研究者の方が書いた本であり、事例含めてとても勉強になったのでメモを残そうと思う。


・もともと、農林水産省は、熟練農家が持つノウハウをマニュアル化することで日本の農業にとり大きなアドバンテージが生まれる、と考え、試行錯誤をしてきた。

・2009年から「AI(アグリ・インフォサイエンス)農業」研究をスタートさせ、熟練農家の暗黙知を形式知化することを目指している。

・似た研究分野に「農業情報学(アグリ・インフォマティクス)」というものがある。農業技術体系のデータベースを作ることで、農薬・肥料価格や投入量、労働時間、収穫量などを管理し、農作業データと紐付ける取り組みをしてきた。

・農業情報学から生まれたのが、「植物工場」という考え方。上記のデータベースで記述された環境を屋内の農場につくり、マニュアル通りに作業をすることで「安定して均質な作物を収穫する」ことができる。経験が浅くても参入しやすく、農作物の本来の旬の時期とは関係なく収穫できるが、一定量の生産高を維持するためのノウハウであることが多く、生産性の最大化には繋がらないことが多い。また、設備投資額が大きいのでコストメリットが得られにくい。

・一方、AI農業は「判断処理」のモデル化を目指す。外部環境や作物の状態をある程度所与としたときに、熟練農家はどのような判断を下し、作業へ落とし込むのかをモデル化する。

・そのために、自動・手動両方でデータ収集を行っている。例えば、視線やアイキャッチのような視覚データ。照光による非破壊な農作物の状況(色合い、大きさなど)データ。加えて、葉の大きさや色合いなどについての農家の主観データと、追肥や間引き、遮光、断水などの判断ログ。

・AI農業では、判断と作業を徹底して分離する。例えば、レタス生産量日本一の長野県川上村では、年収2,000万円を超える農家も多い。実作業は中国からの研修生に任せ、自身は上記の追肥、間引きなどの判断に集中するという体制をとる。

・海外の農業×ITの事例。例えば、イスラエルの農産業はかなり進んでいる。
歴史的に、元々紛争が多く、いつ隣国からの輸入をストップされても食料不足にならないように、という危機感があり、かつ国土の大半が砂漠という厳しい環境のため、如何に農業の生産性を高めるか?が重要な論点になってきた。結果として、点滴栽培というスプリンクラーを使わず、土壌に直接水分を与える独自の栽培方法を開発することで少ないコストで生産性を高め、食料自給率は90%以上、農作物の輸出額は日本とほぼ同じ2500億ドルとかなり高い。

・オランダの農産業も先進的。国土が狭く、湿地が多いことから灌漑の技術開発が進んできたこともあり、農業従事者数は日本よりも20%少ないにもかかわらず、単位面積あたりの平均収穫量は日本の約3倍と高い。一方で、オランダの農産業においては、品種が価格を決めるという考え方が浸透しており、単位面積あたり単価は日本の1/3程度。
・日本のAI農業は、置かれている状況と目指す方向性両方の側面から、どちらかというとイスラエルに近いAI農業を目指しているとのこと。


国内のAI農業事例は次回まとめようと思う。


2017.03.19追記
事例の話はそこまでメモすることなかったので、書くのをやめる笑