世界はこれからますますカオス化するだろうと、著者であるジャック・アタリは予測している。また、地球規模で大惨事を引き起こすシステミック・リスクのような危機が、世界中でますます頻発するだろうことも危惧している。

そして、そのようなシステミック・リスクの頻発やカオス化する世界に対向する手段は、新たな世界秩序の構築だと断言している。その上、そういった新しい世界秩序の構築には、「世界統治機関」のような超国家的な機関構想の実現化が何よりも必要であるとも考えている。
そこで、この著書のなかで、その構想のたたき台となるべき「世界統治機関」の具体的で詳細なプランを開示しているのだ。

本文より、
『歴史的・地政学的な制約をいっさい考慮に入れないとすれば、先行するすべての議論を踏まえて、最良の新世界秩序はどうあるべきか、構想することができる。
それは必然的に連邦制で、分権的で、透明性が高く、民主主義的なものであろう。
引き受けるテーマは地球規模のものに絞り、長期的な課題に専念する。そして、先に見たような二種類のリスクに対応できるだけの能力を備えていなければいけない。二種類とは、統制の行き届かない地球上の一地点に端を発した暴力が地球全体に波及するリスクと、直接地球全体に影響を及ぼすリスクである。

第一のリスクに対しては、各国に干渉する手段が求められるし、第二のリスクに対しては、地球規模の行動を起こす手段が求められる。
またそれは、世界の潜在力のすべてを活用する能力もなければいけない。そうした対応能力を備えた世界統治機関であれば、アメリカ憲法の定める三権分立も、経済と社会に関する北欧諸国の取り組みも、中国の長期的な方針も、すべてを取り込んで理想的な組み合わせに調整することもできるだろう。

☆新世界秩序への戦略
深刻な危機がなければ、超国家的な世界統治機関はけっして設立されないだろう。アメリカも、中国も、インドも、ブラジルも、日本も、ヨーロッパも、また現在、世界を牽引している帝国と肩を並べたいと望む可能性のある他のどの国も、その実現を支援することなどないであろう。
これまで見てきたように、いつの時代の強国も、既存の秩序を何か少しでも変えようとすることを、けっして良しとしてはこなかった。

たとえ仮に今日ではそれを望む強国があったとしても、そのために必要な力をだんだんと失いつつあるのが現状だ。
新興国は新興国で、求めることは既存の世界経済、既存の国際機関に自分たちがしかるべき位置を占めることばかりである。場合によってはあり得る超国家的政府など、新興国にとっては、衰退しつつある既存の強国がその優位性の維持を迷彩するための手段にしか見えず、信用などできないのである。

しかしながら、世界が自分の未来を自分の手の内に正しく握ることができるように導くための戦略を構想することは可能である。

☆「世界統治機関」への3つの戦略と10の方策

1つ目は、実践的な道。たとえばモントリオール議定書やモンテゴ・ベイ条約は、この戦略の成功例である。その交渉過程が証明しているのは、グローバル共有財を保護するための、グローバルな、そして相対的に効果的な仕組みを設立することは可能であるということである。
しかし、断乎として、ヨーロッパ統合構築と同じ道を、グローバルな規模で進まなければならない場合もある。これが2つ目の戦略である。
まずは市場統合から始めること。次に規範の統合。その次に通貨統合と税制の一本化に向けて進む。その後で、政治的・制度的統合に関心を持つ。実際、EUが世界機構のモデルであると、しばしば考えられてきた。

3つ目の戦略として、既存の多国間機関を徐々に変化させるのがふさわしい場合もあろう。そうした機関のアイデンティティはそのままに、民主主義と超国家性という次元を付加するのである。
別の言い方をするなら、そうした機関をパズルの一齣のように少しずつはめ合わせていくことによって、理想のモデルに向けて進化させるのである。
以上の3つの戦略のいずれにもせよ、理想のモデルへの進化を始動させるのはいかなる要因であるのか想像するのは難しい。また、人類全員の意志が等しく一つの方向へ向かうことなど当てにできない。主な当事者だけでも足並みがそろわないのだ。

しかし、世界全体を巻き添えにするような大惨事を、飢饉を、インフレを、金融危機を、座して待つわけにはいかないのである。そういったシステミック・リスクがはっきりと姿を現すのを待つ代わりに、しっかりと前に進んでいくためには、今日からもう、以下の10の現場に手を着けなければならないのである。

⑴既存の連邦の統合過程を実用主義的に利用すること
⑵人類の存在理由の自覚
⑶脅威をもっと警戒すること
⑷既存の国際法を遵守させる―グローバル基準―
⑸計画を一つずつ先に進めること―ミニラテラリズム
⑹世界統治評議会
⑺持続的開発のための長期企画院
⑻民主化同盟
⑼世界統治機関のための資金を掘り起こす
⑽世界全体会議   』


超国家的な「世界統治機関」の構築というと、その実現化があまりにも困難のように思えて、まるで遠い夢物語のように思えるかもしれない。もしかして、ジャック・アタリが懸念するように、一刻の猶予もないほどシステミック・リスクが膨張し、そして最悪の結果としてそれが破裂した後になって、やっと過去の歴史にならって新「世界統治機関」のようなものが実現することになるのかもしれない。
しかしできれば、今直ぐにでも、人類がシステミック・リスクの解決策として、それを回避するための手段のなかに「世界統治機関」という選択肢を入れ、そのプランの実現性に関しての十分な時間をかけた考察を始めるべきだろう。


「新世界秩序」 著 ジャック・アタリ


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のんInstagramより