諸君、聞いてくれ。

私は今猛烈に太っている。少し前から自覚はあった。

しかし、

「今はツアー中だから」

「今日は良いライブができたから」

「マジ食欲の秋」

などとその都度理由をつけ、いつだって自分を甘やかしてきた。美味しいものを食べるということは本当に気分が良い。重くなっていく身体とは裏腹に軽くなっていく心。私は9月に入ってから、みるみる肥大化していった。

私の部屋には全身鏡がない。従って、自覚症状が大体ものを言う。しかし、その「自覚」から私は逃げていたのだ。そう、体重計に乗らなかったのである。
毎日風呂上がりに、嫌でも目に入る鮮やかなブルーの体重計。私はそいつを一睨みし、「たかがグラム単位で明日の気分が変わるなんてナンセンスだ」などと意味のわからない理由をつけて、片足さえ乗せることなく、軽々と(実際には重量感たっぷりに)飛び越えてきた。

しかし今朝、なぜか体重計に乗ってみようと思った。理由は簡単である。太ったことを自覚せざるを得ないくらい、どうにも身体が重いのだ。それも疲れやむくみといった類のものではない。明らかに脂肪と言う名の悪魔に取り憑かれた重さなのだ。わたしは恐る恐る体重計に身体を預けた。





ZEKKU 
~I can't say anything~




私は自分の目を疑った。体重計の液晶には、過去最高まではいかないにしても、近年稀に見るハイスコアが表示されていた。私は一人で「マジか、おー、マジか、マジかー」と思わず独り言を連発した。気が動転したのである。

そのあと深呼吸をし、身体の角度を変えてみたり、片足だけで立って見たり、膝を曲げてみたり、両手を上に上げてみたり、様々な体勢で体重計に勝負を挑んだが、私の完敗だった。これはいかん。いよいよ本格的にダイエットをはじめなければならない。


その時である。私の心の奥底にいる花ちゃんが、確かにこう言った。

「別二イイダロ」

いかんいかん。お前の言葉には騙されないぞ。

「別に誰に見せるもんでもないダロ」

「別にルックスで売っているわけじゃないダロ」

私には目に見えるような気がした。上下グレーのスエットを着て肩肘つきながら床に寝転んで、ポテトチップスをバリバリ食っているリトル花ちゃんが。そして言うだけ言って食うだけ食ったらそのまま寝るリトル花ちゃんが。

負けるもんか…私はなんとか私の心の中に巣食う「ぽっちゃり」という言葉に甘えているこの女に勝たなければならない。そのためには確固たる意志が必要だ。そう、思えば私は「痩せる」ということに対して異常に意志が弱いのだ。

ここ数年、様々なダイエットを試みてきた。プロテイン、おからクッキー、グリーンスムージー、ランニング、りんご、寒天、デトックススープ、ジム…どれも上手くいかなかった。理由はそう、いつだってはじめて一週間ほどで必ずやってくるあの感情である。



「メンドクセェ…」



わたしはとにかく異常なめんどくさがりなのである。できることなら省エネに省エネを重ねた行動範囲で生活したい。冷蔵庫とトイレとベッドの三点さえあれば3日くらい何もしなくても平気なくらいである。

しかしそんなめんどくさがりの私でも、一度だけ大々的なダイエットに成功したことがある。遡ること12年、関取花、当時12歳の頃の話である。

小学校の頃の私は、とても太っていた。ぽっちゃりなんてもんじゃない、かなりの肥満児であった。身長139cmにして49kg、体脂肪38%。入るズボンがなかったので、婦人用のLサイズの膝丈のサブリナパンツを、10分だけのズボンとして履いていた。おまけにめんどくさがりが過ぎて、髪は年に一回しか切らないし、伸びた髪を乾かすのがめんどくさかったから髪もほとんど洗わなかった。もう、ガチの関取である。今思うと普通にヤベェ。

しかし幸いにも「明るいおデブちゃん」だった私は、沢山の友人に恵まれ、とても楽しい小学校生活を送っていた。

そんなある日、中学校入学の準備をあれこれはじめていた春休みのことである。2つ上の兄がやってきて、こう言った。

「お前、小学校まではギリそのキャラでいけたかもしんないけど、中学入ったら多分そのままじゃ友達できないよ」

ハッとした。こちとら新しい友達を作ることに希望しか感じていないというのに、このままじゃ友達ができないとは何事か。

「中学になると、みんな見た目とか気にし始めんだよ、キャラがわかる前に見た目で判断されることもあるんだぜ」

その言葉に、私は思わず身震いした。あまりにも現実味を帯びすぎていて、恐ろしくなったのである。
ましてうちの兄は大真面目で、絶対に嘘を言うようなタイプではないし、小言を言ってくるタイプでもない。これはマジのやつや…と、幼心に思ったのを今でも覚えている。


そして兄は続けて言った。


「あと、二重飛びできないと友達できないぜ」




その日から、私の過酷なダイエット生活がはじまった。まずはじめに、1日をグレープフルーツ半個で過ごすことからはじめた。4日で4kg落ちた。そして暇さえあれば二重飛びをした。はじめは身体が重くてまったくできなかったが、少しずつできるようになっていった。その後も過酷な食事制限と取り憑かれたような二重飛びの練習のおかげで、入学までに38kgまで体重を落とすことができた。髪もボブにし、綺麗さっぱり、お風呂も大好きになった。そして中学に入学してからはすぐにバスケ部に入ったので、通常の食事に戻しても全く体重は増えることなく、とても楽しい中学生活を送ることができた。(絶対真似しないでね)



それがなんだ。今の私は。曲がりなりにも人様の前に出ることをしているというのに、このザマである。情けない。完全に甘えである。

「でも花ちゃんはそのままで良いです!」

「笑った顔が福々としていて良いです!」

「痩せたら花ちゃんじゃないです!」

そんなみんなの優しい言葉に甘えて、「あら、そう?じゃあ、いっかぁ」なんて言っちゃってる自分が情けない。人の優しさに甘え続ける女なんざ、ろくな女じゃなかろうよ。


だから私はここに宣言する。



あとちょっと、痩せる。




あー明日目が覚めたら長澤まさみになってないかなー