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アパッチが終わる頃には日付をすでに超えていて、皆でご飯を食べたあとはすぐに眠りにつく者、少しお酒を飲む者と思い思いに過ごした。

私はさっきの興奮がまだ残っていて眠れなかったので、メンバーと少し話をして就寝した。

5時間も寝ていないけど朝の目覚めはスッキリとしていて、皆で1時間ほどストレッチをしたり軽く運動をして、次のワークへ入る。

どんなワークをするかは事前に知っていた。
そして、一番自分が恐怖を感じていたワークがついにやってきた。

『バックポケット』

パック全員でサークルの中に入り、目隠しをする。
右手を上げて、待つ。
松木さんが番号を言いながら右手を下ろし、体をまわしたり移動させたりして感覚を奪う。
その状態で、50メートル先のゴールまで皆で辿り着き、番号順に整列し、全員が右手を上げれば終了する。
制限時間は45秒。
声は発してはいけない。
互いの番号も知らない。
視覚と声を奪われた状態で、フルにその他の五感を使って、ゴールまで走り、相手が何番かを知り、番号順に並ぶのだ。

1年前、火のワークで知った恐怖があった。
同じように森の中を目隠しをした状態で隠れんぼするというワークをした事があった。
(フォックスウォークの練習だったと思う)
その時は、目隠しをされた瞬間パニックになってしまい、10メートルほど歩いたあたりでつま先が切り株に当たっただけでもう動けなくなってしまったのだ。

また、そうなったらどうしよう。
あの時はひとりだったから、自分が諦めたらそこで終わりだった。
でも、今回は仲間がいる。
その時の恐怖は
・また足に何かが当たって、転んで痛い思いをしたらどうしよう
・自分が足を引っ張ってしまって、仲間に迷惑をかけたらどうしよう
その2つだった。

それは、日常生活の中でもある恐怖だよね、と誰かが言った。
仕事でも、日常でも、周りが見えない状態で起こる恐怖。
転んで痛い思いをしたく無い
仲間に迷惑をかけたくない
そんな思いが毎日の中でも湧き上がる時がある。

恐怖はゴーサインということを知っていても、足がすくむ。
そこを突破するには、仲間の助けと、信頼が必要なのかもしれない。

誰を信頼するのか。
私たちは今は狼なのだから、もちろん、自分と群れを信じるのだ。

チャンスは2回。
1時間ほど作戦会議をもらって、話し合う間際に松木さんが言った。
「一度、何もわからない状態でトライしようか」
その時点で誰も何も話していない。
皆が思うクリア方法はなんだろうか。
何もわからない状態で1度目のチャンスをもらった。

目隠しをされるとあの時の火のワークでの恐怖が襲ってきた。
しかも今回は走らないと間に合わない。

スタートの合図でこっちだと思う場所に走る。
途中の道で障害物に当たりそうになったらスタッフがポンと押してくれると言っても、怖かった。
自分がどこへ走っているかもわからない。
一度でも方向を見失うと自分がどこに向かえば良いのかわからなくなる。
太陽の暖かさや風や音でわかる人もいる。
でも私はどうしてもわからなかった。
いかに自分が視覚に頼りすぎているのかがわかった。

なんとかゴール地点に着いて、思い思いの方法で番号順い並ぶ。
肩を叩いたり、指で背中に文字を書いたり。
ほとんど並び終わったかと思うところで松木さんが言った。
「ひとり、まだ辿り着いてない」
その瞬間、メンバー全員がその最後のひとりを呼ぶために手を叩いたり足で地面を擦ったり、探しに行ったりした。
その場面を見ていて、パックを導いてくれるリーダーのあきにぃが涙したと聞いた。
「誰もがやり方を知らない中でも、一生懸命仲間を呼び寄せようとするんやなぁ。そういう人の成長を見ると涙が出てくる」
1日経って、もうすっかり皆が皆を信じていた。

最初のトライは3分以上かかった。
そこからどう45秒に持っていくのか。
最初のゴール地点に皆がたどり着くまで20秒、並ぶのに25秒が最適ポイントだと皆で話した。
出来るだけ整列を短縮させるにはどうしたらいいか。
どっちの方向へ向かって走ればいいか。
仲間と一緒に手をつないで走ったほうがいいのか否か。

話し合いの中で、ふいに誰かが言ったのだと思う。
「怖いと思うところとか、これやってみたいとかあったら言って。何でも話して」

うちのパックは比較的 課題解決に向けて動くパックだなぁと思っていた。
それが心地よかったし楽しかった。
でも、本当は私がそれに注目してなかっただけで、所々で同じような言葉をアルファがかけてくれていたのだと思う。

不安は解消しよう。
やりたい事はやろう。
ワーク全て、成功するだけが目的じゃない。

自分の心がどう動いたか。
プロセスに注目する事が大事なのだから。

初めて「怖い」と口に出した気がする。
「目隠しが怖い。パニックになる」
と口をついて出た。

アルファが言った。
「どうしたらその怖さがなくなるか一緒に考えよう」
その時初めて、私がこのウルフキャンプで得たかった答えが見つかった。

本当の怖さは、「怖い」と口に出す事だった。
私はずっと仕事の上ではアルファだった。
だからずっと、怖いなんて言葉を口にしたことは無かった。
言ってはいけないと思っていたし、言えなかった。
でも本当は怖さといつも隣り合わせだ。
新しい一歩を踏み出す時は、怖さを覚悟に変えていつだってやってきた。
怖いと口に出して言える相手さえも見つけようとしなかった。

怖いと口に出して、それを一緒に考えようと受け止めてもらった時、私の中の1つのエッジを超えた気がした。
不安を口に出してもちゃんと受け止めてくれる人がいる。
一緒に考えよう、と寄り添ってくれる。
こうしたら怖くない、を尊重してくれる。

寄り添うってこういう事なんだな。
解決策を一緒に考えてくれる姿勢そのものがその人を救うんだな。

ああ。と思った。
私が、いつも講師に言っていることと同じだ。

「目の前の相手を見て、何をして欲しいのか考える。
アドバイスもジャッジもいらない。
一緒に考えるのが、寄り添うって事なんだよ。」

自分自身で体感した。

そうして皆でたくさん不安点を潰して、最初のトライが始まった。

目隠しをして右手を上げ、番号を待つ。
右手が降ろされ、てっきり回されるものだと思っていたら左にずらされた。
方向感覚がそこでわからなくなって、ついでに言うと番号もちょっとあやふやになり、スタートの合図で走り出したら思いきりベンチにぶつかった(スタッフが間に合わなかったらしい…)

学んだのは、自分自身をちゃんと信じきるという事と、ベンチはぶつかっても意外と痛くないという事だった(笑)

残り時間はあとわずか。
でもだいぶ感覚がつかめている。

あとは、もう全員が全員を信じきるしかない。と誰もが思った。

そして2回目のトライが始まった。
誰もが全力を出し切ったと思う。

結果は47秒。
あと一歩届かなかった。

それでも皆の心は達成感に満ちていた。
やりきった。という実感があった。

松木さんが声をかける。
「もう一回チャンスをあげるけどやるか?」
やる、と即答だった。

実は3回目のトライは、皆の気迫がすごすぎて一番振るわない結果になったけど、そこでエッジを超えた仲間もいた。
どの回もそれぞれのエッジを超えた瞬間があったと思うし、もっと言うと結果にそこまでコミットもしていなかったのだと思う。
プロセスに目を向け、自分と向き合い、得たものがその結果だ。
成功や失敗は単なるおまけでしかない。
成功してもそこでのプロセスに何も得るものがなければ、自分の成長としては失敗かもしれないのだ。

実はこのバックポケットはピンクパックとしては初めての失敗だったけれど
「それが良かったよね」
と誰かが言った。
もう一度、向き合うチャンスがもらえた。
もう一度この場所に戻ってこれる理由が出来たと。

そして誰もが感じていた。
仮に1年後、全く同じパックで同じ事をしたとしても、成功するとは限らない。
この時にこの場所でこのパックで集まれたのは、奇跡なんだという事
そして、全ての出会いがそうであるという事だ。

最後の振り返り、と松木さんが言った。
はじめは絵を描く事に戸惑っていた人も慣れたように色鉛筆を取る。
想いを絵に言葉にする。
そして仲間でシェアをする。
最後の振り返りは、松木さんのワークでよく見ていた、心のザワザワを知るプロセスだった。
ザワザワそのものになったり、周縁化しているものにスポットを当てたりして、ビッグUになっていく。

ウルフキャンプの最中、実は、いつも、ある事を考えていた。
ザワザワを形にするプロセスを見ながら、自分自身と対話していくうちにそれが確信に変わった。

1年前のスウェットで、私が初めて気づいて開いた箱。
すでに閉じたと思っていた箱、超えたと思っていたエッジがまだ、ここにある。

先日の春のスウェットで気づいたことがまだ消化しきれてないままウルフキャンプに来ていた事も少し気がかりだった。
いつもスウェット後に完結させていた自分の中のプロセスを、前回の春のあと自ら捨てた。

成長したと思っていた。
でも全然変わってないんだな、と愕然として、書いていた紙を塗りつぶした。
あきにぃが気づいて声をかけてくれた。
「これはどういう意味?」

「考えるのが嫌になったから、今は…蓋をしたんです」

それが私がその時出来た精一杯だった。

解決はしない。
それも一緒に抱えて生きていくという、1年前に出した結論が回り回って戻ってきた。

30年以上一緒に生きてきたビリーフは、1年やそこらでは変えられない。
それでも着実に私は歩いていると思う。
どうにかしようともがいたりあがいたりして、時には折り合いをつけて、諦めて

最終的には受け入れて、信じるのだと思う。
自分の心を。

そして、最後のワークの時間になった。