月別アーカイブ / 2015年08月


昨日、とある収録に向かう途中の電車内での出来事である。

中学1、2年生と思しき男子4人組が乗り込んで来た。
そろいもそろってTシャツの上にチェックのシャツを羽織って、なぜかこれまたそろいもそろって七分丈のズボンを履いている。無駄に早く走れそうなスニーカーからのぞく、毛玉のついたくるぶしソックスが実に愛らしい。残り少ない夏休みをエンジョイしようと、仲良しグループで集まってこれからどこかへ出かけるという感じで、なんとも微笑ましいなぁと思いながら、私は彼らの会話に耳をそばだてていた。

はじめのうちは夏休みの宿題についてやゲームの話だったのだが、私が少し携帯をいじっている間に、気付けば話題は「えっちなサイト」の話になっていた。よくよく聞いていると、「お前はどこのえっちなサイトで見ているんだ」という会話で非常に盛り上がっている。これは絶対に面白い話になるに違いない。聞くしかない。私はすぐさま携帯をポケットにしまい、窓の外を見つめるふりをしながら、彼らの会話を聴くことに全身全霊を注ぐことに決めた。

話をよくよく聞いていると、四者四様、それぞれ愛用サイトが違うらしかった。

「俺は◯◯」
「俺は××っていう海外サイト」
「俺はビデオのサンプルムービー」


そして最後の一人がこう言った。



「俺youtube」


その瞬間、先ほどまで胸を張ってそれぞれの愛用サイトを語っていた3人のテンションがなぜか爆発的に上がったのがわかった。


「お前、まじか!!」

「すげぇ!!youtubeでそんなの見れんのか!!」

「お前すげーな!年齢制限が~とか出てくるじゃん!あれ、どうしてんだよ!?」

「履歴とか母親に見られたらまずくね!?」



彼らにとって、youtubeでえっちなビデオを見るということがどれほど凄いことなのか私にはわからないが、どうやらそれは革命的に凄いことらしかった。

そしてyoutube愛用者の彼が、自慢気に説明しはじめた。
彼らもさすがに周りを気にし始めて小声で会話していたので、細部までは聞き取れなかったが、大体こんなことを言っていたと思う。


「はじめはグラビアアイドルのイメージムービーばかり見ていた」

「でも、リンクをどんどん辿っていくとまだ消されていない動画にぶち当たることがある」


(途中は聞き取れなかった)



「 奇 跡 」



以上だけは確実に聞き取れた。彼はおそらく、寝る間も惜しんでより崇高な動画にぶち当たるために全身全霊を動画堀りに注いでいたのだ。実に勇敢な開拓者である。あっぱれである。

ただ、家族共有のパソコンで見てしまった場合には、youtube上からも、パソコン自体からも履歴を消すことを絶対に忘れてはならないということを彼は力説していた。何しろ莫大な量の動画をたどってその「奇跡」までたどり着くわけだから、履歴がとんでもないことになるのだろう。賢い子である。

なるほど、私は自分のパソコンがあるので、意識をして履歴を消す必要もないためチェックしていなかったが、確かにyoutubeの履歴はチェックしてみたら面白いことになっているかもしれないぞ、と思った。
そこで私は、youtubeにログインして、自分の履歴を見てみることにした。

するとまず、登録したつもりもないチャンネルが十数個登録されているではないか。一体これはなんなのか。少し焦りはじめた。そして、恐る恐る履歴をクリックしてみると、韓流アイドルが投げキッスをしている動画が延々とループされる動画や、韓流アイドルが泣いている動画や、韓流アイドルが汗を拭く動画などがずらりと出てきた。


身に覚えがない。一体これは何なのか。一瞬、妙にゾッとした。


しかしその理由はすぐに判明した。少し前に実家に帰った時に、実家のパソコンから、自分のアカウントでyoutubeにログインしたことがあった。恐らくそのままログアウトせずに放置してしまったため、何も知らない母がそのままyoutubeを利用したのだろう。家事で疲れた母親は、アイドルの投げキッスの動画を見てきっと元気をもらっていたのだろう。綺麗な涙にもらい泣きしたのだろう。汗を拭く動画は…知らん。

それにしても、なんだか事の流れ的に、息子のえっちな動画の履歴を見てしまった親のような気分になってしまった私は、無性に気まずくなって、とりあえずその履歴は全削除しておいた。ごめんよ母さん。


ところで、それだけパソコンを駆使して動画を検索しまくっている中学生男子が、「エロサイト」と言わないで、「えっちなサイト」と口を揃えて言っていたのはなぜなのだろうか。私はそれが、なんとも可愛らしいなぁ、と思ったのであった。ほんの微妙なニュアンスの差で、生々しさを回避できたり、可愛げが出たりするもんで、思わぬところで言葉選びの妙を再発見したのであった。少し下品な言葉には、コロコロコミック感がある方が、可愛げがあって、なんだか良い気がするのである。

よりによってそんなことをぼんやり考えていたら、すっかり朝になってしまった。
8月の終わり、窓からは少し涼しい風が吹き込んで来る。
今年の夏は、恋をせずに終わりそうだと私は悟ったのであった。














日付が変わって昨日8月1日は、福島県は猪苗代湖を目の前に、「オハラ☆ブレイク」というフェスに参加させていただいた。温かいスタッフの方々や素晴らしい出演者の方々、地の物の食事は勿論、ロケーションがとにかく最高だった。雲一つない空、きらきらの湖、連なる山々、生い茂る花や緑、カゲロウ…まさに花鳥風月、自然の景物の美しさに、心を洗われた。

花鳥風月と言えば、一つ思い出すことがある。

遡ること12年前、小学校6年生の時の話である。生意気の盛りの12歳が30名ほど集まった新学期の教室に、若い教師がやってきた。背丈は170cm弱、昔スポーツをやっていたのであろう中マッチョな健康体には、短髪がよく似合う。顔は映画「ロードオブザリング」で主人公フロドを演じたイライジャ・ウッドにそっくりだった。手早く荷物を作業机に置き、教卓に出席簿をドンと置いた彼は、黒板にチョークを走らせ、名前を書きながらこう言った。

「えーっと、ね、今日からこのクラスを一年間担任します、Sです。よろしくね!」

爽やかすぎる彼の挨拶に、生意気盛りのしけきった生徒たちは「よろしくお願いしま~す…」とだらしない返事をすることしかできなかった。

彼のことは知っていた。確か今年が教師になって二年目で、一年目は低学年のクラスの担任だったのだが、その爽やかなルックスで保護者のお母様方にとにかく大人気で、異例の大抜擢で今回小学校6年生のクラスの担任になったのである。

「いやいやいや、なんつーかさ、あれだよ?わかるわかる!今まで皆を見てくれていたほかの先生たちに比べて俺は年齢も若いし、なんだこいつと思うでしょ?でも逆に考えれば年齢が近いぶんだけ皆の気持ちもわかるしさ。今までの先生とは、ちょっと違うかもしんないけどさ。ていうかあれでしょ、普通先生って自分のこと俺とか言わないでしょ?笑 まぁそんなわけで…」


秒速だった。直感だった。すぐに私は確信した。


やべぇ…苦手だ…


急いで親友のRちゃんの方を見た。彼女も私を見ていた。頷いている。
そして彼女の口が動いた。

「ガ ン バ ロ ウ」

私もゆっくりと頷いた。

彼はその間も喋り続けていた。学生時代はラグビーをやっていたこと、スーツの色はグレーの方が若々しく見えるからいいんだってこと、あとまぁ全然覚えてないけど多分どうでもいいこと。
そうこうしているうちに、皆彼の話に飽きはじめて、各々こそこそと喋り始めた。一人が二人になり、二人が三人になり…みるみる間にクラス中が騒がしくなった。次の瞬間である。




バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!



ざわめく木々達の元に突然落ちた雷鳴のごとく、その音は響き渡った。
S先生が、教卓を叩いたのである。思わずシンとする教室。
そして彼は言った。


「おい、お前ら…


なめんなよ?


めっちゃキメ顔で、こちらを見ている。両の手を教卓につき、前のめりの体勢で、斜め下から睨みつけながら、クラスの一人一人の顔を確認するように眺め回している。お調子者の男子は、ニヤニヤするのをこらえながらも少しビビった様子で、S先生を見ている。反対にクラスのマドンナは、目をハートにして彼を見つめている。私はRちゃんの方をチラリと見た。親友の彼女はどうだろうか。すると、彼女もこちらに気付いたようで、また小さく口を動かしてきた。


「…ッズオー」

なんだろうか。首を少しだけ傾けると、もっとわかりやすく口を動かしてくれた。

「キ ッ ズ ウ ォ ー … 」

皆さんはご存知だろうか。その昔、井上真央さんが子役時代に主演されていた昼ドラ、「キッズウォー」を。井上真央さん演じる主人公茜は、派手な髪型にルーズソックス、男勝りで口は悪いけど、人一倍正義感が強く、理不尽なことがあるとどんな不利な状況だろうと果敢に立ち向かうとてもかっこいい女の子だった。その決め台詞が、「ざけんなよ?」だったのである。そして茜はいつも教室の自分の机を蹴っ倒していた。マジか、茜の真似なのか。しかも「ざけんなよ?」を「なめんなよ?」に、「机を蹴る」を「机を叩く」にマイナーチェンジしたのか。だとしたら、だとしたら。


だ、だせぇ…


吹き出しそうになるのをこらえながら、必死で前を見据えた。S先生は、まだ教室を眺め回している。なんとか目をそらさねばと視線をずらすと、その先には先生用の作業机があった。そして私は発見してしまった。



意味わかんないくらいでかいアラビックヤマトを。






(左端が通常サイズ、私が発見したのは右端)





…限界だった。もう無理だった。


「んふっ」


思わず笑い声が溢れてしまった。そしてS先生が言った。


「どうした?なんかおかしいか?」

まさか、「アラビックヤマトがでかすぎて」笑ったなんてこの空気の中で言えるはずもなく、気の小さい私は弱々しく、「え、いや…すみません…」ということしかできなかった。

ほどなくして、その場はおさまり、皆の入る委員会を決めることになった。
放送委員会、飼育委員会など、様々な委員会がある中で、最も不人気なのが、運営委員会だった。委員会の中では一番偉いのだが、放課後に残って作業をしたり、議事録を書いたり、各行事で皆の前で挨拶をしたりする機会も多く、割とめんどくさいやつである。勿論誰も立候補なんてしなかった。しかし、決まるまでは他の委員会は決められないとS先生が言う。運営委員会は、基本毎週火曜日と木曜日の放課後に集会があるということで、S先生は、席順に、生徒一人一人に火曜日と木曜日の予定を聞き始めた。

「ピアノの稽古です」「塾です」「ECCです」なかには、「二年前からずっと飼育委員会がやりたかったんです」という子もいた。皆うまいこと理由をつけて、さらりとかわしていった。勿論言葉につまっている子も何人かいたが、人前で話すのが苦手そうなおとなしい子には、S先生もそこまでつっこまなかった。

いよいよ私の番がきた。

「塾です!!」

きまった。これで私の番は終わりだ。心底ホッとした。

そして次の子、その次の子…と教室を一周したが、結局「じゃあやりますよ」という子は現れなかった。そしてなぜか、二周目に入ったその瞬間である。

「花」

耳を疑った。今私の名前を呼んだのか?動揺した。

「花、木曜日なんだっけ?」

「…ピアノです!!」


「あれ、さっき塾って言ってなかったけ?」



…おわった。



そして私は運営員会に決まった。さらにその中でも運営委員長を務めることになった。(じゃんけんで負けたのだ)楽しかったけど。


そんな最悪の幕開けではじまったS先生との一年間は、かなり強烈だった。その中でも色濃く覚えているのが、花鳥風月である。

体育の時間になると、決まってS先生はお決まりのファッションに身を包んだ。日差しの強い真夏だろうが、日差しも別に強くない真冬だろうが、決まってキャップを後ろ向きにかぶって登場するのだった。そして、いつも「花鳥風月」とプリントされたTシャツを着ていた。これがでかでかとプリントされていても結構ツボなのだが、もう意味わかんないくらいちっちゃく胸元にプリントされているのだった。ラコステのワニ、四匹分くらい…とまではいかないかもしれないが、気持ち的にはそれくらいの感じだった。それが私はめちゃめちゃツボだった。だってアラビックヤマトはめっちゃでかいのに…と思うと、もうだめだった。もはや逆に可愛い。むしろ推せる。


はじめの印象こそ最悪だったが、S先生はS先生なりに一生懸命な人だった。若くして6年生の担任を任され、きっとプレッシャーもあっただろう。生徒と年齢が近いから、偉そうにせずに友達になるつもりで頑張ろうとしてくれていたんだろう。運営委員会を決めるときも、なんとなく私のキャラを見抜いていたのだと思う。実際、S先生はあのあとから私のことを凄くおもしろがってくれて、こんな生意気で抜けてる私のことを可愛がってくれていた。そんなことで、たまに空回りしちゃうこともあるけど、根は熱くていい人なんだと私もクラスの皆も、少しずつわかっていった。

そして月日はあっという間に流れ、卒業式の日。

卒業証書の授与も終え、皆小綺麗な服に身を包み、席についていた。
あとは先生からの言葉と、「起立、礼、さようなら」だけである。私たちは、いよいよ小学校を卒業する。あんなに毎日、早く終われと思っていた学校が終わるのが、どうしようもなく寂しかった。ずっと終わって欲しくないと思った。はじめてS先生に会った日、うるさくしていたクラスの皆も、今日ばかりは静かだった。

そしてS先生が口を開いた。


「多くのことは言いません。きっとこの一年で、僕も皆も、たくさんのことを教えて、教えられて来たから。」


4月は教室に入ってくるや否やあんなにベラベラ喋り倒していたS先生が、こんなこと言うなんて。何かぐっとくるものがあった。


「だから…」


なんだろう。最後にかっこいい一言でもあるのだろうか。期待に胸が膨らんだ。



「歌を歌います。…聴いて下さい、山崎まさよしさんで…"振り向かない"」



…??


…??????


…!?!?!?!?!?!?


教室を包み込む静寂。何が起こったか誰しもが理解できなかった。
そしてS先生はあろうことか、教卓に座って、アカペラで歌い始めた。




「君の気持ちが揺れたのはごく自然なことなのさ…♬」




…当たり前である。


しかしこれは動揺だ。動揺で皆の気持ちが揺れているのだ。
そしてクラスの皆が思った。



はやく終われ…。



ついさっきまで、あんなに終わってほしくないと思っていたのに。涙が滲みかけた瞳は今やサラサラの砂漠と化していた。そこからは正直もう何も覚えていない。気付けば曲は最後のワンフレーズだった。


「~確かに歩き出すよ…Mm…」


終わったのか…?これは…?今のはなんだったんだ…?拍手、拍手か…?ここは拍手か、そうだな、拍手だな!!!!!


という無言の一体感が教室中を包み、我々は盛大な拍手をS先生に送った。S先生は照れくさそうに笑いながら、「やめろよ~~!」とか言っていた。もう逆に許せる。マジ推せる。



そんなこんなで私たちは、小学校を卒業した。勿論、そのあとS先生には二度と会っていない。
そしてほんのちょっと前、親友のRちゃんと飲んでいたとき、このS先生の話題になった。


「S先生ってさ、今なにしてんだろうね、まだあそこの小学校にいるのかな」


するとRちゃんは言った。


「あれ、言ってなかったっけ?私たちが卒業した次の年かなんかに、できちゃった結婚して、あの小学校辞めたって噂だよ」

「え」


「ほら、もう一人S先生と同じ時に入って来た若くて可愛い先生いたじゃん、あの先生と」




何が花鳥風月だ…




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