つい先日、私はめでたく今年の「刺されはじめ」を迎えた。

そう、蚊である。

ここ最近は体質が変わってきたのか、刺される回数も減ったし、かゆみが長続きする事もなくなってきたが、子供の頃はとにかく全身蚊に刺されまくりで、血が出るまで何度もひっかいたものである。

そんな様子を見かねた母は、早く良くなるようにと、いつもキンカンを塗ってくれた。しかしこれがかなり強烈で、めちゃくちゃしみるのである。

太い針で肌を貫かれている感じというか、小さな傷口にデカい雷が直撃する感じというか、もうとにかく、思い出すだけで鳥肌が立つ。子供の頃の私は、蚊に刺されることよりも、そのあとに待っているこのキンカン地獄がとにかくイヤだった。もはや恐怖でしかなかった。(そもそもひっかかなければ良いだけの話なのだが)

そんな私だが、大好きな塗り薬が一つだけあった。母方の祖母が塗ってくれた、謎の薬である。

おそらく、手作りの何かだったのだと思う。祖母はそれを使い終わった牛乳瓶の中に入れていて、蚊に刺されたと言うと、指ですくって肌に塗ってくれた。うろ覚えだが、少しザラついていたような気がする。においもなく、しみることもないのに、これを塗ってもらうと一瞬にしてかゆみがとまるのであった。魔法の薬って本当にあるんだ!と本気で思ったのをよく覚えている。

それにしても、あれは一体何だったんだろうか。祖母はもう亡くなってしまったので、答えはわからない。そもそも本当に薬だったのだろうか。

思えば私の「刺されはじめ」は、毎年決まってこの時期である。そしていつも、あの謎の薬のことを思い出す。遠くへ行ってしまった好奇心が、こちらへ少しずつ帰って来る気配がする。もうすぐ夏がやって来るのだ。

蚊は大嫌いだが、この感じは嫌いではない。

梅雨と夏本番のその間、世界中のあらゆる謎がそわそわしはじめる、六月末!