先日、某激安の殿堂に行った時のことである。

正月太りを解消できぬまま1月も中旬にさしかかり、確かな身体の重みと焦りを感じながら、私は手軽なダイエット器具を探していた。さすがボリューム満点激安ジャングル、かなりの種類を取り扱っている。最近は家の中でもフィットネスが行える器具もかなり出ているようで、陳列棚に高く積み上げられたそれらを見ているだけで胸が躍った。

しかし、私の今住んでいる部屋は6畳しかない。そしてその部屋には既に、ベッド、作業机、テーブル、ギター5本、キーボード、アンプ、レコードプレーヤー、本棚、コート掛け、空気清浄機などが、テトリスをするようにひしめき合っている。正直、これ以上物は増やしたくない。本当はバランスボールがちょっと欲しかったが、それは泣く泣く諦めた。すると、ある商品が目に入った。小顔ローラーである。
効果があるのかないのかよくわからないながらも、この10年くらいは常に見かけるこちらの商品、高いものだと15000円、安いものだと1000円弱からあるようである。これなら場所もとらないし、お手頃価格のものを一度買ってみるのはありかもしれない。何より、ズボラな私でもこれなら「ながら」で続けられそうである。大好きな「ごっつええ感じ」のDVDを見ながら、コロコロしてりゃいいなんて、最高じゃないか。ていうかあれ、正直楽に痩せたい。面倒なことはしたくない。顔が一番手っ取り早いだろ。痩せた感じ出るだろ。

ということで、小顔ローラーをいざ手に取ってみようとしたその瞬間である。真横から香辛料の香りがフワッと立ち上がるのを感じた。

右を見ると、かの有名なプロレスラー、タイガー・ジェット・シン似(知らない方は是非調べてみて欲しい)のインド系と思しき男性が、こちらを見て微笑んでいる。目が合ったのでとりあえず微笑み返しはしたものの、私は内心かなりビビっていた。激安の殿堂特有の狭い通路は、どこをとっても死角と言えば死角、何をされても誰も見つけてくれないかもしれない。何しろ相手はタイガー・ジェット・シンである。新宿伊勢丹でプライベートで買い物をしていたアントニオ猪木を白昼堂々襲撃したあの男である。早く小顔ローラーを手に入れてこの場から立ち去りたい。しかし、小顔ローラーは右斜め上のフックにかかっている。そう、まさにタイガー・ジェット・シンの目の前である。はてどうしたものか、実際の時間はものの十数秒だったとは思うが、体感的には10分を超えていた。

すると、その沈黙を割くかのように、タイガー・ジェット・シンが何やら話しかけてきた。



「…シテマスカ?」



よく聞こえなかったので、思わず聞き返した。



「…へ?」





「…パズドラシテマスカ?」






あまりに突然の質問に、私は思わず声を失った。
一瞬で頭の中に色んなハテナが駆け巡った。しかし私にできることは、とりあえずその質問に答えることだけである。とにかく嘘をつかずに正直に言おう。



「スミマセンシテマセン…。」


なぜか私までカタコトで答えてしまった。すると彼は、とても悲しい顔をして、


「ソウデスカ…。」



と言った。白昼堂々激安の殿堂に現れたその男は、私を襲撃することもなく、その場から静かに立ち去った。一体あれはなんだったのだろうか。


そういえば、私はインドとかちょっとお顔が濃いめの国の方々に声をかけられることがなぜか多い。少し前も、ファミリーマートで深夜バイトをしているタイ人の店員さんになぜか連絡先を聞かれた。スタジオでの深夜練習の帰りに立ち寄るといつも笑顔でレジを打ってくれたその店員さんは、28歳の留学生だと言う。



「イツモ、チェロ、モッテイテ、タイヘンデスネ」


素敵な笑顔で話しかけてくれたその人に、これは私の身体が小さいだけで、実はギターなんだよ、とは言えなかった。連絡先はまた今度ね、と言ってなんとなく濁しているうちに、その人はいつの間にかお店からいなくなっていた。でも大体見当はついている。なぜなら彼はお店の電話でいつも家族に電話していた。言葉はわからなくても、電話口の向こう側が姪っ子に変わった瞬間などが、なんとなくわかった。毎日のように国際電話をしていたら、相当の電話料金である。おそらくそれが店長にバレてクビになったのではないかな、と私は踏んでいる。


幼少期、トルコかどこかに行った時もこんなことがあった。白人の方が多いヨーロッパでは、色白で一重の、私よりももっといわゆる日本人顔の兄の方が可愛がられることが多かったが、そこでは違った。現地でついたガイドさんは、私をとても可愛がってくれた。そして言われたこの一言を、今でも私はしっかりと覚えている。




「コノコカワイイデス、フトッテテ」


当時小学生にあがるかあがらないかくらいの歳ではあったが、なんとなく胸にガツンときたのは間違いなかった。



でも、どんな形であれ好かれたり声をかけられたりするのはとても嬉しい話である。しかしなぜ濃い顔の方々ばかりなのか。なぜ日本人からはモテないのか。


そんな私も、たった一度だけ日本人の方から連絡先を渡されたことがある。


それはワンマンライブに向かう途中の電車の中で起きた。私は、着替えなどを入れた大きなエコバッグを膝に乗せて座っていた。ウトウトしていたら、サッと横から一枚のレシートをエコバッグの中に入れられた。よくわからないままレシートを入れてきた人の方を見ると、「読んでください」とだけ告げて、彼は下車し、ホームの人混みの中に消えていった。

なんだろうと思いながら恐る恐る開けてみると、ラブレター的なものだった。自分で書くのはなんだか小っ恥ずかしいが、横顔がとても素敵で、タイプだと書いてあった。そして、連絡先が書いてあった。



ocean0720@○○○.co.jp


 
ocean=海

0720=7月20日=海の日




たぶんこの人海めっちゃ好きだわ…。



そんなことを思いながら手紙を読み進めてみると、こんなことが書いてあった。



「僕は沖縄出身で、最近東京に来たばかりの者です。良かったら連絡ください。」



やはり…



海人(ウミンチュ)…




やっぱり日本の方でも顔が濃い方に好かれるのだろうか。謎は深まるばかりである。







===近況===
勝手にラジオはじめました。