もうすぐ5月が終わってしまう。私は5月が好きだ。スーッとやって来てスーッと消えて行く、その感じが好きだ。
 
何年か前の5月、私は高尾山に登った。雲ひとつない晴天で、普通に過ごす分には半袖でも大丈夫なくらい暖かい日だった。高尾山にはここ数年なんだかんだ毎年登っている(世の中の状況がこうなる前までは)のだが、その日はじめて、私はあるものに遭遇した。
 
少し急な坂道で息を切らしている私の横を、そいつは優雅に通り過ぎて行った。木漏れ日から木漏れ日へと、点と点を線で紡ぐように、ひんやりとした空気と温かい日差しを交互に拾い集めるように、春と夏の季節の合間を縫うように、澄んだ空気と穏やかな風を全身で受け止め、そこに身を委ねるように飛んでいた。
 
あとから調べてみたら、それはアサギマダラという蝶だった。渡り鳥のように渡りをする蝶で、南から北へと長距離移動するらしい。そのためなのか、常に羽をパタパタさせながら飛ぶ他の蝶と違い、羽を広げた状態でグライダーのように飛ぶこともあるそうだ。(滑空というらしい)5月頃は高尾山でもよく見られるという。
 
アサギマダラのアサギとは、浅葱(あさぎ)色のことで、まさに5月の雲ひとつない青空のような色だ。過ぎて行った季節と来る季節、両方の鮮やかさを抱えたような、なんとも言えない美しい色。緑の景色の中に突然現れた時は、とても神秘的で、時が止まったようだった。スーッとやって来たそいつは、またすぐスーッとどこかへ消えて行った。5月みたいな蝶だなと思った。
 
今年は無理だったが、来年の5月はアサギマダラにまた会いに行けたらなと思う。その時はまた、追いかけることもなく、ただぼんやりと、そいつが通り過ぎて行くのを眺めていようと思う。5月ってたぶん、そうやって楽しむものだと思うから。