炊きたてのご飯を茶碗に盛り、一かけらのバターを乗せ、お好みで醤油をかける。全体を包み込むようにしながら箸でゆっくりと混ぜていると、バターと醤油の香ばしい香りが、ご飯の湯気に乗って漂ってくる。

全体が上手く馴染んだところで、食べる。美味い、実に美味い。私はグルメリポーターではないから上手く言葉では言い表せないが、なんというか、一度食べたら忘れられない味なのである。甘いのかしょっぱいのか、和風なのか洋風なのか、よくわからないこのどっちつかずな感じが、なぜか絶妙なバランスで成り立っていて、実に美味いのである。

我が家ではこの絶品を、「バタゴー」と呼んでいる。世間では「バター醤油かけご飯」などと呼ばれているらしいが、我が家では、そんな長ったらしい名前では一度も呼ばれた事がない。少なくとも私が物心ついた時には、「バタゴー」と呼ばれていた。

バタゴー」の名付け親である母に、なぜそう呼ぶことにしたのか聞いてみると、

「リモートコントローラーよりリモコンの方が言いやすいでしょ。どこのお家もそう呼んでいるわよきっと。」

と誇らしげに答えてくれた。


試しにグーグルで「バタゴー」で検索してみると、二件しかヒットしなかった。ちなみに、二件とも「バタゴー」とは全く関係のないサイトだったのは言うまでもない。


とにかく、「バタゴー」は、我が家では愛称が定着してしまうほどの大人気メニューなのである。子供でも簡単に作れる手軽さから、学校から帰ったあとのおやつの定番として、小学校の頃は私もよく食べていた。スナック菓子よりもマシだと思ったのであろう、父も母も、「バタゴー」だけは、いくら食べても怒らなかった。

しかし、仮にもバターとご飯である。太らないわけがない。


気づけば私は小学校6年生にして、身長139センチにも関わらず体重49キロ、体脂肪率約40パーセントの超肥満児になっていたのである。


になって冷静に思い返すと、朝、昼、晩の三食は人並みにしか食べていなかったし、スナック菓子も滅多に食べなかった。暇さえあれば外で友達と走り回っていた私をここ まで肥大化させた犯人は、間違いなく「バタゴー」だったのである。しかしそんな私も、思春期になり自分の体系を気にし始めると、「バタゴー」を口にする機会はだんだん減っていった。最近では、半年に一度食べれば良い方、というような感じである。




先日、妙に小腹が空いたので、久々に「バタゴー」を食べた。バターと醤油の香ばしい香り、油分で光り輝く米粒たち。食べた瞬間、「これだ」と思った。私の小腹が欲していたものは、「バタゴー」だと。



に食べると、やっぱり美味い、絶品である。あっという間に一杯目を食べきり、さぁおかわりをしようかと思い炊飯器に手を伸ばした時に、思いとどまった。もう肥大化は御免である。名残惜しさと懐かしさを感じながら、泣く泣く、そっと炊飯器のふたを閉めたのであった。