やられちまったな。まさにズバリってわけ。

もともと「私」には考えることを許されていなかった。疑問を持つことさえもだ。ただ命ぜられるがままに動いてきた。

動かされてきた。没主体的な労働者のように働いてきた。


悩むことも考えることもせずに済んだ「私」は「彼ら」よりもなんと耐性がないもの弱いものだと痛感している。



僕らは何年か前のクリスマス・イブに派手な口論をした。 

「貴方は人間じゃないわ。いわば天使よ。だから別れましょう。」彼女から切り出してきた。 

「天使?」 

「そう。貴方は地面に足を着けていないのよ。貴方と居て楽しかった。素敵な世界を、美しい風景を見せてくれた。でもね…」 

彼女は少しの沈黙のあと続けた。 

「貴方の示す世界は、私を否定していたの。貴方に惹かれていく分だけ私は『あの子』を否定するようになっていった。私を苛み苦しめた…」 


「僕は世間知らずのただのガキだと思うが?」 


「違うよ。いまの貴方の言葉もそうだけれど、それはマニュアル通りじゃない?誰かの指示からかそうせよとして予め用意されているものよね?」 

「繰り返すね、貴方は人間じゃない。だからといって、不思議ね、ロボットでもない。感情はあるようだけれど、だれか他の人の為にしか生きていない。そう指示されているの?って思う。」 

「それにね、小さい子供たちが不思議そうな目で貴方を見ていくよね。それって懐かしいからだと思う時さえある。」 


僕はずっと黙って彼女の目を見ていた。彼女は無表情に他人を見る。感情を一切出さない、つまりは隙を与えない。けれど僕に対してだけは表情豊かに接してくれてきていた。今も変わらない。いわば隙だらけの本気。 

ずっと昔、「天使様には通用しないから、鋭い剣でやられるから。」と微笑んだことがあったな。 

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「もういいのよ、ありがとう。貴方の私への仕事は済んだから。それは私を見ていても分かっている筈でしょう。だから…今度は貴方が幸せになって欲しい。そう思うの。」 

「私はね、貴方のお陰で貴方より自分が大切だと気づいたの。ありがとう。貴方には人間になって欲しい。」 


「ごめんね。言い過ぎた。貴方は本当は人間なのよ。だから、真っ先に自分を好きになって。そうであれたら…」



「別れなんて切り出さなかったもの。」



フランス映画には「アンジェラ」という作品があり、こうした名セリフがある。 


鏡に向かって自分を愛していると 
言ってごらんなさい 
あなたは誰からも愛していると 
言われたことがないから 
自分の大切さに気づいていないのよ 

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ならば、その天使っていうのは

たくさんの人たちから愛されていながら、
自分を愛せないなんて、本当にバカなんだな…






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