仕事柄、洋服などの買い物は平日に行くことが多い。なぜならその方が圧倒的に街に人が少なく、のんびりゆったりショッピングを楽しむことができるからだ。しかし、そうすると店員さんにかなりの高確率で聞かれてしまうことがある。
 
「今日はお仕事お休みなんですか?」
 
これである。そりゃあ聞かれるのも無理はない。平日の昼間からデニムにスニーカーで、なんの時間に追われている様子もなく、優雅にショッピングを楽しんでいる人物がいたら、そりゃあ会社勤めじゃないことは一目瞭然である。
 
これが20代前半くらいまでの頃はまだよかった。「学生さんかな、今日は授業がないのかな」とでも思ってくれていたのだろう、そんなに聞かれることもなかった。しかし、さすがにもうそんな歳でもない。どう見たって仕事をしていなければならない年齢である。
 
じゃあそう聞かれた時にどう答えるかという話なのだが、とりあえず「あ、はい、今日は休みなんです」と、そこは本当のことを答える。

なぜなら過去に一度、「あ、今ぁ、仕事の休憩時間でぇ、お昼ご飯の前にぃ、ふらっと見にきただけなんですぅ」という、非常にしょうもない嘘を咄嗟についてしまったことがあるのだが、その割にガッツリ買い物モードに入ってしまい、時間なんて度外視で6本くらいデニムを試着し、正直どれもピンとはきていなかったが、結局なんとなくのうしろめたさからとりあえず一本買う(2万円くらいした)という、なんだかいろいろとなにやってんだお前な展開になってしまったことがあるからだ。それ以降は、そこだけはきっぱりと休みであると言うようにしている。
 
しかし問題は「あ、はい、今日は休みなんです」と答えたあとなのである。「いいですねえ、ゆっくり見ていってください」で終わればなんの問題もないのだが、平日の昼間で他のお客さんがいなかったりすると、さらにプラスして店員さんが社交的だったりすると、その後の会話に繋がってしまったりする。
 
「そうなんですねえ、普段はなんのお仕事されてるんですか?」
 
これが来たらやばい。途端に私の中のリトルどすこいちゃんは白目をひん剥いてしまう。だって、だってさ。「あ、普段はミュージシャンやってて(キラーン)」なんて、自分絶対言えないですもん。
 
「私のことわかります?」という無言の圧を出している感じがしないでもないし、なんか、「もっと掘り下げて聞いてくれていいんですよ?」というアピールっぽくもあるし、とにかく全身がむずがゆくなってしまうのだ。べつにそう答えるのが悪いことだとは全然思わないし、自分がミュージシャンであることを恥じているなんてこともない。ただここでそう答えることは、なんとなく私の美学には反する。
 
彼女(店員さん)の方から気づかれるほどにまで至っていない自分は、言うなればまだまだ修行の身。自分から名乗るなんてことはしたくないのであります。「いえいえ、私などまだ何者でもありませぬ、ただの流浪の民にござりまする」と、多くは語らず、しかし深みは持たせつつ、その場を音もなく立ち去るに限るのであります。

〜以下妄想〜
 
しかし、少ししてから彼女は知ることになるのです。それはとある冬のはじめのことでした。恋にやぶれ、すっかりがらんどうになったその心。ああ、誰とは言わないわ。何かで心を満たしたい。そんな時、ふと耳にしたメロディー。じんわりと沁み渡り、気づけば溢れ出した両の目からの流れ星。誰の歌なのかもわからない。でもどこか懐かしいその声に導かれるように、彼女は駆け込むのです。そう、渋谷のタワーレコードに。そしてスタッフさんに聞くのです。
 
「あの外のスクリーンで流れていた曲は、どなたの曲ですか?」
 
すると、スタッフさんは言うのです。
 
「ああ、関取花さんですね。あそこにコーナーがありますよ」
 
駆け出す彼女。向かうは「せ」の棚。商品ポップと共に、張り出されたアーティスト写真。大きな口でにんまりと笑うその顔を見て、彼女はようやく理解するのです。
 
「ああ、あの時の。まさかミュージシャンだったなんて。だから平日でもお買い物ができたのね……。」
 
C Dを抱きしめながら、すべてが順風満帆だったアパレルショップで働いていた頃を思い出し、泣き崩れその場に屈みこむ彼女。するとそこに、一人の影が近づいてくる。滲む視界の片隅に、ふと入り込んできたその足元は、見覚えのあるデニムとスニーカー。
 
「大丈夫ですか?」
 
ああ、そんなはずは。でもこの声は。思わず振り返ると、そこに立っていたのは……あたい(関取)。そして二人は、同じセリフを同時に呟き合うのです。
 
「今日はお仕事お休みなんですか?」

〜fin〜
 
ね、ほら、この方が物語として美しくないですか? そんなことないですか。そうですか。そうですね。
 
まあ何が言いたいかっていうと、とにかく困るのである。「今日はお仕事、お休みなんですか?」と聞かれると。
 
もちろん、先に述べた以外にも何度か嘘をついたことはある(本当にごめんなさい)。過去のバイト経験があるので、これなら最悪ツッコまれても対処できるぞと踏んで、「あ、そうです。普段は事務系の仕事です。」とかなんとか。でもそしたら、「え、ジム系ですか? 運動とかされるんですか? ちょっと意外です」と言われてしまい、「あ、事務です、パソコンとか使う系の……」と、嘘をついているくせに相手の言ったことを一丁前に訂正するという最悪の事態が起きてしまい、罪悪感MAXになったので、もうそういうのはやめた。やっぱり嘘ってよくない。

じゃあなんて答えたら丸くおさまるのか。答えは出ないままである。まああれですね、シンプルにもっと音楽頑張ります。