月別アーカイブ / 2018年06月

世界は、今、戦争でもなく、しかしそれだから極めて平和というわけでもなく、どこか危うさに満ちた状態にある。地域紛争は多発し、テロは頻発し、西側諸国にはポピュリズムが蔓延し、また、中国とロシアの拡張主義は時に目に余ることがある。
そういった中国とロシアの拡張主義について、著者は、これは歴史上何度も繰り返されてきたユーラシアの膨張またはランドパワー国の膨張なのだと指摘している。
そして、こういったユーラシアのランドパワー国を抑え込むことが、シーパワー国の安全保障戦略であり、特に日英というユーラシア大陸の両端にあるシーパワー国が連携することが地政戦略的に利益を生むということを強調している。
やはり、日本にとっても中国とロシアの拡張主義は、無関心ではいられない事実であるが、それに加えて、沖縄の基地問題を理解するうえで、背景としての沖縄の基本的な地政戦略的な知識は必要なものだろう。そして、この著書は沖縄の基地問題を考える際のひとつの手がかりになる。
ただ、本書に関して、ロシアについての記載のなかで、北方四島に関する部分が極く少ないのは残念であった。

『☆内陸国家のランドパワーと海洋国家のシーパワー
ランドパワー国家‥‥ドイツ、ロシア、中国等。
シーパワー国家‥‥英国、米国、日本等。
米国がシーパワーの国家である理由。米国は、世界最強、最大規模の海軍力を持ち、世界のどこへでも海軍を派遣し、海から軍隊を投射できる(軍事作戦を行える)能力を保有している。世界で唯一、世界の海を管理できる能力を持っている国家だから。

☆中国にとっての尖閣諸島の重要性とは
世界地図を上下逆さまにして、中国の視点から見れば中国の沖合には日本列島が壁のように鎮座し、中国の海への進出を阻んでいる。しかも、そこには強大な軍事力を持つ米軍や日本の自衛隊が駐留し、中国に対してにらみをきかせている。
1990年代以降、中国は海の資源を確保し、シーレーン、つまり中国にとって重要な海の交通路を防衛するためとして、陸軍が中心だった軍隊を編成し直し、海軍力の強化に取り組んできた。その目的は、太平洋への進出である。しかし、中国の海軍が太平洋に自由に進出して活動するには、沖縄の南西諸島に拠点を確保するしか方法がないのである。
それは、中国の北海艦隊の司令部がある青島から中国海軍の艦隊が太平洋に進出する場合として考えられる4つのルート(宗谷海峡ルート、津軽海峡ルート、台湾海峡ルート、沖縄本島と宮古島の間ルート)があるなかで、沖縄本島と宮古島の間を抜けていくルートが一番に最適なルートとなるからである。そして、尖閣諸島は、南西諸島の島々の中でも中国に近い、いわば中国から見れば、太平洋への玄関口に位置している。』

『☆中国の海洋領土構想とは
中国は、1992年に領海法を施行し、新しい戦略を打ち出した。それは、 第一列島線・第二列島線という中国の海の防衛線の設置だった。このうち、第一列島線とは、日本の九州南部から沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島を通って中国が主張する九段線をつなぐものであり、有事の際、この列島線より西側の海域は中国の内海として支配することを目的に設置された。有事の際、中国はこの海域への米国の空母や原潜の侵入を阻止しなくてはならず、そのための海上戦力の整備を進めるというのが、第一列島線の設置目的である。そして、この第一列島線より以西の海域を「海洋領土」と呼んでいる。そして、尖閣諸島も、この「海洋領土」内に位置しているのだ。
一方、第二列島線は、日本の伊豆諸島から南に小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアに至る防衛線である。アジアに近い西太平洋がその海域になる。中国は有事の際、日本周辺の東アジアに展開する米国の空母戦闘群の来援を中国海軍が阻止する防衛線として、第二列島線を考えており、外洋型海軍の創設をめざす中国の意向を反映しており、この第二列島線を確保できる海軍の体制を2020年までに完成させる計画という。』

『☆ランドパワー国としてのロシア
ロシアが2014年、クリミアを事実上併合したことで国際社会から厳しい経済制裁を受けているが、プーチン大統領はそうした事態をあらかじめ想定していなかったはずはない。ウクライナは結果として軍事的な対抗措置を取らなかったが、ロシアはウクライナと戦争になることも想定した上で行動に出たはずである。ロシアにとって、経済的損失よりも大切なものがクリミアに存在したのである。それは、海へのアクセス権である。
こうした視点に立って、現代のロシアの地政戦略を分析すると次のようなものと言えよう。

①、欧州正面からのロシアの勢力圏に対する進出であるNATOとEUの東方拡大を阻止し、NATOとEUの分裂を画策する。また、英国でのスコットランドのような分離主義的な活動を側面から支援し、欧州の統一を妨害する。
②、コーカサス方面の勢力圏を維持し、チェチェン共和国の独立は実力で阻止し、グルジア、アルメニアも事実上支配下に置く。
③、中央アジア諸国の独立により失った戦略拠点の奪還はあきらめるが、当面は監視を続け、脅威があれば再び進出する。
④、シベリアは今後も維持するが、もともと過酷な気候条件から、事実上、安全保障上の問題は起きない。
⑤、黒海沿岸のウクライナとグルジアはNATOに加盟させない。黒海に近いモルドバについてもNATOとEUへの加盟は認めない。クリミア半島は恒久的にロシアが事実上支配する。黒海沿岸の諸国は、様々な手段を使って勢力圏に置く。
⑥、バルト海沿岸の諸国が独立を達成したが、その地域での西側のプレゼンスは認めない。バルト海とカラバチア山脈を結ぶラインはロシアの重要な防衛線であり、この地域でのこれ以上の独立や中立化は認めない。ロシアの安全に直接脅威になればいつでも介入する。』

『☆同盟国での駐留条件を満たす沖縄
軍事科学の視点に立って指摘すると、一定の国家が外国の特定の地域に戦略的な拠点として規模の大きな軍隊を長期駐留させようとする場合、駐留場所の選定にあたって、次の5つの条件のすべてを満たすことが必要とされている。

①、地理的条件。有事の際、軍隊を紛争地域に迅速に展開させやすく、かつ紛争が予想される地域と一定の距離を保ち、いたずらに緊張を招くことがない場所を選択する必要がある。
②、受け入れ国の政治的安定性。海外の軍事基地は安定的に長期間維持する必要があり、しかも駐留先では兵士たちが地元のコミュニティーと交流する機会が多くなる。そのため、受け入れ国は政治的に安定した同盟国で、駐留場所は治安がよいところでなくてはならない。クーデターや革命が起きる場所は適さない。
③、気象条件。軍隊では大勢の兵士が訓練をし、装備を移動したり、物資を備蓄する必要があるので、過酷な気象条件の地には基地を置きにくい。寒い北極圏や急峻な山岳地帯、赤道直下の熱帯に軍事基地が少ないのはそのためである。
④、輸送拠点としての港湾、航空施設。軍隊は膨大な量の物資や大勢の兵士を移動させるため、大型の艦艇や航空機を運用しており、空母のような大型の艦艇でも接岸できる港湾施設や長い滑走路をもつ航空施設が必要であり、そうした施設を建設できる地理的環境が必要である。
⑤、受け入れ国の支援能力。軍隊が使用する艦艇、航空機、車両は過酷な条件で運用することが多く、故障が多いため、整備が欠かせない。装備は基地で整備され、修理が行われることになるが、受け入れ国の技術者の協力に頼ることになるため、受け入れ国の技術水準が一定のレベルに達していることが要求される。さらに、食料の安全性や物資の調達環境、医療の提供も重要であり、長期の駐留にあたっては受け入れ国の生産力、技術力、医療レベル、衛生状態が一定の水準に達していなくてはならない。
この条件に基づいて、沖縄の基地を検証してみると、沖縄は軍事基地の駐留に必要な条件をすべて満たしている。
また、沖縄に駐留しているのは海兵隊なのだが、米国の海兵隊が師団規模で駐留しているのは、海外では沖縄だけなのだ。あとは、米国の西海岸のカリフォルニア州と東海岸のノースカロライナ州だ。
海兵隊というのは、緊急時に真っ先に紛争地域に展開し、陸、海、空の応援体制が確立する前に、独自に戦闘を開始し、一定の基幹、作戦を継続できる能力を持っている。そのため、海兵隊は独自に陸上、海上、航空で作戦を実施する能力があり、自前の戦闘機や輸送機、専用の海軍艦艇、戦車など装甲車両を保有し、偵察部隊、空挺部隊、特殊作戦部隊まで軍隊の持つほとんどの機能を保有している。それゆえに、すぐに紛争地域に展開し、作戦につくことができる。
このような特殊な能力をもつ海兵隊だけに、駐留場所を決めるにあたっては、ほかの軍種にはない条件が求められる。つまり海兵隊は、陸海空の能力を有事の際には同時に動かす必要があり、そのためには司令部の機能、航空部隊、揚陸艦部隊、陸上部隊、補給部隊が、なるべく近い場所に駐留する必要がある。海兵隊基地を広い地域に分散して配置させるということは、例えて言うなら消防署と消防車、救急車、消防士を別の場所に配置するようなものであり、現実的ではない。
ただ、そうは言っても狭い沖縄にすべての海兵隊の機能を受け入れる空間があるはずもなく、結果として司令部と陸上部隊、訓練施設、補給部隊、一部の航空部隊が沖縄に駐留し、上陸作戦に使用する揚陸艦はおよそ800キロ離れた長崎県佐世保に、戦闘機や攻撃機の部隊はおよそ970キロ離れた山口県岩国に駐留している。』


『☆戦略地図から見る沖縄
沖縄は、日本の安全保障上の脅威になる北朝鮮や中国の軍事拠点まで、ほぼ等距離にあるうえ、台湾海峡に非常に近いことが指摘できる。言い換えれば沖縄は、危機的事態が予想される地域に対して、近すぎず遠すぎず、ほどよい距離に位置していて、そこに緊急展開を専門とする海兵隊を配備していれば、有事の際、48時間以内に部隊を現地へ展開させることが可能なのだ。
更に、沖縄を中心にして3000キロから4000キロの行動半径の円を地図上に描いた場合、東アジア全域をすっぽり収めることができる。こういった場所は、太平洋のどこを探してみても沖縄より他はないのだ。太平洋戦争の際、沖縄が「太平洋の要石」と呼ばれたのはこのためである。
しかし、軍隊の駐留場所は、単に地図上の位置によってのみ決定されるものではない。その地域が国家の戦略上、どのような意味を持っているのかという安全保障の観点から判断されなくてはならない。
そのために、米国や日本のような太平洋のシーパワーにとって、太平洋の安定を維持するために必要な防衛線と生命線とも言える海上交通路、シーレーンについて考える必要があろう。つまり地政学的に重要な戦略的地域、海域である。
米国の太平洋上の防衛線は、現代で「新アチソンライン」と呼ばれている。このラインは、アリューシャン列島から宗谷海峡、朝鮮半島の中央を突き抜けて、東シナ海から台湾の西の台湾海峡を通り、南シナ海へ抜けるルートと解釈できる。これに対抗した中国の防衛ラインが第二列島線なのだ。これは、米国の防衛線である新アチソンラインよりはるか東側、大陸からかなり離れたところに中国は防衛線を設置していることになる。
そして、重要なことは、この米国の新アチソンラインと中国の第二列島線に挟まれた海域に、日本の生命線であるシーレーンが集中しているということである。シーレーンは欧州や中東、南アジア方面から物資を日本に輸送する際、日本へ向かう輸送船が航行する海上交通路であり、日本の輸入する原油の90%近くが中東からシーレーンを通って運ばれてきている。中東から積み出された原油は、インドネシア周辺のマラッカ海峡かスンダ海峡を通って、南シナ海を経由して、バシー海峡から太平洋に入り、南西諸島の東側に至り、日本本土に達するルートで輸送される。もしくは、インドネシアのロンボク海峡からフィリピンの東側の太平洋を北上して、南西諸島に通じる遠回りのルートもあるが、どのルートも南西諸島の東沖合で合流し、日本本土へ物資を届けている。南西諸島の東側では、日本のシーレーンが交差したり集中しており、まさに日本の「のどぼとけ」であり、日本の死活的利益がここにある。
そして、まさにこの海域で米国の防衛線と中国の防衛線が対峙しているのである。米国の新アチソンラインは南西諸島のすぐ西側を台湾海峡に向かって南下し、中国の第一列島線はまさに南西諸島そのものに設置されている。南西諸島は日本の九州から台湾にかけて連なるおよそ1200キロに及ぶ長大な島嶼群だが、そのほぼ中央に沖縄本島が位置し、そこに米軍基地が集中しているのである。つまり、日本の生命線の中心に米軍は駐留していることになる。
このように、地政学的に見た場合、南西諸島の周辺は日本にとってシーレーンを抱える戦略的要衝であると同時に、米国と日本という太平洋の二大シーパワーと、中国という新興のランドパワーのせめぎあいの場でもあり、その中心に位置する沖縄が、いかに日本や米国にとって重要な戦略拠点であるかは、これ以上の論を俟たないだろう。』

『☆今後の沖縄の基地について
地政学には「変数」と呼ばれるものが存在する。それは簡単に言えば、高速の輸送手段の登場による時間的距離の短縮である。つまり、地理的、物理的には遠くに位置していても、高速で移動できる手段があれば、それは近くに存在するのと変わりがなくなるということである。こうした輸送手段の高速化は現代になって急速に進んでいて、特に軍隊では顕著である。
沖縄にはアメリカ本土以外では唯一、師団規模の海兵隊が駐留しており、軍人の数だけでも二万人を超える。これだけの兵力が沖縄に集中しているのは、沖縄が紛争が予想される地域に比較的近い場所に位置しているからであるが、もし、より高速で紛争地域に移動できる手段があれば、兵力を配置する場所は沖縄である必要はなく、もっと遠方でもよいということになる。
例えば、沖縄の海兵隊の移動手段として、最近では双胴型の高速輸送船が使われるようになってきた。オーストラリアから借用しているウエストパック・エクスプレスは、在来型の大型輸送艦より1.6倍も速く移動することが可能なうえ、およそ1000人の海兵隊員と420トンの装備を一度に輸送することができ、沖縄とグアム島の間を40時間で行き来している。このほか、軍事的輸送手段の高速化は日進月歩である。それに伴い、今後、沖縄に師団規模の海兵隊を駐留させておく必要性はしだいに薄れていくように思える。
実際に、沖縄の海兵隊は米軍の再編に伴い、司令部機能を海外に移転させることになった。要員9000人とその家族が日本国外に移転し、そのうち4000人はグアムに移転することが決まっている。
また、この沖縄の米軍再編とは別に、オーストラリア北部のダーウィンには海兵隊2500人が配備される予定で、これまで沖縄にだけ集中していた太平洋の海兵隊は次第に分散配備されつつあるようだ。
おそらく、沖縄にある飛行場や港湾施設、情報収集施設、弾薬の備蓄庫などは、米軍の緊急時の展開を支援する施設であり、今後も長期にわたって沖縄での駐留が続くかもしれない。しかし、これらの施設が米軍施設全体で占める割合は多くなく、加えて、これらの施設で活動する米軍人の数も少ないため、沖縄の地域社会と摩擦を起こす可能性は低い。
一方、最も地元と摩擦を起こしやすく、沖縄の米軍基地のほとんどを占める海兵隊については、今後、段階的に太平洋の各地域に分散配備され、師団規模の駐留が今後も長期間にわたって続くことはないだろう。

沖縄の米軍基地は「地域負担の軽減」という意味ではなく、純粋に軍事的な意味から段階的に縮小していく「宿命」にある。』



最近の米朝首脳会談が、今後どのように展開していくのかまだ分からないが、もし韓国に駐留する米軍に変化があるとすれば、その影響はどういう波及効果を生むのだろう。


「戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー」 著 坂元千明 (英国王立防衛安全研究所アジア本部(RUSI Japan)所長)

☔🌈

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のんちゃんねる より

この本を手に取ったのは、著者の経歴からだ。

著者であるピョトール・フェリクス・グジバチ氏は、元社会主義国ポーランド生まれ、ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日し、現在すでに在住期間が17年におよんでいる人だ。
2002年からベルリッツ、2006年からモルガン・スタンレーに勤務し、2011年からはグーグルに在籍し、そして現在は独立してコンサルタントを中心に2社を経営している。
その東欧出身という経歴は、最近読んだ「You Tube革命」という本の著書であるロバート・キンセル氏が元共産国チェコスロバキアに生まれ、米HBOからNetflixを経てYou Tubeに至った経歴と似ている。
ポーランドでは、共産党政権からの民主化実現の過程において、戒厳令や配給制の物資不足や極度の経済混乱が発生し、チェコスロバキアに至っては、国家そのものが崩壊している。
つまり、両者に共通するのは、彼らの人生のなかで、体制も含めて時代は大きく変化しそして世界がグローバルになっていることを、現実に身をもって体験して来た人達だということだ。そして、そういう境遇をかき分けて進んで今に至っている経歴の持ち主ということなのだ。

だから、彼が、『自分が今当たり前だと思っている世界は、全然当たり前ではない。家族は離れ離れになってしまうかもしれないし、会社がずっと安泰とは限らないし、国や地域が崩壊してしまうことだってある。
変化は突然やってくる。そして、そうした変化を止めることも、避けることもできない。だとすれば、変化を受け入れ、変化を乗りこなし、変化を楽しむ必要がある。』と語る言葉には、とても現実味があるのだ。

『☆ゼロから1を生み出す人
これから、AIによって社会は劇的に変化していくだろう。
それに合わせて企業も変化するだろう、そしてそこに働く人々も変化せざるを得ないだろう。
人々は今までのナレッジエコノミーの時代の仕事に要求されてきた知能と服従や勤勉さのようなものから、次のクリエイティブエコノミーの時代には、ゼロから新しい価値を生み出すような創造性と情熱・率先といった能力が新たに要求されるようになるだろう。
そうなると、企業が変化に対応できなければ当然生き残れないように、そこで働く人々も変化に対応できなければ、「クビになる準備はできているか?」が問われるだろう。

日本は、これから人口減少が進み、海外からの労働者が増えるだろうが、その労働者も自国の発展とともに日本から去る。その時にAIの技術を活かしたビジネスを日本でしたいと思う企業がどれくらいあるだろうか?
AIを導入するという企業は、今後の発展を見込んでいる企業だ。しかし、その土壌が日本でなければいけない理由を見出せるだろうか?かなり厳しいのではないだろうか。

だとすれば、もしかしたら、変化に対する準備として、「クビになる準備はできているか?」ではなく、「日本を脱する覚悟はあるか?」と問われる時代なのかもしれない。』

この表題の「NEW ELITE」というのは、オールドエリートに対する言葉だが、特に「悲しき日本のオールドエリート」に対しての言葉でもある。
著者はこの本で、「NEW ELITE ニューエリート」という人を、「持続的に成長している人」と定義している。
この「成長」をベースにした考えは、ダニエル・コーエンの「人を幸せな気分にするのは成長していくこと自体であって、豊かさそのものではない。」につながるのだろうか?
それに対して、オールドエリートとは、固定化された「地位」みたいなものや一旦手に入れた場所に居続ける人、つまり成長の余地がない人と定義している。
更に、著者は、資本主義社会が終焉を迎えつつある現在、つまりポスト資本主義社会が到来しつつある時代に、これからの時代をリードする人はポスト資本主義社会の仕組みをつくる人たちであり、「世界を変える」という大義名分と「楽しいからやっている」というモチベーションを両立させる人であると述べている。

そこで、ビジネスパーソンを、
①、変革層(社会に魔法をかけ、変革を起こす影響力を実際にもっている)
②、実践層(「こうしたら変わるかな」「やっぱりこうしょう」という実験と工夫を繰り返し実践している)
③、変えたい層(「変えなきゃ」「どうしたら変えられるのかな?」と思いつつも実行力と勇気がたりない)
④、気づいた層(「このままじゃダメだ」「でもグーグルみたいにはなれないし」などと、課題を自覚しつつも、あきらめていて行動力も低い)
⑤、ゆでガエル層(現状で満足していて、変化の必要性に気づいていない)

に分類し、①の「変革層」の人こそがこれからの「ニューエリート」であると述べている。

☆自己実現できる人材こそが、生き残る人材

自己実現の5段階の方法
1、自己認識をする
2、自己開示をする
3、自己表現をする
4、自己実現をする
5、自己効力感を上げる (「自分がある状況において必要な行動をうまく取れる」という可能性の認知のこと)

また、この本のなかで、著者の情報収集術が具体的に語られている。つまり情報を持っている人へのアクセスの仕方、アクセスして情報がもらえるような質問の仕方。手に入れた情報をもとにすぐに実践する方法などだ。
かなり、大変なものもあるが、有効なものは取り入れたい。


「NEW ELITE」  著 ピョトール・フェリクス・グジバチ

🍓🍺

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NB press Onlineより



邦題のプロパガンダという言葉のイメージに引っ張られて、この著書は、どちらかと言うと洗脳目的で文化を操る権力者の陰謀がメインの本であるかのように感じるかもしれない。
しかし、原題の「CULTURE AS WEAPON」から分かるようにこの著書の内容はもっと広い。
この著書においては、「文化戦争」とは、権力者によって武器として投じられる文化と、アーティストらによって道具として用いられる文化の戦いのことであり、また、文化を巧みに利用したあらゆるものの戦争のことでもある。
というのも、今や文化は、あらゆるレベルで用いられる世界戦略として、世の中の至るところに存在する強力な武器になっているからだ。そして、そのなかには、もちろん政治的策略が含まれる。更に、企業、メディア、広告、スポーツ、芸術も当然含まれる。
また、著者は、私たちが、この世は理性にしっかり根ざしたものだと信じていて、自分は理性的な存在なのだと考えていることは思い込みに過ぎないと断じている。そして、私たち自身が、実はどれほど感情的で文化的に影響を受けやすい存在なのかについては留意する必要があると繰り返し強調している。
つまり、文化という武器によって感情的にプロパガンダされやすい存在なのだと。
加えて、著者の、トランプ大統領のツイートが影響力を持つのは、そのツイートの中身よりも、ツイートが発する感情の伝染力によるものだという意見はとても興味深い。
現代のような複雑なシステムを持つ社会においてこそ、怒りのような単純で根源的な感情が、ウイルスのように強い伝播力を持っているのだとしたら。
更に、著者はこう続ける、『世の中をどのように理解するかが、我々人類全体の旅の重要な部分であることに代わりはない。それは言うまでもないことだ。しかしまた、進化的な生物である私たちは、知力の及ばない現象に、恐れおののきながらも必死に取り組もうとする社会的存在である、ということも認める必要があるだろう。気候変動から世界戦争、そして資本主義からバイオテクノロジーに至るまで、私たちはあらゆることを理解しようと努力する。けれどもその際に頼れるのは、個人の内面のレンズだけだ。私たちは、自分の個人的な必要性や欲求を通してのみ世の中を理解していて、だからこそ、その欲求にどう語りかければいいかを熟知している巨大権力に弱いのだ。』、と。

『☆芸術も利用される
文化的操作が横行する20世紀を知りながら、芸術が権力によって日々どのように利用されているかについて議論せずに芸術を語るのは、あまりに愚かすぎる。不動産開発業者や人気のハイテク企業が芸術の威力を大胆に利用して世の中を変え、「クリエイティブ」という言葉を使って、新機軸の資本主義的構想をアーティスティックな企業イメージに作り替えている今、私たちは、芸術がどこまで来てしまったかを知るべきであり、おそらくそれについて考え直すべきだ。芸術は本質的に素晴らしいものだという神秘性を取り除くことにより、芸術を日常的なその他の現象と同じ土俵で論じることができる。』

『☆アーティストを三つのカテゴリーに分ける
まずは、預言者。未来のビジョンを芸術で表現するアーティスト。
次は抵抗者。芸術の力で権力者に抵抗しようとするアーティスト。
三番目が世界の創造者。自分たちの芸術を通して新たな生き方の選択肢を示すアーティスト。』

『☆恐れを利用するメディア
政治が人種差別的なのは今に始まったことではないのではないか?という人がいるかもしれない。これまでと違う点は、そのやり方が洗練されたことと、文化は強力な武器であるだけでなく、より重要なのは、恐れは他の多くの感情よりもずっと影響力があることを熟知している文化産業が増加したことだ。危険な他者への恐怖心が、あらゆる文化産業において大きな影響力を持つようになっている。音楽から政治、映画、テレビにいたる多様な文化産業が、注目を集めるために恐怖を利用するようになった今、その恐怖心の対象となった人々は大きな災難を被ることになる。こうして黒人の若者が、1990年代半ばのアメリカの人々の関心の的となり、ラジオやテレビ、映画、そして政治家が、黒人は恐ろしいというイメージの定着に大きく貢献した。』

『☆恐れのからくりに抵抗する
恐怖心を煽る戦略にいったいどんなふうに抵抗すればよいのだろう?歴史を振り返れば、支配的な文化に抵抗する数々の方法が見つかるが、あまりにも巨大で洗練された相手に立ち向かわざるを得ないとなると気が引けてしまいがちだ。ニューヨーク大学教授のスティーブン・ダンカムは、革新主義者が目標に到達するためには―ある程度は―右派によって使い古された強固な不合理性を採用し、右派と同じ土俵で戦う必要があると主張している。「ファシズムと商業主義には共通した独特の考え方がある。理屈や合理性、自明の真実を無視し、物語や神話、ファンタジー、想像力を利用してそれぞれの目標を推進しようとする。」
ダンカムは、革新的政治運動は、希望を生み出し、理想主義的可能性を広げるために、この考え方を利用することができると示唆している。文化戦争を完全に受け入れることによって、革新的政治運動は物語やストーリテリングの力を使って、多くの国民の想像力を、右派による利己的な大衆操作から取り戻すことができるかもしれない。「革新的な夢が本物の政治的影響力をもつためには、それが大衆の夢となる必要がある。これが起こり得るのは、唯一、その革新的な夢が人々がすでに持っている夢と共鳴したときだけだー現代のコマーシャルカルチャーがそうであるように。そして過去のファシズムさえもそうであるように」』

『☆IKEAとストックホルム・シンドローム
IKEAは実益とくつろぎがかたく結び付く場所だ。IKEAの第一印象が子どもの遊び場だとすれば、客が最後に目にするのは金属製のユニット棚にぎっしりと並べられた段ボール箱の山だ。客を取り巻くこの空間の変化と並行して、IKEA体験の捉え方にも変化が生まれている。そして客にとっての最後の体験の場となるのは、店舗から遠く離れた我が家だ。
我が家での組み立て作業を終えた時点で、客は製造者と消費者双方にとっての節約に貢献しただけでなく、おそらく創業者であるイングヴァルでさえ予測できなかっただろう価値が生まれる。
つまり客は、家でくつろぎながらIKEAのチームの一員となるのだ。仕事の流れは、IKEAの製造工場からリビングルームの組み立てラインへとつながっている。この経験が作り上げる心のつながりは、2009年の調査によって「IKEA効果」と冷ややかに命名されている。「IKEAの方法論は、自分の力で製品を組み立てたとき、何の努力も払わなかった場合よりその価値を認め、好ましいと感じるようになることを示唆している。」
IKEA効果。素敵な響きだ。これは店と顧客の関係構築の一種だ。参加すれば、それだけその店を好きになる。資本主義仕様のストックホルム・シンドロームと言っていい。監禁された人は犯人に同情を感じるようになる。しかしこれは感情的な生き物である私たちにはよくあることだ。私たちは、共に行動し、話をし、仕事をし、一緒に遊んだ人々や場所に親近感を抱き、心のきずなを結ばずにはいられない。
ブランド戦略や広告に携わる人々は、消費者の心に強い印象を残すのは、製品のイメージだけではないと理解している。
社会的、または身体的なやり取りも同じくらい―おそらくより深く―人々の心を虜にすることを知っている。人は共に遊び、笑い、大切にされ、一緒に働ける場所を好むということを、現代の企業文化が十分認識していることは明らかで、それこそがまさに、IKEAという名の、スウェーデン風を売りにした、税金逃れをしている企業の創業理念なのだ。』

『☆市場という名の劇場
IKEAやスターバックス、アップルは、この種の市民シアターが大成功した例であることがわかる。レジを人目につかないようにし、店員を売り子ではなく相談相手にし、あるいは、顧客の名前を尋ねてコーヒーの紙コップに書く行為はすべて、機械的に繰り返される商取引を参加型シアターに変えるためのトリックなのだ。
市場を劇場と考えてみると、店舗を特別な社交の場に変えるために有効な数々の表面的な工夫だけでなく、人々を否応なく誘導する経験の形成に、これまで文化が重大な役割を果たしてきたことについても、深く理解することができる。社会的責任を果たす企業活動には、合理的な判断を超えた人間的な部分や情動を操作する洗練された技術が駆使されていると気づかされる。プラトンは、芸術は感情に非常に大きな影響を与え、理性を曇らせてしまうため、社会的領域から追放すべきだと考えた。
現代の政治や資本主義経済は、アートの力をまさにその理性を曇らせる威力を理由に、巧妙に利用してきた。
情動操作によって企業は私たちにその大義を鵜呑みにさせることもできるし、ただ単に、何かを買わせることもできる。』

『☆情報という名の感情伝染
SNSの情報拡散の威力は大きい。人々が日々アップデートする内容は、ニュース記事やくだらないネコの動画、セレブのゴシップ記事などの転送ですっかり埋め尽くされた。どの情報も似たような体裁でスクリーン上に現れ、似たようなやり方で受け取られる。旧来の報道機関は広告収入がガタ落ちして存亡の危機にさらされ、人々がニュースを発信する手段そのものも劇的な変化をとげた。
クレイ・シャーキーが著書「みんな集まれーネットワークが世界を動かす」に書いているように「情報発信のマス・アマチュア化が、限られた数の報道機関しか存在しないことからくる限界を消し去った」ブログや、たいていのソーシャル・ネットワークがもつ簡単な共有機能が、突然ニュースを共有する強力な手段となった。
情報が民主化されると同時に、情報そのものの論調やその感情的影響力も民主化された。情報は、それが誰かの離婚であれ学校の危機についてであれ、親密なコミュニケーションが生まれる感情的な空間でやり取りされるものになった。

クリスタキスとファウラーは、SNSが人々の考えにどれほど大きな影響を与えるかを説明している。二人は、集団心因性疾患(MFI)と呼ばれる、突発的な精神状態を紹介している。一種の感情的感染状態だが、麻薬常習者たちが「接触陶酔」(ハイになっている人の側にいるだけで自分もハイになる)と呼ぶものとは異なる。
「実験から、人は他人が何かを感じている様子を、数秒から数週間の時間枠で見ることによって、その感情を『取り込む』ことがわかっている」と彼らは述べている。
SNSが、ニュースが体験される主要な様式となった今、ニュースの本質が変化し、人の感情に影響を与えるものとなった。
そして、これまで詳しく見て来たように、人間がもつ様々な感情は価値中立的ではない。ある種の感情は、情報をより迅速に普及させる。
ステファン・シュティーグリッツ等による6万5千件のツイートの分析の結果、感情的なメッセージは中立的なメッセージに比べてより頻繁に、より迅速にリツイートされることがわかった。それゆえ、今の時代、マーケティング担当者は消費者の怒りや驚きを喚起するものを狙っていくべきだと言われている。
SNSの時代である今、情報の世界は間違いなく非常に感情過多になっているように思われる。』

『☆感情の感染力
2008年の大統領選でのオバマの勝利が、情報空間で始まろうとしているある種の変化をまだ暗示していなかったとしても、ドナルド・トランプの大躍進がこの変化の背景にあることは間違いない。激しい気質を爆発させ、まるでわざとやっているようにパラノイアや陰謀、憤りを高速で撒き散らすこの男の、驚くほどリツイートされる言葉は、アメリカの、疎外感を感じている人々の怒りが渦巻く世界の共感を得た。
けれども、トランプの言葉の中身に目を向ける(中身は無いに等しい)よりも、彼の言葉がもつ感情的な特性に目を向け―恐れであれ、特定の人種への偏執的な恐怖症であれ、怒りであれ、あるいは驚きであれ―付与された過剰な感情、情報の影響力を強めるのにどのように役立っているかを正しく理解するべきだ。
トランプ人気が高まっているのは、彼が政治的公正さを欠く言動を平然とやってのけるからではなく、彼が常に驚き、怒り、人々の恐れに共感しているからだ。そしてこの種の感情は非常に感染力が高い。さまざまな研究からわかっているように、人は集合的な感情に敏感で、SNSはその強制力をさらに強化し、―かってないほどにより速く、より広範囲にその影響力を拡大している。
1930年代のヒトラーの演説もそうだった。1980年代の文化戦争のときもそうだった。そして1990年代の薬物戦争の際の、テレビで放映された映像もまたそうだった。
しかし、私たちは、なにが今の時代を特別にしているかを客観的に理解する必要がある。今や、ソーシャル・コミュニケーションやソーシャル・インタラクションなどのサイバー空間は、最も大きな商品市場の一つとなった。インターネットの普及で私物化された空間は、ごく普通の社交的な集まりを、利益を生む場に変えた。私たちが文化だと考える物の基本的な要素の一つ(社交)が、驚くほど大規模な、グローバル経済の主要な空間となった。

文化は武器だ。なぜなら、文化には世界を動かす力があるから。
結局のところ、自分でメディアを立ち上げられるようになったことが、人々の自己概念を変容させた。自分を取り巻く権力組織を理解するための物語を、自ら作り上げられるようになったということだ。』


「文化戦争 やわらかいプロパガンダがあなたを支配する」 著 ネイト―・トンプソン

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ネッツトヨタ広島HPより

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