ビジネス書『革命のファンファーレ』を執筆中だが、前作『魔法のコンパス』の内容を踏まえてもらっていた方が、より楽しんでもらえると思ったので、今日は、前作『魔法のコンパス』の《お金》について語ったブロックを丸々転載します。

どうぞ↓



【学校の先生が教えてくれない、とても大切な《お金》の話】



先生が話すのは、いつだって『夢』の話で、次第に『お金』の話をすることが、なんだか下品なことのように扱われて、ゆるやかに洗脳され、ついには「今、夢の話をしているんだから、お金の話なんかするなよ!」と切り離される。

 

ここ最近は大学の講義の依頼が毎月2~3件ほど入るようになって、スケジュールが上手くハマれば、なるべく行かせてもらっている。

今の学生が何を知っていて、何を知らないのかを、知ることが楽しい。

「クラウドファンディングを知っている人いますか?」と学生に訊くと、今から3年前の段階で、経済を学んでいる大学では4割ほど手が挙がり、アート系の大学では、ほぼ0人。アート系の大学生のお金に関する知識は壊滅的だった。

ちなみに説明しておくと『クラウドファンディング』というのは、インターネット上で企画をプレゼンし、一般の方から支援金を募る仕組み。

一人の大富豪ではなく、インターネットを介して大勢の方に少額のパトロンになっていただくというわけ。

 

本来、「パトロン」という言葉に近い距離に立っているのは、経済を学んでいる学生よりも、むしろアート系の学生のハズ。

ダ・ヴィンチもミケランジェロもラファエロも皆、パトロンがいた。

アート活動は、何をするにも活動資金が必要になってくる。

大学卒業後のグループ展開催費用、個展開催費用、アートフェアへの参加費用、制作に数ヵ月を要する作品と向き合った時の生活費ウンヌンカンヌン。

これらのお金を工面しなきゃ活動できないわけで、「そのお金はどうやって用意するの?」と学生に訊いたら、「カラオケ屋のアルバイト」と返ってきた。

 

たとえば、クラウドファンディングで支援してくださった方へのリターン(お礼の品)に、絵を1枚でも描けば昨日よりも画力がつくし、なにより世の中に自分の作品が残る。

そういう資金調達の選択肢があった上で、それでもカラオケ屋のアルバイトを選んでいるのなら、それは好きにすればいいんだけど、その生徒達の頭の中には「資金調達=アルバイト」という発想しかない。

 

そこで「どうして学校で教えないのですか?」と先生に訊いてみたところ、「クラウドファンディング?何ソレ?美味しいの?」と先生もろとも死んでいた。

先生が知らないのだから、教えようがない。

いつだってそうだ。学校の先生は『お金』の話をしてくれない。してくれないわけじゃなくて、「できない」と表現した方がいいかもしれない。

こんなことを書いちゃうとバチクソに怒られるけど、〝ほとんどの先生〟は社会経験がない。

もっとシビアなことを言うと、アートの大学の場合、アート作家として飯が食えない人が先生になっているケースが多い。

だから先生が話すのは、いつだって『夢』の話で、次第に『お金』の話をすることが、なんだか下品なことのように扱われて、ゆるやかに洗脳され、ついには「今、夢の話をしているんだから、お金の話なんかするなよ!」と切り離される。

切り離して、夢の話だけを続けた結果が、アート大学卒業後の「作品を作りたくて、作る技術はあるんだけど、作るのに必要なお金が……」に繋がるわけだ。

いやいや、テメエの手で切り捨てたのだ。

 

でも、この気持ちはとても良く分かる。

なんてったって、僕自身が〝お金のことはいいから、夢を追いかけようぜ教育〟のモーレツな被害者だから。

やっぱりお金の話は下品だと思っていたし、だからお金をなるべく遠ざけて生きて、気がつけば、お金に興味がなくなっていた。

 

「ウソでしょ?」と言われるんだけど、いやいやホントの話で、僕は今でも自分の給料を知らない。

収入の増減に一喜一憂するのが嫌で、デビュー当時から給料も給料明細も実家に送ってもらっていて、母の判断で「おそらく、今月使うであろう分」だけを僕の銀行口座に振り込んでもらっていたのだ。震えるほどのマザコンである。

19歳の頃から、ずっとそうで、いつしか、給料の一部だけが僕の口座に振り込まれている〝実家経由システム〟をすっかり忘れてしまい、コンビニATMで残高を見て「ああ、今月の給料は、これぐらいなのね」といった無頓着ぶり。

子供の頃から、「夢だけを追うことが素晴らしい」と育てられたから、こうなった。

 

そんな中、東日本大震災が起き、原発が大変なことになって、日本中が沈んでいる時に、同じように僕も沈んでいたんだけれど、天災に感情を振り回されていることに悔しくなってきて、震災を逆手にとろうと考え、「そういえば、今、家、全然売れてねーんじゃねえの? 買うなら今でしょ」と結論した。

しかし銀行の残高が20万円しかなかったので、「母ちゃん。俺、家を買いたいんだけど、貯金が20万円しかなくて……」と相談したら、「何言ってんのアンタ。19歳の時からの貯金があるじゃない」「え?そうなん?」といった調子で、家を買った。これマジで。

それぐらい、お金と距離をとっていたのだ。

しかし、好きなコトで生きていこうと考えて、「面白い」を追求する人ほど、お金と真摯に向き合うべきだ。

というのも、お金とキチンと向き合い、お金の正体を把握することで、「面白い」の選択肢が増えるから。

僕自身、ある時から「お金の正体」について真剣に考えるようになり、そこから一気に選択肢が増え、可能性が広がった。


《2週間で250万円稼ぐホームレス》

 

さて、「お金の正体」を知って、具体的にどのように可能性が広がったのか? 

くれぐれも言っておくけど、ここからの話は「お金儲け」の話ではないッス。

「お金の正体をキチンと把握しておけば、今の時代、こういう可能性があるよ」という話。

僕は、お金を「信用の一部を数値化したもの」と定義している。

僕が普段遊んでいる連中の中に、「ホームレス小谷」という男がいる。

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そういう芸名でタレント活動しているわけではなく、ガチンコのホームレス。もちろんホームレスなので家はないし、お金もない。歳は33歳ぐらいだと思う。

これだけ聞くと悲惨な人生なんだけど、どっこい、ホームレス小谷は毎日とても幸せで、ホームレスになって3年で20キロ太って、美人の嫁さんまで貰っちゃった。

「お金は信用の一部を数値化したもの」という『お金の正体』のヒントは、このホームレス小谷にある。

 

ホームレス小谷の生き方は実に単純だ。インターネット上に自分の店を出し、売るモノがないから『自分の1日』を売り、それを収入源としている。買われたら何でもする。草むしりでも、引っ越しの手伝いでも、ヌードモデルでも、何でもする「なんでも屋」。

ショップを出した最初の一ヶ月は「オープン記念特別価格」で一日100円。一か月が過ぎ、通常営業に入ると、一日50円。「オープン記念特別価格」の方が

高かったのだ。とにかく小谷の値段は今日も一日50円である。

丸1日働くのだから、普通なら7000~8000円、または1万円という感じで〝労働時間相応の値段〟に設定しそうなものだが、このホームレスは徹底して50円を貫いている。どれだけ働いても50円。自分人身売買の自分向けブラック企業で、その社長が一番理不尽な目に遭っている。

 

実は、ここにカラクリがあって、たとえば草むしりの依頼で朝から昼まで草をむしったとする。そうすると、購入者は「これだけ働かせて、さすがに50円は申し訳ないな……」という気持ちになり、ホームレス小谷に昼ご飯をご馳走する。

ホームレス小谷は昼ご飯をバクバク食べた後、また夜まで草をむしるむしる。

次に購入者は「朝から晩まで働いてもらって、50円はオカシイだろうっ!」と夜ご飯をご馳走する。昼と夜、一緒にご飯を食べたら、すっかり仲良くなっちゃって、「小谷君、軽く呑みに行こうよ」という話になり、ホームレス小谷の購入者は呑み代も支払う。

結局、購入者はナンジャカンジャで50円以上支払っているんだけれど、あとに残るのは50円と、〝こんなに働いてくれて本当にありがとう〟という恩。つまり、信用だ。

最初の値段設定を1万円にしていたら、これは生まれない。

ホームレス小谷は、この調子で毎日自分を50円で売り続け、毎日毎日、お金ではなく『信用』を積み重ね続けた。

 

そんなある日、「鬼ごっこの人数調整で名古屋に来てください」と50円で依頼をしてきた女性と恋に落ち、出会って二日後に籍を入れ、あろうことか「彼女の為に盛大な結婚式を挙げたい」とスットンキョウなことを言い出した。

もう一度言っておくが、ホームレス小谷はホームレスだ。

結局、浅草の『花やしき』という遊園地を貸しきってド派手な結婚式を挙げることにしたんだけれど、1日の売り上げが50円のホームレス小谷の月収は1ヶ月フルで働いても1500円で、とてもじゃないが費用が足りない。

 

そこで目をつけたのが、クラウドファンディング。

ホームレス小谷がクラウドファンディングで結婚式の開催費用を募ったところ、開始早々、モーレツな勢いで支援が集まり、なんと3週間で250万円もの大金が集まった。名もないホームレスにだ。

 

では、どんな人が支援してくれたかというと、その正体は、これまでホームレス小谷のことを50円で買った人達。

「あの小谷君が結婚式を挙げるなら、そりゃ、もちろん支援するよ!」と、このタイミングで恩が返ってきたわけだ。

 

その後、ホームレス小谷は、やはり50円で一日を売り続け、『信用』を積み重ね続け、何かの企画の折に立ち上げるクラウドファンディングは全戦全勝。

彼は、お金持ちじゃないけど、「信用持ち」なのだ。

信用の面積がバカみたいに大きいから、数値化(お金化)した時の額が信用の面積に比例して大きくなる。

 

今の時代、クラウドファンディングやブロマガなど、マネタイズの手段はたくさん

ある。

ならば、ホームレス小谷が図らずも証明してみせた「お金は信用の一部を数値化したもの」という定義に基づいて、「表現者は信用の面積を拡大化させたら、それだけで生きていけるのでは?」と考えた。

《つづく》