月別アーカイブ / 2017年12月


著者は、政治学の分析対象である社会制度もまた、生命体と同様に変化・適応し、進化すると述べている。しかし、世界経済のグローバル化の先進福祉国家に与える影響が、地球温暖化が類縁の生物種に与える影響と似ているとしても、その影響に対してあらゆる国家が同じように適応する、もしくは世界中でこの適応が同じ結果になるという訳ではないと強調もしている。
そして、その具体例として、著者は、スウェーデン・日本・米国という三つの異なる資本主義民主主義国が、資本主義の展開とグローバル化という同じ類の圧力に対して、どのようにして、またなぜ、ここまで異なる適応をとってきたかを、進化と適応という視点から説明しようと試みているのだ。

『1.スウェーデン 
スウェーデンは世界でも最も重いレベルの税負担や寛容な社会福祉制度を備えた、高度に平等な国家と知られている。同時に、スウェーデンは生産性の高い、技術的にも進んだ経済であり、世界有数の成功企業が生まれた国でもあり、国際的にも最高レベルの生活水準を達成している。

☆スウェーデン・システムの特徴
・高度な所得平等性 ・普遍主義的社会福祉と税制政策・高い労働組合組織率と経済力の集中 ・労働と経営間の融和と協調の歴史 ・世界で最も重い税負担 ・世界で最も高水準にある社会支出 ・男女間の平等度の高さ

☆普遍的福祉国家
スウェーデンと他の福祉国家との重要な違いについて、社会支出と重い税負担の度合いに注目されることが多いが、鍵となるのはその大きさではなく、普遍性と理解するのが肝要である。このスウェーデンのシステムの基本要素は社会の中の最も貧しい、最も困窮あるいは保護を受ける資格のある家族を見つけ出し、社会支出や税控除の対象とするよりも、ほぼ全ての国民に、それぞれの社会的、経済的状況に関係なく重税を課し、広い範囲に及ぶ恩恵を与えるものである。すなわち、誰もが恩恵を受け、誰もが負担するシステムなのである。
「福祉」や「福祉国家」といった言葉は、スウェーデンでは多くの国(特に米国)と極めて異なる意味や連想を伴う。米国では「福祉」という言葉には否定的な含意があり、貧困層を対象に設計された資力調査付きの救貧対策を意味するのに対し、スウェーデンで「社会福祉」は、肯定的な響きを持ち、ほぼすべての国民にとり、無償の医療から教育といった、幅広い公的政策プログラムを指す。スウェーデンでは、「社会保護」関連支出の総計は国民総生産の31%にのぼるが、この支出の93.7%は、所得にかかわらず全ての国民に分配される。つまり、社会支出の大部分が収入にかかわらず国民に分配されているのだ。
またスウェーデン国民自身も、たとえ税が高すぎると思っても社会支出の継続を支持していることが世論調査の結果で示されている。これに対する説得力のある説明は、スウェーデン国民が重い税負担に寛容なのは、その負担が公平に適用されていると感じているためだ。要するに、このシステムは公平だという意識がスウェーデン国民の間に広く浸透していることと、ほぼ全員がこのシステムに納税し、やはりほぼ全員が政府から直接給付を受けているため、大多数の国民は、彼らの収めた税金が世界でも最良の部類に入る公教育、保育、産休、医療、有給休暇を支えそして経済が繁栄し続ける限りは、政府を支持するのだろう。

☆社会主義的自由主義
スウェーデンの政治経済システムは「社会主義的自由主義」とでも呼べるシステムだ。スウェーデンが世界で最も平等主義的な社会であるという意味で「社会主義的」であり、また、国営企業が極めて少ないこと、世界でも有数の開放経済であること、民間経済の方向性について政府が限定的な役割しか発揮しない点により「自由主義的」でもある。スウェーデン・モデルの特徴は、資本と労働の極めて強い協調関係、経済力集中の度合いと労働組合組織率の高さ、そして巨大な普遍的福祉国家である。
政策決定を政治的問題というより、社会工学的問題と考えることにより、スウェーデンはグローバル化を他の国々とは全く異なる捉え方をした。変化する環境に前進的に適応する戦略を選んだのだ。スウェーデンは、21世紀における比較優位性は、従来的な製造業ではなく、知的生産であるとの結論から、知識集約的型経済への移行を目指したのだ。そして、教育水準の高い労働力、効率的な公共サービス、社会への信頼の高さは、スウェーデンにとって大きな強みと考えたのだ。

2、日本
日本は世界で最も近代的な国であると同時に、驚くほど昔ながらの社会なのだ。また、日本は世界で最も社会階層制度の根強い国の一つである。

☆新旧遺伝のハイブリッド
政治制度は多くの意味で、国家の遺伝子と言える。日本の場合、これらの制度は国家に接ぎ木されたのであり、過去60年間のその大半をその適応に費やしてきたのだ。
また、第二次世界大戦後に構築された特異な選挙制度は、強い組織を持つ政党同士が経済問題や再分配をめぐって論争するという典型的な対立のない政治システムの創成に寄与して来た。政治家は地域の選挙区に、その地域の問題を訴えて当選する。西欧世界で通常、政党と呼ばれるものが、日本では驚くほど自律的な政治起業家によって構成される連合体になっている。これらの政治家は派閥を構成するが、それは共通のイデオロギーや政治課題を促進するためではなく、顧客の要望に応えるためである。このシステムは著しく地方を偏重しており、皮肉にも生産性の高い経済力の中心に不利益を生じさせている。また悪名高い日本の公共事業は利益誘導の支出政策であると同時に、「雇用創出」福祉として働いているのだ。

☆労働組合
日本では、従業員と労働組合は「企業別労働組合」を通じて協調してきた。多くの資本主義民主主義国家の労働組合勢力は自らの利害関心を階級的な意味で定義するが、日本の労働組合は企業の系列に沿って組織され、自らの関心を企業の経済的成功と結び付けてとらえることが多い。だから、彼らは一般の集合財としての失業保険や年金のためというよりは、個々の企業特有の恩恵を求めて闘う傾向がある。
☆日本は福祉国家の国ではない
多くの人は、先進諸国では米国の福祉国家が最も小さいと信じている。米国は最低レベルの公的支出、最高レベルの不平等さ、自己責任を強調する政治文化があるが、実際には日本より成熟した、幅広い貧困層向けのプログラムを備えている。日本では他の先進民主主義国と比較して、低所得層向けの福祉プログラムや貧困層向けの支援プログラムはあまり進んでおらず、支出も少ない。何らかの公的扶助を受け取っている世帯数は2001年に80万5000世帯である。このような世帯の過半数は高齢世帯(37万世帯)か、障害者世帯(30万4000世帯)である。人口が1億2000万人を超える国で、たった6万8000の「母子世帯」しか公的扶助を受け取っていない。米国の多くの都市では、その地域だけで日本全体より多くの世帯が何らかの公的扶助を受け取っている。
日本全体として見ると、これらの公的福祉支出の不足を、企業の「福祉」支出と女性による「無料」の福祉機能によって補っているのだ。この日本の女性が「無料」で提供している多くの機能を、スウェーデンでは女性が公的サービスとして提供し、賃金が支払われている。これが、スウェーデンと日本の福祉国家の主な違いの一つである。
このような方法で、日本は、非常に小さな公の福祉国家を構築すると同時に、高いレベルの公共の福祉を保ってきたのだ。
また、税や社会支出はことさらに再分配効果が強いものではないが、戦後国際的にも成功した大規模な企業をいくつも輩出しつつ、非生産的で大きな経済の核を保ってきた。それは、成功企業に重く課税し、成功しなかったものに補助金を与えている。女性の権利を促進する法律を作りながら、公的な社会サービスを提供せず、社会サービスとしての妻等の女性に依存するものだった。この国のシステムは近代化されていながら、同時に近代化されていないのだ。

☆衰退に向かいつつあるハイブリッド(交配種)
大規模輸出志向資本主義が、より伝統的で階層的な社会に接ぎ木された初代の交配種モデルは現在、急速な変化の局面を迎えている。高度成長期には、日本の企業は業績が好調であったために、従業員への社会福祉給付と日本経済の大きな部分を占める非生産的で非効率な部門に対する実質的な援助を両方とも提供できた。しかし、今日、これらの企業は極めて厳しい経済的圧力にさらされており、政府に社会福祉コストの一部を負担することや、中小企業とその従業員にも税負担を課すよう求めている。しかし長きにわたり援助を受けてきた者達は、自分たちには余裕がないと主張し、競争力をつけるよう求めるどのような動きにも強く反対しているというのが政治的な現実である。財政赤字のために厳しい選択肢をとれない政府とまさに同じように、中小企業や農家は、現在既に赤字経営であるために、再構築に必要な資金を賄いえないのだ。

3、米国
☆隠れた福祉国家
近年、多くの研究者が、米国は他の先進経済諸国と少なくても同程度に、場合によってはより手厚く社会福祉(保育、医療、養育、介護など)に支出していると論証している。従来のイメージに反して、米国と他の先進国との重要な違いは供給される社会福祉のレベルではなく、その供給のされ方と、資金調達の方法である。それが隠れた福祉国家と言われる所以だ。
米国連邦政府は、民間の福祉サービス提供に補助金を支出するにあたり、様々な方法で密接に関与しているが、租税による間接的な資金提供や補助金といったやり方が米国では好まれている。
社会福祉に対して、予算から直接支出せずに税制を通じて補助するという選択は、便益の分配に重大な影響を与えている。一例を挙げると米国は、普遍的な保育プログラムに助成するのではなく、家族向けに保育税額控除を与えている。同様に、国民皆保険制度を通じて全ての国民に医療保険を提供する代わりに、雇用されて働く者の一部は、その医療保険にかかる費用の一部が所得税の対象となる所得から控除されるかもしれず、同時に(あるいは)、もし加入する医療保険の費用が一定の状況下においてある額を超えた場合や収入が一定の基準を下回る場合には他の税額控除を利用できるかもしれない。この書き方は、現状を極めて端的に示したものだ。この複雑さのために、米国の社会福祉は高コストな制度になっている。その訳は第一に、制度の複雑さを利用してごまかしをする者が多い。もう一つには、制度が複雑なために、これを監視する官僚が多数必要である。その複雑さとあからさまな不公平さのために、このシステムは一般歳入として徴収できる税金の額を減らすと同時に、普遍的なプログラムの拡大に対する世論の支持をも結果的には弱めている。
米国における社会移転の最大の受給者は中間層である。しかし、中間層はあまりにも多くの給付を税制を通じて受け取るために、政府の社会支出から恩恵を受けていると実感する機会はめったにない。
要するに、米国は広範に及ぶ高額な福祉国家なのだが、その恩恵は、直接の公的支出を通して提供されず、税法を通じて巨額の支出がなされているのだ。しかもこっそりと、そして大部分が特定のグループに向けた条件付き給付であるため、隠れた福祉国家となっている。

☆米国における委員会制度とロビー活動
米国では、広い国土と文化的均質性の欠如によって、権力の分立が中央集権的な政府の樹立を阻んだが、問題は議会がいかに憲法で定められた立法義務を果たしうるかという事であった。そして、その答えは、特定の政策分野を管轄する政治権力を特定の委員会に分散することであった。この「委員会制度」により、中央レベルの政策を決定する権力は異なる機能を持ったユニットに分割され、それらの機能する領域について、一部の議員に統治権力が与えられたのである。この結果として、規制政策を司る権力を、規制される側の利害関心そのものに変貌させてしまった。
そして、この意志決定モデルの意図せぬ帰結は、給付を特定層に限定し、コストを分配するのが難しい政策構造の創造となった。
米国では、公の利益を追及するために権力を制御しようと中央集権化する代わりに、権力をさらに分割し、断片化する選択をした。このように、連邦政府への新しい時代の要求が、新しい政策決定環境を生み出し、そこでは強大な権力が委員会の長に与えられ、その結果、特定利益団体やロビー団体の影響力も強まってしまった。』 


12月18日に、来年2018年10月から、日本の生活保護費のなかの「生活扶助」が、総額で年1.8%あまり削減されることが、厚労省から発表されたばかりだ。
格差と貧困が、今の時代の注目すべきワードとなるなかで、社会福祉という点で、日本の社会福祉システムがどういう位置にあるのかを他国との比較のなかで客観的に見たかった。それも、あくまでも政治経済というシステムから独立したものとしてではなく、そういうシステムを土台とした観点から見たかったのだ。
更に、スウェーデンの高負担・高福祉の社会システムには、以前から興味を持っていた。
だから、この本の、スウェーデン・日本・米国を比較しながら、その政治経済の発展を見比べるという視点は、まさに私が今求めていた視点だったのだ。
この3国は、自由主義民主主義という点では共通するものがあるが、ほとんどその発展の過程は、全く個別の道を歩んでいるのだ。具体的には、社会福祉という点でも、この3国が独自の進化と適応の道を歩んでいるのが、とてもよく分かった。
また、著者は、政治経済の制度的な進化と適応が必ずしも、最良のものとなるとは限らないと述べているのだが、社会福祉という面では、現在の段階においては、スウェーデンの制度が適応という面では、若干他の2国よりうまく適応できているのかも知れない。
もちろん、スウェーデンの政治経済のシステムも、グローバル化による経済的影響や移民の流入による亀裂によって、現在揺らぎだしているが、それでもまだ比較的、国民の国家組織への信頼感の低下は限定的だと言える。だから、高い税負担に対しても、それが適正に再配分される限りそれを受け入れようとしているようだ。
米国は、建国からの過程で中央集権化というよりも権力の分散化を望んだ為に、かえって全体の利益に繋がるような問題に対して統一した行動を取れなくなっている。その最たるものが、医療保険に関する長年のゴタゴタだ。しかし、反面、米国は隠れた社会福祉国家であり、普通イメージされているよりもずっと社会福祉的支出も多いようなのだ。ただそれが税金等の控除や補助金という形で行われている為、国民がそれを実感したり、それに対して満足感を持つことが少ない。
日本は、システムの転換を迫られている。政治経済・民主主義といった、西欧から接ぎ木されたシステムと旧来の階層社会的なシステムが色々な歪を生み出している。過去の日本の成功を生み出した雇用・福祉・中央集権システムといったものが、すべて逆に現在の課題になって来ているのだ。更に、巨大な財政赤字や人口減少や高齢化という問題も、待ったなしの問題となっている。
政治経済の全般における日本の諸々の差し迫った問題の巨大さは、他の2国よりもはるかに切実だ。
そして、著者も、3国の中でとりわけ日本に関しては、政治経済の全般において何も決定できないシステムに対しての強い懸念を抱いている。
しかし、これらの日本の問題を、日本が米国のようになることで、またはスウェーデンの真似をすることで解決できるかと言えば、そうはいかないと、著者は述べている。日本は、日本の強みを考え、どうなりたいのかを、独自に考えなければならないと言っているのだ。
しかし、問題は、考える時間が日本にどのくらい残されているかだろう?

「政治経済の生態学 スウェーデン・日本・米国の進化と適応」  スヴェン・スタインモ 著         

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のんちゃんねるより

米取引所での先物取引が可能になったことを受けて、ビットコインは12月7日には、一時、時価総額が2400億ドル(約27兆円)を超えるような急騰をみせた。
ちょっと前の7月には、ビットコインの分裂騒ぎが一応収まったかに思えたのが、一転8月に入るとハードフォークによって、ビットコインはビットコインキャッシュとに分裂したばかりだったのに。(このビットコインキャッシュは、数あるアルトコインの一つに留まるのではないかというのが、おおかたの見方のようだが)。
私自身は、ビットコインの基幹技術であるブロックチェーン技術そのものに関しては大いに興味を持っていて、また大いに期待もしているが、ビットコインそのものに関しては、そう深い関心があった訳ではない。だが、現在の騒動によって、ビットコインの技術や歴史的なことも含めて、改めて確認してみたいと思い、この本を手にとった。
この本はビットコインの資産運用本でもないし、専門的な技術解説書でもない。しかし、暗号通貨という新技術の全体像を見るには適した本だと思う。

『☆暗号で通貨を作る方法。
ブロックチェーンは暗号法に基づいている。“暗号通貨”と呼ばれているのはそのせいだ。現代の暗号法には、PGPと同様な非対称暗号、すなわち、“公開鍵”暗号が使われている。公開鍵暗号の基礎をなす原理は、ある方向に解くのがその逆方向に解くよりもはるかに簡単な数字の問題が存在するというものである。
たとえば、323123と596977という二つの六桁の素数を掛け合わせるのは、比較的簡単だ。一分もあれば紙と鉛筆を使ってでも、192896999171と答えが出る。しかし、192896999171という数字が与えられて、それを割り切る二つの素数を見つけろと言われたら、はるかに長い時間をかけてすべての候補を試していく必要がある。もっとずっと大きい公開鍵暗号では、コンピュータがまさにそのような課題をこなさなければならない。
ユーザーは、メッセージを暗号化するための公開鍵と、複合化するための秘密鍵という二つの鍵を持つ。秘密鍵は極めて大きい(数百桁や数千桁の)二つの素数からなっていて、公開鍵はそれらを掛け合わせた答えである。秘密鍵を使って公開鍵を生成し、その生成プロセスは検証できるので、二つの鍵は半永久的に結び付けられる。しかしその生成プロセスを逆に辿るのは極めて難しいため、公開鍵をどんな人に教えても、秘密鍵を突き止められることはまずない。
公開鍵暗号はとても強力で、ほとんどのユーザーにとってその暗号を破るにはいわゆる“力まかせ”の方法しかない。つまり、たまたま正解に行き当たるまですべての秘密鍵候補を試していく。文字通り、コンピュータの処理速度で当て推量をしていくということだ。
現在広く使われている公開鍵暗号方式の一つがRSAと呼ばれているものであるが、このRSAに現在使われているもっとも強力な暗号鍵は、4096ビットの長さがある。現在もっとも高性能な装置を使っても、この長さの秘密鍵を破るには、“実質的に無限”の時間がかかるだろう。
ブロックチェーンは、ビットコイン一枚一枚の所有者の変更を記録したデジタル台帳、すなわち長大な貸借表である。追加される取引記録はすべて、公開鍵やデジタル署名に似た方法で確認が取られる。しかしこれは金融取引なので、多少異なる用語を使う。
秘密鍵のように機能するのが“ウォレット”である。それはあなたしか知らない秘密で、あなたが持っているすべてのビットコインを結び付けている。公開鍵として機能するのは“アドレス”。ウォレットによって生成され、それを自由に公開することで、誰でもあなたにビットコインを送ることができる。ウォレットは、ブロックチェーンに送るあなたの取引記録にデジタル署名することもできる。
ブロックチェーンに書き込まれた一つ一つの取引記録には、アドレスに結び付けられたデジタル署名が添えられているため、誰でも取引記録の有効性をチェックできる。これまでに行われたすべての取引記録がブロックチェーンには収められているので、どんなコンピュータでも、記録を遡ってすべての署名をチェックし、一貫しているかどうかを確かめることができるのだ。
すべての取引記録はブロックチェーンで保証されるが、ブロックチェーンそのものの真正性と一貫性も保証する必要がある。
基本的に、攻撃者が偽の取引記録を送信して他人のビットコインを移動させる恐れはほとんどない。それはウォレットの署名によって防がれているからだ。しかし、心配なのは、取引記録が削除されたり取り消されたりしてしまうことだ。独断で台帳を編集し、時間を遡って以前の取引記録を無効にする力があれば、以前にコインを使ってしまった所有者にコインを戻すことで、何もないところからビットコインを作り出すことができてしまうのだ。
この問題を解決するには、全員でブロックチェーンを管理することで、誰か一人がブロックチェーンを支配できないようにすればいい。
一台のコンピュータが、この暗号数学問題の正解のハッシュを見つけたと考えたら、ネットワーク上の別のコンピュータはそれを素早く検証することができる。当て推量は何度も繰り返し行わなければならないが、それに比べると検証は一発だ。しかし秘密鍵が存在しないので、正しいハッシュを見つけるには当て推量と検証をする以外はない。“プルーフ・オブ・ワーク”(作業の証明)と呼ばれるのはそのためだ。
プルーフ・オブ・ワークに基づく暗号通貨は、タイムリミットを設けることで、ある時間のあいだ取引のためにブロックを“オープン”にしておいてから、ブロックチェーンに書き込む。プルーフ・オブ・ワークが完了すると、ブロックはクローズされる。ビットコインは一つ一つのブロックを解くのに約10分かかるよう設定されているが、暗号通貨によってその時間は異なる。ビットコインのブロックがオープンしている10分間、追加されるすべての取引記録は、ネットワーク上のすべてのコンピュータのあいだで共有される。その間にすべての新たな取引記録が比較され、重複していたり矛盾していたりする取引記録は削除されるのだ。これが、二重取引をさせないための最初の障壁となる。
ブロックの実際のデータには、取引記録とプルーフ・オブ・ワークの解だけでなく、その一つ前のブロックのハッシュも含まれている。そうして新たなブロックには、一つ前のブロックによる“署名”が付くため、ずっと辿っていけば一番最初のブロックに遡ることができる。このため、新たなブロックが作られるたびに、過去の取引記録がさらに強く保証されることになる。以前のブロックの情報が一文字でも書き換えられたら、そのブロックの署名が変わり、それによってその次のブロックの署名が変わり、さらにその次の署名が変わり、と続いていく。このため、下流のすべてのブロックに手を加えない限り、過去のブロックチェーンを書き換えることはできない。ブロックどうしが決して変わらない形で結びついているため、現在のブロックは必ず、それ以前のすべてのブロックに基づいて唯一無二に決まっており、途中に何かを挟み込むことは決してできないのだ。
偽の情報を追加したり、以前のブロックから取引記録を削除したりするには、チェーンを遡ってすべて署名し直さなければならない。しかしそのためには、いま解かれようとしている新たなブロックを含め、変更したい場所以降のすべてのブロックを作り直さなければならない。
それはちょうど、一人のランナーがレースの途中で立ち止まってスタートラインまで戻り、そのまま走り続けたほかのランナーに全速力で追いつこうとするようなものだ。一台のコンピュータがこの競争で勝つには、ほかのすべてのコンピュータを組み合わせたよりも速いスピードでハッシュ候補を生成するしかない。だから、ブロックチェーンから単に削除するだけで以前の取引記録を取り消すことは不可能で、そのために二重使用はますます防がれることになる。
このように複雑な署名とハッシュによってそれぞれのブロックが次のブロックにしっかりとつなぎとめられるのに加え、プルーフ・オブ・ワークが次々に積み重なっていくことも、ネットワーク上のすべてのブロックチェーンを同一に保つのに役立つ。ビットコインのソフトウェアは必ず、もっとも長いブロックチェーンを真正なものとして選ぶ。そのもっとも長い真正なブロックチェーンに含まれている、承認済みのブロックに記された取引記録を見れば、そのコインが本当に送金されたかどうかを知ることができる。その取引を相反する取引で取り消すことはできず、ブロックチェーンはその取引の記録を必ず一つしか持たない。もはや二重使用はほぼ不可能なのだ。

☆仮想通貨と暗号通貨の違い。
日本では、仮想通貨と暗号通貨を混同している。
コンピュータ上のデータとしてのみ存在する仮想通貨は、暗号通貨とかなり似ているが、決定的な違いが幾つかある。
その最大の違いは、仮想通貨にはブロックチェーンの台帳もプルーフ・オブ・ワークのしくみも使われていないことだ。ブロックチェーンを使っていないので、一つの会社か組織が発行して管理しなければならない。それに対して、暗号通貨に使用に責任を持つ当局は存在せず、暗号通貨に組み込まれた規則以外、誰にもルールを押し付けられることはない。

☆マイニング(採掘)。
新たなブロックを解いてブロックチェーンに新たな取引記録を追加するために、ハッシュ候補を当てずっぽうで生成してプルーフ・オブ・ワークを完了させること。ブロックを解いたコンピュータは、報酬としていくらかの額の暗号通貨を受け取るのが普通である。

☆力まかせの方法。
ほとんどのユーザーにとって、公開鍵暗号を破るための唯一の方法。解くのがほぼ不可能な方程式の解を推測して、正しい答えに行き当たるまでそれを繰り返す。プルーフ・オブ・ワーク暗号通貨のマイニングの基礎をなす作業。

☆プルーフ・オブ・ワーク。
ビットコインなどの暗号通貨において、新たなブロックを生成するために必要なマイニング作業、ハッシュを力まかせで推測する。生成したハッシュはアルゴリズムで速やかに検証できる。(※ハッシュとは、文字列をもっと短い複雑な数値へ変換する暗号化プロセスの一部。もとの文章が一文字でも変更されると、ハッシュも変わる。暗号を使ってメッセージに署名するのに使われるとともに、暗号通貨のマイニングプロセスにも欠かせない。)

☆51%攻撃。
ビットコインなどのプルーフ・オブ・ワークの暗号通貨に対する攻撃。ネットワーク上のハッシュ生成能力の51%を支配できた攻撃者は、技術的にブロックチェーンを誤った情報に書き換えることができる。プルーフ・オブ・ワークが困難であるため、51%を支配するのはほぼ不可能だとされている。

☆ビットコインの改良。
ビットコインの問題点 1、ブロックのサイズに制限があり、約10分ごとに1MB分の取引記録しか書き込めない。そのためビットコインの多くの開発者は、ブロックのサイズを大きくすることでこの問題を解決しようとしている。例えばビットコインXTというアップデートは、ブロックサイズを8MBに増やし、その後も定期的にサイズを二倍にしていこうとしている。
問題点 2、分散型のシステムであるために、たとえ中心的な開発者でさえ、どのソフトウェアを使わせるかを決めることができない。例えばビットコインXTを使っているコンピュータは、8MBのブロックを作る。しかし以前のバージョンのソフトウェアを走らせているコンピュータは、そのサイズのブロックを処理できない。そうするとフォーク(分岐)と呼ばれる状況に陥ってしまう。そのため、ソフトウェアをアップデートする際には、大混乱につながるフォークを避けるために、ある期日まで待ってからネットワーク全体で採決をとる。つまりネットワークで投票を行い、ネットワークの75%以上を獲得すればその新しいバージョンは受け入れられたとみなされて、アップデートを強制される。しかし、これには賛否がつきものだ。

☆ハードフォークとソフトフォーク。
稀にネットワーク上に二つの異なるブロックチェーンが存在し、そのどちらか一方を選らばなければならないという異常な状況をフォーク(分岐)というが、ハードフォークとは、新しいバージョンと古いバージョンの間に互換性が失われて、暗号通貨が事実上二種類に分かれること。一方、ソフトフォークも暗号通貨のアップデートに伴って起こるが、古いバージョンと新しいバージョンはコミュニケーションを取り続けられる。そのソフトウェアアップデートは後方互換性があるため、アップデートとしていないコンピュータもネットワークから締め出されることはなく、アップデートの恩恵を受けられないだけ。

☆プルーフ・オブ・ステーク。
プルーフ・オブ・ワークに代わる方法の一つ。大量の暗号通貨を所有しているコンピュータを、システムへの関与が強くて信用できると判断し、ブロックチェーンに新たなブロックを追加する特権をそのコンピュータに与える。

☆ブロックチェーン。
分散型のデジタル台帳は、商業契約や個人の金融記録から、健康管理データまで、あらゆる類の情報を取り扱う上で役に立つ。そのため人々は先を争って、どんなデータがブロックチェーンに記録するのにもっともふさわしいのか、ブロックチェーンはビットコインや別の暗号通貨に使うべきか、それとも何かまったく別のものに使うべきなのかを、見極めようとしている。
金融関係でいえば、きわめて汎用的な形のブロックチェーン技術を推進すべく、いくつもの銀行や企業からなる少なくとも二つの大規模コンソーシアムが組織されている。PTDLグループとR3グループと呼ばれる世界中の数多くの銀行が名を連ねている二つのコンソーシアムだ。しかし、開発中の技術の詳細はまだ公表されていない。
しかし、金融取引はその手始めにすぎない。ブロックチェーンを使って、医療記録を安全に保管したり、“紛争ダイアモンド”で利益を上げるのを防ぐためにダイアモンドの流通記録を提供したり、資産記録やデジタル遺言書を転送したり、さらには旅行者にクーポンや特別サービスを提供したりする試験も行われている。
ブロックチェーンを実世界のサービスに役立てられないかと模索している企業は増えている。オンライン民泊代理サービスAirbnbは最近、利用者の評価の管理にブロックチェーンを利用する実験を開始した。また、ブロックチェーンは、音楽アーティストや音楽配信会社が頭を抱えている問題の解決にも役立つかもしれない。アーティストと配信会社がオンライン上の音楽トラックの権利条項や印税条件をすべてスマート・コントラクトで共有して、一曲一曲に自動的に使用許諾を与え、再生されるたびに支払いが行われるようにするのだ。

☆仲介ノード。
何種類かの暗号通貨では、ネットワーク上の各コンピュータに階層を当てはめている。基本ユーザーの上位に仲介ノードがあり、取引の認証やネットワーク構造の構築に関してより大きな権限を持つ。

☆スマート・コントラクト。
ブロックチェーン開発の世界でもっとも話題になっているのが、取引記録やデータだけでなく、コードそのものもブロックチェーンに保存させるというアイデアである。そうすればブロックチェーンが一つの分散型プログラムとして機能し、市場の条件の変化に合わせてソフトウェアが自らアップデートしたり修正したりできるだろう。そのようなコードを使えば、自律的に機能する“スマート・コントラクト”と呼ばれるものも可能になる。しかし、コードと難解な法律用語を組み合わせるというその新たな取り組みが、極めて複雑なシステムを生み出そうとしていることも分かってきた。
例えば、家を買うときには普通、弁護士や銀行など信頼できる第三者に代金と証書を託す。その第三者は、売る側と買う側の両方が契約要項を満たしたと納得したら、それに応じて代金と証書を渡す。スマート・コントラクトでは、第三者を介さずに自動的にそれを行うことができる。契約要項のコードは、暗号通貨の取引記録と同じく、ブロックチェーンによって分散型台帳の中で安全に保管される。一つのブロックチェーンで証書と代金と契約書を保管し、台帳をアップデートするだけで、所有権を移転できるようになるかもしれない。

☆自律企業。
スマート・コントラクトがブロックチェーン開発者たちの注目を集めたことで、ほかにも数々のアイデアが生まれようとしている。たとえば、ブロックチェーンで株主の投票システムを管理できないか?さらには企業を丸ごと管理できないか?
法的立場から言うと、企業とは、指揮体系、経営体系、利益分配システムを定めた一連の規則にほかならない。もしかしたら、そのようなものをコードで書いて、ブロックチェーンで安全に保管できるかもしれない。それは“自律企業”とよぶことができるだろう。
2015年にロシア人プログラマーのヴィタリク・ブテインが、スマート・コントラクトを組み込むことのできるブロックチェーン、Ethereumを立ち上げた。
国家権力の届かない分散型ブロックチェーンの中で一つの企業を丸ごと作ることができれば、まったく新たな“自由”の概念が生まれる。自律企業から誰が税金を取るというのだろうか?ブロックチェーンを拠点とする企業がどんな政治家に頭を下げるというのだろうか?
またたくまに、Ethereumの暗号通貨であるEtherは、ビットコインに次ぐ第二位の規模の暗号通貨になった。

☆Ripple vs Ethereum。
ブロックチェーンの未来を占う上で、Ripple と Ethereumの競争は注目に値する。Ethereumは、暗号通貨黎明期の理想主義的な精神をほぼ体現しているとすれば、Ripple は、もっと従来型のアプローチを取り入れているように見える。新たな土台を築こうとするのではなく、すでに金融ネットワークを支配している銀行や企業にアピールしている。いまのところ勝者ははっきりしていない。それでもこの競争に注目すれば、数々の新たな金融技術ふるい分ける基準が見えてくるだろう。』 


暗号通貨をめぐる情勢は目まぐるしく変化している。また、ここ最近のビットコインの投機的とも思える急騰は、世間に不安感を与えているかも知れない。しかしそれでも暗号通貨が全く世の中からなくなることはないだろう。それはブロックチェーンという技術がその基幹にあるからだ。そして、このブロックチェーンという技術は、ある意味既存の権力構造を覆す技術かも知れないのだ。
国家・政府・銀行という個人に保証や信頼を与えていた中央権力や信用機関さえもが、その存在の意義を失いかねないのだから。
将来、ブロックチェーンがどう進化していくかは分からないが、こういう分散型システムで情報や信用を安全に管理できるということを人々が知ってしまったことは、大きな転機になることだけは間違いないだろう。
ただ、この本では量子コンピュータには触れられていなかったし、シンギュラリティにも触れられていなかった。コンピュータの進化やAIの進化次第では、ブロックチェーンの安全性が本当に確保されるのだろうかという危惧は残ったままだ。

⛄❄☔


パリ.PNG

のんInstagramより







「ビットコインとブロックチェーンの歴史・しくみ・未来」 ニュー・サイエンティスト編集部 著より ※【ニュー・サイエンティスト】は、1956年に英国で創刊された科学雑誌

現在は、発音の仕方もわからないようなブランドが一夜にして登場する時代だ。だがその多くは消えていく。
しかし、そこから生き残り、キングとして市場に君臨するような企業も存在する。
一体それはなぜなのか?そして、そこに戦略があるとすれば、その戦略とは?

☆カテゴリーキングになるためには、まずカテゴリーそのものを創造せよ。
著者は、現在における勝つ企業とは、ただソリューションを提示するだけではなく、まず問題の存在そのものを市場に提示し理解させる企業だと述べている。そして、この問題の存在を人々に理解させることに成功し、それと同時に新しい技術を使えばその問題は解決が可能だと人々に理解させ得る企業が、勝つ企業となると述べている。
そして、この問題の存在そのものを市場に提示し理解させる行為これこそが新たなカテゴリーを創るという行為なのだ。
人々は、一度問題を理解してしまえば、市場でもっとも人気のあるソリューションに手を伸ばす。というのも、人々は選択肢となる製品やサービスの数が多いと、その一つひとつを吟味するのは負担に感じるからだ。だから人々はトップシェアを誇るものを選ぶ。それ故ベストだとみなされたものが、市場のシェアをほぼ独占する。二番手はなんとか生き残れたとしても、三番手以下には何も得るものがないというのが今の時代だ。
こういう人々の行動には、認知バイアスの一つである「アンカー(初期値)効果」や「選択支持バイアス」、また「集団思考バイアス」が、購買意志決定の基準として働いているのだ。

『つまり、カテゴリーの問題が定義されるやいなや、市場がソリューションを要求する。そして潜在的な顧客はもっとも知名度のあるソリューションに殺到するのだ。研ぎ澄まされたカテゴリー戦略を採用した会社は、カテゴリーをデザインし、問題を世間に知らしめ、それに対するソリューションを提供する。すると、カテゴリーがその会社をキングの座に押し上げるのだ。』


☆カテゴリーキングになるための戦略とは。
『数ある企業のなかでも、もっともエキサイトなのは創造する企業だ。そうした企業は私たちに新しい生活、考え方、仕事の仕方を提案してくれる。私たちがその存在にさえ気づいていなかった問題、―あるいは、対策があるなんて夢にも思わなかったのでまったく関心を払わなかった問題―を解決してくれることもある。ウーバーがなかった時代には、私たちは片手を挙げながら危険なほど車道に身を乗り出してタクシーを捕まえようとしたものだった。ウーバーができてからは、そんなことは愚かにすら感じられる。
そうした企業は、私たちに売るための商品を発明するだけではない。以前のものに比べてよりよいだけの製品やサービスをつくるのではない。彼らが私たちに売るのは、“改良品(ベター)”ではない。もっともエキサイティングな企業が売るのは“別のもの(ディファレント)”である。世界に製品やサービスの新カテゴリーを紹介する―クラレンス・バーズアイの冷凍食品やウーバーのオンデマンド交通手段などだ。彼らは私たちの世界の見方を、新しい視点で置き換える。そのせいで、それまで存在していたものが時代遅れで、不格好で、非効率で、コストがかさみ、痛々しいものに見えてしまう。
新たなカテゴリーをつくり、発展させ、支配した企業を、私たちは“カテゴリーキング”と名付けた。強調しておくが、あるアイデアを思いついたり特許に値する発明をしたからといって、必ずしもその会社がカテゴリーキングになれるわけではない。優れた製品を世の中に送り出すだけではカテゴリーキングとは呼べない。優れた製品と優れた会社と優れたカテゴリーを同時にデザインして初めて、カテゴリーキングにふさわしい。カテゴリーキングとは自ら率先してカテゴリーを定義し、発展させ、そしてそのカテゴリーを長期にわたって支配する企業だ。
カテゴリーキングは時間を超えて持続的に、しかも爆発的に多大な価値を生み出す―アマゾン・ドットコム、セールスフォース・ドットコム、フェイスブック、グーグルなどだ。彼らは巨大な可能性―これを“カテゴリーの潜在力”と呼ぶことにする―を秘めるカテゴリーのドアを開き、そのカテゴリー全体の経済を牛耳る。データによると、カテゴリーキングたちは、それぞれのカテゴリーで生じる利益と市場価値の七割から八割を手中に収める。
カテゴリーキングは自身が解決に努める問題を、文字通り“所有”している。そのため、カテゴリーキングがそのカテゴリーを去るのは不可能といっても過言ではない。顧客がカテゴリーキングを手放そうとしない。カテゴリーキングの座を奪おうとするのは―キング自らが大失敗をしない限り―不可能と言える。

☆まずPOVを作成する。
カテゴリーが見つかり、定義されるや、カテゴリーの物語「ポイント・オブ・ビュー(POV)を作成する必要がある。」そして、POVは、物語の主役となるカテゴリーと会社が、なぜ他とは違うのかを世界に伝えるものでなくてはならない。この“ディファレント”が記憶に残る。よりよいもの、つまり“ベター”をテーマにしたPOVをつくった場合、その物語は顧客に、彼らがすでに知っているものとあなたが提案するソリューションを比較する機会を与えてしまう。この“ベター合戦”で二つの企業が対等にやり合っていると考えた場合、価格の低い方が選ばれる。優れたPOVはベター合戦ではなく、あなたしかいない“ディファレント”な場所にあなたを据える。
POV……モビライゼーション(グラビティとの決別)、マーケティング(電撃作戦へ力を集結する)

☆カテゴリー自体の潜在力を拡大する。
フライホール……カテゴリーの潜在力を究極まで拡大するためのもの。企業デザイン、プロダクトデザイン、カテゴリーデザインの三つの要素からなるもの。
会社の価値はカテゴリーに根差している。そのため、カテゴリーの潜在力が何よりも重要だと考えられる。投資家が求めるものは、この会社は高い潜在力を秘めたカテゴリーに属しているという確信だ。それを得られれば、投資家はカテゴリーに対して出資する。次に重要なのは、当該企業がカテゴリーのどこに位置しているか、という疑問だ。カテゴリーキングはカテゴリーのエコシステムのほとんどを独り占めにできるのだから、当然ながら、投資家たちはキングに資金を投じたいと願う。

☆カテゴリーの連続創造。
テクノロジー業界に君臨する巨大カテゴリーキング―アマゾンとグーグル―は“連続カテゴリー創造マシン”だ。

☆ベターではなくディファレントを。
顧客は,“ベター”を求める。しかし、あなたは“ディファレント”を求める方がいい。改善できるものではなく、欠けているものを探そう。それがまだ必要だとは誰も気づいていないものを探そう。ベターでは、ややもすれば消耗戦に巻き込まれるからだ。
“ベター”はカテゴリーからの収穫をしているときに目指すもの。カテゴリーをデザインするなら、“ディファレント”を目指さなければならない。

☆カテゴリーの終わりを見極める。
もう一度カテゴリーデザインをするか、それとも今のカテゴリーから最大限の利益を収穫するか?もし収穫の道を選ぶなら、収穫者として優れた人物を選らばなければならない。あるいは、会社をより大きな大企業に売却するのも方法だ。

☆カテゴリーを創造するふりをして遊ぶな。
新カテゴリーが生まれつつあるとき、大企業のほとんどは自分たちのカテゴリーが脅かされていることに気づく。しかし、旧カテゴリーの利益を守りながら、低予算で中途半端につくった製品を新カテゴリーに投じたりするべきではない。それはただの自己満足。それよりも、ほかの誰よりも早く新カテゴリーを発展させ、カテゴリーキングになるほうがいい。いずれにせよ、あなたの旧カテゴリーは衰退するのだから。

☆個人のプレイ・ビガー。
カテゴリーの考え方とカテゴリーデザインは、個人の生活やキャリアにも応用できる。』


今の時代に即した経営論として、興味深く読んだ。確かに現在のスタートアップ企業の多くに当てはまるような気がする。また、既存の企業が生き残っていくためにも、新たなカテゴリーキングとなっていくことは必要なのかもしれない。現実に、IBMのような長寿企業も、カテゴリーを生み出しながら、そこで新たなキングとなっている。
ベターとディファレントについても、多くの日本の企業が陥っている罠のような気がする。顧客のベターに答えるだけでは、ある意味、企業は疲弊していくのかもしれない。
そして、日本版のまえがきを書いている宮永博史氏が述べているように、新しく創造したカテゴリーでトップを維持することもなかなか難題なことだ。
宮永氏が例に挙げたノンアルコールビールという新しいカテゴリーを切り拓いたキリンがカテゴリーキングになれなかったように。
新しいカテゴリーを切り拓くことも難しいことだが、トップを維持するための戦略、つまりグラビティと対決してフライホールを回し続けるということも難しいことだ。』


『カテゴリーキング Airbnb、Google、Uberは、なぜ世界のトップに立てたのか』    アル・ラマダン、ディブ・ピーターソン、クリストファー・ロックヘッド、ケビン・メイニー 共著

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フェンダー.jpg
Fender Japan  HPより



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