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がんの専門家として何千件も症例を診てきた医師が、何の因果か、同じ病に倒れることもある。

そんなとき、彼らはどのような医者に診てほしいと考えるのか。トップドクターが選ぶ究極の名医リスト。

■「神の手」よりも大切なこと


がんは、できる部位によって治療法も千差万別である。


食道は、解剖学的に手術が難しい部位。

喉から始まり、胸の中を通って腹に行きつく。

心臓、大動脈、気管といった命にかかわる臓器が詰まっているところを通るので、手術は慎重に慎重を期す必要がある。


食道がんの鏡視下手術(開腹しないで行う手術)で日本トップの症例数を誇るがん研有明病院の渡邊雅之氏が語る。


「群馬大学の桑野博行教授は、基礎研究から臨床まで非常に豊富な知識を持っている専門家です。

鏡視下手術、低侵襲がん治療、分子生物学的診断など、最先端技術を導入して診察している。


他には、大阪大学の土岐祐一郎教授。周囲の臓器に浸潤して、他の施設では根治治療をあきらめるような高度進行がんにも果敢に挑みます」


胃がんについては、内視鏡手術に秀でていることで知られる慈恵医大の炭山和毅教授が語る。


「胃がん治療は、日本が世界に比べて大きくリードしている分野です。

例えば、胃がんの5年生存率はヨーロッパの先進国やアメリカでは20%台ですが、日本では70%。この数字は、バリウムと内視鏡による早期発見が決め手になっています。


胃がん治療については、日本の医師の技術は平均的に高く、海外に比べ、医師の技術的な差による治療成績への影響は比較的少ないと期待できます。


ですから外科手術だけがうまい医師よりも、チームで診るサポート体制がしっかりしている医師が患者にとっての『名医』の条件になるでしょう。

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例えば、がん研有明病院の佐野武先生。

胃がん手術のエキスパートであるのはもちろんのこと、がん治療のチームが病院内にそろっているので、内視鏡や放射線、化学療法などの治療のオプションも多いと思います。


一方、内視鏡手術では静岡がんセンターの小野裕之先生。従来の内視鏡手術では取りきれなかったサイズの病変を粘膜下層から切除できるESDという技術の開発に携わってきた人です」


肺がん手術のスペシャリストである順天堂医院の鈴木健司教授は、「がん患者はつねに『勝ち戦』を望んでいる」と語る。


「だから、私たち医師はとにかく『勝ち戦』を考えることが重要です。

例えば、放射線療法や化学療法を行っても病巣が消失しなかったり、再発したりすることがあります。

そのときに行う手術を『サルベージ手術』といいますが、そのような難しい手術に果敢に挑む医師は『勝ち戦』ができる人です。

例えば、京都大学の伊達洋至先生や広島大学の岡田守人先生は、そういう治療に取り組んでいます。


がん治療にはガイドラインがあって、標準的な治療の指針がありますが、それを踏まえた上で患者の治療を調整する医師も頼りがいがある。

日赤医療センターの國頭英夫先生は、普通だと緩和ケアを勧められるような患者さんに対してもフレキシブルに化学療法を行っています」


がんの治療法をめぐっては、手術にするか、放射線にするか、医師たちによる「綱引き」が行われる場合も多い。


「その点、神奈川県立がんセンターの放射線科医、中山優子先生は、『手術が適した症例は手術をお勧めする』というスタンスがはっきりしています。

こうした治療法の見極めも、『勝ち戦』のためにとても大切なことです」(鈴木教授)

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■人間として信頼できる医者


大腸がんは日本人の罹患数(男女合計)が最も多いメジャーながんだ。

都立駒込病院名誉院長で、5000症例以上の手術を行ってきた森武生氏は、どのような医師を薦めるのか。


「常にバランスのとれた手術ができる医師がいい。一ヵ所だけの切除に集中するとか、進行がんなのに周囲を見ていないといった医師は失格です。


その上で、誰を選ぶかといえば、やはり人柄も含めて自分がよく知っている医師がいい。

例えば東京医科歯科大学の安野正道准教授。

安野先生は実家がお寺の方で、患者さんのことをまず第一に考えられる医師。

こういう人は頼りがいがありますね」


がんの中でもとりわけ治療が難しいと言われているのが膵臓がんだ。

肝胆膵がん治療の第一人者として定評のあるがん研有明病院の齋浦明夫氏が語る。


「膵臓がんは非常に見つけにくいがんなんです。先月までバリバリと働いていた人が、健康診断で見つかるというケースが多い」


膵臓がんはこの15年のあいだに1・5倍に増え、罹患者は年間3万人を超えている。

膵臓がんの治療を始めた患者の5年生存率は、全国平均で5%(手術のできる患者、できない患者を合わせた数字)。

手術した場合でも、5年生存率は20~30%と極めて低い。

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「肝胆膵外科は治療をあきらめずに頑張る姿勢が大切です。患者のためにやれることはともかくやってみる、という姿勢です。

防衛医科大学の山本順司先生はまさにそういうタイプですね。


御身内を乳がんで亡くされていますが、亡くなられた当日も、気丈に予定通り手術をこなされた。

どこか命に対して達観したところをお持ちです。医師としての技量はもちろん、人間的にも信頼、尊敬できる先生です。


手術ができない患者には、内科的な治療も大切です。

肝胆膵の分野は大腸や胃、乳がんと違い、エビデンス(臨床試験、検証結果などの科学的根拠)が示しにくい分野ですので、患者さんにどのような治療が適切か思い浮かべ、そこに論文のデータをあてはめていくという作業が必要になる。

東大病院の伊佐山浩通先生は、そういう難しい治療のできる数少ない医師の一人だと思います」(齋浦氏)


前立腺がんは、排尿機能や性機能にかかわる病気なので、男性にとってとりわけデリケートな問題を含むがんだ。

「どのような治療を望むのか、きちんと患者と話ができる医師が理想です」と語るのは、前立腺がんの治療で定評がある慶應義塾大学の大家基嗣教授だ。


「前立腺がんというのは、とりあえず経過を見るPSA監視療法、外科手術、放射線治療、さらにホルモン療法もある。

ですから、もし自分が前立腺がんになったとすると、まず考えるのは治療法です。 

広い視野を持って意見を言ってくれる先生がいいですね。


順天堂大学の堀江重郎教授はがんの専門家であるだけでなく、アンチエイジングや男性更年期など、男性のホルモンについても詳しい方です。

そして実際に手術が必要になったら、東京医科大学病院の吉岡邦彦君に頼みたい。彼は私の慶應時代の同級生で、ロボット手術の第一人者です。

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もし放射線治療が必要となったら、群馬大学の鈴木和浩教授に相談します。

放射線治療には放射線を出すチップを体内に埋め込む『小線源治療』や外から放射線を当てる『外照射』がありますが、群馬大では高度先進医療の『重粒子線治療』も受けられます」


■患者の気力を引き出せる力


喉や口腔にできた頭頸部がんは、皮膚が薄く、血管も細いので手術が大変だ。1cm余分に切るかどうかで、どれくらいの食事が可能か、どれくらい会話機能が温存できるかが変わってくる。

当然、技術力も問われるが、声や外見に関わる問題も生じるので、医師の人柄が問われる。国立がん研究センター中央病院の松本文彦氏が語る。


「がん研有明病院の川端一嘉先生は、素晴らしいお人柄です。

以前、同じ職場にいたとき、先生が外出して予定よりずいぶん遅れて帰ってこられた。

どうされたのですか、と尋ねると『患者さんの家に寄って様子を見てきた』というんです。

大病院の名医といわれる人が、まるで近所のホームドクターのように働いている。


それでいて手術現場では百戦錬磨ですから、いつもどんと構えている。

どんなに想定外のことが起きても、おろおろしているところなど見たことがありません」


手術など治療の方法が見つからないときに、最後に行きつくのが緩和ケアだ。この分野の第一人者、NTT東日本関東病院の堀夏樹氏が語る。


「緩和ケアは、単に治療手段がないから看取るということではないと思います。

体力や気力が低下している患者さんの潜在能力を引き出して、『がんが治った気がする』というほど患者さんが元気になり、自宅に戻ることを後押しするのが私たちの仕事なのです。


その意味で、リハビリはとても大切です。

私と同じ病院にいる稲川利光先生は、その道の専門家。リハビリ前は寝たきり状態が続いていた患者さんが歩けるようになった事例もあります」


「がん哲学外来」の開設者として患者の心の問題に取り組んできた順天堂大学の樋野興夫教授は、「医者には二つの使命がある」と語る。


「最先端の医療を学んで病気を直接治療することと、人間的責任で患者さんに手を差し伸べるということの二点です。

島根大学の礒部威先生や福井県済生会病院の宗本義則先生は、それぞれの専門分野に秀でながらも、『がん哲学外来』の考えを取り入れて、患者と親身の対話ができる医師たちですね。


これまでの医者が患者を診る態度は『馬の上から花を眺める』ようなものでした。

これからは馬から降りて、患者と同じ目線に立てる医者が求められると思います」


がんとの戦いに勝つために、最も重要なのは一緒に戦ってくれるパートナー。

名医たちが医者を選ぶ基準は、もちろんすべての患者に当てはまるものだ。



「週刊現代」2016年3月26日・4月2日合併号より
(引用終わり)