日付が変わって昨日8月1日は、福島県は猪苗代湖を目の前に、「オハラ☆ブレイク」というフェスに参加させていただいた。温かいスタッフの方々や素晴らしい出演者の方々、地の物の食事は勿論、ロケーションがとにかく最高だった。雲一つない空、きらきらの湖、連なる山々、生い茂る花や緑、カゲロウ…まさに花鳥風月、自然の景物の美しさに、心を洗われた。

花鳥風月と言えば、一つ思い出すことがある。

遡ること12年前、小学校6年生の時の話である。生意気の盛りの12歳が30名ほど集まった新学期の教室に、若い教師がやってきた。背丈は170cm弱、昔スポーツをやっていたのであろう中マッチョな健康体には、短髪がよく似合う。顔は映画「ロードオブザリング」で主人公フロドを演じたイライジャ・ウッドにそっくりだった。手早く荷物を作業机に置き、教卓に出席簿をドンと置いた彼は、黒板にチョークを走らせ、名前を書きながらこう言った。

「えーっと、ね、今日からこのクラスを一年間担任します、Sです。よろしくね!」

爽やかすぎる彼の挨拶に、生意気盛りのしけきった生徒たちは「よろしくお願いしま~す…」とだらしない返事をすることしかできなかった。

彼のことは知っていた。確か今年が教師になって二年目で、一年目は低学年のクラスの担任だったのだが、その爽やかなルックスで保護者のお母様方にとにかく大人気で、異例の大抜擢で今回小学校6年生のクラスの担任になったのである。

「いやいやいや、なんつーかさ、あれだよ?わかるわかる!今まで皆を見てくれていたほかの先生たちに比べて俺は年齢も若いし、なんだこいつと思うでしょ?でも逆に考えれば年齢が近いぶんだけ皆の気持ちもわかるしさ。今までの先生とは、ちょっと違うかもしんないけどさ。ていうかあれでしょ、普通先生って自分のこと俺とか言わないでしょ?笑 まぁそんなわけで…」


秒速だった。直感だった。すぐに私は確信した。


やべぇ…苦手だ…


急いで親友のRちゃんの方を見た。彼女も私を見ていた。頷いている。
そして彼女の口が動いた。

「ガ ン バ ロ ウ」

私もゆっくりと頷いた。

彼はその間も喋り続けていた。学生時代はラグビーをやっていたこと、スーツの色はグレーの方が若々しく見えるからいいんだってこと、あとまぁ全然覚えてないけど多分どうでもいいこと。
そうこうしているうちに、皆彼の話に飽きはじめて、各々こそこそと喋り始めた。一人が二人になり、二人が三人になり…みるみる間にクラス中が騒がしくなった。次の瞬間である。




バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!



ざわめく木々達の元に突然落ちた雷鳴のごとく、その音は響き渡った。
S先生が、教卓を叩いたのである。思わずシンとする教室。
そして彼は言った。


「おい、お前ら…


なめんなよ?


めっちゃキメ顔で、こちらを見ている。両の手を教卓につき、前のめりの体勢で、斜め下から睨みつけながら、クラスの一人一人の顔を確認するように眺め回している。お調子者の男子は、ニヤニヤするのをこらえながらも少しビビった様子で、S先生を見ている。反対にクラスのマドンナは、目をハートにして彼を見つめている。私はRちゃんの方をチラリと見た。親友の彼女はどうだろうか。すると、彼女もこちらに気付いたようで、また小さく口を動かしてきた。


「…ッズオー」

なんだろうか。首を少しだけ傾けると、もっとわかりやすく口を動かしてくれた。

「キ ッ ズ ウ ォ ー … 」

皆さんはご存知だろうか。その昔、井上真央さんが子役時代に主演されていた昼ドラ、「キッズウォー」を。井上真央さん演じる主人公茜は、派手な髪型にルーズソックス、男勝りで口は悪いけど、人一倍正義感が強く、理不尽なことがあるとどんな不利な状況だろうと果敢に立ち向かうとてもかっこいい女の子だった。その決め台詞が、「ざけんなよ?」だったのである。そして茜はいつも教室の自分の机を蹴っ倒していた。マジか、茜の真似なのか。しかも「ざけんなよ?」を「なめんなよ?」に、「机を蹴る」を「机を叩く」にマイナーチェンジしたのか。だとしたら、だとしたら。


だ、だせぇ…


吹き出しそうになるのをこらえながら、必死で前を見据えた。S先生は、まだ教室を眺め回している。なんとか目をそらさねばと視線をずらすと、その先には先生用の作業机があった。そして私は発見してしまった。



意味わかんないくらいでかいアラビックヤマトを。






(左端が通常サイズ、私が発見したのは右端)





…限界だった。もう無理だった。


「んふっ」


思わず笑い声が溢れてしまった。そしてS先生が言った。


「どうした?なんかおかしいか?」

まさか、「アラビックヤマトがでかすぎて」笑ったなんてこの空気の中で言えるはずもなく、気の小さい私は弱々しく、「え、いや…すみません…」ということしかできなかった。

ほどなくして、その場はおさまり、皆の入る委員会を決めることになった。
放送委員会、飼育委員会など、様々な委員会がある中で、最も不人気なのが、運営委員会だった。委員会の中では一番偉いのだが、放課後に残って作業をしたり、議事録を書いたり、各行事で皆の前で挨拶をしたりする機会も多く、割とめんどくさいやつである。勿論誰も立候補なんてしなかった。しかし、決まるまでは他の委員会は決められないとS先生が言う。運営委員会は、基本毎週火曜日と木曜日の放課後に集会があるということで、S先生は、席順に、生徒一人一人に火曜日と木曜日の予定を聞き始めた。

「ピアノの稽古です」「塾です」「ECCです」なかには、「二年前からずっと飼育委員会がやりたかったんです」という子もいた。皆うまいこと理由をつけて、さらりとかわしていった。勿論言葉につまっている子も何人かいたが、人前で話すのが苦手そうなおとなしい子には、S先生もそこまでつっこまなかった。

いよいよ私の番がきた。

「塾です!!」

きまった。これで私の番は終わりだ。心底ホッとした。

そして次の子、その次の子…と教室を一周したが、結局「じゃあやりますよ」という子は現れなかった。そしてなぜか、二周目に入ったその瞬間である。

「花」

耳を疑った。今私の名前を呼んだのか?動揺した。

「花、木曜日なんだっけ?」

「…ピアノです!!」


「あれ、さっき塾って言ってなかったけ?」



…おわった。



そして私は運営員会に決まった。さらにその中でも運営委員長を務めることになった。(じゃんけんで負けたのだ)楽しかったけど。


そんな最悪の幕開けではじまったS先生との一年間は、かなり強烈だった。その中でも色濃く覚えているのが、花鳥風月である。

体育の時間になると、決まってS先生はお決まりのファッションに身を包んだ。日差しの強い真夏だろうが、日差しも別に強くない真冬だろうが、決まってキャップを後ろ向きにかぶって登場するのだった。そして、いつも「花鳥風月」とプリントされたTシャツを着ていた。これがでかでかとプリントされていても結構ツボなのだが、もう意味わかんないくらいちっちゃく胸元にプリントされているのだった。ラコステのワニ、四匹分くらい…とまではいかないかもしれないが、気持ち的にはそれくらいの感じだった。それが私はめちゃめちゃツボだった。だってアラビックヤマトはめっちゃでかいのに…と思うと、もうだめだった。もはや逆に可愛い。むしろ推せる。


はじめの印象こそ最悪だったが、S先生はS先生なりに一生懸命な人だった。若くして6年生の担任を任され、きっとプレッシャーもあっただろう。生徒と年齢が近いから、偉そうにせずに友達になるつもりで頑張ろうとしてくれていたんだろう。運営委員会を決めるときも、なんとなく私のキャラを見抜いていたのだと思う。実際、S先生はあのあとから私のことを凄くおもしろがってくれて、こんな生意気で抜けてる私のことを可愛がってくれていた。そんなことで、たまに空回りしちゃうこともあるけど、根は熱くていい人なんだと私もクラスの皆も、少しずつわかっていった。

そして月日はあっという間に流れ、卒業式の日。

卒業証書の授与も終え、皆小綺麗な服に身を包み、席についていた。
あとは先生からの言葉と、「起立、礼、さようなら」だけである。私たちは、いよいよ小学校を卒業する。あんなに毎日、早く終われと思っていた学校が終わるのが、どうしようもなく寂しかった。ずっと終わって欲しくないと思った。はじめてS先生に会った日、うるさくしていたクラスの皆も、今日ばかりは静かだった。

そしてS先生が口を開いた。


「多くのことは言いません。きっとこの一年で、僕も皆も、たくさんのことを教えて、教えられて来たから。」


4月は教室に入ってくるや否やあんなにベラベラ喋り倒していたS先生が、こんなこと言うなんて。何かぐっとくるものがあった。


「だから…」


なんだろう。最後にかっこいい一言でもあるのだろうか。期待に胸が膨らんだ。



「歌を歌います。…聴いて下さい、山崎まさよしさんで…"振り向かない"」



…??


…??????


…!?!?!?!?!?!?


教室を包み込む静寂。何が起こったか誰しもが理解できなかった。
そしてS先生はあろうことか、教卓に座って、アカペラで歌い始めた。




「君の気持ちが揺れたのはごく自然なことなのさ…♬」




…当たり前である。


しかしこれは動揺だ。動揺で皆の気持ちが揺れているのだ。
そしてクラスの皆が思った。



はやく終われ…。



ついさっきまで、あんなに終わってほしくないと思っていたのに。涙が滲みかけた瞳は今やサラサラの砂漠と化していた。そこからは正直もう何も覚えていない。気付けば曲は最後のワンフレーズだった。


「~確かに歩き出すよ…Mm…」


終わったのか…?これは…?今のはなんだったんだ…?拍手、拍手か…?ここは拍手か、そうだな、拍手だな!!!!!


という無言の一体感が教室中を包み、我々は盛大な拍手をS先生に送った。S先生は照れくさそうに笑いながら、「やめろよ~~!」とか言っていた。もう逆に許せる。マジ推せる。



そんなこんなで私たちは、小学校を卒業した。勿論、そのあとS先生には二度と会っていない。
そしてほんのちょっと前、親友のRちゃんと飲んでいたとき、このS先生の話題になった。


「S先生ってさ、今なにしてんだろうね、まだあそこの小学校にいるのかな」


するとRちゃんは言った。


「あれ、言ってなかったっけ?私たちが卒業した次の年かなんかに、できちゃった結婚して、あの小学校辞めたって噂だよ」

「え」


「ほら、もう一人S先生と同じ時に入って来た若くて可愛い先生いたじゃん、あの先生と」




何が花鳥風月だ…




暑い。暑すぎる。

夏は苦手である。
ちょっと動いただけで汗が吹き出る。風呂に何度入っても足りない。
日焼け止めも嫌いだ。全身毛穴をセメントで固められたような気分になる。
かといって肌の露出を控えた服を着れば、やはり暑い。もうどうしようもない。

もちろん良いこともある。
ビールが美味い。四季の中で間違いなく、夏に飲むビールが一番美味い。
アイスクリームを食べる言い訳ができる。毎日食べてもあまり罪悪感がない。

そんなわけで夏は最大の敵であり最大の味方なのである。
「夏休み」なんてまさにその象徴である。

そんな夏休み、学生の頃はとにかく怖かった。
夏休みに入れば、毎日顔を合わせている友達としばらく顔を合わせなくなる。
ただそれだけで、毎年毎年、得も言われぬ不安に襲われた。
夏休みは長い。一か月半くらいある。子どもにとっての一か月半は、とてつもなく長い。
寂しいからとか、宿題をやらなきゃとか、そんな不安ではない。
あいつもしかしたら、今頃自主練をしているかもしれない。夏休み明けには部活のレギュラーの座をあいつにとられているかもしれない。
あの子もしかしたら、毎日食事制限を頑張っているかもしれない。夏休み明けには、ぽっちゃり同盟からあの子は抜けているかもしれない。

とにかく、夏休みの間に誰かと差がついてしまうのが怖かったのだ。

ならば自分も何か頑張ればいいのだが、夏休みという不思議な時間の中で、ただぼんやりと毎日を過ごすことはあまりにも心地よく、だらだらすることも、親に甘えることも、なんだか少し許されてしまう気がして、私はいつだって、何も頑張らなかった。
しかし、何かしらの小さい後悔はその都度あっても、今になってまで「あの夏、こうしておけば」と感じることはそんなにない。よくわからないけど、縁側で鼻くそをほじくりながら蟻の行列を眺めていたあの時間は、それはそれで美しく、他の人にはない、実に私らしい貴重な夏休みの思い出なのである。しかし、ひとつだけ後悔していることがある。


恋だ。もっと恋をしておけばよかった。


浴衣を着る喜びよりもめんどくささが勝ってしまう前に、花火の美しささえ人ごみの前では何の魅力も感じなくなる前に、金魚すくいですくった金魚なんて大体その夏のうちに死ぬってことに気づく前に。恋をしておけばよかった。
夏はすべてをまぶしくさせる。若ければ、なお一層だ。ガラス玉の瞳で、万華鏡の世界を覗くことができるのだ。

今でもたまに、ガラス玉の瞳をした人に出会うことがある。無菌室でずっときれいな夢だけを見ていたような、そんな瞳だ。そんな瞳をしている人に、私は憧れる。目が離せなくなる。
そしてそういう人は大抵、似たような雰囲気を持っている。これからも何度だって会えそうなのに、明日には死んじゃいそうな、不思議な雰囲気である。
そんな人に出会うと、男の子とか女の子とか関係なく、ただただ美しいなぁと思う。あぁ、夏休みみたいな人だなぁ、と思う。なんだか無性に泣けてきたりする。

そして思うのである。あの時、まだ自分がガラス玉の瞳をしていたあの時に、もっと恋をしておけばよかったなぁ、と。もちろん、何もなかったわけではないけれど、もっとしておけばよかった。「夏休み」にもっと恋をしておけばよかった、そう思うのである。




恋がしたい、恋がしたいと思ってまた一年が経った。
今年も夏が来たのである。

今からでも間に合うと良いのだが。





















2015.09.02 release
1st full album
「黄金の海であの子に逢えたなら」


CD詳細やツアー日程、その他リリースまわりの情報はスペシャルサイト にて。



前作「いざ行かん」から1年半、色んなことがあったけど、
皆さんのおかげでまた新しいアルバムを出せることになりました。
大好きな人たちと作った、大傑作です。本当に沢山の人に聴いて欲しいです。

積もり募る話は沢山あるけれど、とりあえずはご報告まで。




飛んでけ!









今日は朝っぱらからバタバタしてしまった。
というのも、21:30からの打ち合わせの予定を、なぜか9:30からだと勘違いしてしまったからである。

8:50起床、猛スピードで準備をして、駅まで自転車で大爆走、急行電車にかけこんだ後、9:30頃無事に渋谷へ到着。待ち合わせ場所を確認しようとスケジュール帳を見ると、「21:30に渋谷の◯◯で打ち合わせ」の文字。やってしまった。もう少し寝ていたかった気もしたが、早起きは三文の得と言うことで、お洒落にブレイクファーストなんかもありでしょうよ、ということでどこかに入ることにした。

渋谷なんて、探せばいくらでもお洒落なカフェなんてあるだろうに、ここで朝っぱらから私の「めんどくさい病」が発動した。駅の通路から下を見渡せば、既に凄い人である。そして強い日差し。しかもランチならまだしも、よく考えたらこんな時間からやっているカフェは駅中しかないだろう、という言い訳と発想で、結局どこにでもあるスターバックスコーヒーで済ますことにした。

それでも、本でも読みながらお洒落にサンドイッチとアイスコーヒーなんて良いじゃないの、なんて考えながら席につくこと約10分。


完食、完飲、あろうことか持って来ていた本も読了。


せめて11時まではここで時間をつぶそうと思っていたのだが、これではどうも居心地が悪い。ということで、そこまで欲してはいなかったものの、アイスコーヒーを再び注文し、(スタバはその日中なら二杯目は100円で飲めるのだ)今度は慎重に飲むことにした。

本も読み終わってしまったので、なんとなくiphoneをいじってみたりした。しかし特にやることもない。無駄にshazamを起動して、店内に流れている曲が何か調べてみることにした。しかし起動した時に流れていたのはBell and Sebastianの知っている曲だった。あまり意味がない。それでも他にやることもなかったので、一応検索、やはりすぐに曲がヒットした。するとなんだか、shazamがドヤ顔で「ほら、お前の知りたいもん、これやろ、調べたったで、よかったな、ほなitunesで買いや!ほれ!買いや!」と言ってきている気がして、食い気味でアプリを終了させた。残り2cmくらいアイスコーヒーを残したところで、最後の手段、睡眠作戦をとることにした。目が覚めると10:50、上出来である。

11:00になれば大体の店が開店しはじめるはずである。さてどこに向かおうか。
本屋にしようか、ファッションビルにしようか、はたまたお洒落カフェでも開拓しようか。さんざん迷った挙げ句、というのは大嘘で、即決でブックオフで向かった。 

というのも、つい数日前、久々に大学時代の後輩の女の子とご飯を食べた時のことである。
下北沢で待ち合わせをして、二人でタイ料理を食べに行った。

「女が二人集まるとすぐタイ料理行きたがる」「あと近場の海外旅行の話な、タイとか台湾とか韓国とかな」「それな」

なんて話をしながらとても楽しい時間を過ごした。20:00くらいから23:00くらいまであれやこれや話しながらご飯を食べて、まだなんとなく帰りたくなかったので、ビレバンに行くことにした。下北沢はリハーサルなどでよく行くが、ビレバンは一人ではあまり行かないので、久々だった。最近の流行を目の辺りにし、おろおろとする一方、面白いものもたくさんあった。漫画のコーナーに行くと、見たことのない漫画が沢山あった。

私は実は漫画をほとんど読んだことがない。
家にある漫画は、ちばあきお先生の「キャプテン」とその続編の「プレイボール」だけである。(これは私の人生の教科書といっても過言ではない。ちなみに意外と丸井が好きだったりする。)

少女漫画に関しては今までの人生で読了したことがあるのは、森ガール時代にハマった「ハチミツとクローバー」のみである。(もはや森ガールの理想男子のテンプレ、眼鏡パーマの真山が当時大好きだった。ちなみに実写版は加瀬亮さんだった。あっぱれですな。)

しかしその日ビレバンで、「花ちゃん、絶対「こじこじ」好きだからマジで読んだ方がいい、絶対好きだから!」と後輩に勧められて、はじめて漫画を大人買いした。(といっても4巻だけだけど)結果約一日で読了し、「こんなに面白い漫画を私は知らなかったというのか…」と大後悔したのであった。こじこじ様様である。


そんなわけで、漫画への探究心が今までにないくらいふつふつとしていた関取は、ブックオフのコミックフロアに直行した。しかし、漫画を買いにいったことがないので、探し方さえわからないのである。まず、出版社ごとに分かれていたり、愛蔵版は違うところにまとまっていたり、もう何がなんだかわからないのである。
普通の本を探す時は、目当ての作者の名前か、もしくはジャンルで探せば良い。しかし、特に「この漫画が欲しい」というわけではなく、「何か面白そうなのないかな」という軽い気持ちでコミックジャングルに単身乗り込んだ私がそもそもの間違いだった。しかもこれはブックオフあるあるなのかなんなのか、コミックフロアにいる人達の手つきというか探し方がもはやプロっぽいのである。コミックディグりの猛者とでも言おうか。

とりあえず、これまで読んだことのないジャンルのものを読もうと思い、青春トキメキ☆ドキドキクロニクルな感じの少女漫画を買おうと思った。学生時代、よく友人達が言っていたことを思い出したのだ。


「少女漫画は、ときめきとは何かを教えてくれる」


なるほど、言い得て妙である。
そこで私は、恥ずかしさをグッとこらえ、店員さんに尋ねることにした。


「…君に届けはどこですか」


店員さんに案内されて、コミックジャングルをかき分けて進んだ。すると、聞いたことのあるタイトルの少女漫画がずらりと並んでいた。そしてなぜかそれらの表紙を見ていくと、その度に私の頭の中には「福士蒼汰」という文字が頭をよぎるのであった。もうなんというかどれを見ても「福士蒼汰」だったので、どれから買っていいかわからなかった私は、少し試し読みをして、ハマりそうなものを一巻だけ買って帰ろうと思った。

どれ、と一冊手をかけてみると、それにはビニールでカバーがされていて、中を開けることができなかった。お、たまたまか…と他のものに手をかけてみるも、やはりどれもビニールカバーがされていて、私は「福士蒼汰」をちっとも味わうことができなかった。(売れ筋商品にはビニールカバーがされているらしい)

立ち読みできる漫画も中にはあったが、少女漫画超初心者の私は、入門書はどうしても外したくなかった。どうしても、世間の皆がこぞってときめくそれを買いたかった。

試しに一巻、「君に届け」だけ買ってみようか迷ったのだが、財布を見るとあいにく手持ちがなく、買うにはお金をおろしにいかなければならなかった。そこでいつものめんどくさい病である。そこまでするのはめんどくさいと思ってしまったのだ。まあ、今日のところは君に届かなかったってことで、退散することにした。

そして結局本のフロアに行き、大好きな椎名誠の本(
福士蒼汰」感ゼロ)を一冊だけ買った。ブックオフを出ると、ビルの隙間に見える空は青かった。心地よい風も吹いていた。目の前をお似合いのカップルが通り過ぎた。そして私は咄嗟に思った。



「嗚呼、ビールが飲みたい」




そして気づいた。







「このまま少女漫画を読まないでいたら、私は大変なことになる」と。










しかし結果、お金をおろすのはめんどくさいという理由と、早く家に帰りたいという思いが先行し、今は自宅に一旦帰ってこのブログをあぐらをかきながら書いている次第である。
目の前にある本棚で、「新宿遊牧民」の背表紙が、こちらを見てにへらと笑っている、そんな昼下がり。





























私は今日、赤坂でランチをした。
野暮用があり、ちょうど青山~赤坂エリアにいた私は、せっかくだから「昼飯」ではなく、「ランチ」がしたい、そう思ったのである。

赤坂と言えば、TBSや赤坂BLITSは勿論のこと、イケイケな有名起業のオフィスが連なる、高級ビジネス街である。ちょうど私がランチを食べようと思ってぷらぷらしていたお昼の13時頃は、会社の昼休みと時間が重なってしまったらしく、道行く人はネームプレ―トを首からぶら下げた小綺麗な方々ばかりだった。信号を待っていると、ふんわりとしたブラウスにタイトな膝丈スカートのお姉さんと、パリッとしたシャツにピカピカの革靴のお兄さんが、コーヒーを片手にお仕事の話をしていた。

「クライアントの都合で、フィックスし直さなきゃいけなくなっちゃって…」
「それ、ちゃんと上には伝えたの?」

私が普段聞きもしないような言葉達を、二人は変幻自在に操っていた。なんだかとても格好良かった。日差しが二人の白いブラウスとシャツを照らしていたこともあってか、神々しくさえ見えた。

その横にいる私はと言えば、赤と白のボーダーTシャツに(もう三年以上着ている)、ダボっとした黒いパンツ(自分で裾上げしたのでだいぶ縫い目が荒い)、足下は白いスニーカー(古着)、かばんは例に寄ってペラッペラのエコバッグ(どっかのお店のノベルティ)という姿であった。周りを見渡すと明らかに自分だけこの街から浮いているのがわかった。次第に、妙な情けなさと恥ずかしさに襲われた私は、青信号になると同時に、逃げるように歩道を渡った。
ほんの数分前まで、「今日は天気も良いし、テラス席で一人ゆっくりランチなんてのもいいわね…」などと、幸せなランチタイムを想像し、うきうきしていたというのに。歩道を渡りきる頃には、「とにかく自分がいても浮かない店はないか」、そのことばかり考えていた。



少し歩いていると、見慣れた看板が現れた。実にシンプルなデザインだが、そのオレンジ色はとてもフレンドリーな雰囲気を醸し出していた。「うちはいつだって誰でもウェルカムっすよ」そう言ってくれている気がした。
やっと見つけた安息の地。




そう、はなまるうどんである。




店内に入ると、やはりそれなりに混んでいた。
しかし、先ほどの信号のところにいた二人組のような客は一人もいなかった。そこのはなまるうどんは全席カウンター形式のため、皆壁か仕切りに向かって座っている一人客ばかりだった。店内には、店員さんの威勢の良い声と、うどんをすする音だけが響き渡っていた。ここなら何も気にせずランチを楽しめる。もはや当初想像していたランチとは違うかもしれないが、これでいいのだ。チェーンだろうがうどんだろうがランチはランチである。だってここ赤坂だし。


久しぶりのはなまるうどんにはテンションが上がった。高校生の頃、放課後によく友達と行ったものである。何を注文しようか迷ったが、もう24歳になったし、少し贅沢してもいいだろうということで、温たまぶっかけに鶏天というチョイスに落ち着いた。ご自由にどうぞの揚げ玉としょうがもたっぷり乗せれば、見た目にも鮮やかな、あの頃よりちょっと贅沢なはなまるうどんになった。久しぶりに食べるはなまるうどんはもちろん美味しかった。私は黙々とうどんをすすった。器はあっという間に空になった。


食後に水を飲みながら、ふとまわりを見渡してみた。すると、皆、うどんをすすっている最中は下を向いているが、そのすすったうどんをもぐもぐしている間は、どこでもないどこかをぼんやり見ている人が多いことに気がついた。もちろん、中にはスマホをいじりながらうどんを食べている人もいる。しかし、ほとんどの人が、目の前の壁や仕切りをぼんやり見つめながら、うどんをもぐもぐしていた。いや、よくある光景なのである。何もおかしなことはない。一人でご飯を食べに行くということは、そういうことなのだ。

今でこそ、その光景を当たり前だと思うことができるが、ほんの一年前まで、私はこの光景に違和感を覚えていた。一年前まで実家で暮らしていた私は、基本的には家に帰ってご飯を食べていた。家では家族の誰かがそこにいたし、もしいなくてもテレビがあった。たまに外で食べるときには、必ず友達などと一緒だったので、目の前には必ず誰かの姿があった。その頃、どうしてもお腹が空いて、一人で店に寄ってご飯を食べた時、非常に困惑したのをよく覚えている。




「どこを見て食べれば良いのだろう」




実にちっぽけでくだらないことだし、食事中なんだから何も考えないで、ご飯のことだけ考えればいいんじゃないかと思われるかもしれないが、果たして本当にそうだろうか。片手にどんぶりを持って、片手にお箸を持って、もぐもぐしているときは、当然ながら両手は塞がっていて、本も読めないし、スマホもいじれない。テレビもないし、会話をする人もいない。誰かを観察する?いやいや、そんなのただの変なやつじゃないか。いやはやどうすれば良いのか、全くもってわからなかった。結局いてもたってもいられなくなって、ひたすら下を向いてご飯を食べた。ゆっくりと一人で外食をして帰るつもりが、そわそわして、結果いつもより急いで食べて帰るはめになった。
しかし今日の私は違った。当たり前のようにぼんやりと、目の前の仕切りを見つめたり、どことも言えない店の空間を眺めたりしながら、うどんを食べ終えていた。そして食後、あらためて色んなことを考えた。

一人暮らしをはじめてから、そろそろ一年が経つ。きっと、知らない間に、一人でいることに慣れてきているのだと思った。私の部屋にはテレビがないし、ご飯を食べながら音楽をかけたりもしない。両手がふさがっているので、勿論本も読めないし、スマホもいじれない。だけど毎日、何の違和感もなく、ぼんやりしながらご飯を食べている。特につまらないと感じたこともなければ、むなしいと思ったことも、今のところはない。
しかし、これからそういう時期がくるのかもしれない。家の中でご飯を食べながら、どこを見ていいかわからなくなって、むなしくなる時期も、いつかくるのだと思う。

大学生の頃、一人暮らしをしているある友人の家に、よく泊まりに行っていた。その子は一度アメリカの大学を卒業してから日本の大学に入学してきていたので、親元を離れてから随分と経っていた。頭も良くてアクティブで、楽器も上手だった。ちなみに声の低さや顔立ちがMEGUMIによく似ていた。
特に大学一年生の夏休みは、ほとんどその子の家に泊まっていた。今考えると、一日中ごろごろして、何をするでもなくそこに居座っていた私は、本当にただのしゃべるぬいぐるみみたいなものだったと思う。だけど、その子はいつも「別に全然ええよ」と言ってくれていた。絶対に迷惑なことだってあったはずなのに。

一度、その子に聞いたことがある。
「自分で居座っといてあれなんだけど、どうして毎日他人が家にいて平気なの?」と。(今考えると非常に非常識な自己中そのものである)

その時彼女は、
「え、だって一人でご飯食べたりするのむなしいやん」と答えたのだった。

私は「そっかぁ」とは言ったものの、その意味がよくわかっていなかった。ずっと誰かがいるより、一人の方が気楽でうらやましいのになぁ、と思っていた。今ならほんのちょっとだけ、その言葉の意味がわかるような気がする。



そんな彼女は、年内に結婚するという。
これからは、一人でご飯を食べてむなしいと思うことなんてなくなるのだろう。

こんな言方をしたら大変失礼だが、そこそこの友人というか、同級生が結婚するということは今まであっても、本当の本当の友達が結婚するというのは、彼女がはじめてである。正直、花嫁姿を想像しただけで涙が出そうになる。心の底からめでたいと思う。

今日の私は、彼女の着るであろうしなやかな純白ドレスと、真っ白く伸びるうどんを、知らず知らずのうちに重ね合わせていたのかもしれない。…いや、それは真っ赤な嘘で、今こじつけただけである。しかも全然うまいこと言えていない。失敬。




そして私は、ゆっくり時間をかけて食後の水を飲み終え、はなまるうどんを後にした。
店の外に出ると、お昼休みから会社に戻る人達が早歩きで歩いていた。真っ昼間の日差しは、5月とはいえ熱く、とても眩しかった。良い天気だなぁ、と思った。彼女のことを考えて、柄にもなく空を見上げて歩いてみた。早歩きの人々を横目に、ゆっくりと、一歩一歩、踏みしめるように。





踏みしめるように。




踏みしめるように。










踏み…





あ…







気づくと、踏みしめていた。













…犬の糞である。










なぜ高級ビジネス街に犬の糞が落ちていたのか。そしてなぜ私はそれを引き当てたのか。もうわけがわからない。しかも冒頭の方で述べた今日の私のファッションを思い出して欲しい。白いスニーカーである。白だぞ、白。









「それまで、はなまるな一日だったのに!!」

















ほんの一瞬、うまいこと言えたかな、と思ったんですけどね、全然でしたね。
今日はもうおとなしく寝ます。






















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