上下巻合わせて、900ページほどのボリュームがあり、ページ数量としても、またその多岐にわたる情報量からしても、決して読み進めやすい本ではなかった。

各時代の戦略家と言われる人々は、有能な情報収集家であり、優れた分析家であり、そして人間の心理の希代な鋭い洞察家でもある。戦略家が、刻々と変化する情勢や状況に対応しながら、次の一手を決定するその直感力は、アートに近い時があるのかもしれない。

本の袖書きを読むと、
『戦略とは、パワーを創り出すアートである――。
戦略とは何か。広大な視野のもとに戦略の変遷を論じ、歴史書・文学・哲学など多様な分野にわたり、人間と戦略の関わりを解き明かす。
戦略の起源として、まず上巻では、聖書、古代ギリシャ、孫子、マキャベリ、ミルトンに探り、ナポレオン、ジョミニ、クラウゼヴィッツ、モルトケ、マハン、リデルハート、マクナマラ、カーン、シェリング、ロレンス、毛沢東などの軍事戦略、トルストイの思想を取り上げ、そして弱者の戦略として政治的な戦略の軌跡を、マルクス、エンゲルス、バクーニン、レーニンなどの革命家、ウェーバーら社会学者の思想に探る。』と、ある。
つまり、本書は世界史における戦略の変遷をメインに書かれた本であり、いわゆる戦略についてのhow to本ではない。
しかし、下巻では、近現代の企業ビジネス戦略史の変遷に加えて、企業のブルーオーシャン、ナラティブ、ストーリー、スクリプト、といった最近のビジネス戦略に関する考察についても述べられている。

尚、著者は次の様にも警告している。
他人から手ごわい戦略家と見なされることは、できれば避けなければならない。それは、交渉相手の警戒心を呼び起こし相手のガードを高くさせることにつながる。やはり、戦わずして勝つということがベストなのだからと。

本文より一部引用。
『リチャード・ルメルトは、
戦略本の多くが、状況が流動的になればなるほど、指導者はさらに先を見越して対処しなければならないと説いているようだが、これは論理的におかしい。
状況が流動的になればなるほど、先の見通しはますます立てにくくなるからだ。したがって状況が絶えず変化し、先行きが不透明になればなるほど、より近い戦略目標を設定する必要があるの。

また、ルメルトは、悪い戦略の危険性についても警告を発した。とりわけ、「戦略的な概念や見解を述べているように装っているが中身のない」戦略の特徴を「空疎」と一言で表現している。そのほかにも、取り組むべき問題を特定できていない、目標を戦略と取り違えている、達成するための手段を示さずに願望を語っている。実行可能性を考えずに目標を設定している、といった特徴も列挙した。
更に、経営幹部が、不可能な目標を設定する、十分な気力と意欲があればどんなことも達成できると説く(現実的には、一度に数件を超える課題に対処できるとは考えがたいのだが)、決定的な選択を行わずに相容れない意見のあいだで合意を取り付けようとする、自然に出てくる自分の言葉ではなく、はやりの言葉で(「カリスマ性の缶詰」を開けたかのように)鼓舞しようとする、といった行動をとることにも注意を促した。
そして、「悪い戦略がはびこるのは、それが分析や論理や選択とはかけ離れたところで流布され一筋縄でいかない基本的作業やそれらを修得することの難しさに向き合わなくても済まされる、という身勝手な考えのもとに掲げられるからである」と説いた。
軍事戦略や革命戦略の場合と同様に、企業戦略はそれ自体が生んだ英雄的な神話に足を引っ張られかねなかった。成功と失敗の分かれ目を決める要因として、異様なまでに、まつりあげられたからだ。名戦略を携えた戦略の達人は、………当然のことながら、そうしたなかの少なくとも一つのタイプに当てはまる経営者もいたが、ある状況では成功したやり方が別の状況では上手くいかない場合もあり得た。急激に持ち上げられた個人や企業が、その後すぐに貶められるようなことは頻繁すぎるほどあった。次から次へと続く戦略の流行にともなう誇大広告は、見識ある経営者の重要性を誇張し、成功の要因としての偶然性と環境の重大さを軽視していたのだ。』


「戦略の世界史 上下」 著者 ローレンス・フリードマン

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COOL CHOICE 表彰式より