(執筆者:「メアリと魔女の花」プロデューサー西村義明)


神木隆之介さん。



その名前が初めて聞こえてきたのは、

ぼくがジブリに入社して間もないころでした。



「あの子は、天才だ」



それは、スタジオジブリが「千と千尋の神隠し」を発表したあとのことです。

ジブリでは「リュウ」とか「リュウくん」とか「神木くん」と呼ばれていた、

そう記憶しています。



以来、宮崎駿監督作品に好んで呼ばれるようになった神木さん。

そして、米林監督は「借りぐらしのアリエッティ」(2010年)

翔くん役を、神木さんに託しました。



そして、2017年。

今から約一週間前の5月16日(火)。

ぼくは、都内某所のスタジオで

アフレコに参加するために来てくれた神木さんと初めてお会いしました。

米林宏昌監督最新作、スタジオポノック第一回長編作品

「メアリと魔女の花」の少年ピーター役として。



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米林監督と再会の挨拶を交わした後、

同時に挨拶をしたぼくは、

そこで、ハッとしました。



初対面なのに、神木「くん」と呼びそうになっていたのです。



神木「さん」と呼ぶべきでしょう。

礼儀として、当たり前のこと。



しかし、神木さんには、

すでに、ジブリ時代を通して

なんとも言えない親しみを感じていました。


だから、ついつい、いきなり、

神木「くん」

と呼びそうになるのです。



ジブリ時代は、みなが「くん」と呼んでいました。

でも、それも、もうずいぶんと昔のこと。

目の前にいる神木さんは、輝きを増し、

最高の役者として、そこにいました。

 きちんと、神木「さん」と呼ばないと。



昨日の発表時用に起用理由を求めらた際、

ぼくは、こう記しました。



思春期直前の少年の中にある無邪気さ、優しさ、儚さ、逞しさ。

子どもでも大人でもない、その中間に一時だけ存在する少年性を求めたとき、

神木隆之介さんの声に正解がありました。

お転婆なメアリに翻弄され、映画の中で最も大変な思いをするピーターですが、

映画の中で一番の「いいヤツ」なのです。




アフレコスタジオに着いた神木さんは、

くったくなく笑いながら、

大好きな電車の話でスタッフを盛り上げていました。

神木さんにお願いして間違いは無かった。

彼の笑い声を聞きながら、ひとり確信していました。



そして、時間となり、アフレコブースに入っての試し録音。

少年の年齢に合わせて、少し高めの声で演じた神木さん。



一声を聞いた後、録音演出の方から、

監督とプロデューサーへ質問がありました。


「少し高すぎますか?もう少し地声に近い感じでやってもらいますか?」


しかし、ぼくらは、


「物語の中盤で大切なシーンがあるから、

 最初はこのくらいの高さでやってもらったほうが

 中盤のシーンの落ち着いた声と

 落差ができてよいと思います。」


と、神木さんが演じるブースの外にある録音室で

そんなことを話していると、

ブース内にいる神木さんが、こう言っているのが

マイクを通して聞こえてきたのです。



「途中で大事な台詞があるので、

 そこの台詞を少し低めに演じるために、

 最初はこのくらいの高さが良いと思って」



こちらの意図を、言われるまでも無く汲み取る神木さん。

そうして始まったアフレコ収録。

その演技は、すばらしかった!








アフレコ収録の最後、

録音された神木さんの声を聞きつつ、

ぼくは思ったのです。


実のところ、神木さんの魅力の本質は、

神木「くん」と呼ばれることに、

象徴されている。


彼の魅力の本質は、

老若男女、すべての日本人から

神木「くん」

親しみをこめて呼ばれる、そこにあるんだなぁ、と。




まぁ、米林監督にとってみれば、

ふたたびの出演を快諾してくれた彼は、

もはや、


「神さま」


だったのかもしれませんけどね!