うちのキッチンのガスコンロ、時々勝手に弱火になる。ある一定の温度に達したら危険を察知して自然と火力を調節する機能が付いているのだろう。令和にもなるとそんなことまでしてくれるらしい。たぶん平成からある機能なのだろうけれど、自分の住む部屋に付いているのははじめてだったので驚いた。
 
このガスコンロがもし人だとしたら、たぶんすごいイイやつだと思う。用心深くて真面目で親切、相当気の利くやつだ。とてもありがたいのだが、その「よかれと思って」が結構厄介だったりもする。
 
先日、チキン南蛮を作っていたときのことだ。私は基本的に家で揚げ物をしないため、揚げ物的なものを作るときは少し深めのフライパンで揚げ焼きにすることが多い。この日もそうだった。あらかじめ食べやすい大きさに切った鶏もも肉に、卵と小麦粉で衣をつけて、少し多めに引いた油の上に並べて行く。あとは中火〜強火で表面はカラッとしつつ中には火がちゃんと通るように焼いて行くだけ……と思ったのだが、肉をフライパンに並べ終わったくらいで急に弱火になってしまった。そのあとは何回火を付け直しても少ししたらまた弱火。揚げ焼きをしたい時にこれはかなり致命的である。
 
説明書を見れば一時的にこの機能を止める方法が載っているかもしれないとも思ったが、料理中に部屋のどこかにしまった説明書を取り出してわざわざ見る気も起きないし、同時進行で他の料理も作っているからそんな暇もない。というか、キッチンでよそ見している間に危険なことにならないようにと弱火になる機能がきっと付いたのに、そのせいでよそ見するなんて本末転倒過ぎる。というわけで私はそのまま調理を続けた。
 
弱火になっては火を止め中火にして、また弱火になったら火を止め中火にすることを何度か繰り返しながら、なんとか私は揚げ焼きに成功した。次はそれに絡めるタレ作りである。フライパンに残った油を拭き取ったあと、私は甘酢ダレに使う調味料をフライパンにぶち込み、中火にかけた。とはいえフライパンにはまだ揚げ焼きの時の熱が残っているし、このままさらに熱くなればまたあの機能が起動するだろう。勝手に弱火になって、むしろいい感じの火加減でタレを煮詰めてくれるはずだ。あの機能をどうせなら遺憾無く発揮させてやりたいと思った私は、全力で乗っかることにした。
 
そしてちょっとよそ見をしてメルカリを見ることにした。気になっていた商品にコメントが付いたという通知が来たのだ。もしかしたら即決されてしまうかもしれないと思うと、いてもたってもいられなかった。ちなみに見ていたのは「食べっこどうぶつ」のフィギュア。集めたくて前にガチャガチャで何度かやったのだが、三回連続ヒヨコしか出なかったやつだ。
 
幸いまだ狙っていた商品は即決されていなかったので安心したが、何気なく下の方へページをスクロールしてみたら、あなたへのオススメ的なところに「食べっこ水族館」のキーホルダーが出てきてしまった。なんじゃこれ、めっちゃかわいいやないか。これは無視できない。即決されてしまうかもしれない……と思った私は、ついついそのままメルカリ沼に足を突っ込んでしまった。
 
そんなことをしているうちに、何やら香ばしいけれど確実に危なっかしい匂いが漂ってきた。恐る恐る甘酢ダレの方に目をやると、グツグツ言っているではないか。火を見てみたら、ガンガンの中火。弱まる気配も一切なく、もう自信満々の中火。なんでだ! これ以上やったら煮詰まりすぎてタレが水飴みたいになりかねないと思ったので、私は急いで火を止めた。どういうことだ、あの機能は油にだけ反応するのか。フライパンの上に何の液体が乗っているかまで今時のコンロはわかるというのか。いずれにしてもなんだかすごい時代になったものである。
 
結果的にはこちらも結局ギリギリで事なきを得て、チキン南蛮はなんだかんだ美味しく作ることができた。それにしても、いろんな手間を省くために揚げないで揚げ焼きにしているというのに逆にこんなに手間取る羽目になるとは。何事も便利すぎたり親切すぎたり、それに頼りすぎたりするのも考えものである。いやはや、「よかれと思って」って難しい。まあメルカリ見なけりゃここまでバタバタしなかったんですけどね。 
 
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