2018年になったばかりだと思っていたのに、気がつけばもう3月である。まだまだ肌寒い日は続いているものの、どうやら花粉もガンガン飛んでいるようだし、何より「なんとなく」もう春だなあ、と感じることが増えた。

学生の方や会社勤めの方は来月、毎年4月から新年度がスタートするわけだが、私なんかみたいにこうして音楽をのらりくらりとやっている身となると、ついそこらへんの感覚を忘れてしまう。
ざっくりした年間スケジュールは立てて動くものの、地平線の向こう側を眺めて、キラキラしたものを見つけて、手を伸ばして、たまに落ち込んで、また追いかけての繰り返しで一年間、いや、何年間も気づけば過ぎ去っているのである。少なくとも私の場合は、この数年間そうだった。

そんな感じで、音楽を本気で生業にしたいと思ってから始めた私の一人暮らし生活も、この春から5年目に突入する。

一人暮らしを始めてからの4年間、私はずっと同じ家に住んでいる。ライブのMCなんかでもネタにしている通り、家賃約5万円の六畳のワンルームである。4年間で物がかなり増えて、正直もう部屋の中は凄いことになっている。隙間という隙間には本やCDのタワーが立っているし、収納もほとんどないため、あらゆる場所に突っ張り棒を利用して、しまいきれないものはぶら下げることで何とかしている。アニメ映画に出てくる要塞都市かというくらいに、狭いスペースにかなり入り組んだセットを組んでいる状態である。
住んでいる街や部屋からの眺めなどは気に入っているので、正直かなり愛着もあるのだが、そろそろきちんと作業場も設けたいなと思い、私はこの春引っ越しをすることに決めた。というわけで、現在絶賛物件探し中というわけである。

先週あたりから何軒か内見に行ってみているのだが、まだ、これだ!という部屋には出会えていない。家賃や間取りなどの希望条件にはマッチしていても、実際に行ってみると、「なんとなく」違うんだよなあ、ということも多かったりする。いくら写真や話で聞いて良く感じても、結局住むのは自分なのだから、こればっかりは自分の目で見て確かめたことしか最終的には頼りにならないな、と思う。

そうは言っても、時間も予算もかぎられているので、あまり悠長に構えていたらいつまで経っても決まらない。そこで何人かの友人に相談してみたところ、占いを頼りに引っ越す時期や場所を決めているという人がいた。いかに占いが人生を左右するのか、一生懸命に教えてくれたのだが、正直私はある時から占いの類は信じないと決めてしまっているので、はあ、と聞き流してしまった。(決して占いに否定的なわけではないので悪しからず)


あれは2年ほど前だろうか、女の子の友人と二人で東京タワーに遊びに行った時のことである。
展望台に登ったり、お土産屋さんを覗いたりしたものの、なんだかまだ満喫しきれていない気がしたので、記念に占いでもしてもらおうか、ということになった。一回1000円で占ってくれる占いコーナーには、3、4人の占い師の方が並んでいて、私たちはその時一人だけ暇そうにしていた手相占いのおじさんに、運勢を見てもらうことにした。早速私が手相を見せると、「ほお〜なるほど」と言いながら、おじさんはボールペンで手相をなぞりはじめた。

「人前に出る仕事は向いているね」

なるほど、それはかなり嬉しいことである。そしておじさんは続けてこう言った。



「恋愛に関しては、君は28歳までに、結婚、離婚、再婚するだろうね」




いや

なにその人生のターボ感


予想の斜め上すぎる展開に、私は逆に胸が踊った。そして、まんまとそのおじさんの占いにかなり興味が湧いてしまったのである。そこで、もうちょっと詳しく聞かせてくれないか、と聞くと、一回の占いではここまでと言われてしまった。なんでも、


「この先はタロット占いで占うから、プラス1000円かかる」

らしいのである。



いや


なにその占いハイブリッド




その瞬間、私はさっきまであんなに湧いていた興味が急激に冷めて、疑問符に変わって行くのをたしかに感じた。お金を払って占いをしてもらうのは初めての経験だったので、これは完全に良いカモだと思われているのではないか、と思ってしまったのである。

もはや信じる心を失ってしまった私には、この先の占いは無力な気がしたので、じゃあ大丈夫ですと言ってその場を立ち去ろうとしたその時である。

背中を向けた私の後ろ姿に向かって、おじさんが「ちょっと!」と声をかけた。「あと一つだけ教えてあげよう」と言うので、何事かと思い振り返ると、おじさんは渋い顔でニヤリと笑い、自信たっぷりの声でこう言った。



「君は安産だ、なぜならケツがデカいから」



それは、さっきまでとは違う、確信めいた表情と声色だった。占いをしてくれていた時より、はるかに神々しかったその姿を今でも鮮明に覚えている。

その日からである。私が占いをあまり信じなくなったのは。

しかし代わりと言ってはなんだが、そのおじさんのおかげで、結局最後は自分の目で見たことにしか確信は持てないのだな、ということを、あらためて身を持って感じることができた。

おじさんから教えてもらったこの教訓を胸に抱きながら、新年度を気持ちよく迎えられる部屋が見つかるまで、関取の物件探しはまだまだ続く。良い部屋見つかると良いなあ。