この邦題も紛らわしい邦題だ。
というのも、本書は、「人工知能」に関して何かを述べるというより、将来的に人工知能がもたらすかも知れないと言われている「シンギュラリティ」という事象への予測の真実性に特化した内容になっているからだ。
まず、シンギュラリティ仮説とは、2045年あたりにAIの能力が人間を凌ぎ、機械的支配が進んで世界のありさまが大きく変容してしまうという予測のことだ。「シンギュラリティ」という言葉は1980年代に数学者ヴァーナー・ヴィンジが言い出したが、未来学者のレイ・カーツワイルが2000年代半ばに楽観的予測をおこない、さらに 2010年代に機械学習によるビッグデータ処理技術が顕著な進展を示すとともに、一挙に 国内外で有名になってしまった。かみ砕いて言えば、人間のような意識をもち、汎用の機能をもつ「強いAI」がおよそ30年後に出現するという話である。
この仮説について現在、主に三つの見方が存在する。
第一は、AIが人類に光明と幸福をもたらすという楽観論、第二は逆に災厄と不幸をもたらすという悲観論。両者はいずれも、シンギュラリティがかならず到来するという前提に立っている。
そして最後は、来るか来ないかよく分からないという、中立論だ。
だが、科学者でもなければAI研究者でもない、私も含めて大方の人は、立場的にはこの中立論なのではないだろうか。
ところが、著者は、上述の三つの立場以外の、「シンギュラリティ」と言われている事象の予測に対して、明確に否定的な立場を取っているのだ。
といっても、著者は、決してAI技術自体を否定しているわけではない。本来のAI技術が、「シンギュラリティ」によって変質してしまうことを批判しているのだ。

そこで、著者は、「シンギュラリティ」仮説を否定する根拠として、
1、技術的特異点について。
2、コンピュータの自律性について。
3、シンギュラリティ仮説とグノーシス主義との共通点。
4、グローバルなIT企業の政治的な野心。
を挙げている。
まず、1、技術的特異点に関しては、「ムーアの法則」に代表される、技術が指数関数的に成長するという予測は、物理的限界を無視しており、科学的根拠を欠いたものだと手厳しく指摘している。ある仮説が説得性を持つには、いくつかの相異なる仮説と比較することが不可欠なのに、そういう手続きがまったく踏まれていないと主張しているのだ。
更に、2、コンピュータの自律性についても、現在の人工知能開発における技術レベルを見る限り、コンピュータが、人間の力を借りずに際限なく進化し続け自律するとは考えられないと述べている。

私も、確かに、カーツワイルの唱える「ムーアの法則」の一般化については、ちょっと論理的に牽強付会的な要素が無きにしも非ずのようにも感じる。
だがそうであったとしても、著者も認めているように、技術というものはいつパラダイムシフトというものが起きるか分からないものである。とすれば、今、現在の技術レベルで先が見通せないといっても、一概に未来の可能性を否定できるのであろうか、私には疑問なのである。

ということで、本書を読んでみても、私には「シンギュラリティ」に対しての中立論的立場を変えるほどの納得感は得られなかったというのが事実だ。
その上、3及び4については、些かシンギュラリティの発現ということに関しての本来の議論とは、かなりかけ離れていると、私には思えた。
特に、4に関しては、些か無理筋な感が否めない。
唯、シンギュラリティが終末論のようなものに短絡的に結び付くことへの警戒心というものに関しては、著者に同意できるところである。

☆シンギュラリティと終末論
『シンギュラリティに賛同する人々は、人間が死や苦痛を逃れ、永遠に生きていくためには、世界と完全に調和し、外の世界の現実に適応させるべきだと主張する。しかし、言葉を変えるならばそれは、出口のない要塞の中に監禁されることを意味する。そして、完全に閉じ込められたと悟った時にはもう、完璧な世界が完成していて、自由なふるまいはすべて、違反行為とみなされてしまうのだ。私は先ほど、仮像という言葉を用いて、グノーシス主義が、その母体となった啓示宗教から離れていった経緯を詳しく示した。また、強い人工知能、もしくは汎用人工知能についても、仮像によって、本来の意味での人工知能からかけ離れていった経緯を説明した。結局、このシンギュラリティ自身も啓蒙主義におけるヒューマニズムの仮像なのだ。どちらも、人間が自然を支配するという希望、いや、途方もない野望を持っている為、一見すると同じものに思える。だが、仮像である以上、シンギュラリティは見た目こそ同じであるが、啓蒙主義とはまったく別のものに変化している。啓蒙主義には、ヒューマニズムの名のもとに進歩を限りなく続けていこうという理想がある。そして、そのためには外の世界へ自らを無限に開放していかなければならない。だがシンギュラリティは、完璧に作り上げられた結末の中に、未来を閉じ込めてしまうのである。』


「そろそろ、人工知能の真実を話そう」  著 ジャン=ガブリエル・ガナシア 

🚀🍓

IMG_20180429_114514.jpg
朝日新聞デジタルより