『光の速さを追い越して』







 こんな話を聞いたことがないかな?
 誰もが知る何よりも速いものは光だ。
 だけど、その光すらも唯一追いつけないものがある。


 それは「時間」だ。


 時間だけはあの光ですら追い越せない。
 それでも、もし光すら追い越して時間の速さに到達することができれば、その存在は時間の概念から解き放たれて過去にだって行くことができる……らしい。


 そんなのは絵空事だと誰もが言う。
 何千、何万という科学者たちが光の速さを追い越そうとして、その誰もが不可能だと匙を投げた。それでも、諦めずに何度も何度も気の遠くなるような数の実験を繰り返して、ようやく人類はその不可能とされてきた領域にたどり着いた。

 
 時間旅行装置"クロノス"


 ギリシャ神話に登場する時間の神さまの名を与えられたその装置を使えば、人類は時間の概念から解放され過去も未来も自由に行き来することができる。
 クロノスの完成が発表されたその日、全人類は感動に包まれた。


 ただ、装置が完成したとはいえ問題点があった。 光すらを追い越して時間の速度に到達するためには莫大なエネルギーが必要だった。クロノスの使用には、それを実現するための燃料がなかったのだ。
 都市3つを悠に賄える当時最先端の技術を結集した原子力発電でさえ、クロノスを1度起動すれば全ての原子の動きが停止してしまうほどだった。しかも、それほどのエネルギーを使用しても帰って来れないのだからクロノスが如何に実用から程遠い場所にあるかはわかってもらえるはずだ。


 もちろん、それでも人類は諦めなかった。
 クロノスの開発で培われた技術力で宇宙中を飛び回って、クロノス実用化に足るエネルギーを探し始めたのだ。


 そうしてクロノスが開発されてから更に200年の時が過ぎた。
 遂にクロノスを動かすための燃料が宇宙の果ての名もない星で見つかったというニュースが世界中で報道された。見つかった元素は「クロノスを動かすためのもの」としてクロノニウムと名付けられた。


 クロノニウムを使った燃料装置はクロノキューブと名付けられた。
 クロノキューブは軽く、安全な上にエネルギーの生成はほぼ無限。エネルギーを蓄える性質を持ち、人間の手に乗るほどのサイズでもクロノスを十分に起動し得る。 まさに夢のエネルギーという他なかった。


 しかし、人類が生成し得たクロノキューブは1つのみ。 クロノニウムは代替が効かず、それ以降宇宙のどこへ調査機を飛ばしても見つけられることはなかった。 その希少性から、一時はクロノキューブを巡って戦争勃発寸前とまで報道がなされたほどだった。


 クロノキューブは、現在クロノス本体と共にアメリカが保有している。
 その所在は各国の平等性を保持するために常に国連へ向けて公開されており、また、各国の協力のもと万全以上の軍事的警戒体制が敷かれていた。


 そして来たる2969年7月20日。
 クロノスは6人の時間旅行士を乗せて飛び立つ……はずだった。

 クロノスの機長を務めるはずだった人物が殺されるまでは……





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