月別アーカイブ / 2013年06月

映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明(2013年4月15日~9月1日)を再録


  先週末、ジョン・ラセターとピクサーのスタッフが、「かぐや姫の物語」を制作しているジブリ第七スタジオに遊びに来た。
7月6日(土)から公開されるピクサーの新作映画「モンスターズ・ユニバーシティ」のキャンペーンの一環で来日しており、ジブリにも遊びに来てくれたのだ。
宮崎さん、鈴木さんとは1スタで会い、試写室で完成した「風立ちぬ」を見た後、「かぐや姫の物語」のラッシュ映像を少し見てもらってから7スタへ。
7スタでは全スタッフがピクサーグッズを手に大歓迎だった。
ラッシュ映像を見たラセターは「かぐや姫の物語」の線を活かした映像に魅了された様子だった。

「本当に美しい。綺麗な線に整えてしまうと、線画の持っていたエネルギーが失われてしまうことがある。特にアニメーションに於いてそれは、キャラクターの命が失われてしまうことと同じだ。だが、この作品は違う。エネルギーに満ちている。この映画は、失われてしまった命のエネルギーを、今一度、アニメーションに取り戻そうとする画期的な映画だ」

と、高畑さんの表現上の狙いを理解し、賛辞を送ってくれた。  
その中でも特にラセターとピクサースタッフを魅了したあるシーンがある。
アニメーター・橋本晋治さんが担当したシーンだ。実は、そのシーンは、断片的に宮崎さんも見ている。
ジブリの試写室で宮崎さんに見てもらった時、ぼくは宮崎さんの右斜め後ろに座っていた。
出来上がったパイロットフィルムを見てもらったのだが、橋本さんの担当カットが流れたとき、それまでじっと座って見ていた宮崎さんがピクリと動いた。

首を左斜めにゆっくり傾け、右手を首筋に当てて、2回、ポンポンと叩いた。


ぼくは「宮崎駿が唸った!」と興奮した。
そのシーンは、音楽を担当する久石さんにも試写室で見てもらった。
見終えた久石さんは、すぐ後ろに座っていた高畑さんのほうを振り向いて、興奮した様子でこう叫んだ。

「高畑さん!凄いね、これ。凄いよっ!」


ということで唐突ですが、それら映像の一部を、「かぐや姫の物語」の秋公開に先駆けて、この夏にご紹介します。
7月20日(土)から公開される「風立ちぬ」の上映直前に、「かぐや姫の物語」の76秒の特別な予告編が流れるのです。
劇場でご覧ください。

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映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明(2013年4月15日~9月1日)を再録


 ちょっと日誌が追いつかなくなってきたので、一回分だけ箸休め。すみません。仕事の合間を縫っての執筆ですが、さすがに毎日更新は大変です。著者急病ということして、終わりにしたい気分です。そうもいかないので、眠気と戦いながら深夜の執筆作業を続けていきます。


 ということで時間稼ぎの日誌ネタ。ジブリの主要人物の脳内を解剖します。姓名判断サイト「脳内メーカー」を使わせてもらって、みなさんが良くご存知の3人をご紹介しましょう。


 まずはスタジオジブリの所長、宮崎駿監督の脳内を「脳内メーカー」で描画すると……?

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 哲学者のような脳をしています。高畑さんは「あはは、当たってるじゃないですか!宮さんらしい(笑)」と言っていました。さすが日本が世界に誇る映画監督です。


 続いてスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーの脳内を「脳内メーカー」で描画すると……?

20130629_2.jpg


 詐欺師のような脳みそをしています。高畑さんは「あはは、これも当たってるんじゃないですか?」と喜んでいました。さすが日本が世界に誇る名プロデューサーです。


 最後に我らが高畑勲監督の脳内を「脳内メーカー」で描画すると……?



 20130629_3.jpg


 


 みんな「あははは、当たってる!!」


 高畑さん「…………(苦笑)。」


 脳内メーカーって、凄いですよね。


 おわり。


映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明(2013年4月15日~9月1日)を再録


 男鹿さんのご自宅にあがると、男鹿さんの奥さんが出迎えてくれた。すでに温かい食事の用意が整っている。


男鹿さん「車だから、お酒は飲めませんね。残念です。それでは失礼して(笑)。」


 大の日本酒好きである男鹿さんは、ニコリと笑って、ひとりで晩酌をはじめた。お酒を飲めるときにまた、と僕を気遣いながら。

 対面して、こうして夕食をご一緒していると、目の前にいる人物が日本一の美術監督だということなど忘れてしまう。男鹿さんの何とも言えぬ包容力。男鹿さんの周りには、何か別の時間が流れているようでもある。この包容力は、一体どこから来るのだろうか。山と草花と木々を見てきたその目は、涼やかで、深く、優しい。

 お腹を空かせていた僕は、奥さんの手料理を一気に平らげた後、今でも思い出すと反省するが、男鹿さんに対して失礼なことを延々と言い続けた。


西村「男鹿さんがやってくれなかったら、この企画は終わります。断言できます。『かぐや姫の物語』は、数多ある企画とは根本的に違うんです。冒頭の山を生き生きと描ける美術家がいなければ、男鹿さんがいなければ、この企画は無しなんです。高畑さんの最後の映画は、男鹿さんが断われば、潰れます。」

西村「高畑さんは元気だからと言って、年齢が年齢です。いつ死んでもおかしくない。この前もピロリ菌が見つかったし、肺も悪くしかけたんで禁煙しました。それにこの前なんて、東小金井駅から僕に電話がかかってきて、歩けないから迎えに来てくれって。それで行ってみたら、右足のすねから甲にかけて紫色になってるんですよ。挫いたらしく、単なる内出血だったんですけどね。いきなり目が見えなくなったりしたこともある。もう、満身創痍の中、最後の映画を作ろうとしているんです。」


 ぼくが、無礼にも熱弁をふるう間、男鹿さんは時折頷きつつ、じっと話を聞いてくれた。おそらく、ぼくは男鹿さんの酒を不味くしてしまったろう。でも、男鹿さんは僕の話を全て聞いてくれた。

 そして、帰り際、男鹿さんは最後にこう言った。


男鹿さん「ぼくは、高畑さんと一緒にやった『ぽんぽこ』の仕事が、自分の仕事の中で一番楽しかったんですよ。里山を描けた。いまのところ『アリエッティ』の仕事で忙しくて、その次のことを考える余裕がないんだけれども、『アリエッティ』が終わってから、もう一度、考えてみます。」


 回答保留だった。ぼくは、男鹿さんが「アリエッティ」の仕事を終えるのを、じっと待つことにした。

 その後、『アリエッティ』の仕事を終えた男鹿さんは、「かぐや姫の物語」の美術監督を快諾してくれた。その時の顛末は、また別の機会に書こうと思う。


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