この本は、SF小説ではない。
しかし、全脳エミュレーショによって作られた「エム」というロボットについて、その考え得る社会的な営みを最大限に事細かく記載されているのに、なぜかSF小説を読んでいるような感覚に陥るという不思議な著書だ。
更に、エミュレートの元になっている「人間」についても述べられてはいるが、「エム」の物語を読みながらも、片時も、一方「人間」はどう生きているのかが頭から離れることはないという不思議な著書なのだ。

この「エム」というロボットについては、
「定義: エムは、特定の人間の脳をスキャンしてから、脳細胞の特徴や結合をそっくり模倣して構築されるコンピュータモデルで、人間の脳細胞と同じ特徴や結合に基づいて信号処理を行う。優れたエムは、信号の入出力をオリジナルの人間とほぼ変わらぬ性能で処理できる。会話を交わし、役に立つ仕事を実行することも可能だ。」
と、定義づけられている。
「アバター」とはまた違うが、共通する部分もあるようだ。

『本書は、二つの推測に基づいて展開していく。
一つは、次の時代を象徴する大きな変化は、「人工知能」の到来だというもので、今後は賢いロボットたちが、人間の労働者の仕事を一手に引き受けていくということだ。
そしてもう一つは、最初のロボットは全脳エミュレーショによって作られた「エム」で、今後ほぼ一世紀以内に登場するだろうということだ。

本書では、エミュレーションに関して具体的に次のような前提を立てている。
まず、高レベルの空間的・科学的解像度で人間の脳をスキャンしたら、つぎにそのスキャンを、個々の脳細胞の信号処理機能を忠実に再現したモデルと組み合わせる。それからすべての細胞の機能を人工的なハードウェアのなかで再現し、力学的に実行可能であり脳として十分に機能するモデルを構築していく。完成したモデルは、オリジナルの脳とよく似た形で信号の入出力を行う。この技術は、今後100年間のどこかの時点で実現するだろう。
エムがもたらす社会的影響を考えようとする一握りの人たちは、おおよそふたつのグループのいずれかに分類される。
天国か地獄かといったシナリオを描き出すグループと、新しい社会が到来した時代を説明するためには新しい社会科学が必要だと考え、何とか考案しようとするグループだ。
対照的に私は、今日では総じて学者たちが標準と認めている科学をそのまま土台として利用しながら、未来に関する斬新な予測を立てていく。従来よりも広い範囲を網羅して事細かく取り組んでいき、どうあるべきかではなく、どうなるかについての予測を中心に据えていく。本書ではシンプルな「ベースライン」シナリオを提供するが、実際の未来は、私が描くシナリオよりもさらに摩訶不思議なものになるかもしれない。』

久しぶりに、混乱する本に、出会った。


「全脳エミュレーションの時代(上下)」 著 ロビン・ハンソン

🎶
お米.PNG
NB Press Onlineより