2050年といえば、まだこれから30年以上も先の未来である。先日読んだ「シャルマの未来予測」のなかで著者であるルチル・シャルマは、20年以上先の未来の予測が的中することなどあり得ないと述べていた。
多分、予測が的中するかどうかという点では、その通りであろう。
しかし、
『長期的な視点でモノを考えると得るものが多い。本書はそんな発想から生まれた。2050年を予測することで、今後世界を形作るうえで核となる力は何か、ということが分かる。そのなかでもテクノロジーに注目したのが本書である。』
という、この著書の「今後世界を形作るうえで核となる力は何か」という視点は、大局的な視点として大事な視点ではないだろうか。

本文より抜き出し。
『☆テクノロジーの未来を予測する際に、目を向けるべきものは三つある。
・①過去の類似事例。②現在の限界的事例。③SFに描かれた未来。

☆第七の波。現在、第五の波であるビッグデータ、第六の波である「モノのインターネット(IoT)」が広がりつつある。一方、すでに第七の波が形成されつつある。それはAIだ。

☆なぜデジタル革命では生産性向上がみられないか?
・農業革命の影響が完全に社会に及ぶまでには1000年、産業革命の場合は数百年かかったが、デジタル革命はわずか数十年である。われわれが不意打ちを食らって混乱しているのも無理はない。
・19世紀後半のイノベーション(電気、自動車、水道、現代医療)は、その後1世紀にわたる急速な生産性向上をもたらした。一方、ここ数十年にわたるデジタル革命では、便利な製品は次々と生み出されているものの、労働者の報酬は伸びず、先進国には閉塞感が漂っている。だが、新たなテクノロジーによる経済成長はこれから本番を迎える。
・電気や自動車などのイノベーションも、具体的に世界のあり方を変え、経済成長を押し上げるまでには、数十年単位の時間が必要だった。それゆえ、今日のテクノロジーが進化を発揮するまでにも、まだ時間がかかる。
・安価な労働力が増えると、企業が新たなテクノロジーを導入する必要性が低くなる。それを回避するためには、これまでと違う働き方の仕組みが必要だ。つまるところ、デジタル・テクノロジーによる生産性や生産量の伸びが期待ほどでなかったのは、19世紀と20世紀の社会制度の壁にぶっかっていたからだ。

☆宇宙エレベーターを生み出す方程式。
・今日、原子核物理学、材料科学、化学、そして工学の諸分野においては、実験をする代わりに適切な方程式を解けばよくなった。これは、20世紀を通じて主に量子力学の応用が劇的に進展した結果である。
・基礎物理学の方程式は、短いコンピュータ・プログラムとしてコード化できる。
・今日の化学、生物学、工学は、すべての電子がみな完全に等しいという交換可能性によって成立している。
・この世界で観測されることを説明したり予測したりする分には、一般相対性理論と量子力学があれば全く問題ない。
・物理学的に、光速を超える情報伝達、占星術的・超能力的な作用の実現はあり得ない。また、ワームホール、ワープ装置、タイムマシンも不可能だ。一方、摩擦のない鉄道輸送、宇宙エレベーター、量子コンピュータ、脳と同様の機能をもった“3D”コンピュータ、知覚中枢の拡張、没入型ツーリズムは実現できる。
・老化や疾病の問題は、物質の理解・監視・制御によって克服できる。
・だが、現代のテクノロジーには、核戦争、生態系の破壊、そして人工知能戦争という三つの故障モードのリスクがある。

☆政府が「脳」に侵入する。
・現在、米国防高等研究計画局(DARPA)は、デジタル装置を人間の大脳皮質につなげるプロジェクトに、6000万ドルを投じている。その神経インターフェースは「皮質モデム」と呼ばれる。
・病気になったり老化した組織は、3Dプリンターで作られた新品の組織と交換できるようになる。こうした再生医療の確立により、人類の寿命は大幅に伸びる。
・ゲノム編集により、まずは遺伝性の病気の根絶が目指される。その後、研究者はアルツハイマー病や様々な癌、心臓疾患のリスク抑制に取り組む。
・人間の脳はインターネットと直接つながる。脳と宇宙を隔てる壁は消え、様々な体験が可能になる。しかし、ウィルス攻撃やパスワード管理など、セキュリティ上の問題が浮上する。
・これからの30年で、生命を支えるすべての構成要素やシステムの関係性が明らかになっていく。
・酵素の研究によって、まだ存在しない材料が大量に見つかる。
・文字情報、写真、動画などのデジタルデータは、人類が知り得た最も高度かつ高密度な情報記憶媒体、DNAに保存されるようになる。磁気テープでいっぱいの巨大な倉庫は、角砂糖ほどの分量のDNAで置き換えられる。
・複雑な有機飼料を食べ、特定の燃料や化学物質を生み出す人工微生物が自律的ロボットに組み込まれ、製造業のあり方は根本的に変わる。

☆食卓に並ぶ人造ステーキ。
・2050年には、世界の人口は100億人近くに達する。しかし、農畜産業の進歩により食糧難は起きず、一人あたりのカロリー摂取は今よりもむしろ増加する。
・窓のない建物の中で、水も栄養素も照明も徹底管理された都市型野菜工場が普及する。また、同じく都市の建物内でマグロなどの魚の養殖が行われることで、魚が動物性タンパク質の主要な供給源となるかもしれない。
・一方、生身の動物を一切必要としない、細胞培養による動物性食品の製造も進む。少なくとも、ステーキと牛乳は工場で大量生産されるようになる。
・アフリカなどの貧しい国々では、これまで先進国の農業で起きていたのと同じように、小規模自作農の統合が進む。

☆医療はこう変わる。
・医療分野におけるテクノロジーのライフサイクルは猛烈に加速している。だが、変化の主導権を握るのはテクノロジーではなく、患者だ。その結果、医療は徐々に他の産業に近づき、患者は顧客として扱われるようになる。
・医療界でAIによる破壊的な変化が起ころうとしている。診断から難易度の高い手術まで、現在人間がおこなっている作業は次第に学習能力をもった機械が担うようになる。
・幅広い疾患を幹細胞治療で直すという夢が実現する。患者の症状に合わせて、最適な幹細胞をオンデマンドで用意できるようになるだろう。
・癌や結核などを予防するためのワクチンの研究と実用化が進む。
・信頼性の高いゲノム配列の費用は安くなり、難病診断などの遺伝子検査が普及する。
・薬剤と遺伝子の相互作用を研究する、薬理ゲノミクスの市場は急拡大する。標的療法は今後の医薬品開発の中核となるだろう。
・糖尿病や肥満などの代謝疾患や、心疾患、癌などの幅広い慢性疾患の原因となっているエピゲノムの変化は、巻き戻せるかもしれない。
・CTスキャンやMRIで撮影された精密な画像は、細胞や特定の分子を撮影する「分子イメージング」と組み合わせることが一般的になる。

☆太陽光と風力で全エネルギーの三割。
・太陽光と風力発電の欠点は間欠的であることだが、これは蓄電技術の進歩で補える。中でも、リチウムイオン電池やフロー電池の改良・普及が有望だ。
・主にアメリカ・ヨーロッパ、ロシア、日本にある老朽化した200基近い原子炉は、これから20~30年で廃炉になる。一方、核分裂ではなく、核融合を使う、まったく別種の原子力発電が可能になるかもしれない。核融合では、高濃度の放射性廃棄物や原子炉メルトダウンの脅威なしに、安全に無限の電力を供給できる可能性をもっている。
・未来に待ち受けるのは、エネルギーが潤沢にあり、効率的に使われる世界である。

☆車は編まれ、住宅は印刷される。
・車は、炭素繊維を巨大な「織機」で編んで作られる。金属の部品をプレスしたり、溶接したりする必要はなく、従来のプロセスよりエネルギー消費は50%、水の消費は70%少ない。
・自らの形状を記憶して、自己修復したり、自ら部材に組み上がる「スマート材料」をはじめとした、様々な新材料が生まれる。また、昔からある材料も分子レベルで操作することで、性質を目的に合わせて変えられるようになる。
・「グラフェン」は、一原子層しかない「ナノ材料」で、シリコンの代替物として高性能チップや電池の製造に使えるかもしれない。
・これからの半世紀では、すべての家庭に3Dプリンターが普及することはまだないかもしれないが、製造業の大量生産の現場では、3D印刷は欠かせないツールになる。2016年にはその市場規模は67億ドルだったが、2040年には1兆1300億ドルへ成長する。
・大きなものでは住宅を含む建造物、小さなものではナノ材料と、非常に幅広い製品が3Dプリンターで印刷されるようになる。
・製造業においてリサイクルは必須となる。また、解体された電子機器や電気自動車、電池や家電などから金や銀などの貴重な材料を回収するアーバン・マイニングが一大産業となる。
・製品のカスタマイズ化が容易になり、単純作業のほとんどが自動化されるなかで、海外流出した製造業の多くは国内回帰する。

☆曲がる弾丸と戦争の未来。
・狙撃は、空中で軌道を調整できるフィン付きの弾丸によってさらなる進化を遂げる。これによってスナイパーは、標的との照準線上にいる必要がなくなる。
・ドローン、軽航空機、衛星のスパイ能力やミサイル誘導能力が高まるにつれて、非正規軍が山間部などに潜むことは難しくなり、都市部へ浸み出してくる。民間人の巻き添えを避けるため、狙撃手の重要性はますます高まる。
・陸海空において、人間の代わりに次第にロボットが使われるようになる。ドローン一つとっても、昆虫のように飛ぶスパイ用モデルから、落ち葉や木材を燃料にしながら何か月も稼働する補給用・攻撃用モデルまで、多くの種類が活躍する。
・ロボット技術がロケット技術と合わさることで、一段と「正確でスマートでステルスな」ミサイルが開発される。こうした武器は、国家以外の非正規軍の手にも渡り、自由主義世界は大きな脅威にさらされる。
・多くの国が衛星攻撃能力を保有するのにともない、緊急時に発射できる小型衛星が使われるようになる。また、宇宙から戦争を遂行するための、攻撃用兵器を備えた「バトルスター」も打ち上げられる。

☆ARを眼球に組み込む。
・街からは看板も信号も撤去される。現実世界をどの程度見たいかも自由に選べるようになり、見たくない人やモノを視界から消すことも可能になるだろう。
・スマートフォンの代わりに、誰もがARメガネを使うようになり、やがて、ARメガネもいずれはスマート・コンタクトレンズに変わっていく。その後は、簡単な手術によって「スマート水晶体」や「スマート眼球」をインプラントすることが普及するかもしれない。
・だが、こうしたテクノロジーは、監視社会の成立というトレードオフを免れない。デバイスのメーカーは、ユーザーの日々の活動はもちろん、首の動き、眼球の動き、刺激に対する反応まで、数々のデータを収集するようになるだろう。
・こうしたデータに、政府がアクセスを求めるのは間違いない。
・また、VRやARの業界を支配する会社の意に沿わないユーザーは、接続を遮断されてしまう。すると、ただの現実世界を一人漂流することになってしまう。

☆人工知能ができないこと。
・AIについての黙示録的ビジョンは捨ててよい。重大なリスクは、得体の知れない超知性の登場ではなく、私たちが自ら開発したデジタル・テクノロジーの使い方を誤り、人類の大半と地球全体に負の影響を及ぼすことである。
・AIによる変化の恩恵は万人で共有されるべきであり、また雇用の破壊などのコストは社会全体が引き受けなければならない。

☆プライバシーは富裕層だけの贅沢品に。
・ビッグデータから導き出されるパターンは膨大かつ曖昧なもので、人間の理解を超えている。社会は効率性の向上を手にするが、それと引き換えにシステムの背後にある因果関係の理解を諦めることに慣れていく。
・企業や個人の情報資産を預かる「データ銀行」が誕生する。
・フェイスブックやグーグルは、私たちが進んでデータを吐き出さなければ有料化する。また、プライバシーは飛行機のビジネスクラスや別荘のように、贅沢品となる。

☆テクノロジーは進化を止めない。
・蒸気機関から排出された二酸化炭素が、地球環境に思わぬ影響を与えたように、未来の技術も予期せぬ結果をもたらす可能性がある。例えば、テクノロジーと脳が密接に絡み合うようになったら、私たちの心はどうなるのだろうか。
・テクノロジーとは、すべて応急処置にすぎないことを理解する必要がある。テクノロジーはニーズを満たすと同時に、新たなニーズを生み出すのだ。
・テクノロジーによって何らかの問題が最終決着することもありえない。新たに挑戦すべきこと、解決しなければならない新たな頭痛の種は常に出てくる。また、数世紀に及ぶ絶え間ない技術変化が終わりを迎えることは決してない。』


「2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する」  著 英『エコノミスト』編集部

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いわてスイーツフェアより

この本は、SF小説ではない。
しかし、全脳エミュレーショによって作られた「エム」というロボットについて、その考え得る社会的な営みを最大限に事細かく記載されているのに、なぜかSF小説を読んでいるような感覚に陥るという不思議な著書だ。
更に、エミュレートの元になっている「人間」についても述べられてはいるが、「エム」の物語を読みながらも、片時も、一方「人間」はどう生きているのかが頭から離れることはないという不思議な著書なのだ。

この「エム」というロボットについては、
「定義: エムは、特定の人間の脳をスキャンしてから、脳細胞の特徴や結合をそっくり模倣して構築されるコンピュータモデルで、人間の脳細胞と同じ特徴や結合に基づいて信号処理を行う。優れたエムは、信号の入出力をオリジナルの人間とほぼ変わらぬ性能で処理できる。会話を交わし、役に立つ仕事を実行することも可能だ。」
と、定義づけられている。
「アバター」とはまた違うが、共通する部分もあるようだ。

『本書は、二つの推測に基づいて展開していく。
一つは、次の時代を象徴する大きな変化は、「人工知能」の到来だというもので、今後は賢いロボットたちが、人間の労働者の仕事を一手に引き受けていくということだ。
そしてもう一つは、最初のロボットは全脳エミュレーショによって作られた「エム」で、今後ほぼ一世紀以内に登場するだろうということだ。

本書では、エミュレーションに関して具体的に次のような前提を立てている。
まず、高レベルの空間的・科学的解像度で人間の脳をスキャンしたら、つぎにそのスキャンを、個々の脳細胞の信号処理機能を忠実に再現したモデルと組み合わせる。それからすべての細胞の機能を人工的なハードウェアのなかで再現し、力学的に実行可能であり脳として十分に機能するモデルを構築していく。完成したモデルは、オリジナルの脳とよく似た形で信号の入出力を行う。この技術は、今後100年間のどこかの時点で実現するだろう。
エムがもたらす社会的影響を考えようとする一握りの人たちは、おおよそふたつのグループのいずれかに分類される。
天国か地獄かといったシナリオを描き出すグループと、新しい社会が到来した時代を説明するためには新しい社会科学が必要だと考え、何とか考案しようとするグループだ。
対照的に私は、今日では総じて学者たちが標準と認めている科学をそのまま土台として利用しながら、未来に関する斬新な予測を立てていく。従来よりも広い範囲を網羅して事細かく取り組んでいき、どうあるべきかではなく、どうなるかについての予測を中心に据えていく。本書ではシンプルな「ベースライン」シナリオを提供するが、実際の未来は、私が描くシナリオよりもさらに摩訶不思議なものになるかもしれない。』

久しぶりに、混乱する本に、出会った。


「全脳エミュレーションの時代(上下)」 著 ロビン・ハンソン

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NB Press Onlineより

ここ最近、南米ベネズエラの100万%と言われるハイパーインフレやトルコやアルゼンチンなどの経済的な混乱状況など、新興国と言われている国々における金融不安が高まっている。そして、これらは一向に収束する様相を見せない。
21世紀の現代においてさえ、一体なぜこのようなハイパーインフレが発生するのか?そして、このような国々に未来の展望はあるのだろうか?更に、これらの新興国の金融不安が引き金となって、また世界的な規模での不況に至ってしまうのだろうか?

この「シャルマの未来予測」という著書は、560ページにも及ぶかなりの分量の本なのだが、著者であるルチル・シャルマという人物は、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントの新興市場部門長であり、チーフ・グローバル・ストラテジストでもある。
この著書では、著者はそのモルガン・スタンレーのデータ収集能力を最大限に活用して、【人口構成】【政治】【格差】【政府介入】【地政学】【産業政策】【インフレ】【通貨】【過剰債務】【メディア】の総計10章で、多くの新興国・中所得国・先進国の国々を、その豊富なデータを駆使しながら丁寧に現状分析している。だから、その豊富で様々なデータに基づく分析には、かなりの説得力がある。
さらに、最後の11章では、2016年時点での、注目国の将来展望を細かく格付けしている。

新興国に関しては、私自身が正直あまり積極的に情報収集してこなかったため、色々な疑問を抱いていたが、本書を読了して、南米、南アジア、アフリカといった地域の新興国の国々が置かれている状況がある程度理解できたような気がする。
また、この著書では、新興国が経済的に離陸し、先進国の仲間入りをする過程における種々の難問を分かりやすく説明している。
やはり、新興国が経済的に安定して成長するためには、単にひとつの要因だけではなく、国によって若干の差異はあるが、幾つもの要因が複層的に作用してその成長を促したり又は阻害していることが理解できた。


本文の引用から、
『【序章 有為転変】
『本書の目的の一つは、予測の照準を遠い未来から現実味のある5~10年先にシフトさせることだ。20~100年先の予測が的中することなどありえない。なぜなら、予測してから5年以内に想像を超えた競争者がどこかから現れて、過去のトレンドをひっくり返してしまうからだ。1980年代の中国、1990年代の東欧、2000年代のアフリカ諸国が、まさにそうだった。
ところが5年のタームであれば、1990年代のインターネットや、現在進行中の3Dプリンターのような革新的なデジタル製造技術が新たに出現することはまず考えられない。

第二次大戦後、一人当たりGDPの年間伸び率が6%を上回った「超高速」の成長が長く続いた事例が28ある。それを見ると、その持続期間は平均で10年未満だった。
全力疾走の期間が長くなるほど、全力疾走をさらに続けることは難しくなる。日本や中国、あるいはインドのような国で高成長が通算で10年間も続いた場合、アナリストが追及すべきは高成長がさらに持続する方法ではなく、現下の高成長にいつ転換点が到来するのかという点である。』

【人口構成】 
☆生産年齢人口が増えているか
―ロボットは人口減少への救世主になる―
『経済が高成長を実現するために、生産年齢人口はどのくらいのペースで増加しなければならないか。
これについては、2%の増加が一つの目安だ。
「成長の奇跡」を実現した国々の4分の3は、10年間を通じた生産年齢人口の増加率が2%以上だった。生産年齢人口の増加率が2%を下回るようだと、10年単位での高成長を実現することはかなり難しくなる。
2008年の金融危機以降、一つの際立った変化は生産年齢人口が年2%で増加している国がきわめて少なくなったことだ。
1980年代には新興国20ヵ国のうち17ヵ国で、生産年齢人口の増加率が2%を上回っていた。その後、一貫して低下を続け、2010年代には生産年齢人口の増加率が2%を上回っている国はナイジェリアとサウジアラビアの2ヵ国だけになってしまった。しかも2020~2030年には、ナイジェリアの1ヵ国だけになってしまうという予測もある。
生産年齢人口が急拡大する国の数が少なくなれば、「成長の奇跡」の可能性も小さくなる。』

【政治】
☆政治サイクル
―改革者はいつ俗物に変わるか―
『国政選挙が定期的に実施される民主主義国においても、政治サイクルは不規則に進行する。国によっては何年も自己満足に溺れることもある。それが原因で、日本では「失われた時代」が発生し、中南米諸国では経済の低迷が10年以上も続いた。
一方、強い意思を持った指導者が導いた国では、何十年も改革が継続した。そうした例は、現在の韓国や台湾、それに1990年からの「失われた時代」が始まる以前の日本など一握りの「奇跡の経済」の例に限定される。』

【格差】
☆良い億万長者、悪い億万長者
―お金持ちを見れば、その国の将来が分かる―
『本質的な問題は「経済にとって格差は脅威か」である。
これは経済学よりも政治手腕によって解決しなければならない問題だ。
人々が富の創造の仕方に疑いを持ち始めると、不平等は成長にとって脅威になる。起業家が消費者に喜ばれる新製品を生産するために工場を作り人々を雇用したとしよう、こうした富の創造は世の中で広く歓迎される。しかし政治家に取り入って政府契約を独り占めし、特に親のツテを使って財を成した場合は、大衆の反感はつのるばかりだ。こうした時、国民の関心は富の創造よりも富の再分配へ向かう。
―中略―
不平等を察知する私の手法は、大地にじっと耳を寄せて、辛抱強くその振動音をキャッチすることだ。富の不平等に対する不満のマグマが、どのように蓄積されているか。それを先取りするデータを私は持ち合わせていないが、人々の不満の原因は超富裕層の資産規模とその源泉であり、『フォーブス』誌の億万長者リストを注意深く読めば大体の感触をつかむことができる。
国全体の所得に占める超富裕層のシェアが異常に高く、しかもその過大なシェアがさらに上昇している。そのような国をあぶり出すために、国全体の所得に対する超富裕層のシェアを計算してみた。超富裕層の世襲化が進みつつある国を見つけ出すために、超富裕層における相続財産の割合を推計してみた。
最も重要なことは、「悪い億万長者」の資産の源泉をたどると、石油、鉱山、不動産のような腐敗との関連性が強いとされる産業に行き着くことだ。これらは伝統的に腐敗が生じやすく、生産性が低い産業で、悪い億万長者の世襲化が進みやすい。これが経済の成長を妨げ、国民の怒りを買い、ポピュリストの政治家につけ入るすきを与える。
私は、一般の人々がその国の代表的な超富裕層についてどのように語っているかに注目している。政治的な反動やポピュリズム的な政策を引き起こすのは、現実の不平等よりも不平等への人々の感じ方である。
新興国では、次のことが頻繁に起きる。
まず、縁故主義で固められた特権階級の専横がきわまる。それに対して大衆の反発が高じ、ポピュリズムの扇動者が政権の座に就く。彼らは所得の再分配政策を実行に移すが、適度のところで妥協できず、やがて経済は破綻へと向かう。
極端なケースでは、ポピュリズム政権は、民間の企業や農業事業者を国有化し、外国資本の進出を禁じ、貧困層救済の名目で税率を懲罰的な水準まで引き上げる。
政府支出を無制限に拡大し、ムダな補助金を乱発する。特に、大衆の歓心を買うための燃料価格引き下げなどは、その最たるものだ。
こうした基本メニューは、成長「潰し」の政策と呼ばれる。不平等が深刻な国ほど、こうした基本メニューはポピュリストの政策に取り込まれている。経済を破綻に導いたポピュリストは、植民地から独立を果たした後の政権に多く見られた。
ジンバブエのロバート・ムガベ政権、ザンビアのケネス・カウンダ政権、タンザニアのジュリウス・ニエレレ政権、北朝鮮の金日成政権、バングラデシュのシェイク・ムジブル・ラフマン政権、パキスタンのズルフィカール・アリー・ブト―政権などが、その代表例である。

【産業政策】
☆製造業第一主義
―投資の対GDP比率は増えているか、減っているか―
『長い時間がかかったが、私はついに対GDP比で見た投資水準のスイートポケットを発見した。
戦後の経済発展で最も成功したとされる56ヵ国、つまり10年以上にわたり6%以上の成長率を達成したケースを調べると、これらの国々では高成長の期間、平均するとGDPの25%を投資に振り向けていた。投資が加速すれば成長率も上昇する。どのような新興国でも、投資が高水準でかつ上昇していれば、つまり投資の対GDP比が25~35%の間で推移していれば、比較的容易に高度成長を実現できた。
ところが低水準でかつ下落していれば、つまり投資の対GDP比が20%以下で低迷していれば、高成長の達成に苦労を要した。
投資の大幅な伸びはいつも決まって良いサインである。しかし、投資が増えれば増えるほど、そのお金がどこに向かっているか追跡することが重要になってくる。
この評価基準の第二の目的は、良い投資熱と悪い投資熱とを区別することだ。
良質な投資熱とは、企業が積極的に技術革新に取り組んで、新技術の創造や新しい道路や港、新工場の建設に大量の資金を投入することだ。
悪い投資熱とは、不動産等その他バブルに対して投資が向かっている時だ。

農業、サービス業、製造業の3つの主要産業の中で、多くの新興国が貧困状態から抜け出すきっかけになるのが製造業である。現在では、ロボットが製造組み立てラインで人間に取って代わるのではないかとの懸念が広がっている。しかしそうした時代であっても、雇用創造や経済発展の牽引車となる産業は、製造業以外には見当たらない。』

【インフレ】
☆物価上昇を侮るな
―住宅価格の上昇率が、経済成長率を上回り続けていないか―
『第二次世界大戦後、長い間、高度成長が継続した国に共通しているのは、低インフレだった。
いずれのケースも国民所得の大部分を投資に回し、その投資が強大な供給ネットワークを作り出しインフレを低く抑えるのに成功した。中国、日本、韓国など「アジアの奇跡」の国々はすべてこのモデルに従っていた。設備投資への重点配分が経済成長を牽引し物価上昇を抑制したのだ。
私が作成した56ヵ国のリストには、1960年以降、GDP成長率を少なくとも10年以上にわたり6%以上継続した国々が掲載されている。その中でインフレ率が新興国の平均値を下回った国は75%近くにも達した。このパターンは1970年代、1980年代のケニアや1971~1984年のルーマニアのような地味な国にも当てはまる。両国のインフレ率は平均2%強で、新興国の平均を18%ポイントも下回っていた。
高インフレは成長を殺す害毒である。
様々な経路を通じて、経済の生命体を攻撃する。
インフレは貯蓄を減少させる。預金や債券に投じた貯蓄の貨幣価値を浸食し、投資に向ける資金の残高を目減りさせる。高インフレを抑制するため、中央銀行は金利を引き上げて貨幣の価値を引き上げざるを得なくなる。それによって企業が設備を拡張し、消費者が住宅や自動車を購入することが困難になる。最後には高成長が終焉を迎える。
インフレが2桁の水準に達すると、物価の変動自体が激しくなる。突然、急落したりハイパーインフレになったりする。これもまた経済の成長には新たな重荷となる。物価の動きが激しくなれば、設備投資の資金調達が難しくなり、投資に対するリターンも不確実性が高まる。もし企業が新しい供給ネットワークの更新に慎重になれば、供給は需要を下回り、物価には上昇圧力がかかり続ける。そして経済は永久にインフレ体質から抜け出せなくなる。
そういったインフレ体質の典型例は、ブラジルだ。
投資は何十年もGDPの20%前後で停滞したままである。新興国の理想的な水準は25~35%であり、それを下回っている。道路、学校、空港などへの政府の公共投資も大幅に不足している。だから、せっかく景気が上向いても、企業はすぐに供給のボトルネックに直面する。企業は競って物流、通信、合板やセメントなど供給に制限のあるサービス、原材料の確保に走らなければならない。
ホテルの経営者は熟練の清掃員の募集で苦労する。供給が需要に追いつかないため、物価や賃金は景気循環のきわめて早い段階から上昇し始める。
ブラジル人はこうした経済の習性に慣れているため、景気の回復期には物価の大幅な上昇を予想して、労働者は高い賃金を要求するよう条件づけられている。こうした行動は、景気拡大が長期に持続する経済で起きていることとは正反対である。
戦後の奇跡と呼ばれた13ヵ国の経済では、高成長の期間、毎年GDPの30%が投資に向けられた。成長率が高まってもインフレを引き起こすことはなかった。この高成長と低インフレの併進によって、高成長を20年以上も継続することができたのだ。
特に、中国では投資比率がGDPの50%近くでピークに達し、最近までその多くが新しい道路の建設、電話網の整備、工場などへ向けられた。
この中国とブラジルの違いは際立っている。両国とも中間層の台頭によって消費者需要が高まっているが、中国は広範囲にわたり過剰な供給ネットワーク能力を構築したために、過去30年間、経済はインフレを引き起こすことなく10%の高成長を維持することができた。
一方、ブラジルではGDP成長率が4%に到達する前からインフレ率が高まり、中央銀行は金利引き上げによる需要抑制を迫られる。
経済成長は多くの国民を中間層へ引き上げる絶好のチャンスだが、ブラジルは不用意にも低成長・高インフレという期待はずれの結果に終わった。それとは反対に、最近数十年間の中国は高成長・低インフレという奇跡の経済を実現した。
今日では、資産価値とりわけ株価や住宅価格の変動が重要になっている。不動産市況や株式価格の暴落と景気の悪化との間に、強い関連性が見られるようになった。
資産価格の重要性が増した背景には、2008年以前の急速なグローバル化がある。過去30年の間に、世界貿易が拡大し技術革新が進んだおかげで、生産者は世界中に低賃金の生産拠点を持つことが可能になった。消費者はインターネットを通じて、Tシャツからチェーンソーにいたるまですべての製品を最も安い価格で購入できるようになった。こうした動きが重なって、消費者物価の安定がもたらされた。
しかしグローバル化になって国内市場が海外の多数の投資家に解放されたため、資産価格には正反対の効果が生じた。株式や住宅を購入する投資家が増えれば、価格は上昇基調となり、値動きは激しくなる。今日では、外国人投資家がサムスンや現代など韓国の大企業の大株主として名前を連ねている。海外の投資家はマイアミ、ニューヨーク、ロンドンなど主要都市の高級住宅地で価格の急騰をもたらす原因の一つになっている。
こうした投資行動が資産価格を不安定にして、急騰と急落を頻繁に引き起こしている。資産価格の高騰が将来の景気後退を引き起こすこともたびたび生じている。
最近数十年間の主要な経済危機を見ると、すべて資産バブルが先行している。1990年に日本経済が崩壊し、1997~1998年にはアジアで金融危機が発生したが、その直前まで住宅や株式の価格は棒上げ状態だった。
米国では1990年代後半に株式市場が投機家の熱気でバブル状態となったが、それは2000~2001年のクラッシュと、その後の短期間にせよ世界的な景気後退の引き金となった。その後の回復過程では、米国が世界の好景気を先導し、住宅や株式は再び上昇気流に乗ったが、2008年には再び暴落に見舞われた。世界経済はその後、景気後退に陥り。いまも景気回復の努力が続いている。』

【通貨】
☆通貨安は天使か、悪魔か
―経常収支赤字の対GDP比が3%以上、5年連続なら要警戒―
『国境を超えるマネーの移動をつかむには、IMFの国際収支表を見ればよい。これには、特定の国への合法的なマネーの流出入が記載されている。
国際収支の中で特に注目して欲しいのは経常収支だ。経常収支には、特定国の生産と消費の差額が反映される。多くの国では、経常収支の最大項目は貿易収支だ。しかし、貿易収支だけでは物差しとしてあまりに狭すぎる。当該国の国際的な債権債務の全貌をつかむことはできない。全貌を知るためには、海外所得など他の資金の流れを含む広義の経常収支に注目する必要がある。経常収支を見れば、特定国が生産以上に消費しているのか、その消費資金を調達するために外国から借金しなければならないのかどうか、といったことが分かる。ある国が長い間大きな金額の経常収支の赤字を計上していれば、借金が返済不能な水準まで積み上がり、どこかのある時点で金融危機に陥ってしまう。その分岐点はどこか。
そこで、新興国、先進国を含む186ヵ国の1960年代以降のデータについてスクーリングを行った。
経常収支赤字を3年、5年などの期間ごとに分類し、全体で2300のサンプルを抽出した。この研究によれば、経常収支赤字が高水準で持続した場合、局面転換後は景気減速が5年間続くのが一般的だ。
毎年の経常収支赤字が対GDP比2~4%で5年間続いた場合、景気の減速は比較的マイルドに止まっている。しかし毎年の経常収支赤字が対GDP比5%以上で5年続いた場合は、景気の減速幅が大幅に拡大する。局面転換後の5年間は、GDPの成長率は平均2.5ポイントも下落している。
つまり、毎年対GDP比で5%以上の経常収支赤字が5年間継続すると、その後には深刻な景気減速が待ち受けている可能性が著しく高まる。状況によっては、ある種の経済危機に遭遇するかもしれない。こうした軌道の上にある国は、生産する以上に消費するなど分不相応の暮らしをしている。身の丈にあった生活に戻る必要がある。
対GDP比で3~4%以上の経常収支赤字が継続することも将来の経済や金融の困難が生じるサインだが、5%以上の場合に比べてそれほど深刻にならない。
最近の大きな環境の変化によって、グローバル化がどの程度「脱グローバル化」にシフトしていくのか、専門家の間では意見が大きく分かれている。世界的なマネーの流れが後退していなければ、世界貿易の減速はそれほど大きくなかったかもしれない。しかし現状は世界的マネーの移動、世界貿易ともに減速している。
経常収支赤字は一般的に輸入が過大なことから生じる。赤字国は輸入代金をまかなうために外貨をどこかから調達しなければならない。その方法は、外国銀行からの借り入れ、外国人による国内の株式や債券の購入、国内工場への直接投資などが考えられる。こうした資金の流れは国際収支の別項目である資本勘定に表記されている。実はこの資本勘定の流れが2008年以降、貿易よりもさらに劇的に落ち込んでしまった。
MITの経済学者クリスティン・フォーブスがイングランド銀行の依頼で行った研究では、国際的な資本移動は30年以上前の水準まで落ち込んでいる。30年前と言えば、今回のグローバル化のブームが始まった頃である。この後退は衝撃的だ。
国際資本移動は2007年初めには9兆ドル、世界GDPの16%という高水準に達したのが、2014年には国際資本移動は1.2兆ドルまで下落、つまり現在の世界GDPの2%の水準にまで再び後退したのだ。
国際収支表の資本勘定では、銀行のローンからケイマン諸島経由の秘密資金まで人々が資金の国際的な移動に使うすべての経路がカバーされている。通常、アナリストやジャーナリズムが注目するのは、資本移動の一つの断面、つまり外国人による国内の株式や債券の市場に投資されるマネーにすぎない。こうした資金は専門的には「ポートフォリオ・フロー」の一部だが、株式や債券は売却が簡単なことから一般的には「ホット・マネー」と言及されることが多い。こうした資金は公開の市場で売買されるので、すぐに動向をつかむことができる。このホット・マネーは実際、資本移動全体のごく一部にすぎない。『フォーブス』誌が指摘するように、最も不安定な動きがこのホット・マネーだと考えるのは間違いだ。ポートフォリオ・フロー以外で大きな資本移動は、外国人の直接投資と銀行ローンだ。
最近の数十年間を見ると、すべての資本移動の中で最も動きが激しいのは銀行ローンだ。銀行ローンこそが本当のホット・マネーである。
この銀行ローンが最近の資本移動縮小の「真犯人」だ。
特に2008年以降の大幅な収縮は、日米欧の巨大銀行による海外資金の引き上げが大きく影響している。その結果、海外での融資は減少を余儀なくされている。巨大銀行の国内回帰は新興国のリスク増大がきっかけとされているが、実際は2008年金融危機以降に導入された新しい規制が原因だ。
新規制によって銀行は新たな資本の増強が必要になった。将来、大きな世界的な金融危機に見舞われても経営破綻に陥らないようにするためである。
こうした「銀行業務の脱グローバル化」によって、米国や英国では旺盛な輸入需要を継続するための資金借り入れがますます難しくなっている。1990年以降、米国の経常収支赤字の対GDP比は平均約3%、英国は同2.2%が続いているが、赤字ファイナンスの継続はさらに困難さを増すことになろう。
現在、大幅な経常収支赤字を抱え、分不相応の過大な輸入を行っている国々にとっても、他人事ではない。
どの国も外国資本に頼って現在の生活水準を維持することが難しくなる可能性が高い。経常収支赤字のファイナンスが継続できなくなる時期が意外に早く到来するかもしれないからだ。世界貿易の停滞でどの国も輸出入だけで経常収支を均衡させることが難しくなり、危機に陥りやすくなっている。
2008年の金融危機以前の世界では、経常収支赤字が対GDP比5%で5年連続した場合、経済に大きな転換点が到来した。2008年以降の世界では、それがもっと早く訪れるかもしれない。
たとえば、経常収支赤字が対GDP比3%で5年連続した場合でも、警戒が必要になってくる。インドやインドネシアの中央銀行幹部は、対GDP比3%を要警戒水準として引き合いにだすことが多くなった。』

【過剰債務】
☆禁断の債務バブル
―債務の伸び率は経済成長率より高いか、低いか―
『過去30年の間に、世界は金融危機に頻繁に襲われた。2008年以前に金融危機の兆候がすでにその姿を現しつつあったが、大手金融機関はそれを見逃がしていた。その反省から、国際決済銀行、欧州中央銀行、IMFなどの金融当局は、新たな視点から問題の研究に取り掛かった。そして、2011年には、それぞれが異なるアプローチを採用しながらも、同じ結論に到達した。
それは、過去のすべての危機に共通する前兆―したがって、将来の危機を示唆する最も強力な指標―は、国内の民間融資率がかなりの期間、経済成長率を上回って伸びていることだ。これはとても重要な手がかりだ。
そして、金融当局はもう一つ別の驚くべき結論に達した。国の債務の総額―政府と民間の債務の合計―は経済の将来性にとって重要だが、しかし、未来の金融危機の明確な予兆になるのは債務全体の伸びの速度であることだ。債務の規模は重要だが、さらに重要なのは伸びの速度の方なのだ。
過剰債務は進行性の悪弊である。債務の増加のスピードやその持続期間に比例して、その弊害はだんだん大きくなる。
私の研究によれば、民間債務が極端なバブルを意味する対GDP比40%ポイント増のラインを突破する前から、民間債務の増大は経済成長率に深刻な影響を及ぼしていた。たとえば、米国では、民間債務は2002~2007年の間に25%ポイント、つまり対GDP比で143%から168%へ上昇したが、その後の5年間の平均年間GDP成長率は、2007年の2.9%から1%以下へ悪化しているのだ。
この景気の減速が米国から世界中に広がるにつれて、各国政府は借金による政府支出の拡大で対応した。これは民間の企業や個人が債務危機を先導し、政府がそれに続く通常のパターンである。
2014年まで世界は「レバレッジ解消(借金による登記の解消)」、あるいは経費削減と借金返済に明け暮れたというのが一般的な印象だが、それはごく一部の国の限られた話だった。
たとえば米国の家計や金融機関はある程度、借金減らしを進めた。しかしそうした借り入れの減少は、非金融機関や米国政府の新規借り入れによって相殺され、米国全体の債務の対GDP比はほとんど変化しなかった。
それどころか、新興国では、多くの政府や企業が驚くべきスピードで新たな債務を拡大させていたのだ。
その結果、2008年の金融危機以来、世界中の多くの国で債務が猛烈な勢いで積み上がっている。そのスピードは、2008年以前の怖いもの知らずの借金ブームをはるかに凌ぐものだ。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの2015年調査によると、家計、企業、政府を含む世界全体の債務は2007年以降、142兆ドルから199兆ドルに、対GDP比では269%から286%へ拡大している。

米国では全体の債務負担は一定、欧州はやや悪化した程度だが、主要な新興国では大幅に増大した。なかでも、特に、中国は際立っている。マッキンゼーによれば、世界の債務は57兆ドル増加したが、そのうち3分の1以上、つまり21兆ドルは中国で積み上がったのだ。
問題は、2010年代の中国躍進の原動力が大規模の財政金融政策であり、それによって政府債務が急拡大してしまったことだ。その結果、今や中国の債務が世界経済にとって最大の脅威となっている。
2008年、世界の金融市場はきりもみ状態の下落に突入した。米国や欧州で需要が急落した結果、中国の輸出主導の成長には急ブレーキがかかり、指導者はパニックに襲われた。その年の10月、中国政府は景気を下支えするため大型の公共事業と何兆ドルもの新規借り入れをセットにした経済対策を打ち出した。
つまり、温首相はそれまでの方針を転換して、旧来の投資主導の成長モデルに基づく財政出動の大盤振る舞いが行われたのだ。しかも財源は借金だった。状況は一夜にして変わった。それまでの2003から2008年の間は、債務の伸びが成長率を上回ることはなく、同期間の対GDP比は150%前後で安定的に推移していた。しかし2008年以降は、北京政府が国営企業の投資拡大の資金源に国営銀行の融資を充てたため、典型的な債務バブルの拡大が始まった。
中国は、債務バブルのもう一つ別の古典的なワナにも陥った。借り入れた資金の多くが不動産市場に向かい、不動産価格を大幅につり上げたのだ。

直近の数十年を見ると、借金による不動産ブームが景気後退の起点になった場合が多い。理由は単純で、不動産担保融資が爆発的に普及したからだ。世界金融における近年の好況は家計への不動産担保融資の急増が背景にある。過去140年の間に、不動産担保融資は8倍増となったが、それ以外の目的による家計や企業への融資は3倍増にとどまった。世界的に見ると、いまや銀行業務の半分以上が住宅ローンだ。
こうした住宅ローンと金融危機の関係の強まりは、新興国で広く見受けられる。インターナショナル・センター・フォー・マネタリー・アンド・バンキング・スタディーの研究によると、1950年代のイタリア、日本、その後の中南米、東南アジアなど奇跡的な戦後の経済復興においては、最初の離陸は良好な基礎的諸条件(投資拡大や低インフレ)によって誘発されるが、その後は債務の急速な拡大で成長が維持・拡大され、最後は債務主導の不動産バブルで終焉を迎える。
このパターンは周知の事実であり、中国政府が大量のマネーを経済に注入し始めるやいなや、銀行監査当局がいち早く懸念を表明するにいたった理由の一つだ。
もし中国政府が政治的な思惑、つまり人為的に高めの成長率を維持し、痛みを伴う解決を避けるために債務の拡大を続けるなら、日本の1990年以降の経験は中国の未来となる可能性が高い。ある推計によると、中国本土の株式市場に上場している企業の10%は、政府支援なしでは存続できない「ゾンビ企業」だ。中国ではまだ投機の清算や債務の削減にさえ着手していない。債務は依然、年率15%のペースで拡大を続けており、経済成長率の2倍の速度だ。
歴史の教訓によれば、巨大な債務バブルが弾けて債務の伸びが成長率を下回るようになると、すぐに景気後退が始まる。しかし、この景気後退は清算のプロセスとして必要だ。もしこれを回避し続ければ、債務の健全な拡大という新時代はいつまでたっても訪れない。』

【優秀、平均、そして劣等】
―注目国の将来展望を格付けする―
『2016年3月の時点で衝撃だったのは、楽観主義が完全に姿を消してしまつたことだ。私が友人のジャーナリストに経済が順調だと思う国を一つ挙げてくれと質問すると、たいてい返答に窮した。一方、彼らが能弁になるのは、各国の経済見通しについてあれこれ問題点をあげつらう時だった。そこで感じたのは、彼らは危機以前の古い基準で未来を判断しており、それだと夢も希望も見出せないということだ。
将来を見通すうえで気をつけなければならないのは、オーストリア生まれの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターが「一般の人々に偉そうにみえるのは、何かにつけて楽観論より悲観論の方だ」と言わなければならなかったことの意味だ。

☆循環が未来を支配する。

先進国で今後も相対的に高い成長が見込める有望国は、ドイツや米国だ。
中所得国では、大半の東欧諸国やメキシコだ。低所得国では、南アジア、東アフリカ、東南アジアの一部から新しいスターが誕生する可能性がある。
しかし、これらは2016年3月時点での予想だ。こうした見通しは、不慮の暗殺、常識を逸脱した政策の採用、世の中を仰天させる発明や天災などによって、突然変わる。現在、懸念されている世界的な景気後退が到来すれば、今後数年間はどの国も「高い」成長を実現するのは困難になる。しかし世界不況が継続する期間はせいぜい1年程度だ。その不況もやがて終焉を迎える。

☆2016年3月時点での10評価基準におけるランク付け。
*米国は「優秀」ランクを維持。カナダは「劣等」。
*「優秀」へ急浮上のアルゼンチン。
*最悪を脱したブラジル「劣等」。ベネズエラは「劣等」。
*中南米の優等生、メキシコ。
*高成長国が集中する南アジア(パキスタン、スリランカ、バングラデシュ)。
*「南アジアの虎」インドが吠える日は来るか「優秀」。
*東南アジア、異色の優等生フィリピン。次の有望国インドネシア。輸出大国を夢みるベトナム。劣等生に転落、マレーシアとタイ。
*中国は最低ランク。
*「平均」に格下げ、韓国、台湾。
*日本は「劣等」から「平均」へ浮上。
*オーストラリアは「優秀」から「劣等」へ。
*ドイツは「優秀」、英国は「平均」。
*欧州の病人、フランス。
*ポーランド、チェコ、ルーマニアは「優秀」。
*ロシアは完全な劣等生。
*アフリカ、東部は優等生、西部は劣等生。南アフリカは「劣等」。
*トルコ、サウジアラビアは「劣等」。

どの国も発展と衰退を繰り返す宿命にある。永遠に発展や衰退を続ける国などありえない。盛衰のこの世界において唯一変わらないものがあるとすれば、経済や政治の循環である。
これこそが未来の支配者と呼べるものだ。』


「シャルマの未来予測」 著 ルチル・シャルマ

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hadalabo. com.cn/より

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