私は、根性焼きレンタカーを返却するにあたり

・夕暮れになってくれれば、暗くて座席が見えないのではないか。なるべく飛行機の出発ギリギリに返却しよう

・天気予報は雨だった。雨で暗くて座席が見えづらいのではないか

などの悪巧みをしたが、晴れ女なもので、本日の北海道も快晴で、眩しい程の西日が照り付けていた。
飛行機の出発までに、日が暮れそうにはない。

レンタカー屋に近づけば近づくほど、私は次第に緊張してきた。

空港近くのレンタカー屋のオヤジは、水谷豊風の融通が効かなそうなオヤジであったし、泣き落としが通用しそうになかったからだ。

レンタカー屋に到着すると、水谷は先に返却されたレンタカーの周りを渋い顔でチェックしながら旋回していた。

3日間レンタカーを借りていたが、私の顔は覚えているようで、私に気づくと水谷は「お疲れ様でした。」と言いながらこちらに近づいてきた。

恐れながらダッシュボードに入っていたレンタル書類一覧を返却すると、水谷は車のチェックをしない様子で、

「ありがとうございます。あとは、事務所のほうでレシートをお渡ししますので、どうぞ。」

と事務所に案内しようとする。水谷のメガネに西日が反射し、表情が見えない。
周囲から聞こえる、コオロギの鳴き声が私の心拍数をどんどん上げていく。

言うても、根っからの正直者+小動物な私は、いざ面と向かうと知らん振りができず、水谷に伝えた。

私「あああああの、あのですね、事故はね、もちろん起こしてないんですけど。1つだけ、やってしまいましたよ。」

ビビリなので、ストレートに言わず、クイズ風にワンクッションかまして水谷の表情をうかがう私。

水谷「…なんですって?どうしました?」

水谷はカッと目を見開く。

私「ああああああのあのあのですね、たたたたたたたタバコをですね、吸っていましたらね、車のシートに火種をね、おおおおおと、おと、おと、落としてしまいました、ここです、ここ、本当ににすすすすすすすみません」

水谷「…うわぁ〜〜〜〜」

水谷は、渋い顔のまま、粘土で埋めた穴をこすったり、爪で引っかいたりしている。

(おい、やめろ!粘土が取れて、穴が見えるじゃないか!!)

粘土はまだ乾いておらず、水谷が爪で引っかくほど、ポロポロと?がれて行く。

水谷は、まさか思いの他デカい穴を隠蔽するため、100円均一の紙粘土がはまっているなんて、到底思いもしない表情である。

剥がれ落ちた粘土を、タバコの灰やコゲと間違って解釈した様子で、ジッと見つめたり、匂いをかんだりしている。

(へぇ〜、シートって焦がすとこんなになるんだなぁ)

と言う表情である。

水谷は、そのまま腕を組み、しばらくシートの穴を見つめ続けたが、ゆっくりと口を開いた。





水谷「まぁ、いいですよ。結構です。」

私「あ、あ、あ、あ、あ、ありがとうございます:(;゙゚'ω゚'):!!」






私「今度から気をつけます!この度は本当にすみませんでした!」

私は、水谷の気が代わらないうちに、G先生の車に飛び乗る。

G先生は、レンタカーから自分の車に、私の荷物を既に積み替えてくれていた。

水谷が余計に穴をほじって、

「なんだコレ!!オイ!!たいした穴じゃないと思ったら、粘土で埋めてあるだけじゃないか!!あのアマ!!」

とならないうちに、私は水谷からレシートをひったくって、光の速さでG先生の車に飛び込み、我々は逃げた!!

G先生「観光客が慣れない道を走るんだから、小さい事故やキズなんて日常茶飯事だろうし、そこまで悪徳な金額を吹っかけては来ないと思ったが、まさか0円で済むとは…考えられない。
俺は些細なことでも、すぐ人に怒られる体質だが…本当に君は何でも許されるタイプだな(´・ω・`)」

私「うん、私も自分が割と何をやっても許されるタイプなのを自覚しているが、今回は正直ダメだと思った(´・ω・`)助かった」

G先生「実に運がいい。あそこの事務所の所長っぽい、水谷がたまたま担当だったのも、原因だろう。これが若手社員だったら、自分に判断する権限がないから、オマケしてくれなかったかも解らん」

私「そうだね(´・ω・`)そうだね、いい旅行になった(´・ω・`)よかった」

G先生「俺の粘土の技術が、まさか人助けになるとまでは思わなかった」

私「そうだね、粘土があってよかった!」

G先生「粘土があってよかった!」

2人「ァ '`,、'`,、('∀`) '`,、'`,、ァ '`,、'`,、('∀`) '`,、'`,、ァ '`,、'`,、('∀`) '`,、'`,、…」

こうしてシオンは北海道の夜空に消えていった。

〜北の国から '12 レンタカーの傷〜 完