目が覚めると、窓の外には、変わらない海が広がっていた。
それなのに、あまりビーチに行く気がしないのは、ビー達に会えなくて寂しかった、昨日と同じ思いをしたくなかったからかもしれない。
散々な目に合いすぎて、一日でも早く帰りたいと思っていた旅だったのに、最後にきてもう少しだけ、この島にいたい理由ができてしまった。
胸がそわそわして、大好きな波の音すら、耳に入ってこなかった。
この島で過ごすのは、これが最後の日。
ボクは、残った15$を用心深く握りしめて、買い物へと向かうことにした。
普段、あまり人にお土産というものを買う習慣がない。それはきっと、バンドのツアーで年がら年中旅をしているからだと思うが、さすがに海外ともなれば、少しはそんな気分にでもなるものだ。
わざとビーチの方を通って出かけた。
お金が無さすぎて、結局買い物はすぐに終わってしまい、一人でハンバーガーを頬ばりながら考えていた。
ボクの方からすれば、彼らは海外での大トラブルを救ってくれた恩人、気持ちが入ってしまっても仕方のないくらいの感謝をしている。
しかし、彼らにとってのボクは、ただの困っている観光客。ちょっとおもしろかっただけで、それほど気に止める存在でもないのだろう。
しばらく考えていると、だんだんと恥ずかしくなってきた。自分の帰る日までしっかりと伝えて、その日まで毎日遊んでもらえると思っていた事に。
なんだか自分がいたたまれなくなり、水着に着替え、海に飛び込んだ。
あんなに寂しく海で遊んだのは、初めての事だった。元々一人旅、行きも帰りも一人。別に一人が寂しかったわけでもないし、むしろ一人旅がしたくて来ていたのに。
結局、日が落ちる頃まで、海でぷかぷかと時間をつぶし、指先は海水でふにゃふにゃになってしまった。
そして、朝がやってきた。
ホテルのロビーにバスが迎えに来るまでには、少し時間が残っていた。せっかくなので、最後にもう一度だけビーチを歩いてみようと思い、海の方へ歩き出した。風は涼しくて、心がクシュッとなった。
歩いたという程も歩く間もなく、ビーチに着いた。いや、ビーチに着きかけた、その時に、もう僕の顔はくしゃくしゃになっていた。
だって、ビーの手のひらに、ハンバーガーがひとつ乗っていたんだもの。
「ごめんな!みんな仕事があってさ」
ハンバーガーをポンと渡された。
僕は言った。
「もうハンバーガーは、食い飽きたからいらねーよ」
バスが発車した。
みんなが、外からバスをばしばしと叩いたりして見送ってくれるから、車内での肩身が狭くなった。
「じゃあなツル!!」とみんなが手を振る。
心の中では、
と、なっているわけだ。
もしくは、、
と、なってもいるわけだ。
もう、、、
こんな事にまで、なっちゃっているわけだ。
でもね、ただ「じゃあな!!」としか言えなかった。
結局、ちゃんとお礼も言えないまま、バスはぐんぐんとスピードを上げ、ビー達の姿を小さくしていった。
こうして、空港着いた僕は、最後の力($)を振り絞って、あんまりうまくないカップラーメンを食べた。
まったく酷い旅だった。でもね、その時、ラーメンを食べながら、やっとこう思う事ができたんだ。
「ああ。まだ帰りたくねぇな」
日本に着いた。
外国とは違って、ゲートを出た途端に、僕の帰りを待ち望んでいたみんなが、凄い勢いで迎えてくれたんだ。
と、いうのは嘘で。
普通に電車乗って、普通に家に帰って、とってもおいしいカップラーメンを食べて寝た。
お し ま い 。(帰国時の残金75¢)
-あとがき-
久々に、あの時の事を思い出して、文章にしてみた。ただ、つらつらと適当に書いただけなので、読み返してみても、特別おもしろいわけでもなく、なんせ15年くらい前の事なので、記憶もだいぶふにゃふにゃになっていた。
当時だから、SNSなんかも無くて(あったかもしれないけど)、ただでさえ機械音痴の僕だから、ビー達と連絡先を交換する事もなく、おそらくもう二度と会える事もないだろう。
まあ、短めの白昼夢のような出来事だかし、考えてみればそんなに寂しいこともないのだが。
最後に一言。
なんかあいつらの仕事って、まともな仕事じゃ気がするなぁ。ギャングかな。
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