4月10日
大林宣彦監督がご逝去されました。

なかなか気持ちが追いつかず
ここ数日
何度も家の窓から
空を見ては、風を感じては
監督の優しい笑顔やいただいたお言葉
映画にかける思い、映画と向き合われてるときの言葉で表せないほどパワフルでエネルギッシュなお姿に思いを巡らせています。

お亡くなりになられた4月10日は

大林宣彦監督の最新作
『海辺の映画館-キネマの玉手箱』

の公開予定日でした。
コロナの影響で、公開日が延期となってしまったものの、
最後の最後まで魂を込めてつくられたこの映画が歩き始めるはずだった日を見届けてから
天国に旅立たれたのかもしれません。

監督とのお別れと、皆さまへのご報告が
同時になってしまうとは思ってもみませんでしたが
実はこの
『海辺の映画館-キネマの玉手箱』
に「語り手」として関わらせていただくことができました。

この経験は
人生の大きな…本当に大きな宝物となりました。

そしてここにはもう一つの小さな物語があり
その物語もまた、私にとって生涯忘れられない
宝物なのです。


私の生まれた年の12月。
大好きな叔父と叔母が結婚式を挙げました。
その二人の仲人を務めてくださったのが
大林宣彦監督ご夫妻だったのです。

私は当時0歳だったので、
その時の記憶は無いけれど
後に叔父たちから、
大林監督と恭子さんがその時私を抱っこしてくださったという話を聞かせてもらう度、
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(↑7ヶ月の私)
いつかまたどんな形でもいいからお二人にお目にかかれたらと密かに願っていました。

叔父の広中雅志は
声優さんのお仕事をしていて
私にとっては
大好きな叔父であり、
尊敬する先輩。

そんな叔父はなんと言っても大の映画好き。
幼い頃から映画少年だったそうで大林監督からも大きな影響を沢山頂いたと、
よく話してくれました。

だから、私や妹が家に遊びにいくといつもおすすめの映画を見せてくれたのです。
その中でも特に印象に残っている映画の一つが
大林宣彦監督の『ふたり』。

広島尾道を舞台に進む姉妹の物語は
幼い私の心にも深く刻まれ
大きくなってからも
大切な映画の一つ。

その後も何かある度、
叔父は大林監督のお話をしてくれました。

そして月日は流れ
2019年の3月の頭ごろ。
叔父から電話があり
「大林監督の新しい映画で声のお手伝いをさせていただくことになったよ!」

監督のことを心から尊敬していた叔父の
嬉しそうな笑顔が声から伝わってくる。

私も本当に嬉しい気持ちになった。

しかし嬉しい出来事は
これだけに収まらなかった。

それから数週間後
大林監督と恭子さん、そして叔父の計らいで
『海辺の映画館-キネマの玉手箱』の声の収録を見学させてもらえることになったのです。

映画の編集作業の現場を見させていただくのは初めてだったのでスタジオに向かう道中は
とにかく心が躍った。

現場に着き
大林監督と恭子さんにお目にかかれた。
お忙しい時だったにもかかわらず
優しい笑顔と力強い握手で温かく歓迎してくださいました。

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これから、叔父は本編の中のさまざまなシーンのアテレコや、ナレーション、詩の朗読などを行うという。

そして、ここからは本当に今思い出しても信じられないような展開だった。

女性の声もあった方がいいからと
私にもアテレコの台詞をくださったのです。

正直、セリフを発するまで
全身が固まるほど緊張した。

が、映像に台詞を載せた瞬間
映画の中に吸い込まれ
全身に感動が走った。

大林監督の映画に関わらせていただいている喜び、叔父と共演できることの喜び…他にもいろんな喜びが次々と押し寄せ、胸が熱くなった。

そして最終的には大変光栄なことに

数日間の収録で
本編中の、お婆さんや中年の女性、小さな子供、少年、少女の「アテレコ」をはじめ、
「ナレーション」や「詩の朗読」も叔父と共に務めさせていただきました。

長時間に渡る作業にもかかわらず、
監督は一度もご自身から休憩を取ろうとはされず作業に集中されていた。
そして、時折、お洒落なジョークを仰って
現場を和やかなムードにしてくださったりも。

戦争への思い、平和への願い。
大林監督が

「映画で歴史を変えることはできないかもしれないけど
歴史の未来を映画で変える力はあるかもしれない。」

と仰っていました。

私たちが
これから愛する人たちのためにできること
未来のためにできること
過去に対してできること
この地球のためにできること。

その真実はなんだろう。と

この映画を通して、映画に携わらせていただいた時間を通して、そして何より
大林宣彦監督との出会いを通して…

これからもずっと考えていきたい。

監督に最後にお会いしたのは2019年10月
『海辺の映画館-キネマの玉手箱』
試写会の時。

完成した映画を、
大林監督や恭子さんと同じ空間で共に
拝見できたこと

そして、叔父と叔母と一緒見られたことは
本当に信じがたい夢のような時間でした。
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帰り際、
お車に乗られた大林監督は
窓を開けて ニコッと微笑んでくださり
"アイラブユー" のハンドサインを
私たちに送ってくださいました。

叔父が教えてくれた
大好きな大林監督の言葉があります。

ひとは、ありがとうの数だけ
かしこくなり
ごめんなさいの数だけ
うつくしくなり
さようならの数だけ
愛を知る

大林監督、ありがとうございました。

綿引さやか

◆『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』
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