今日も近所の本屋に行った。とくべつ広いとか品揃がいいとかいうわけでもないが、私はとにかくこの本屋が好きだ。というか、この本屋にいるサイトウさん(仮名)が好きなのだ。念のため一応言っておくと、やましい気持ちとかそういうんではない。当たり前だけど、リスペクト的なあれです。

サイトウさんはとにかく所作が美しい。あのなめらかすぎるレジさばきと手慣れた領収書の出し方、なんといっても本を扱う時のなんとも丁寧で無駄のない手つきは、間違いなく社員さんだろう。だからたぶん急に入ったとかたまにいるとかそういうんじゃなくて、割と前からこの店舗に頻繁にいらっしゃるんだと思う。というかいたと思う。何回か、ああ、ここの店員さんは素敵だなと思った記憶はあって、そのうっすらとした記憶を辿っていくと、おそらくそれはサイトウさんなのである。

もちろんサイトウさんの素晴らしさは所作だけではない。なんといってもサイトウさんは声がいい。アナウンサーなら間違いなく朝。朝のNHK。よどみのない澄んだ声は、店内をどこまでも吹き抜ける爽やかな風のよう。その声が響き渡れば、低い店内の天井も青空に変わっていくようだ。

そして次に笑顔。嘘くさくもなく、やりすぎてもいない、たおやかな微笑み。コロナ禍でマスク着用中なので口元まではわからないが、目元だけでも伝わってくる。もう顔半分見んでもわかる、絶対いい人やん。何みたいかっていうとなんですかね、孫を見守るおばあちゃんみたいな優しく穏やかでつぶらな瞳。本にカバーをつけている時なんて、もはや赤ちゃんをあやしてるようにしか見えない。

最後になんといっても安心感。以前、とある本の場所をサイトウさんに尋ねた時のことである。私が「〇〇さんの△△っていう本を探しているんですけど……」と少し自信なさげに言うと、「〇〇さんの△△っていう本ですね」と、まるで『大丈夫あなたは間違っていないよ』とでも言うようなたしかさで復唱してくれた。
そしてそのまま「こちらです」とホテルのドアマン並みの美しい手の差し出し方で行く先を示し、先導して歩き出したサイトウさん。一連の流れには一切迷いがないから、こちらもすべてを委ねてついて行ける。
軽やかな足取り、決して客を置いてきぼりにしないスピード。サイトウさんが歩けば小さな本屋もランウェイに変わる。まるで彼の歩く道にだけスポットライトが当たっているようだった。でも、そこのけそこのけサイトウが通るといった感じではない。自然とまわりがサイトウさんのために道をあけるような、そんな感じがした。彼は間違いなく本に愛された人だ。本たちがサイトウさんを見守りながら勝手に整列している、だからここの本屋はいつも綺麗なのかもしれない。少なくともその時の私にはそう見えた。

そんなわけでいつの日からか、せっかくならばこういう店員さんから本を買いたいと思うようになった私。今日もお目当ての本を買いにその本屋へ行ったわけだが、残念無念、サイトウさんはお休みだった。でも他の店員さんもとっても感じがよくて、心があったかくなったのでした。ちゃんちゃん。